「もっと具体的に」と言われる人に、足りないもの
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「もっと具体的に」と言われたとき、多くの人は言葉を足そうとします。でも、足りないのは言葉ではありません。
見えているものが、そもそも粗いのです。
私も長いあいだ、これは表現力の問題だと思っていました。うまく言えないから詰められる。だから、たとえの引き出しや語彙を増やそうとしていました。でも、それでは直りませんでした。
問題は、口ではなく目のほうにありました。
「具体的に」は、解像度が低いというサイン
馬田隆明さんの『解像度を上げる』に、腑に落ちる整理があります。
思考の「解像度」は、深さ・広さ・構造・時間という4つの視点で測れる。深さは原因や要因を細かく見る力。広さは選択肢の幅。構造は要素の関係と重みづけ。時間は変化やプロセスの流れです。
この4つのどれかが欠けると、話はぼやけます。
そして「もっと具体的に」と言われる場面は、たいてい深さの不足です。馬田さんは、起業初期に受ける相談の8割以上が「深さの足りないアイデア」だと言っています。
深さが足りない状態は、こう見えます。話がふわっとしている。例が出てこない。「要するに何が問題なのか」を一段下げて言えない。
逆に解像度が高い人は、顧客ひとりについて頻度や工夫や感情まで語れる。一人の像が、はっきり見えている。
馬田さんは、深さの目安も示しています。原因や要因をツリー状に分けて、7段、できれば10段まで下ろせているか。ふだんの私たちは、2段か3段で止まりがちです。そこで「具体的に」と言われます。
広さも構造も時間も、もちろん大事です。ただ馬田さんは、迷ったらまず深さから、と言います。解像度が低いケースの大半が、深さの不足だからです。
つまり「具体的に」とは、語彙を足せという指示ではありません。「あなたはそこまで見えていないですよね」という指摘なんです。
深さは、座って考えても上がらない
ここが意外なところでした。
深さが足りないなら、もっとよく考えればいい。そう思いますよね。でも馬田さんの主張は逆です。深さは、行動して情報を得ないと上がらない。
情報を食材、思考を料理の腕とすると、行動は調理にあたる。調理しなければ料理は完成しないし、味の評価も返ってこない。頭の中で食材をこねているだけでは、皿は出てこないわけです。
具体的な行動は3つあります。
たとえば、現場に没入する。馬田さんは、1つの現場の写真が500枚に届かないようでは観察しきれていない、と言っています。数字はきついですが、それくらい細部を見て、初めて像が結びます。
たとえば、n1インタビューをする。アンケートは傾向を浅く広く知るには向くけれど、深さにはほとんど役立たない。自由記述には、本人が自覚していることしか書かれないからです。
1対1で話すと、言いよどみや違和感が見える。そこに、本人も気づいていない課題が隠れている。新製品の顧客インタビューなら、5〜10人で傾向が見え、30〜50人でようやく端緒が見つかる、という目安もあります。
そしてもう1つ、言語化する。得た事実に「なぜそうなのか」をくり返して、書き出す。馬田さんはこれを内化と外化の往復と呼びます。取り込んで、外に出す。この繰り返しでしか、像は鮮明になりません。
順番も大事です。頭の中だけで考えるより、まず現場から精細な情報を取ってくる。そのうえで考える。情報と思考だけでなく、行動を挟むから深さが出ます。ここが、これまでの思考法の本と違うところでした。
売上が下がったとき、「訪問件数を増やせ」で止まるのが深さゼロ。「なぜ減ったのか→顧客が競合のセット値引きに流れたから」まで下げて、初めて打ち手が変わります。症状ではなく病因を見る、という話です。
ただ、深く見る前に「問いがずれていないか」を疑う
深さの話をすると、とにかく深く、となりがちです。でも、そこに落とし穴があります。
ずれた問いをいくら深く見ても、深く外れるだけです。
安宅和人さんの『イシューからはじめよ』が、ここを厳しく言っています。世の中で問題だと言われていることのうち、いま本当に解くべき問い(イシュー)は、100個のうち2〜3個しかない。残りは「なんちゃってイシュー」です。
だから、細部を見にいく前に一度止まる。「これはいま答えを出すべき問いか」を確かめる。ここを飛ばすと、どうでもいい問いの解像度だけが上がって、労力が無駄になります。
同じ安宅さんは、情報の集め方にも釘を刺します。一次情報に触れるのは大事だが、集めすぎない。量を抱えるほど、かえって自分ならではの観点が薄れていく。深く見ることと、情報を溜め込むことは違います。
もう1つ、視点を上下させる道具があります。
細谷功さんの『具体と抽象』は、思考は具体と抽象の往復で動く、と言います。抽象は枝葉を切って幹を見ること。具体はそれを個別の実体に戻すこと。
「具体的に」と言われる人は具体が弱い、と思われがちです。でも実際は、往復が弱いことが多い。抽象のまま止まるから中身が薄く、具体のまま止まるから話が広がらない。
たとえば「顧客満足を上げる」という抽象を、「予約後24時間以内に確認電話を入れる」まで下ろせるか。この上下動が、深さと構造を行き来する足になります。
明日からできること
やることは、考える量を増やすことではありません。見る場所を変えることです。
誤解:語彙や言い回しを増やせば、具体的に話せる → 表現を磨いても、見えていないものは描けません。粗い映像を高画質には変換できないのと同じです。
正しいアプローチ:説明する前に、一次情報に触れる → 現場を見る、当事者に1人でも話を聞く。借り物ではない事実を1つ持つだけで、話は具体になります。
具体的な一歩を2つだけ。
1つ、詰められたテーマについて、当事者1人に30分話を聞く。アンケートではなく、対面で。相手の言いよどみをメモする。
2つ、その前に「これはいま解くべき問いか」を一行で書く。ずれていたら、見る場所を変える。
5分でできるのは、いま抱えているモヤモヤを1つ選び、「なぜそうなるのか」を3回だけ書き足すこと。3回下げると、たいてい最初の言葉より具体的な何かが出てきます。
おわりに
「もっと具体的に」は、話し方へのダメ出しではありません。あなたがまだそこまで見ていない、というサインです。
だから直し方も、口ではなく足にあります。机を立って、現場に一歩近づく。それが、いちばん速く効きます。
この記事で参考にした本
『解像度を上げる』馬田隆明 → 思考の解像度を深さ・広さ・構造・時間の4視点で捉える。深さは行動して情報を得ることでしか上がらない、と説く。
『イシューからはじめよ』安宅和人 → 深く考える前に「いま解くべき問いか」を見極める。労力を注ぐ場所を間違えないための一冊。
『具体と抽象』細谷功 → 思考は具体と抽象の往復で動く。抽象で止まる人にも、具体で止まる人にも効く視点の道具。
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問題を解く前に、問いを疑え 深く見る前にイシューを確かめる、という本記事の一歩をさらに詳しく。問いのずれに気づく視点が増えます。
『頭のいい人』の共通点は『行ったり来たり』だった。 具体と抽象の往復を主役にした記事。上下動の足腰を鍛えたい人はこちらへ。
「深く考えた」のに浅い結論になる構造的な理由 考えたはずなのに浅くなる仕組みを分解。深さが上がらない原因を、別の角度から見られます。