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ブクドリ | BOOK DRIP

「成長したい」のに動けないのは、候補がぶつかり合っているから

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目次

「成長したい」と思うたびに、やることの候補が一つずつ増えていく。

たとえば、英語をやり直したい。簿記も取っておきたい。プログラミングにも少し触れておきたい。どれも仕事に役立ちそうで、どれも正しそうです。

候補を比べるために勉強法を調べ、評判のいい講座を見比べる。気づけば3か月がたち、手元に残っているのは候補のリストだけ。

これを意志の弱さや情報不足のせいにすると、さらに調べる方向へ進みがちです。でも、動けない理由は候補の「数」より、候補どうしの「関係」にあるのかもしれません。人が同時に抱える複数の目標が互いにどう影響し合うかは、心理学で長く調べられてきました。

候補がぶつかり合うと、考える時間だけが増える

心理学者のロバート・エモンズ氏とローラ・キング氏は1988年、2つの研究で計88人の大学生に、日ごろ自分が「やろうとしていること」を15個ずつ書き出してもらいました。そのうえで、それぞれがほかの目標とどれだけぶつかるか、一つの目標についてどれだけ気持ちが揺れているかを評価してもらっています。

目標どうしのぶつかり合いが大きい人ほど、否定的な気分や抑うつ、心身の不調の訴えが多い傾向がありました。

同じ論文の3つ目の研究では、学生が考えていることと実際にしていることを、3週間にわたって無作為なタイミングで記録しています。ぶつかり合う目標や、気持ちの揺れている目標ほど、行動には移されにくい一方で、考えている時間は長くなっていました。

「成長したい」の候補に置き換えると、この構造が見えてきます。英語と簿記とプログラミングは、同じ平日の夜の1時間を取り合います。どれかに手をつけると、残りを後回しにしたことになる。だから決めきれず、頭の中で比べ続ける時間ばかりが伸びていきます。

ただし、この論文について私が確認できたのは要旨までで、3つ目の研究の人数や差の大きさは確かめられていません。30年以上前の、大学生を対象にした研究である点も差し引いて読む必要があります。

選ぶ基準は「どれが得か」より「なぜやるのか」

では、ぶつかり合う候補から一つを選ぶとき、何を基準にすればいいのか。役に立つ度合いで比べたくなります。でも、続くかどうかと結びついていたのは別のものでした。目標を持つ理由です。

心理学者のケノン・シェルドン氏とアンドリュー・エリオット氏は1999年、ロチェスター大学の学生169人を1学期にわたって追いました。学期の初めに、その学期に取り組む目標を10個書いてもらい、目標ごとに次の4つの理由がどれだけ当てはまるかを9段階で答えてもらっています。

  • 誰かにそうしろと言われたから、状況がそれを求めるから
  • やらないと恥ずかしい、後ろめたい、不安だから
  • 本当に大事な目標だと思うから
  • 楽しいから、面白いから

前の2つは本人の外から来た理由、後ろの2つは本人のものになった理由です。二人は後者から前者を引いた値を、目標と自分との一致度(自己一致)として扱いました。

学期中に3回、各目標にどれだけ力を注いでいるか、どれだけ進んだかを答えてもらうと、自己一致の高い学生ほど努力を続け、達成度も高くなっていました。分析からは、達成度の差が「努力を続けたかどうか」を通じて生まれていたことが読み取れます。

相関は0.2前後で、強い関係ではありません。それでも、学期を通した追跡で、同じように目標を立てても理由によって続き方が変わることを示した点に意味があります。

見落としやすいのは3つ目です。自分の理由になるのは「楽しいから」だけではありません。仕事で必要な簿記でも、本人が「これは大事だ」と納得していれば、自分のものになった理由に数えられます。逆に、英語が好きでも、周りがやっていて焦って始めたのなら、2つ目の理由が強くなります。

コーチングを物語で描いた『ザ・コーチ』で、谷口貴彦さんは、何のためにやるのかという目的が欠けた目標は、人を疲れさせるノルマになると書いています。シェルドン氏らの4つの理由は、その目的が本当に自分のものかを確かめる物差しとして使えます。

続くのは、ほかの候補を助ける一つ

理由でしぼっても、候補が2つ3つ残ることがあります。そのときの手がかりになるのが、候補どうしの関係のもう一つの面です。

ベルリンのマックス・プランク人間発達研究所のミヒャエラ・リーディガー氏とアレクサンドラ・フロイント氏は2004年、目標どうしの関係には「邪魔し合う」面とは別に「助け合う」面があり、二つは独立していると報告しました。

助け合いには二つの形があります。一つの目標が進むと別の目標にも近づく関係と、同じ行動が二つの目標に同時に効く関係です。論文には、バレエ教室に通うことが、踊りを覚えることと新しい知り合いを作ることの両方に役立つ、という例が出てきます。

3つの研究のうち2つ目では、ベルリンの28のスポーツ施設で運動を始めたばかりの大人145人に、運動のほかに大事な目標を3つ挙げてもらい、目標どうしの関係を答えてもらいました。そのあと5か月間、施設の出席記録から実際に通った回数を調べています。記録がそろったのは107人です。

結果は、直感とずれていました。運動がほかの目標と邪魔し合う度合いは、通った回数を予測しませんでした。予測したのは、運動がほかの目標をどれだけ助けるかのほうです。それも4か月目と5か月目になってからで、始めた直後の1〜3か月はどちらも関係がありませんでした。

邪魔し合いのほうは、気分や生活の満足度の低さと結びついていました。エモンズ氏らの結果と合わせると、ぶつかり合いは心を重くし、助け合いは長く続けることを支える、という分担が見えてきます。ただし、見つかった関係はどれも小さく、相関を調べた研究です。

「成長したい」の候補に当てはめると、どれを進めると残りの候補にも近づくか、という選び方の基準が一つ増えます。たとえば、海外の資料を読む仕事が多い人なら、英語の記事を読む練習は、そのまま業務の知識を増やす時間にもなります。

候補のリストを、今夜一つにしぼる

ここまでの研究を並べると、よくある思い込みが二つ入れ替わります。

誤解:一番効率のいい候補を見つけてから始める → 続くかどうかと結びついていたのは、効率より、その候補を持つ理由と、ほかの候補とのつながりでした。

誤解:全部に少しずつ手をつけておけば損をしない → 同じ時間を取り合う候補を並べたままにすると、考える時間ばかりが増えます。

正しいアプローチ:理由とつながりで一つを選び、1か月後の到達点を決める → 手順は次の3つです。

1. 候補ごとに、4つの理由に点をつける 紙に候補を書き出し、「言われたから」「後ろめたいから」「大事だと思うから」「楽しいから」がどれだけ当てはまるかを、0〜3点で書き込みます。後ろ2つの合計から前2つの合計を引き、マイナスになった候補はいったん外します。今夜5分でできるのは、ここまでです。

2. 残った候補どうしを矢印で結ぶ 「これを進めると、あれにも近づく」と言える組み合わせに矢印を引きます。たとえば「英語の記事を読む」から「業務の知識を増やす」へ。外に向かう矢印がいちばん多い候補を、最初の一つにします。

3. 1か月後の到達点を一文で書く 堀江貴文さんは『最大化の超習慣』で、壮大な長期目標を足かせと呼び、目の前の短期目標を一つずつこなすことを勧めています。「2+■」のままでは最適な■は見つからないが、「2+■=5」と先の結論が見えれば状況は一変する、という言い方です。

「英語力を上げる」では■が決まりません。「1か月後、業界ニュースの英語記事を1本、辞書を引きながら最後まで読む」と書けば、今週やることが逆算できます。

リーディガー氏らの研究で助け合いの効果が見えたのは、4か月目以降でした。最初の数週間で手応えがなくても、選び方が間違っていたとは限りません。

おわりに

何から始めればいいかわからないとき、人はつい候補を増やす方向に調べ始めます。でも研究が示していたのは、始めることと続けることに結びつくのは、候補どうしの関係と、それを持つ理由だということでした。

今夜、リストの候補に矢印を引いてみてください。いちばん多くの矢印が出ている一つが、最初の一歩の候補です。


この記事で参考にした本

『ザ・コーチ』谷口貴彦 → 何のためにやるのかという目的が欠けた目標は、人を疲れさせるノルマになるという視点

『最大化の超習慣』堀江貴文 → 長期目標より目の前の短期目標。先の結論が見えると、取るべき手段が見えてくるという考え方


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