成功企業の真似が失敗する理由
目次
業界トップ企業を分析した。 成功要因を洗い出した。 同じ施策を、自社に導入した。
半年後。
何も変わらなかった。
「なぜ、同じことをしているのに…」
そう思ったこと、ありませんか。
「賢い人ほど見落とす」戦略がある
私も経験しました。
前職で、業界トップの戦略を徹底的に研究しました。 ベストプラクティスを学び、自社に導入しました。
でも、何も起きませんでした。
むしろ、コストが増えただけでした。
楠木建氏は『ストーリーとしての競争戦略』で、こう言っています。
優れた戦略には、「一見して非合理」な要素が組み込まれている。
スターバックスの「全店舗直営方式」。
飲食チェーンが急速に拡大するには、フランチャイズが常識です。 直営では出店スピードが遅い。 資金負担も大きい。
業界の専門家なら、「非効率だ」と指摘するでしょう。
でも、スターバックスにとって直営は不可欠でした。
「第三の場所」を実現するには、店舗の雰囲気、スタッフの教育、細部へのこだわりを完全にコントロールする必要があったからです。
楠木氏はこれを「キラーパス」と呼びました。
業界の常識から見ると非合理に見える。 でも、戦略全体の文脈で見ると極めて合理的な要素。
なぜ競合は真似しないのか。
「やりたくない」からではなく、「やる価値がない」と判断するからです。
業界の賢い人ほど、その要素を「非効率」「時代遅れ」と見なします。
マブチモーターの「標準モーター」戦略も同じです。
顧客のニーズに合わせてカスタマイズするのが製造業の常識。
でも、マブチは徹底した標準化で、圧倒的なコスト優位を実現しました。
ルメルトは『戦略の要諦』で、こう言っています。
戦略の第一歩は、「課題の診断」だ。
業界の常識を疑う。 「なぜこのやり方が標準なのか」と問い直す。
そこに、賢者の盲点が隠れています。
正直に言います。
「差別化」を狙って、奇をてらっても意味がありません。
単なる「変わったこと」は、キラーパスにはなりません。
戦略全体のストーリーの中で意味を持つ非合理でなければならないのです。
部分を真似しても、意味がない
もう一つ、重要なポイントがあります。
戦略は、部分ではなく全体で機能する。
ガリバーインターナショナルの「買取専門」戦略。
中古車業界では、買い取った車を店頭で販売するのが当然でした。
ガリバーは買取だけに特化。 販売は業者向けオークションで行う方式を選びました。
既存の中古車販売店にとって、この戦略は理解できませんでした。
「小売をやめてどうやって利益を出すのか」
でも、ガリバーのストーリーを全体で見ると、完全に合理的でした。
買取に特化する → 査定の専門性が高まる → 在庫リスクがなくなる → 店舗コストが下がる → オークションでの販売は小売より回転率が高い
これらの要素が連鎖し、利益を生み出す構造になっていました。
ルメルトはこう指摘しています。
多くの企業が「戦略」と呼んでいるものは、実は目標やKPIの羅列に過ぎない。
真の戦略は、「一貫性のある行動」です。
各要素が因果関係で結びつき、相互に強化し合う構造を持っています。
楠木氏は、競争優位の持続性を4段階で説明しています。
最も持続性が低いのは「容易に模倣できる」レベル。 最も高いのが「模倣する動機が生まれない」レベル。
一貫したストーリーを持つ戦略は、部分だけを切り出して真似しても意味がありません。
だから競合は、模倣する動機を失うのです。
私も失敗しました。
トップ企業の「この施策がいい」と思って、一部だけ真似しました。
でも、自社の他の仕組みと噛み合わず、コストだけが増えました。
真似すると、逆効果になる
最も強力な戦略には、こんな特徴があります。
真似すると、競合が損をする。
デルコンピュータの「自社工場での組立」。
PC業界では、組立は外部委託するのが効率的とされていました。
でも、デルは受注後に自社で組み立てる方式を選択。
在庫を極限まで減らし、顧客のカスタマイズ要望にも即座に対応できました。
競合がこの方式を部分的に真似するとどうなるか。
自社組立を導入しても、既存の販売チャネルや在庫システムとの整合性が取れない。
コストだけが増加する。
デルのストーリー全体を理解せずに、一部だけを真似しても効果は出ません。
トヨタ生産方式を模倣しようとしたフォードの「FPS(フォード・プロダクション・システム)」も同じです。
表面的な手法だけを取り入れても、トヨタの組織文化や長年の蓄積と切り離された状態では機能しませんでした。
ルメルトは、こう指摘しています。
既存の成功体験に基づいた組織構造は、新しいやり方を導入しようとしても、内部から抵抗が生まれる。
組織の「プロセス」と「価値基準」は、硬直的だ。
だからこそ、競合は真似したくても真似できない。
自社の成功体験と組織構造によって、模倣することを内部から阻まれるのです。
今日、あなたにできること
業界の「常識」を疑い、盲点を探す。
業界で「当たり前」とされていることをリストアップしてください。
それぞれに「なぜ」を問いかけてください。
- 「なぜこのやり方が標準なのか」
- 「誰がそれを決めたのか」
- 「本当にこれが最善なのか」
ルメルトは、戦略の第一歩は「課題の診断」だと述べています。
業界の賢い人が見過ごしている非効率や問題を発見すること。
そこに、キラーパスの候補があります。
よくある失敗
奇をてらった「差別化」を狙うこと。
単なる変わったことは、キラーパスにはなりません。
戦略全体のストーリーの中で意味を持つ非合理でなければならないのです。
関連する書籍
- 『ストーリーとしての競争戦略』(楠木建):キラーパスと模倣不能性の構造を解説した名著
- 『戦略の要諦』(リチャード・P・ルメルト):真の戦略とは何かを明確に定義
- 『良い戦略、悪い戦略』(ルメルト):悪い戦略の典型例と良い戦略の条件を解説
まとめ
成功企業を真似しても、うまくいかない。
それは、あなたの能力が足りないからではありません。
優れた戦略には、3つの特徴があります。
- 賢者の盲点:業界の専門家が「非合理」と判断する要素がある
- 一貫したストーリー:部分だけを切り出しても機能しない
- 自滅の論理:競合が真似すると、既存の事業や組織と矛盾が生じる
楠木氏が示したのは、一見非合理な要素こそが競争優位の源泉だということ。
ルメルトが示したのは、真の戦略とは一貫性のある行動だということ。
「業界の常識」を疑うことが、真似されない戦略を構築する第一歩です。
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『MBA戦略思考の教科書』安部徹也 どんな環境でも結果を出し続けるビジネスパーソンになる方法を解説。表面的な模倣ではなく、本質的な戦略思考が身につきます。
『勝ち組企業の「ビジネスモデル」大全』大前研一 デジタル時代を生き抜く3つの戦略原則を解説。一貫したストーリーを持つ戦略の構築方法がわかります。