戦略の差は、賢さではなく「賭ける勇気」だった
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同じ業界の全企業の利益を一本のグラフに並べると、まっすぐな右肩上がりにはなりません。
両端だけが跳ね上がり、真ん中は長く平らに寝そべった、不思議な形になります。
マッキンゼーがおよそ2,400社を分析してたどり着いたこの曲線を、「パワーカーブ」と呼びます。上位層の企業が稼ぐ経済的利益は、真ん中の企業の約30倍。下位層はそもそも利益を生めていません。
つまり、勝ち負けはなだらかに分かれているのではなく、ごく一部の企業に富が極端に集中している。この事実を知ると、「うちの戦略はなぜ成果が出ないのか」という問いの立て方そのものが、少し変わってきます。
多くの戦略は、頭の良さでは差がつかない
私たちは戦略の成否を、分析の精度や計画の緻密さで決まると思いがちです。
でも、マッキンゼーのデータが示したのは別の話でした。パワーカーブのどこに位置するかを最も左右していたのは、頭の良さでも業界の追い風でもなく、企業が打った「施策」だったのです。
ここで言う施策とは、緻密な改善計画のことではありません。資源の流れを大きく動かす、数少ない大胆な賭けのことです。
問題は、多くの会社がその賭けに踏み込めないことにあります。
理由ははっきりしています。社内では、毎年「前年並み、少しだけ上乗せ」の計画が好まれます。大胆な計画を出しても、承認の過程で角が取れ、いつの間にか無難な微改善に落ち着く。マッキンゼーはこれを、社内政治と人間の行動様式が生む「硬直性」と呼びました。
たとえば、本当は撤退すべき事業に毎年同じ予算がつき続ける。新規領域には「様子見」で小さな額しか回らない。誰も悪意はないのに、資源は現状維持の方向へ流れていきます。
「ピーナッツバター型」の配分が、賭けを殺す
ここが核心です。
マッキンゼーは、資源を全事業に薄く均等に塗り広げる配分を「ピーナッツバター型」と名づけました。パンに均一に塗るあのイメージです。
公平に見えます。各部署からの不満も出にくい。でも、この均等配分こそが、パワーカーブを駆け上がるための大胆な施策を実行不能にしている張本人だ、と本書は指摘します。
なぜなら、大きく賭けるには、どこかから資源を「引き揚げる」必要があるからです。将来性の乏しい事業から人と金を抜き、伸びる領域へ集中させる。この引き算ができないと、新しい賭けの原資が永遠に生まれません。
そして引き揚げは、口で言うほど簡単ではありません。撤退対象の事業にも担当者がいて、実績があり、社内での発言力がある。だから多くの会社は、痛みを避けて全事業に等分し続けてしまう。
実際、本書が挙げる「大胆な施策」は、どれも資源の集中を前提にしています。継続的なM&A、業界平均を上回るペースの大規模投資、低迷事業からの資源再配分、差別化への集中投資。共通するのは、薄く広げるのと正反対の動きだということです。
一つ補足すると、ここでの「大胆」は無謀とは違います。本書は、こうした施策が「非対称」だと言います。当たったときの上振れが、外したときの下振れより大きい。だから複数を組み合わせて賭ける価値がある、という構造です。
確率は「数を打つ」のではなく「賭けの大きさ」で上がる
もう一つ、直感を裏切るデータがあります。
パワーカーブの上位層へ移動できる確率は、平均すると8%ほど。ほとんどの会社は今いる場所に留まります。
ところが、大胆な施策を2つ、3つと組み合わせて実行した企業では、この確率が27%まで跳ね上がりました。実際、4つ以上の大胆な施策を打った24社は、調査期間中に下位・中位から上位層へ駆け上がっています。
ここで誤解してほしくないのは、「とにかく施策の数を増やせ」という話ではない点です。
増やすべきは、小さな改善の本数ではありません。一つひとつが資源配分を大きく動かす、重い賭けの数です。微改善を100個積み上げても、パワーカーブは動かない。これがデータの語っていることです。
たとえばM&Aについて、本書は「プログラマティックM&A」という型を挙げます。一件あたりの買収額を自社の時価総額の30%以内に抑えつつ、継続的に買い続ける。一発の大型買収に社運を賭けるのでもなく、様子見で何もしないのでもない。中くらいの賭けを、規律を持って繰り返す形です。
「ほとんどのM&Aは失敗する」という通説がありますが、本書はこの規律ある型に限れば、その通説は当てはまらないと述べています。賭け方に設計があるかどうかで、結果が変わるわけです。
微改善の安心と、賭けの不快を取り違えない
では、明日からどうするか。大企業のCEOでなくても、この構造は自分の仕事に効きます。
誤解:来期計画は、全項目を前年比で少しずつ積み上げて作る → 公平で安全に見えますが、それは「ピーナッツバター型」です。資源が薄く広がり、勝負どころに厚みが出ません。
正しいアプローチ:まず「何から資源を引き揚げるか」を先に決める → 足し算の前に引き算を置く。やめること・縮小することを2つ決めてから、空いた資源を一点に寄せます。
もう一つ、賭けの大きさを意識する具体策があります。
誤解:施策はたくさんあるほど、戦略が充実している → 数は安心材料にすぎません。一つひとつが小さければ、合計してもカーブは動きません。
正しいアプローチ:「この1年で、資源配分が大きく変わる賭けはどれか」を1〜2個名指しする → 名指しできなければ、それは現状維持の計画です。今週、自分の予算や時間の配分表を開き、「最大の塊はどこに向いているか」を確認してみてください。多くの場合、塊は去年と同じ場所に向いています。
戦略で差がつくのは、誰よりも賢く考えた人ではありません。
不快な引き算を実行し、空いた資源を一点に集中させ、確率の高い賭けに踏み込んだ人です。
あなたの計画書のなかで、いちばん大きな資源の塊は、いま「未来」と「過去」のどちらを向いているでしょうか。
この記事で参考にした本
『マッキンゼー ホッケースティック戦略』クリス・ブラッドリー、マーティン・ハート、スヴェン・スミット → 企業業績の「パワーカーブ」と、成功確率を上げるのは緻密な計画ではなく複数の「大胆な施策」だというデータ分析。ピーナッツバター型配分の罠を教えてくれる。
『戦略コンサルのトップ5%だけに見えている世界』はやしわかな → 大胆に想定外を取り込む発想や、完璧さより速さを優先する「Quick and Dirty」な仮説検証。賭けに踏み込むための思考の軽さが参考になった。
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すべてをやろうとした瞬間、すべてが中途半端になる。 資源を薄く広げると何も突き抜けない、という個人版の話です。ピーナッツバター型配分の罠を、自分の時間の使い方に置き換えて読めます。
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