資料が通らないのは、見た目のせいではない
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提案が通らなかったとき、まず直すのはどこでしょうか。
多くの人は、資料を直します。フォントを整える。図を足す。情報を厚くする。
ところが、コンサルタントの高田貴久さんが『ロジカル・プレゼンテーション』で示す基準は、そこにありません。彼はこう書いています。論理的か否かは、相手が決める。
自分の中で筋が通っていることと、相手の中で筋が通ることは別です。ここを取り違えると、直すたびに厚くなって、通らなくなります。
提案は「相手の疑問に答えたとき」に成立する
高田さんの定義は、シンプルです。相手の疑問に答えて、初めて提案になる。
つまり、提案書の目次は、こちらが説明したい順ではなく、相手が疑問に思う順に並ぶはずです。
たとえば、新ツールの導入提案。作る側は、機能一覧から書きたくなります。調べた時間が長いほど、その順で見せたくなる。
でも決裁者の疑問は、たいてい別の順番で来ます。今のやり方の何が問題なのか。いくらかかるのか。誰が使うのか。失敗したらどうするのか。
この4つに答えていない資料は、何ページあっても通りません。逆にこの4つが最初の1枚に収まっていれば、残りは補足でいい。
高田さんは、提案の技術を論理思考力、仮説検証力、会議設計力、資料作成力の4つに整理しています。注目したいのは、資料作成力が最後に置かれていることです。
そして彼は「提案とは、通らないものを通すところに価値がある」とも書いています。もともと通る提案なら、技術は要りません。
ベタ書きは「食材」、箇条書きは「料理」
構成が決まったあと、書き方の話になります。
杉野幹人さんは『超・箇条書き』で、箇条書きの本質を情報処理の技術だと位置づけています。目的は、読み手の負荷を減らすことです。
比喩がわかりやすい。ベタ書きは、調理前の食材をそのまま渡すようなもの。情報量は多いけれど、相手が調理しなければならない。箇条書きは、料理として出すことです。相手は食べることだけに集中できます。
牛丼のアピール文をベタ書きから箇条書きに直すと、文章量は約10分の1になったという例が出てきます。それでいて、伝わる速度と魅力は上がる。
ただし、杉野さんが言う箇条書きは、単なる羅列ではありません。3つの要素が必要です。
構造化。全体像が一瞬で分かる形にする。
物語化。関心を持って最後まで読ませる。
メッセージ化。何を言いたいのかを明確にする。
たとえば「売上が減少」「顧客が離脱」「競合が値下げ」と並べるのは、羅列です。「競合の値下げで顧客が離脱し、売上が減少した」なら、順序が意味を持ちます。
同じ3つの要素でも、並べ方で読み手の仕事量が変わります。
いちばん強い資料は、作らない資料
もう一段、深いところに行きます。
榊巻亮さんは『世界で一番やさしい 資料作りの教科書』で、資料の役割は本来「何かを伝えること」だと言います。そして、伝えたいことが伝わるなら、資料すら作らなくていい、とも。
極端に聞こえますが、実務では効く考え方です。
資料を作り始めると、目的が「資料を完成させること」にすり替わります。ページが埋まると安心する。そして、埋めるために情報を足す。
榊巻さんが最重要に置くのはキーメッセージです。この資料で何を伝え、相手にどうしてほしいのか。ここが1行で書けないなら、まだ作る段階ではありません。
たとえば、30分の会議のために20ページ作る。それより、キーメッセージ1行と根拠3つをメールで送るほうが早い場合があります。
ここには限界もあります。決裁の場では、体裁の整った資料が求められる組織もある。相手や場によって、必要な形は変わります。
ただ、順番は変わりません。何を伝えるかが決まってから、どう見せるかを考える。逆にすると、きれいで何も決まらない資料ができます。
明日からできること
誤解:伝わらないのは、資料の完成度が低いから → 情報を足しても、相手の疑問に答えていなければ結果は同じです。厚みと納得は比例しません。
正しいアプローチ:作る前に、相手の疑問を4つ書き出す → 決裁者や読み手の立場で「何が気になるか」を4つ書く。この4つが目次になります。自分が説明したい順ではなく、相手が知りたい順です。
もうひとつ、5分でできる点検があります。
手元の資料の1枚目を見て、「この資料で相手に何をしてほしいのか」を1行で書けるか試す。書けないなら、まだキーメッセージが決まっていません。
書けたら、その1行を1枚目の一番上に置く。それだけで、残りのページの役割がはっきりします。
おわりに
資料作りがうまい人は、きれいなスライドを作る人ではありませんでした。
相手の頭の中で起きる疑問を、順番どおりに先回りできる人です。それができれば、ページ数はむしろ減ります。
通らない資料は、たいてい厚い。
この記事で参考にした本
『ロジカル・プレゼンテーション』高田貴久 → 論理的か否かは相手が決める。提案は相手の疑問に答えて初めて成立するという基準をくれた一冊。
『超・箇条書き』杉野幹人 → 箇条書きは情報処理の技術。構造化、物語化、メッセージ化の3要素で読み手の負荷を減らす。
『世界で一番やさしい 資料作りの教科書』榊巻亮 → キーメッセージが最重要で、伝わるなら資料は作らなくていい。目的から逆算する視点。
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