わかりやすい人は、たとえが上手い
目次
「いや、だからね、つまりこういうことで…」
5分説明した。相手の顔を見る。
「?」
わかってない。全然わかってない。
もう一度、言葉を変えて説明する。専門用語を減らして、順序立てて、丁寧に。
「うーん、なんとなくは…」
なんとなく。
この「なんとなく」が、一番困る。理解してないけど、これ以上聞くのも悪いから、とりあえず頷いておこう。そういう「なんとなく」だ。
説明上手な人を観察してみた
職場に、妙に説明がわかりやすい人がいた。
別に話がうまいわけじゃない。声が通るわけでもない。資料がきれいなわけでもない。
でも、彼が説明すると、みんな「あー、なるほど」と言う。
何が違うのか、しばらく観察してみた。
気づいた。
たとえが、やたらと上手い。
「これ、要するに、料理で言うと下ごしらえみたいなもんです」 「カーナビで目的地だけ設定して、ルートを決めてないような状態ですね」 「ジグソーパズルの箱の絵を見ずにピースを組み立てようとしてるようなもんです」
抽象的な話が、急に絵として見える。
たとえは「翻訳」だった
お笑い作家のせきしろさんが『たとえる技術』という本で、こう言っている。
「たとえは、見えないものを見えるようにする」
これ、まさにそうだ。
考えてみてほしい。「複雑な問題」という言葉を聞いて、何が浮かぶ?
たぶん、何も浮かばない。「複雑」も「問題」も抽象的すぎて、頭の中に絵が描けない。
でも「絡まったイヤホンのコード」と言われたら?
あの、何度ほどいてもまた絡まるやつ。急いでるときに限ってほどけないやつ。
急に、「複雑な問題」の感触が伝わってくる。
これが、たとえの力だ。
抽象を具体に変換する。頭で理解するものを、体で感じるものに変える。
翻訳と同じだ。英語を日本語に翻訳するように、「相手の知らない言語」を「相手の知っている言語」に翻訳する。
良いたとえの条件
じゃあ、どんなたとえがいいのか。
3つの条件がある。
1つ目。相手が知っていること。
当たり前だけど、これが意外と難しい。
「これはリアクティブプログラミングのObservableパターンと同じで…」
エンジニアには伝わる。でも、営業には伝わらない。
相手が絶対に知っているもの。できれば、体験したことがあるもの。
だから「学校」「料理」「スポーツ」「季節」みたいな、誰でも経験があることが強い。
2つ目。具体的であること。
「雲のように白い」より「縁日で親に買ってもらった綿菓子のような白さ」。
後者の方が、ずっと鮮明に浮かぶ。
具体的であればあるほど、相手の脳内に映像が再生される。
3つ目。意外性があること。
「燃えるような赤いもみじ」は、使い古されすぎて何も感じない。
でも「広島カープのファンで埋め尽くされた球場のような赤いもみじ」だと、「おっ」と思う。
意外性があると、相手は一瞬立ち止まる。立ち止まると、記憶に残る。
たとえを作る3つの方法
「でも、うまいたとえが浮かばない」
わかる。私もそうだった。
せきしろさんは、たとえを作るための方法をいくつか紹介している。中でも使いやすいのが3つある。
方法1:似た形・色・動きを探す
これが一番シンプル。
説明したいものと、形・色・動きが似ているものを探す。
「この書類の山」→ 形が似てる → 「ジェンガみたいになってる書類」 「急に売上が伸びた」→ 動きが似てる → 「ロケットみたいに売上が伸びた」
難しく考えなくていい。見た目が似てるものを探すだけ。
方法2:自分の得意分野から借りてくる
野球が好きなら野球から。料理が好きなら料理から。
得意分野なら引き出しが多いから、バリエーションが出やすい。
「このプロジェクト、今は3回の裏くらいですね」 「今は材料を切り終わったところ。まだ火は入れてません」
自分が詳しいことをたとえに使うと、熱量も伝わる。
方法3:共通体験から借りてくる
学校の授業。テストの前日。通勤電車。スマホの充電が切れそうなとき。
誰もが経験していることは、誰にでも伝わる。
「今の状況、テスト前日に『まだ大丈夫』と思ってる状態と同じです」
これだけで、切迫感が伝わる。
今日から試せること
次に誰かに何かを説明するとき、1つだけたとえを入れてみてほしい。
「これ、要するに〇〇みたいなものです」
これだけでいい。
最初はぎこちなくていい。外してもいい。
大事なのは、「抽象→具体」の変換を意識すること。
難しい概念をそのまま伝えるんじゃなくて、相手の頭の中に絵を描く。
「いや、だからね、つまりこういうことで…」
これを、こう変えてみる。
「要するに、〇〇みたいなもんです」
相手の顔が「?」から「あー」に変わる瞬間。
それが、伝わった瞬間だ。
この記事で参考にした本
『たとえる技術』せきしろ → 比喩を「修辞」ではなく「日常のコミュニケーションツール」として体系化した一冊。具体例が豊富で、すぐに使える。
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「言葉にできない」の正体 「わかってるのに言葉にならない」問題の解決策。たとえる技術と組み合わせると、伝える力がさらに上がる。
わからないことがあった。聞きたかった。──でも、聞けなかった。 質問できない問題の解決策。伝える側と聞く側、両方の技術が揃うとコミュニケーションが変わる。
一生懸命説明した。丁寧に、漏れなく。──なのに、相手は内容を覚えていなかった。 丁寧すぎる説明が逆効果になる問題。削ることと、たとえること、両方ができると最強。