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『最強知名度のつくり方』西村誠司さん|知られていなければ、存在しないのと同じ

マーケティング・営業
約7分で読めます

コロナ禍で、売上が98%減りました。

「イモトのWiFi」を手がけたエクスコムグローバル。主力の海外用Wi-Fiレンタルが、ほぼ蒸発したわけです。倒産寸前。

そこから1年足らずで売上176億円までV字回復させた武器が、たった一つの考え方でした。「知名度」です。

社長の西村誠司さんは、はっきり言います。「どんなに高品質、高性能の商品でも、それが世の中に知られていなければ、日の目を見ることはありません」。本書は、その知名度をどうやってゼロから爆発させるかを、生々しい実体験で解き明かした一冊です。

こんな人におすすめ

この本の核心――認知だけに、全部を賭ける

マーケティングには「AIDMA」という有名なモデルがあります。消費者は Attention(認知)→ Interest(興味)→ Desire(欲求)→ Memory(記憶)→ Action(行動)の順に動く、という購買行動の地図です。

普通は、この5つ全部を滑らかにつなごうとします。でも西村さんは違う。最初の「Attention(認知)」だけしか意識しない。

私にとって重要なのは「知っているか」「知らないか」の項目だけです。

好感度も、商品の理解も、いったん全部後回し。とにかく名前を覚えてもらうことに全経営資源を注ぐ。これが「知名度第一主義」です。

なぜそこまで割り切れるのか。理由は、今がそういう時代だからです。

なぜ品質より知名度なのか――「代名詞」になれば競合は消える

多くの産業で技術が成熟し、どの会社も「品質まあまあ、機能まあまあ」の似た商品を出しています。最低限の品質を満たしているなら、最後に選ばれるかどうかを分けるのは、知っているか知らないか。人は、聞いたことのない商品より、よく見かける商品を選ぶからです。

知名度の最終ゴールは、そのカテゴリーの「代名詞」になることです。

「××なら、〇〇」と呼ばれるような代名詞商品になっていれば、一も二もなく選んでもらえる確率が高まる

「海外旅行ならイモトのWiFi」。ここまで来れば、競合との価格競争や比較検討から抜け出せます。指名買いされるからです。

そのために必要なのが、無難さを捨てる勇気です。

好きでも嫌いでもない、平凡で当たり障りのない「いい人」より、「やばい人」「変わった人」「好き嫌いが分かれる人」

万人受けを狙ったCMは誰の記憶にも残りません。「やりすぎ」と言われてアンチコメントが来るくらいのほうが、それだけ世間にインパクトを与えた証拠。知名度が上がれば、最終的に好感度も後からついてくる、というのが西村さんの考えです。

そして知名度は、単なる人気ではありません。

「知名度」は最強の「信用度」でもある

知名度が高いと、優秀な人材が集まり、社員のモチベーションが上がり、他社との提携が決まりやすくなる。実際、西村さんはコロナ禍の初期に複数銀行から合計30億円を調達して倒産を回避しました。普段から知名度向上の取り組みを銀行にマメに報告し、信頼を積んでいたからです。

「えっ、なに?」――わかりやすさとギャップで記憶に刺す

では、どうやって名前を刻むのか。鍵は、カッコよさではありません。

「カッコよさ」ではなく「わかりやすさ」です。CMの世界では、むしろ「カッコよさ」を追求するほど、「わかりにくいもの」になりがちです。

横文字やおしゃれな演出は、伝わらなければ意味がない。幼児からお年寄りまで誰でもわかるシンプルさを追う。「イモトのWiFi」は、海外を飛び回るイメージのイモトアヤコさんを起用し、瞬時に「海外で使うもの」と連想させました。

もう一つの武器が「ギャップ感」と謎です。

みんなが「えっ、なに?」と思った時点で、マーケティング的には成功なのです。

「にしたんクリニック」のCMは、美容なのかPCR検査なのか、事業内容を一切説明しません。社名とキャッチーな音楽をひたすら連呼するだけ。

視聴者は「何これ?」と気になって自分で検索し、「PCR検査の会社か!」と自ら納得する。

この自分で見つけた瞬間に、記憶に深く定着します。

郷ひろみさんとお笑いの3時のヒロインさんを組み合わせるなど、意外性のある演出も同じ狙いです。にしたんの認知度は、CM前のわずか3%から、首都圏の層によっては7割超まで跳ね上がりました。

2割の完成度で走り出す――スピードと、即撤退

3つ目の柱はスピードです。西村さんは完璧主義を真っ向から否定します。

物事は、2割が完璧なら大体完成している

これはパレートの法則(成果の8割は2割の要素が生む)の応用です。コアの2割ができたら、完璧を待たずに世に出す。

コロナ禍でPCR検査を思いついたときも、事業化できるか分からない段階で、すぐにテレビCMの制作を発注しました。CMをつくったという既成事実が退路を断ち、社内に本気度を示し、結果として他社に先駆けて知名度を取れたわけです。

ただし、突っ走るだけではありません。

事業化も早いが、撤退するのも早い。ダメと判断したら見切りをつけて深みにはまらず、次のことにチャレンジする。

eスポーツのプラットフォームには約1億円かけましたが、マネタイズできないと見るや、サービス開始3日目で撤退しています。スピードを出すからこそ、傷が浅いうちに引く決断力が要る。机上の議論より、まず市場に出して反応を見るほうが何倍も効率的だ、という割り切りです。

ビッグネームを最初に取る――オセロの四隅戦略

BtoB(企業間取引)では、別の打ち手があります。攻めやすい小さな企業からではなく、あえて最難関の大企業を最初に攻略する。

BtoBビジネスを進めるうえで、ビッグネームとの契約をいち早く結ぶことはオセロで四隅を取るようなものです。

西村さんはコロナ禍で、互いに窮地だった日本航空(JAL)にPCR検査を特別価格で提供する取り組みを提案し、提携を実現しました。誰もが知る大企業との契約は、それ自体が絶大な信用になる。四隅を取れば、あとは他社との契約が連鎖的に決まっていきます。

お金がないなら知恵で勝つ――したたかマーケティング

ここが、資金力のない人に一番効く章です。西村さんは創業当時、お金がない中で「したたかマーケティング」を実践しました。相手の心理を先読みし、最小コストで最大の印象を残す技です。

お金がないなら知恵で勝負するしかありません。どうしたらお金をかけずに自分や会社に興味を持ってもらえるか、他社とどう差別化していかに目立つか。

企画の良し悪しを測る基準も明快です。「それはやりすぎでは!?」と思われるかどうか。

常識の範囲内の発信では、情報過多の今、誰の記憶にも残らないからです。

北風より太陽――これからのビジネスの向き

最後に、西村さんが見据える未来のビジネス観があります。人々の自由な時間(可処分時間)を無理に奪う「北風型」ではなく、人の時間を増やしてあげる「太陽型」が支持される、というものです。

「大切な可処分時間を思う存分、好きなように楽しんでください。その楽しい時間を増やすお手伝いをします」。これが、当社が目指すビジネスの方向です。

自宅でできるPCR検査も、現地での設定が要らない海外用WiFiレンタルも、利用者の手間を減らして時間を生み出すサービスです。手間を奪うのではなく、手間を肩代わりする。そこに、これからの選ばれる理由がある、という見立てです。

明日から何を変えるか

  1. 自分の「代名詞」を一言にする。「〇〇なら自分」と思い出してもらえる得意領域を、子どもでもわかるシンプルな言葉に落とし込む。
  2. 「突っ込まれる隙」を意図的に作る。名刺やプロフィールに、平凡を外した要素を一つ入れて「えっ、なに?」を引き出す。
  3. 2割の完成度で公言して、退路を断つ。完璧を待たず周囲に「やる」と宣言し、走りながら直す。ダメなら撤退ラインを決めて素早く引く。

おわりに

この本の主張は極端です。「認知だけに全振り」「アンチ歓迎」「2割で発進」。専門家からはセオリー違反と見られても不思議ではありません。

著者自身の動物的な勘や、思い切ったリスクテイクに支えられている部分も大きく、保守的な組織がそのまま真似るのは難しい面もあります。

それでも、本書の根っこにある一言は、誰にでも刺さります。

どんなに面白いネタを書いていようが、素晴らしい料理をつくっていようが、優れた商品やサービスを提供していようが、知られていなければ存在していないも同じ

いいものを作れば自然に売れる、という幻想を、本書は静かに、しかし完全に打ち砕きます。知ってもらう努力に、開発と同じだけの熱量を注げているか。そう問い直したくなる一冊です。


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