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『超一流が実践する思考法を世界中から集めて一冊にまとめてみた。』ガブリエル・ワインバーグ&ローレン・マッキャン|頭のいい人は「思考の型」を何百個も持っている

健康・メンタル
約7分で読めます

頭のいい人と、そうでない人。その差は、地頭やIQではないのかもしれません。

本書が示す答えは、ちょっと意外です。差は「持っている思考の型(メンタルモデル)の数」だ、と。

物理学者は物理の型で世界を見て、経済学者は経済の型で見る。でも本当に賢い人は、分野の壁を越えて何百もの型を持ち、状況に応じて最適な一つを取り出す。

著者のガブリエル・ワインバーグ氏は検索エンジン「ダックダックゴー」の創業者。共著者のローレン・マッキャン氏とともに、物理学・心理学・経済学など数十分野から300以上のメンタルモデルを集め、一冊にまとめました。これは、思考の「ツールボックス(道具箱)」を手に入れるための本です。

こんな人におすすめ

この本の核心――メンタルモデルという「思考の道具箱」

メンタルモデルとは、物事を考えるときの手がかりになる「概念の枠組み」です。もとは認知心理学の用語で、人が世界をどう認識し解釈しているかを示す、頭の中のひな形を意味します。

著者は言います。

世の中に存在する有効なメンタルモデルをたくさん身につけることで、世界の真髄に迫れる特別な思考力、すなわち超思考力を手に入れることができます。

ポイントは「たくさん」というところです。なぜか。

心理学者アブラハム・マズローの有名な言葉「金槌しか持っていないと、すべてのものが釘に見える」を、著者は「マズローの金槌」と呼びます。一つの道具しか持っていないと、どんな問題もその道具で叩こうとしてしまう。

だから道具の数を増やすこと自体が、思考力なのです。

本書は9つの領域に分けて、この道具を渡してくれます。順番に見ていきましょう。

まず思い込みを壊す――第一原理・反転思考・確証バイアス

第1章のテーマは「選択」。良い選択の前に、まず思い込みを取り除けと著者は言います。

最初の道具が第一原理です。これは、真実とみなせる基礎的な前提までさかのぼり、そこからゼロで論拠を組み立て直す思考法です。

たとえば転職。多くの人は片っ端から応募して、最初に受かった会社に入る。第一原理のアプローチでは、まず「自分がキャリアで本当に重視するものは何か」という前提から考え、理想を固めてから企業を探します。

次にオッカムの剃刀。同じことを説明するなら、不要な仮定を削ぎ落とした、最もシンプルな説明が正解である可能性が高いという指針です。

そして反転思考。「どうすれば成功するか」でなく「どうすれば確実に失敗するか」を考え、その要因を潰していく。視点を180度変えると、行き詰まりが打破できます。

ただし、最大の敵は確証バイアスです。人は自分の意見に都合のいい情報ばかり集めてしまう。圧倒的な証拠を前にしても、古い説にしがみつく科学者のように。

これを防ぐには、あえて反対意見を述べる役を立てる「悪魔の代弁者」が有効です。

決断は「後戻りできるか」で速度を変える

第2章「結果を想定する」と第6章「意思決定」は、決断の質を扱います。

情報が多すぎると、人は「分析麻痺」に陥り、何も決められなくなります。そこで著者が勧めるのが、決断を可逆的なもの不可逆的なものに分ける考え方です。

可逆的な意思決定に不可逆的な意思決定プロセスを用いることで、処理スピードが遅くなり、安易なリスク回避が横行します。

大半の決断は、やり直せる「往来自由なドア」です。後戻りできる決断にまで重い分析を持ち込むから、遅くなる。失敗してもやり直せることは、サッと決めていい。

ここで効くのが機会費用の感覚です。何かを選ぶことは、選ばなかった別の何かを諦めること。

そしてサンクコストの誤謬にも注意。「これまで費やした時間がもったいない」という理由で見込みのないプロジェクトを続けると、損失はかえって膨らみます。過去のコストは、もう取り戻せません。

一方で、忘れてはいけないのが未知の未知です。

そこには、未知の未知――知らないということすら知らないことがあるのだ。

自分の予測には必ず死角がある。だからこそ計画には余裕(バッファ)を持たせる。この謙虚さが、予期せぬトラブルへの備えになります。

変化に適応する――反脆弱性と臨界量

第4章「変化に適応する」では、自然界から学ぶ思考が並びます。

中心にあるのが反脆弱性です。

反脆いものは衝撃を糧にする

頑健なものは衝撃に「耐える」だけ。でも反脆いものは、衝撃を糧にして、むしろ成長します。失敗やストレスを単に我慢するのでなく、自分の改善に直結させるマインドセットです。

変化を起こすときに意識したいのが臨界量。もとは核分裂の連鎖反応に最低限必要な質量のことで、転じて「それを越えると一気に広がる境目」を指します。事業なら「成功に最低限必要な顧客数」を見積もる思考になります。

そして、変化を妨げるのが慣性です。一度根づいた習慣や信念を変えるのは、間違っていてもひどく難しい。だからこそ、思い込みでなく実験と検証を繰り返す科学的方法が、生き残るための適応力になります。

数字に騙されないために――生存者バイアスと基準率錯誤

第5章「数字や統計」は、データの罠を扱います。

まず事例証拠。たった一つの体験談で全体を判断してはいけません。

次に生存者バイアス。「大学を中退して成功したビル・ゲイツ」の共通点を分析しても、中退して消えていった大多数を無視しているので、間違った結論になります。

特に怖いのが基準率錯誤です。精度95%の検査で陽性が出ても、そもそもの発生率が低ければ、実際はシロである確率のほうが圧倒的に高い。飲酒運転の例では、1000人を検査すると、しらふなのに陽性になる人が50人も出ます。

さらに平均への回帰。新記録を出した選手の次が振るわないのは「プレッシャー」ではなく、極端な結果の後は自然に平均へ戻るという数学的現象にすぎません。

数字は嘘をつかない、ではなく、数字の読み方を間違えると嘘になる。本書はそう教えます。

人間関係の摩擦を減らす――ハンロンの剃刀とMRI

第7章「対立に対処する」と第8章「潜在能力を解き放つ」は、他者との関わりです。

人間関係でまず効くのがハンロンの剃刀

無能で十分説明のつくことを悪意のせいにするな

メールの返信が遅い。それを「嫌われている」と邪推すると、無用なストレスが生まれます。「忙しいんだろう」で済ませる。

これがMRI(最も好意的な解釈)です。相手の行動を、もっとも好意的に受け止める。

対立したときは第三のストーリー。自分の見方と相手の見方は違う、とまず認める。第三者の視点から「なぜ相手はそう考えるのか」を整理すれば、感情的な衝突を避けられます。

チームを率いるなら、人それぞれ性格が違うことを前提にした人に合わせたマネジメントが要ります。そして指導の場では徹底的なホンネ――心から相手を気にかけつつ、言いにくいことをズバリ言うフィードバック。

さらに、能力は努力で伸ばせると信じるしなやかマインドセットが、批判を受け入れて成長する土台になります。

隠れた真実を見つけ、MVPで試す

第9章「市場支配力」は、ビジネスの章です。

成功の源泉として著者が挙げるのが隠れた真実です。

偉大な企業は、目の前にあるのに誰も気づかない世の中の真実を土台に築かれる。

エアビーアンドビーは「余ったスペースを貸し借りできる」という、誰も気づかなかった真実に賭けて成功しました。みんなが知っている人気分野を真似るより、まだ誰も拾っていない事実を見つけることが、大きなリターンを生みます。

ただし、思いついたアイデアを作り込みすぎてはいけません。ここでMVP(実用最小限の製品)の出番です。

実社会からフィードバックを受けとるまでは絶対に製品をつくりこまず、実用最小限のレベルに抑えておくべきなのです。

完璧を目指して「時期尚早な最適化」に時間を溶かす前に、最小の形で世に出して反応を見る。前提が間違っていたリスクを早めに潰す「デリスキング」が、無駄を防ぎます。

そして自分の専門と限界をわきまえる能力の輪。よく知らない分野に背伸びして手を出さないことが、長期的な成功の鍵です。

落とし穴――「わかったつもり」のカーゴ・カルト

ここまで多くの道具を紹介してきましたが、本書は最後に強烈な警告を残します。

物理学者リチャード・ファインマン氏が語った「カーゴ・カルト」の話です。南洋の島民が、飛行機を呼ぼうとして滑走路やアンテナの形だけを真似た。

形は同じでも、飛行機は来ない。本質を理解せず、表面だけ真似ているからです。

メンタルモデルも同じです。言葉だけ覚えて「これは囚人のジレンマだ」と当てはめても、文脈に合わなければ意味がない。これこそ、最初に出てきた「マズローの金槌」です。

道具を増やすと同時に、それを正しく使う判断力を磨くこと。これが本書を読み終えるうえで、いちばん大事な注意点です。

明日から何を変えるか

1. 行き詰まったら「反転思考」に切り替える 「どうすれば成功するか」で手が止まったら、「どうすれば確実に失敗するか」を書き出して、その要因を一つずつ潰す。

視点を裏返すだけで、答えが見えてきます。

2. 新しい挑戦は「MVP」で小さく試す 完璧な計画を作り込む前に、最小限の形で実行する。早く現実の反応を得て、自分の前提が正しいか確かめる。完璧主義は、いったん脇に置きます。

3. 人にイラッとしたら「MRI」を当てる 返信が遅い、そっけない。そんなとき「無視された」でなく「努力している最中だ」と、もっとも好意的に解釈してみる。それだけで、人間関係の摩擦はぐっと減ります。

おわりに

この本を読んで一番よかったのは、「賢さは生まれつきではなく、道具の数だ」と思えたことです。

300以上のモデルを全部覚える必要はありません。気になった数個を、まず日常で使ってみる。使ううちに「あ、これはあのモデルが効く場面だ」と気づけるようになる。

ただし、言葉だけ振り回すカーゴ・カルトにはならないこと。道具は、本質を理解して初めて役に立ちます。人生や仕事の難問を解きほぐす万能の道具箱として、長く手元に置いておきたい一冊でした。


合わせて読みたい

『自分のアタマで考えよう』ちきりん 本書が警告する「思い込み」や確証バイアスを、もっと日常の身近な場面でどう外すか。第一原理で考える前段階として、まず「知っているつもり」を疑う技術が学べます。

『論点思考』内田和成 メンタルモデルを当てはめる前に、そもそも「解くべき問いは何か」を見極める力。本書のツールを正しい問題に向けるための、上流の思考が手に入ります。

情報が多いほど、判断を間違える 本書の「分析麻痺」と「意思決定の可逆性」を、もっと深く実感できるコラム。情報を集めるほど決められなくなる罠から抜け出したい人に。


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