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『コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル』メン獄さん|資料を作る人ではなく、変化を起こす人になる

キャリア・働き方
約4分で読めます
『コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル』

「次にマウスを使っているところを見たら、手を切り落とす」

新人だった著者が、上司にこう言われます。冗談ではありません。その一言で、著者は数日のうちにマウスを手放し、キーボードだけでPCを操れるようになったといいます。

これは、外資系コンサルティング会社で長く生き残った著者メン獄さんの実話です。「私大文系バンドマン」から飛び込んだ過酷な業界で、過労で記憶を飛ばすような働き方をくぐり抜けながら、生き延びるための仕事術を体得していった。本書はその記録です。

ただ、これをコンサル業界だけの話だと思うと損をします。ここに書かれている「速さの出し方」「無駄な仕事の避け方」「チームで成果を出す技術」は、職種を問わず効きます。むしろ、頑張っているのに評価されない、仕事が終わらないと感じている人ほど刺さる一冊です。

図解

この本が否定するもの――「高級ホチキス」

本書を貫くキーワードを、ひとつだけ紹介します。

それが「高級ホチキス」です。クライアントの指示通りに、高速で大量の資料を量産するだけのコンサルタント。見栄えはいい。でも顧客の事業には何の変化も起こさない。著者はこれを痛烈に揶揄します。

コンサルタントの仕事は、ただ与えられたタスクを終わらせることではなく、変化を起こすことに肝がある。

この一文が、本書のすべての技術の出発点になっています。綺麗な資料を作ること自体は目的ではない。問われているのは、その作業が顧客や組織にどんな「変化」をもたらしたか――。

そして面白いのは、この「変化を起こす力」が、キャリアの段階を上がるごとに姿を変えていく構成になっている点です。本書はアナリスト→ジュニアコンサルタント→マネージャーという著者自身の階段に沿って進みます。最初は「自分のタスクをいかに速く正確に終わらせるか」という個人技の話。それが次第に「顧客の組織をどう動かすか」「チーム全体で価値をどう最大化するか」という俯瞰的な視点へと、論理がせり上がっていく。この構造があるおかげで、ノウハウの羅列ではなく一本の成長物語として読めます。

速さは、それ自体が価値になる

各段階で語られる武器の中から、私がとくに膝を打ったものをひとつだけ取り上げます。それが、いちばん最初に来る「速度」の話です。

多くの人は、速さと品質はトレードオフだと思っています。急げば雑になる、と。ところが著者はそれを真っ向から否定し、速さこそが品質の基盤になると言い切ります。ここが本書の最初の、そして最大の発想の転換だと感じました。

象徴的なのが「先読み」という考え方です。サッカー選手がボールの来る場所に先回りして走るように、次に何が起こるかを読み、指示を待たずに準備しておく。会議が終わった瞬間、頼まれる前に議事録のドラフトを切り出している――そういう条件反射の集合体こそがスピードの正体だ、というのです。「速いね」と言われる人が実は手が速いのではなく、待っていないだけだ、という指摘は耳が痛い。

このほかにも、作業を一定のリズムで区切って手戻りを防ぐ仕組みや、期限の伝え方ひとつで信頼が変わる「期待値調整」、ケアレスミスを精神論ではなく手順で潰すチェック術など、速さと品質を両立させる具体策が次々と出てきます。とりわけ、自分のフィーを時給に換算して「悩んで手が止まる時間がいくらの損か」を突きつけてくる箇所は、生々しくて忘れられません。その金額がいくらなのかは、ぜひ本書で確かめてほしいところです。

「悩む」と「考える」は違う

中盤以降で語られる、無駄な仕事をやめる技術も唸らされます。論点思考、仮説思考、前提を疑う姿勢――こうした枠組み自体は他のビジネス書でも語られますが、本書が違うのは、それらを著者や同僚の実際の修羅場とセットで見せてくる点です。読み物として血が通っているぶん、頭ではなく体に入ってくる。

中でも私が一番持ち帰りたかったのは、「悩む」と「考える」を切り分ける発想でした。答えを知らない人間が徹夜で唸っても品質は1ミリも上がらない。手が止まった瞬間、それは「悩んでいる」サインだから、調べる・聞くという「考える」へ切り替えろ、と。さらに著者は、すでに世の中に答えのある問題を自分でゼロから解くこと自体を戒め、社内の集合知や業界の王道を借り、自分の頭脳は顧客固有の事情にだけ使え、と説きます。

努力の総量ではなく、努力を投じる場所を変えろ。この一冊を貫くメッセージが、ここに凝縮されています。残りの技術や、マネージャー段階で問われる「勝利に導く」とは何か、なぜ著者が一度プロジェクトを炎上させ降格の危機まで落ちたのか――その答えは本書のドキュメンタリーとして読んでほしい。

どんな人に効くか

この本が刺さるのは、たぶん「真面目さ」で消耗している人です。言われた通りに、丁寧に、長時間。それなのに評価されない。そういう人に、本書は「頑張る方向が違う」と優しく、しかし容赦なく告げてきます。

逆に、すでに速度も論点思考もチーム運営も高いレベルで回せている人には、確認作業に近いかもしれません。また、整理された理論だけを効率よく学びたい人には、著者の泥臭い失敗談や自己嫌悪の描写が冗長に感じられる可能性もあります。ただ私は、その弱さを隠さない筆致こそが本書の体温であり、「これは才能ではなく技術の話だ」という確信を読者に残す核心だと思いました。

日々のルーチンに埋もれそうになったとき、立ち止まって自問してみる。この仕事は、誰の何を変えるのか――。その問いを一度持ってしまうと、もう同じようには働けなくなります。


合わせて読みたい

『仮説思考』内田和成さん 本書が「すべてのコンサルタントの教科書」と絶賛する一冊。限られた情報で先に結論を立てる思考の型を、本書の実践論の前提として深く学べます。

『論点思考 内田和成の思考』内田和成さん 本書で語られる「本当に解くべき問題は何か」を、さらに体系的に掘り下げる一冊。前提を疑い、無駄な仕事を避ける感覚が鍛えられます。

『コンサルが「最初の3年間」で学ぶコト』高松智史さん 同じく若手コンサルの生存スキルを扱う一冊。本書のリアルな失敗談と並べて読むと、「才能ではなく技術」だという確信が深まります。


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