「あの人はコンサル出身だから、頭の回転が違う」。そう思ったこと、ありませんか。
私はずっと、地頭の差だと思っていました。彼らには生まれつきの才能があって、自分にはない。だから差が縮まらないのだと。
でも本書を読んで、その前提が揺らぎました。著者の高松智史さんは、BCG(ボストン コンサルティング グループ)で叩き込まれたスキルは「才能」ではなく「濃い技術」だと言い切ります。後天的に習得できる技術。つまり、知れば誰でも使える。「最初の3年間」で学ぶスキルを、全ビジネスパーソン向けに言語化したのが本書です。

この本が刺さるのはこういう人
資料を見せたら「で、結論は?」と言われて頭が真っ白になったことがある人。いきなりPowerPointを開いて作業を始め、後から「これじゃない」と作り直す人。上司の指示が昨日と今日で変わって内心イラッとした人。
どれも、能力ではなく「お作法」を知らないだけで起きる失敗だ、と本書は言います。そして、その失敗をひとつずつ技術として解体していく。だから本書を読む価値があるのは、「センスがない」と落ち込んでいるけれど、その正体がわからないままモヤモヤしている若手・中堅だと思います。逆に、論点設定や仮説思考をすでに体に染み込ませている人には、確認作業に近いかもしれません。
核心は「中身」より「構造」を先に整えること
本書を貫く主張はシンプルです。仕事の付加価値は「正しいプロセス」から生まれる、ということ。
多くの人は、いきなり「中身」で勝負しようとします。良いアイデア、鋭い分析。でも著者は、その手前にある「構造」を整えるほうが先だと言う。話し方ひとつ取っても、値(中身)より骨組みを主役にする。「趣味は大きく3つあります。1つ目は…」と先に枠を示すだけで、相手の理解度は段違いに上がる、という具合です。
そして本書の特徴が「VS思考」。すべての学びを「悪い行動 VS 良い行動」という二項対立で提示します。人は比較感の中で物事を理解するから、「これはダメ、こっちが正解」と並べると直感的に腹落ちする。読み物として最後までスルスル入ってくるのは、この設計のおかげです。逆に、厳密で学術的な記述を期待すると、この軽さは物足りなく映るかもしれません。
「Wordを先に開く」――この一手だけでも元が取れる
数あるスキルの中で、私がいちばん効いたのはこれでした。資料を作るとき、いきなりPowerPointを開かない。まずWordで「論点は何か」「サブ論点は何か」「どんなタスクが必要か」を文字で書き切る。考えがまとまってから、PowerPointで「描く(清書する)」。
なぜ分けるのか。「考える」で大事なのは論点とメッセージ、「描く」で大事なのは色味や見た目の揃え方。両者は真逆の作業で、同時にやると思考が止まる――この説明には、思い当たる節がありすぎました。私はいつも、フォントをいじりながら結論を考えようとして、どちらも中途半端にしていたのです。
本書にはこの背後に、アウトプットを生む手順全体を体系化した枠組みがあります。論点から出発し、それを問いに分解し、作業を設計してから初めて手を動かす。作業に飛びつく人を著者は手厳しく名付けるのですが、その逐一の手順と覚え方は、ぜひ本書で確かめてほしい。ここは順番そのものに価値があるので、つまみ食いより通しで読む意味があります。
「フレームワーク信仰」を壊してくれる気持ちよさ
本書がもっとも痛烈なのは、「コンサル思考=フレームワークやMECE」という世間の誤解を真正面から否定するところです。
著者は構造化を「たかが構造化」と言ってのける。象徴的なのが、モテないと悩む友人を、原因をきれいに整理して伝えたら相手が泣いてしまった、というエピソード。なぜ泣いたのか、その答えは本書のいちばん鋭い一文に込められているので、ここでは伏せておきます。読んだとき、私は思わず本を閉じて天井を見ました。
正しい付き合い方は「フレームワークで考える」ではなく「フレームワークで説明する」です。
まず枠を気にせずギリギリまで考え抜く。その結果を「漏れなく考えました」と信頼感を持って伝えるための整理ツールとして、後から使う。フレームワークを覚えれば賢くなれると思っていた私には、順番が逆だったと突きつけられる章でした。
「答えの無いゲーム」という発想
もう1つの軸が「答えの無いゲーム」。学校のテストには正解が用意されていたけれど、ビジネスにはない。正解がない以上、答えそのものではなく、答えにたどり着くプロセスの納得感で勝負する――。
ここで求められるのが「スタンスを取る」姿勢です。情報が不完全でも「ケースバイケース」と逃げない。自分の立場を明確にして初めて、議論は前に進む。質問の仕方ひとつにも同じ思想が通っていて、オープンに丸投げするのか、仮説を持って二択で聞くのか。その差を著者は刺さる言葉で対比するのですが、その決め台詞は本書で味わってください。
本書の射程は思考だけでなく「振る舞い」にも及びます。テンションの上げ方、怒られたときの距離の詰め方、相談のクロージングまで。どれも根性論ではなく技術として淡々と並ぶので、再現できる気がしてくる。全部を紹介すると本書を読む楽しみを奪うので、ここは残りを原著に預けます。
読み終えて
この本で救われたのは「才能ではなく技術だ」という出発点でした。「センスがない」と落ち込んでいたものの正体が、実は「お作法を知らなかっただけ」だとしたら。それは知れば埋められる差です。地頭の差ではなかった。
99あるというスキルのうち、本稿で触れたのはほんの一部です。ユーモアたっぷりの語り口で、明日の会議の一言や、資料を作る最初の5分が確かに変わる。いきなり手を動かす前に、まず「論点は何か」と一度立ち止まる。その効果を、ぜひ自分の仕事で試してみてほしい一冊です。
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『「フェルミ推定」から始まる問題解決の技術』高松智史さん 本書の中で著者自身が「併せて読むのが吉」と推薦している同著者の一冊。未知の数字をロジックで計算する力は、本書の「答えの無いゲーム」を戦う武器そのものです。
『論点思考 内田和成の思考』内田和成さん 本書が繰り返す「論点バカになれ」を、もう一段深く掘る一冊。そもそも解くべき論点をどう見極めるか、上位概念から学べます。6ステップの「論点」がぐっと腹落ちします。
『問題解決 ― あらゆる課題を突破する ビジネスパーソン必須の仕事術』高田貴久さん 「思いつきの対策」を捨てる、というテーマが本書の「TASKバカ脱却」と響き合います。論点を起点に手順を設計する思考を、別の角度から鍛えられます。



