「あの人はコンサル出身だから、頭の回転が違う」。そう思ったこと、ありませんか。
私はずっと、それを地頭の差だと思っていました。彼らには生まれつきの才能があって、自分にはない。だから差が縮まらないのだと。
でも本書を読んで、その前提が崩れました。著者の高松智史さんは、BCG(ボストン コンサルティング グループ)で叩き込まれたスキルは「才能」ではなく「濃い技術」だと言い切ります。後天的に習得できる技術。
つまり、知れば誰でも使える。「最初の3年間」で学ぶ99のスキルを、全ビジネスパーソン向けに言語化したのが本書です。タイトルはコンサル向けですが、中身は職種を問わない「仕事のお作法」の教科書だと受け取りました。

この本が刺さるのはこういう人
資料を見せたら「で、結論は?」と言われて頭が真っ白になったことがある人。いきなりPowerPointを開いて作業を始め、後から「これじゃない」と作り直す人。上司の指示が昨日と今日で変わって内心イラッとした人。
どれも、能力ではなく「お作法」を知らないだけで起きる失敗だ、と本書は言います。そして、その失敗をひとつずつ技術として解体していく。だから本書を読む価値があるのは、「センスがない」と落ち込んでいるけれど、その正体がわからないままモヤモヤしている若手・中堅だと思います。
逆に、論点設定や仮説思考をすでに体に染み込ませている人には、確認作業に近いかもしれません。
核心は「中身」より「構造」を先に整えること
本書を貫く主張はシンプルです。仕事の付加価値は「正しいプロセス」から生まれる、ということ。
多くの人は、いきなり「中身」で勝負しようとします。良いアイデア、鋭い分析。でも著者は、その手前にある「構造」を整えるほうが先だと言う。話し方ひとつ取っても、値(中身)より骨組みを主役にする。
「趣味は大きく3つあります。1つ目は…」と先に枠を示すだけで、相手の理解度は段違いに上がる、という具合です。
そして本書の特徴が「VS思考」。すべての学びを「悪い行動 VS 良い行動」という二項対立で提示します。人は比較感の中で物事を理解するから、「これはダメ、こっちが正解」と並べると直感的に腹落ちする。
読み物として最後までスルスル入ってくるのは、この設計のおかげです。逆に、厳密で学術的な記述を期待すると、この軽さは物足りなく映るかもしれません。
私は割り切って「実践のための語呂合わせ集」として読みました。
まず「質問に直球で答える」――How are you? I’m fine!の法則
最初の技術は、コミュニケーションの鉄則です。質問されたら、まず直球で答える。著者はこれを「How are you? I’m fine!の法則」と呼びます。
例がうまい。母親に「夕飯ある?」と聞かれて「ハンバーグよ」と献立を答えるのは、論点からズレている。聞かれているのは有無だから、正解はまず「あるわよ」。
ビジネスでも同じで、「英語話せる?」なら、まず「少し話せます」と答えてから「留学していたので…」という補足をする。順番が逆だと、相手は「で、結局どっちなの」とイライラするわけです。
自分がズレていないかを判定するコツも明快で、「答えから質問に返ってこれるか?」をチェックする。これがリトマス試験紙になる。論点からズレた回答をしてしまう人を、著者は「I’m busyマン」と名付けます。
聞かれたことに答えず、自分の状況や言い訳から話し始めてしまう人のことです。耳が痛い。私もかつて、上司の問いに対して延々と経緯から語り出す常習犯でした。
「考える」と「描く」を分ける――Wordを先に開く
数あるスキルの中で、私がいちばん効いたのがこれでした。資料を作るとき、いきなりPowerPointを開かない。まずWordで「論点は何か」「サブ論点は何か」「どんなタスクが必要か」を文字で書き切る。考えがまとまってから、PowerPointで「描く(清書する)」。
なぜ分けるのか。「考える」で大事なのは論点とメッセージ、「描く」で大事なのは色味や見た目の揃え方。両者は真逆の作業で、同時にやると思考が止まる。この説明には思い当たる節がありすぎました。私はいつも、フォントをいじりながら結論を考えようとして、どちらも中途半端にしていたのです。
この背後にあるのが、アウトプットを生む手順を体系化した「6つのステップ」です。①論点→②サブ論点→③TASK→④スケジュール→⑤作業→⑥アウトプット。
著者は「ロ→サ→T→ス→作→ア」と覚えろと言います。肝は、いきなり⑤の作業に飛びつかないこと。まず解くべき問い(論点)を立て、それを細かい問い(サブ論点)に割り、必要な作業を設計し、スケジュールを決めてから、初めて手を動かす。
このサブ論点への分解を飛ばして作業へ突っ込む人を、著者は「TASKバカ」と呼び、逆に論点から考える人を「論点バカ」と呼んで推奨します。順番そのものに価値があるので、ここはつまみ食いより通しで腹に落とす意味がある章でした。
「議事録」ではなく「議事メモ」を書く
会議の記録ひとつにも、はっきりした序列がある、と著者は言います。発言をそのまま書き起こす「発言録」を頼まれたら新人扱い。結論を整理した「議事録」なら半人前。
論点ベースで構造化し、仮説が会議でどう進化したか、そして「次に解くべき問い(ネクスト論点)」まで書いた「議事メモ」を任されたら大戦力――。
ここで反直感的な真実が出てきます。著者の実体験で、買収案件の会議で天才コンサルタントが鋭いインサイトを発言した。著者はそれを議事メモとして活字に落とした。
すると後日、評価されたのは発言者ではなく、それを最初に活字にした著者のほうだったというのです。素晴らしい発言をした人が偉いのではなく、それを最初に言語化して残した人が成果として認められる。
議事メモは記録ではなく武器だ、という指摘は、会議でいつも黙ってメモを取るだけだった私には発想の転換でした。
「材料が命」――HOWのインサイトとDay0
2年目に入ると、テーマは「圧倒的な付加価値をどう生むか」へ移ります。著者の答えは明快で、何かを生み出すにはインプット、すなわち「材料」が命だというもの。
何かを生み出すには材料が命。アウトプットに重心かけすぎたらひっくり返されますよ。
若手は、誰も思いつかない天才的な打ち手(WHATのインサイト)で勝負しがちです。でも著者は、ジュニアにとって重要なのはそこではないと言う。漫画を読む、店に足を運ぶ、自腹でサービスを試す――そういう泥臭い行動で「手触り感のある材料」を集めることこそが価値の源だ、と。
これを「HOWのインサイト」と呼びます。そしてその執念が向かう先が「一次情報」へのこだわりです。ネット記事や伝聞(二次情報)で満足せず、キーパーソンに直接聞き、現場に行き、自腹で体験する。
Google検索すら1〜2ページ目で止めるな、調べたキーワードと意味がズレたものが出てくるまで掘れ、という徹底ぶりです。
この準備をいつ始めるか。それが「Day0(デイ・ゼロ)」。プロジェクトはキックオフ(Day1)から始まるのではなく、アサインされた瞬間(Day0)から始まっている。
事前準備で勝負はほぼ決まる、という思想です。ここまで来ると精神論に聞こえなくもないのですが、著者は「やる人とやらない人で差がつくのは、才能ではなく材料の量だ」と一貫しているので、説得力はあります。
「フレームワーク信仰」を壊してくれる気持ちよさ
本書がもっとも痛烈なのは、「コンサル思考=フレームワークやMECE」という世間の誤解を真正面から否定するところです。
著者は構造化を「たかが構造化」と言ってのける。象徴的なのが、モテないと悩む友人の鈴木君に、原因をMECEできれいに整理して伝えたら、相手が泣いてしまったというエピソードです。
なぜ泣いたのか。情報が整理されただけで、原因そのものは1つも増えていなかったから。構造化は伝わりやすくする整理術であって、新しい価値を生み出してはいない――この一文に、私は思わず本を閉じて天井を見ました。
整理がうまいことを「考えられている」と錯覚していた自分を見透かされた気がしたのです。
フレームワークも同じだと言います。3Cや4Pを最初から当てはめると、自由な発想が死んでありきたりな答えしか出ない。
正しい付き合い方は「フレームワークで考える」ではなく「フレームワークで説明する」です。
まず枠を気にせずギリギリまで考え抜く。その結果を「漏れなく考えました」と信頼感を持って伝えるための整理ツールとして、後から使う。順番が逆だったと突きつけられる章でした。
「答えの無いゲーム」をどう戦うか
最後の軸が「答えの無いゲーム」です。学校のテストには正解が用意されていたけれど、ビジネスにはない。正解がない以上、答えそのものではなく、答えにたどり着くプロセスの納得感で勝負する。
著者の言葉では「プロセスをセクシーにする」。具体的には、思いついた1案に飛びつかず必ず2つ以上の選択肢を作って比較感で選び、自分一人で完結させず最後は上司やチームと議論して終える、ということです。
ここで求められるのが「スタンスを取る」姿勢。情報が不完全でも「ケースバイケース」と逃げず、「現時点ではA案で進めるべき」と自分の立場を明確にする。
それが議論を前に進める原動力になる。質問の仕方にも同じ思想が通っていて、「どうすればいいですか?」というオープンクエスチョンは思考停止の始まり、「私はこう思うが、AとBどちらが良いか」という仮説持ちのクローズドクエスチョンこそ仮説思考の始まりだ、と対比されます。
そして本書の射程は思考だけでなく「振る舞い」にも及びます。テンションは平熱より+2度上げて振る舞え(つまらない顔は絶対悪)。怒られたら距離を置くのではなく、すぐ次のミーティングを取って距離を詰める「インファイト(接近戦)」をしろ。
相談はアドバイスをもらって終わりではなく、その後どうなったかを報告して初めてピリオドが打たれる――。どれも根性論ではなく再現可能な技術として淡々と並ぶので、「自分にもできそう」という気にさせてくれます。
読み終えて
この本で救われたのは「才能ではなく技術だ」という出発点でした。「センスがない」と落ち込んでいたものの正体が、実は「お作法を知らなかっただけ」だとしたら。それは知れば埋められる差です。地頭の差ではなかった。
もちろん、二項対立の語り口は単純化のきらいがありますし、99のスキルを全部一度に実践するのは無理があります。それでも、論点に直球で答える、Wordを先に開く、相談には必ず報告で蓋をする――この3つを明日から試すだけでも、会議での一言や資料を作る最初の5分は確かに変わるはずです。
いきなり手を動かす前に、まず「論点は何か」と一度立ち止まる。そこから、仕事の景色は変わり始めます。
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『論点思考 内田和成の思考』内田和成さん 本書が繰り返す「論点バカになれ」を、もう一段深く掘る一冊。そもそも解くべき論点をどう見極めるか、上位概念から学べます。6ステップの「論点」がぐっと腹落ちします。
『問題解決 ― あらゆる課題を突破する ビジネスパーソン必須の仕事術』高田貴久さん 「思いつきの対策」を捨てる、というテーマが本書の「TASKバカ脱却」と響き合います。論点を起点に手順を設計する思考を、別の角度から鍛えられます。
