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『問題解決 ― あらゆる課題を突破する ビジネスパーソン必須の仕事術』高田貴久|「思いつきの対策」を捨てると、仕事は別物になる

思考法・問題解決
『問題解決 ― あらゆる課題を突破する ビジネスパーソン必須の仕事術』

売上が落ちた。すぐに「キャンペーンを打とう」と動く。

これが、トヨタ自動車が「闇夜の鉄砲」と呼んで戒めてきた仕事の進め方です。

暗闇で標的を定めずに鉄砲を撃っても、当たらない。本書はこの「闇夜の鉄砲」を撃ち続ける私たちの仕事のクセに、640ページを使って向き合った教科書です。

著者の高田貴久さんは、米国系コンサルティングファーム出身で、現在は株式会社プレセナ・ストラテジック・パートナーズで100社規模の問題解決研修を手がけている方です。本書はトヨタ自動車との教材共同開発の経験を踏まえ、コンサルの論理思考と、トヨタの泥臭い現場改善(TBP:トヨタ・ビジネス・プラクティス)を融合させた一冊になっています。

こんな人におすすめ

本書が刺さるのは、「打ち手の空振り」に心当たりがある人です。

具体的にはこんな場面が多い人。

逆に、「対策を量産することが仕事」と信じている人には不向きです。本書は、対策を出す前に立ち止まる勇気を養うための本だからです。

階層別に求められる役割も明示されています。若手は与えられた問題から原因を深掘りする力、中堅は複雑な問題を絞り込む力、管理職以上は「あるべき姿」を描いて課題を設定する力。どの層にも、それぞれの読み方があります。

この本の核心|「HOW思考」をやめれば、仕事は半分終わる

本書を貫く主張は、ひとつのシンプルな順序です。

WHERE(問題はどこか)→ WHY(原因は何か)→ HOW(どう対策するか)

たったこれだけ。なのに多くの人がWHEREとWHYを飛ばし、いきなりHOWに直進してしまう。著者はこれを「HOW思考の落とし穴」と名付けました。

体調が悪いと言っている友人に、いきなり「薬を飲みなよ」と勧めるのは危険です。まず「どこが悪いの?」と聞く。お腹だとわかったら「なぜ痛いの?」と探る。原因が細菌性の食中毒だと判明して、初めて病院に行くという正しい対策が打てる。

ビジネスでも同じです。カフェチェーンの売上が下がっているとき、いきなり「女性アイドルを呼ぼう」とアイデア出しを始めるのがHOW思考。本当の問題が「首都圏の30代男性の客数減」で、原因が「男性向けメニュー不足」なら、女性アイドル施策はお金と時間の無駄になります。

著者の言葉を借りるなら、問題解決は「一つの思考方法」ではなく「仕事の進め方そのもの」です。特殊なスキルではなく、全員にインストールすべき思考のOSなんです。

本書の全体像|PDCAを再構築する7章構成

本書は640ページの大著ですが、構造はシンプルです。PDCAサイクルに沿って7章が並んでいます。

第1章から第5章はP(計画)を扱います。WHERE・WHY・HOWの基本ステップから、MECEや因果の構造図、対策の評価まで。本書の中核がここに集中しています。

第6章はD(実行)。対策をすばやく実行し、KGI・KPIで進捗を見える化する話です。

第7章はC・A(評価と定着化)。ここが本書のもう一つのハイライトで、結果オーライを認めず、成功要因を標準化して横展開するまでがセットになっています。

各章には架空のメーカー「上賀茂製作所」のストーリーが挿入されます。マルチメディア事業部が業績低迷から立ち直っていく過程を追いながら、抽象的な理論を実務イメージに結びつけられる構成です。2002年に売上286億円・営業利益31億円だった事業部が、2005年には売上220億円・営業利益11億円の赤字に転落している、という具体的な数字とともに物語が進みます。

理論章とストーリー章の往復で、「わかる」を「できる」に変えていく。これが本書の学習設計です。

主要概念・フレームワーク

MECEと「分解」「深掘り」の決定的な違い

第2章の核心は、問題特定の精度を上げる技術です。

MECE(ミーシー)は「もれなくだぶりなく」全体をとらえる基本。著者は「もれ」と「だぶり」のうち、「もれ」をなくすことを優先せよと言います。なぜならもれは「間違い」を生み、だぶりは「無駄」しか生まないからです。重要度が違うんですね。

ここで頻繁に混同されるのが、分解と深掘りの違いです。

ロジックツリーを描いても真因に届かない人は、ここで分解と深掘りを混ぜています。WHEREの段階で「なぜ売れないか」を探り始めたり、WHYの段階で「どの顧客で売れないか」を探り続けたり。論理が飛躍する原因の多くがここにあります。

もう一つ、本書が地味に強調するのが「論拠」と「原因」の区別です。論拠は「なぜそれが問題と言えるのか」という目的方向の理由、原因は「なぜ発生したのか」という過去方向の理由。日本語の「なぜ」は両方を含むので混乱しやすい。原因を議論する前に、まず「なぜ問題なのか」を関係者で合意しておく必要があります。

因果の構造図とコインの裏返し

第3章で登場するのが因果の構造図です。単純なロジックツリーではなく、原因と結果を矢印で結び、悪循環を視覚化するツールです。

使い方の肝は2つ。

1. 主たる原因の矢印を太くする 影響力の大きい原因を視覚的に区別します。

2. どうしようもない原因を×で消し込む 景気や競合の出現など、自分でコントロールできない要素を消すことで、打つべきポイントが浮かび上がります。

著者は「どうしようもない原因があっても、その原因を避けて手を打つことで問題は解決できる」と書いています。資金不足や市場縮小という絶対制約のなかでも、その制約下で取れる別ルートを探せばいい。思考停止しないための実践的な逃げ道です。

そしてこの章で警告されるのが「コインの裏返し」。「売上が下がっている」という問題に対して、「売上を上げる」と提案するような、表面を裏返しただけの分析・対策のことです。原因を1段も掘っていないのに対策に進んでいる、ということなんですね。

「なぜなぜ5回」も本書では補足されます。これは必ず5回繰り返す決まりではなく、「打ち止め」になるまで深く掘る心構え。「それ以上どうしようもない」「悪循環している」状態まで行って初めて、本当の原因に到達します。

自責で考える

第3章のもう一つの柱が自責の視点です。

「市場が縮小している」「競合が強い」「他部署のせい」と原因を環境に置くと、対策は一切出ません。自分でコントロールできないものに原因を置いても、できることがないからです。

著者は「自分を主語にして」原因を深掘りせよと言います。「市場が縮小している」ではなく「自社が子供層を呼び込めていない」。「競合が強い」ではなく「自社が他社の動きに出遅れた」。主語を変えるだけで、対策が見えてきます。

ここで著者が紹介するのが、「単にやっていないだけの原因」が見つかればラッキーという話。深い理由なく単に行動していなかっただけなら、「ではやりましょう」で済みます。複雑な原因を探りすぎず、まず基本ルールが守られているかを確認する視点も大事です。

あるべき姿と「課題設定型」|空・雨・傘

第4章は本書の応用部分で、管理職以上に必須の章です。

本書は問題を2つの型に分けます。

問題発生型は、誰の目から見ても明らかに問題(赤字、クレーム)。原因を追究して再発防止策を立案する基本の型です。

課題設定型は、見る人によって問題かどうかの認識が分かれるケース(「営業利益率5%は低いか?」など)。ここでは先に「あるべき姿(WHAT)」を設定し、現状とのギャップを「課題」として定義します。

著者の定義はシンプルです。「課題」とは、〈あるべき姿〉と現状のギャップ

このあるべき姿を3視点で固める枠組みがSPROモデルです。

3つが重なる領域に、現実的かつ意義のある「あるべき姿」が浮かびます。

そしてもう一つの強力なツールが「空・雨・傘」。情報を扱うときに、3階層を区別する考え方です。

データの羅列だけで終わらせず、「だから何をすべきか」まで進めるための整理術です。報告書を書いていて「結局どうしたいの?」と言われがちな人は、この空・雨・傘で組み立てを点検すると効きます。

達成度の指標化にはKGI(最終目標)とKPI(中間指標)を使います。著者がKPIの基準値設定で示す感覚値も具体的で、「30%増しが挑戦的、10%では物足りず、50%では無謀」。挑戦と現実のあいだを射抜く目安になります。

対策|「がんばる」は対策ではない

第5章は対策立案の章です。著者の対策の定義はぴしゃりとしています。

対策とは「意図を持って、これまでと違うことをおこなうこと」

「次から気をつけます」「もっとがんばります」は対策ではない。仕組みや行動の変化を伴ってはじめて、対策と呼べます。

優れた対策の3要件は、

  1. 成果につながること(成功要因・失敗要因を踏まえている)
  2. わかりやすいこと(理想は複数の原因を一網打尽にできる対策)
  3. 着実に実行できること(障壁が少ない)

「組織をつくる」「情報を集める」は対策に見えて対策ではない、というのも本書の指摘です。これらは準備段階で、誰かの行動が変わらない限り問題は解決しません。よくある「先送りの対策」を、本書ははっきり否定しています。

評価項目は会社や部門で異なる、というのも面白い指摘です。JR東海の研修では「安全性」が絶対基準として出てきました。トヨタ自動車の開発部門では「重量」がきわめて重視された。同じ「対策評価」でも、業種・職種で何を最重要にするかは違うんですね。

仮説思考|上級者は順序を飛ばしてよい

本書には逃げ道も用意されています。

著者は、上級者は「仮説思考(変幻自在)」で順序を高速処理してよいと補足しています。最初に「HOW」や「WHY」の仮説を立て、あとで検証する。経験を積んだ人ほど、この仮説検証で時間を圧縮できます。

ただし、目次にある80対20の法則も併記されます。仮説検証の結果は「8割の当たり前と、2割の気づき」になるという指摘です。仮説思考は基本ステップを踏めるようになってから初めて機能します。初級者がいきなり仮説に飛びつくと、それは「闇夜の鉄砲」と区別がつかなくなる。

順序を守るのは初級者の戒め、順序を超えるのは上級者の自由。本書はこの両方を、矛盾なく示しています。

CAP-D|PDCAは現実には逆順から始まる

第7章で本書は、PDCAという定番に修正をかけます。

ゼロから始まる新規事業はほとんどなく、必ず前任者や昨年度の取り組み(前のPD)が存在する。だから計画(P)からではなく、過去の振り返り(C)から始めるのが現実的です。これがCAP-Dです。

C(チェック)→ A(アクション)→ P(プラン)→ D(実行)

何の振り返りもせず新しいPDを始めると、同じ失敗を繰り返す「PDPD」になってしまう。実務に密着したサイクルの組み替えです。

そして第7章のもう一つのテーマが標準化と横展開。たまたまうまくいった「結果オーライ」を、本書は問題解決とは認めません。なぜ成功したかを言語化し、誰がやっても同じ成果が出る形にして、他部署にも広げる。ここまでやって初めて、組織の仕組みになります。

著者が紹介するトヨタ自動車のエピソードが印象的です。現場で不良が出なくなり「わかりませんが、うまくいっています」と報告した社員が、「それは、たまたまうまくいっているだけで、また次いつ同じ問題が発生するかわからないだろう」と上司から大目玉を食らった、という話。再現性のない成功を許さない文化が、本書の言う「思考のOS」の本質です。

実践アクション

明日から実装できる5つの行動です。

1. トラブル発生時、HOWを5秒飲み込む 対策が浮かんでも、口に出す前に「本当にそこが問題か?」「なぜ起きたか?」と自問する。5秒の沈黙が、HOW思考の落とし穴を回避します。

2. 紙に「WHERE・WHY・HOW」と書いてから考え始める 頭のなかだけで考えると、無意識に思いつきの解決策に偏ります。3つの欄を物理的に作ることで、順序を守る強制力が生まれます。

3. 原因を書くとき、主語を「自分・自社」に強制する 「市場が」「競合が」「上司が」と書きそうになったら、書き直す。「自社が〇〇できていないから」と自分を主語にできるまで掘る。これだけで、打てる手の見え方が変わります。

4. 部下や後輩への指示を「HOW指示」から「WHERE+WHY+HOW」に変える 「これをやって」だけでは部下は考える機会を失います。「ここが問題で(WHERE)、原因はこうだから(WHY)、この対策を考えてみてほしい」と論理を渡す。これが組織の問題解決能力を底上げします。

5. うまくいった仕事こそ、なぜうまくいったかを言語化する 失敗の振り返りは皆やります。本書が強調するのは成功の振り返りです。再現性のあるノウハウに変えて、標準化・横展開する。属人化したルーティンを手順書にして引き継げば、自分は次の挑戦に向かえます。

おわりに|共通言語としての問題解決

本書を読み終えて残るのは、「これは個人技ではなく組織のOS」という感覚です。

著者が繰り返し書いているのは、問題解決を「共通言語」にすることです。考え方の手順がそろっていれば、業種も部署も違う人同士でも、「問題は本当にそこですか?」「原因の掘り下げが不足していませんか?」と議論ができる。実際に著者の研修では、コンビニ向け商社の社員と人事部の社員が、まったく違う業務テーマで建設的なフィードバックを交わしているそうです。

トヨタ自動車が40年以上TBPを社内で実践し続けているのも、共通言語の威力を知っているからです。豊田章男社長も新入社員時代から実践してきた。これは個人の才能の話ではなく、組織が学習し続けるための土台の話です。

問題解決は特別なスキルではなく、仕事の進め方そのもの。読み終えた瞬間に、自分の仕事の進め方を点検したくなる本です。

私自身、原稿を書き終えてから手元のタスクリストを見直して、「これWHERE飛ばしてHOWから書き始めてないか?」と一つずつ問い直しました。本書はそういう形で、読者の手の中で働き続けます。


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