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『複利で伸びる仕事術』宮脇啓輔|年間50冊読んでも何も変わらなかった理由

生産性・時間術・習慣 ✍ 宮脇啓輔
約7分で読めます

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『複利で伸びる仕事術』
目次

「Web広告スキルを身につけよう」 「プログラミングを勉強しよう」 「動画編集で副業しよう」

そう決めて勉強し、成果も出した。なのに、キャリアが伸びている手応えがまるでない。

宮脇啓輔さんの『できる人が大事にしている 複利で伸びる仕事術』は、その停滞感の正体を一言で言い当てます。

スキルには「単利」と「複利」がある。

私たちが必死に積み上げてきたものは、その多くが「単利」のスキルだったのかもしれません。本書は、若手のうちに何へ時間を投じれば10年後に圧倒的な差がつくのかを、著者自身の挫折と再起から論じていきます。


図解

「成果を出したのに」という痛みから生まれた本

本書の説得力は、著者の原体験に根ざしています。

スタートアップのマーケティング責任者として数字を出していた最中、ある日こう告げられたそうです。「営業に転向するか、辞めてもらうか、選んでください」。

事業の方向性が変わり、マーケティング部門そのものが消えた。著者が磨いてきた「Web広告運用」というスキルは、方針転換のたった一瞬で価値を失いました。

これは他人事ではありません。いま自分が握りしめているスキルも、事業が傾けば、技術が陳腐化すれば、明日には通用しなくなるかもしれない。

だからこの本は、次のような人に深く刺さります。スキルを身につけ成果も出したのにキャリアが伸びる実感がない人。会議で即答する同僚を見て「地頭が違う」と自分に見切りをつけかけている人。飲み会の幹事や議事録を「面倒な雑務」としか思えない人。

「何を学ぶか」ではなく「どの順番で学ぶか」で迷う人ほど、読む価値があります。


ソフトスキルを「道徳」ではなく「経済合理性」で語る

本書の中心にあるのは、「キャリアの持続的な成長はどこから生まれるのか」という問いです。

著者の答えは「複利で伸びる」。投資の複利のように、基礎となるスキルが次のスキルの習得を楽にし、時間が経つほど成長率そのものが加速していく状態を指します。

この本が他のキャリア本と一線を画すのは、「コミュニケーションは大事」といったソフトスキルの話を、道徳ではなく経済合理性で語っている点です。

なぜ思考力や人間関係構築力に投資すべきか。著者の答えは「長期的に見て最も投資対効果の高いキャリア戦略だから」。良いことだから、ではありません。

元本に利息がつき、その合計にさらに利息がつく。そういう構造で効くから優先すべきだと言い切ります。

ここで著者はスキルを2つに分けます。成果を出すスキル(ハードスキル)は、Web広告運用、プログラミング、動画編集、デザイン、ライティング。具体的でアウトプットが目に見え、習得しやすく副業にもつながります。

ただし短期で成果が出る代わりに、そのスキル単体の成長は鈍化しやすい。これが「単利」です。

成長するためのスキル(ソフトスキル)は、人間関係構築力、コミュニケーション力、やり抜く力、言語化力・内省力、抽象化思考力。抽象的で職務経歴書には書きづらく、短期では成果に結びつきにくい。

けれど、あらゆるスキル習得の土台になり、長期で成長を加速させる。これが「複利」です。

思考力が上がればプログラミングの習得が速くなり、言語化力が上がればライティングもマネジメントも伸びる。一つのスキルが他のすべての習得を加速させるから、著者は「若いうちに身につけるなら成長するためのスキル一択」と断言します。


「頭の回転が速い」の正体は累積思考量

本書で最も希望が湧くのは、「地頭」をめぐる話です。

会議で鋭い質問に即答する人を見て、「才能が違う」と諦めていないでしょうか。著者はその常識を分解し、「頭の回転が速い」という状態を2つに切り分けます。

返答スピードは、過去に考えたことを素早く引き出せる速さ。思考スピードは、未知のテーマをその場で組み立てる速さ。

そして、私たちが「回転が速い」と感じる場面のほとんどは、後者ではなく前者だと指摘します。彼らはゼロから考えているのではなく、過去に考え抜いたストックから「引用」しているだけ。

この蓄積を、著者は累積思考量と呼びます。

いつも面白い話をする友人も、その場で生み出しているわけではありません。普段からネタを探し、構成を考え、整理された「引き出し」を持っているから、すぐ取り出せる。地頭の正体も同じです。

著者自身、新人の頃は周りが全員優秀に見えたそうです。今は当時すごいと思った人たちに追いついた実感があり、それは才能ではなく意図的に積み重ねた思考量のおかげだと振り返ります。

だとすれば、戦略はシンプルです。日頃から専門領域や関心事について「なぜだろう」「自分ならどうするか」と考えておく。スキマ時間に思考を積み、引き出しやすく構造化しておく。

才能の差だと諦める前に、思考をストックする習慣から始められる。ここが本書の希望です。

累積思考量を増やすために、著者は具体的な習慣も示します。常に「Why?」を考える、聞いた話を人に話したくなる、責任感を持つ、鵜呑みにしない、面倒くさがる。

さらに、雑談を増やす・SNSで発信する・ツッコミの入る場でアウトプットする・地頭の良い人と関わる、という4つの環境が思考量を飛躍させると言います。どれも強制的に「どう伝えれば届くか」を考えさせる装置です。


「結論から話せ」は相手の脳を守る配慮

ビジネス書で繰り返される「結論から話せ」。本書の説明は、その理由まで踏み込みます。

著者によれば、結論から話すのはマナーではありません。「多忙な相手の脳内リソースを奪わない」という、組織全体の生産性を守る配慮です。

聞き手は、話し手よりも圧倒的に多くの思考量を使います。「昨日の件なんですけど、〇〇さんから連絡があって」と始めれば、相手は「で、何が言いたいのか」と考え続けることになる。これが思考コストです。

これを実践するには3つのスキルが要ります。結論をひと言で伝える要約力、相手が知りたい情報を選ぶ想像力、わかりやすい順番で話す構造化力。結論ファーストは、この3つの上に成り立っています。

聞く側にも作法があります。頭のいい人は話の細部に飛びつかず、まず全体を薄く聞いて「これは〇〇の話だ」とラベリングし、構成要素を分解し、最後に曖昧な部分を深掘りする。

聞き方とセットで使えるのが、上司を味方につける「確認依頼」の型です。アイデアを羅列せず構造化して見せる、選択肢のメリット・デメリットと推奨案を添えて壁打ちする、修正箇所と主旨だけを明示する。

根っこはどれも同じで、相手の思考コストを減らす設計になっています。話し方も聞き方も確認依頼も、すべて「相手の脳を守る」という一本の論理で貫かれているところが、この本の気持ちよさです。


成長したいなら「教える側」に立つ

キャリアの定石では「自分よりレベルの高い人と付き合え」と言われます。確かに視座は上がり、良質なフィードバックも得られます。

ところが本書は逆説を示します。ハイレベルな環境にいるだけでは育たない能力がある。それがメタ認知力、自分を客観的に認識する力です。

なぜか。常に答えや良質な問いを与えられる環境に慣れると、自分で自分に問いかける習慣がつかない。「理解は深まるが、理解する力は鍛えられない」状態に陥ります。

著者が勧める最も効果的な方法が、教える側に立つことです。

教える立場になると、相手がどこで躓いているかを理解するために、物事の構造や本質を言語化せざるを得ない。その過程で初めて「自分にはこういう思考の癖がある」「ここの理解が曖昧だった」と、自分を見つめ直せます。

他人を通して、自分を知る。このサイクルがメタ認知力を引き上げる。著者の言葉を借りれば、フィードバックは人のためならず、です。

学習法の章で軸になるのが自育力です。これは「自走」の一歩先。トレーナーや先輩がいなくても、うまくいかないとき自分で「仮説→実験→検証」を回して解決し、成長できる力を指します。

コツは、物事を科学の実験のように捉えること。「こうすればうまくいくかもしれない」と仮説を立て、試し、結果を記録する。試行回数を自ら増やせる人が、どんな職場でも通用します。


「うまくあきらめる」と雑務を「オポチュニティ」に変える

マインドセットの面で印象的なのが、「うまくあきらめる」技術です。

粘り強く目的を達成する人ほど、効果のない「手段」は潔く捨てる、と著者は言います。罠になるのは、やり遂げる対象が「手段」なのか「目的」なのかを混同することです。

「この資料は全部自分で作りきる」という手段に固執して、本来の目的である「プロジェクトを成功させる」が遅れる。真面目な人ほど陥りがちです。

転換のカギは、ベクトルの向き。「これをやって自分が成長したい」と自分に向ける人は手段に固執する。「成果を出すことだけを考える」と成果に向ける人は、人に頼る・ツールを使うといった合理的な手段を柔軟に選べます。

仕事は自己成長のためにあるのではなく、成果に向き合った結果として自分が成長する。順番が逆だと、著者は釘を刺します。

そしてもう一つの核心が、雑務をオポチュニティと捉え直す視点です。

飲み会の幹事、議事録、会食の予約。多くの人が面倒だと避ける仕事にこそ、希少価値が生まれます。みんなが避けるから、引き受けて期待以上にやれば目立ち、信頼が積み上がる。

雑務は「タスク」ではなく、信頼を高め次のチャンスにつながる「機会」である。この姿勢が評価され、より良い仕事が任され、「良い仕事の好循環」が回り始めます。

著者はこの差が5年、10年単位で圧倒的なキャリア格差になると言います。日々の小さな選択が、複利のように積み上がっていくわけです。


おわりに

本書には注意点もあります。20代での圧倒的なアウトプット量を勧める部分は、ワークライフバランスを重んじる価値観とは必ずしも噛み合いません。事例もITベンチャー寄りで、伝統的な大企業や非営利の現場にそのまま当てはまらない場合があります。

著者の経歴を踏まえ、自分の環境に翻訳しながら読むのが現実的です。

それでも、この本が残す問いは普遍的です。あなたが今日積み上げているのは、単利か、複利か。

事業が変われば消える成果スキルではなく、すべてを加速させる思考力や人間関係構築力に時間を投じる。人はスキルを身につけることで成長するのではなく、難しい仕事に取り組む過程で成長する。

明日、あなたはどの雑務を「オポチュニティ」として引き受けますか。その小さな選択の積み重ねが、10年後の差をつくります。


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