資格の勉強を始めたのに、三日坊主で終わった。最近ド忘れが増えた。それを「年のせい」「自分の意志が弱いから」だと思っていませんか。
私もそう思っていました。新しいことに手を出しては続かず、覚えたはずのことが思い出せない。歳をとったんだから仕方ない、と。
でも本書を読んで、前提がひっくり返りました。著者で脳内科医の加藤俊徳さんは、1万人以上の脳画像を診てきた立場から、こう言い切ります。脳は40代後半から50代の中年期に最盛期を迎える、と。実行力や記憶力が落ちたと感じるのは、加齢でも気力でもなく「脳の基礎体力」が足りていないだけ。鍛え方さえ間違えなければ、脳は何歳からでも右肩上がりに伸びる――その仕組みと方法が、本書には脳の構造ごと書かれています。

この本が普通の勉強本と違うところ
世にある勉強本の多くは「やる気の出し方」や「習慣化のコツ」から入ります。心の持ちようをどう変えるか、という話です。
ところが加藤さんは、心ではなく脳という臓器の使い方から始めます。続かないのは意志の問題ではなく、脳の基礎体力と「検索力」の問題だ、と。この検索力とは、覚えた情報を取り出してくる力のこと。年を重ねると経験値が増え、長期記憶の倉庫に情報があふれる。だから探したいものが見つかりにくくなる。つまりド忘れは、記憶が消えたのではなく、倉庫が散らかって取り出せないだけ――この一つの言い換えだけでも、自分を責める気持ちがすっと軽くなりました。
本書の土台にあるのは精神論ではなく、脳画像という目に見える証拠です。著者は脳を機能ごとに8つの領域(脳番地)に分け、会社の組織にたとえます。司令塔の「社長」もいれば、死ぬまで成長する「女帝」もいる。誰がどの役職か、なぜそのたとえが効くのかは、ぜひ本書のページで確かめてほしいところです。読み進めると、自分の頭の中で起きている渋滞の正体が、組織図のように見えてきます。
代表例として「余韻学習」だけ紹介したい
具体的な手法は本書に数多く出てきますが、ここでは私が一番うなった一つだけを取り上げます。それが「余韻学習」です。
やり方はシンプルで、20分ほど勉強したら、10分ほど歩く。歩きながら、たった今学んだ内容を頭の中で振り返るだけ。これで運動系の脳番地が刺激され、脳全体が活性化して定着率が上がる、というものです。
なぜ歩くと効くのか。著者は自身の受験体験まで持ち出して説明します。机に向かう時間をあえて減らし、体を動かして五感を使ったら、勉強時間が減ったのに成績が上がった――という逆説的なエピソードです。詳しい経緯と、そこから導かれる「運動と学習の関係」は本書で読んでほしいのですが、要は座りっぱなしこそが大人脳の敵だということ。
大人脳の勉強では、長時間ぶっ通しで机に向かうことほど非効率なものはない。
この一文を読んだとき、学生時代の「とにかく長く座る」が大人には逆効果だと腹落ちしました。本書にはこのほかにも、勉強を「小刻み」に区切るやり方、復習の最適なタイミング、苦手な一問を超スローで攻略する方法、計画の立て方や睡眠の整え方まで並びます。ただ、それを全部ここで書き写すと、本書を読む楽しみを奪ってしまう。気になった手法は、ぜひ原著で仕組みごと受け取ってください。
どんな人に、どう効くか
この本がとくに効くのは、「自分の能力が落ちた」と感じて立ち止まっている人だと思います。
学び直しが続かない40〜50代。ド忘れを年のせいと諦めかけている人。平日が忙しく、まとまった勉強時間が取れない社会人。こうした人にとって本書の最大の価値は、テクニック以前に「自分を責めなくてよくなる」ことです。続かないのは意志が弱いからではなく、脳という臓器の使い方が大人脳に合っていなかっただけ。そう分かるだけで、やり直す気持ちが軽くなります。
逆に、すでに自分の学習リズムを確立して成果が出ている人には、目新しさは薄いかもしれません。精神論やモチベーションの鼓舞を求めている人にも向きません。本書はあくまで、脳のメカニズムから淡々と説く本だからです。
ちなみに著者は「脳は中年期にピークを迎え、適切に使えば何歳まで成長を続けるか」という、勇気の出る数字まで提示しています。その上限が何歳なのかは、読んで確かめたときの方が効くはずなので、ここでは伏せておきます。
おわりに
私はいま、勉強のあとに10分歩く習慣を試しています。たった10分ですが、机から離れて振り返ると、不思議と内容が頭に残る。小さな使い方の違いが、確かに効いている実感があります。
年齢を言い訳にする前に、まず20分だけ区切ってみる。脳は、まだ右肩上がりに伸びる余地を残しています。その伸ばし方の全体像は、ぜひ本書で受け取ってください。
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『なぜか結果を出す人が勉強以前にやっていること』チームドラゴン桜 本書が説く「勉強の前に脳のコンディションを整える」という発想と、まっすぐ重なる一冊。自分に合わない勉強法を勉強の前に直す、という視点が補完になります。
『継続する技術』戸田大介 三日坊主を意志の問題にしない点で、本書と同じ立場の本。200万人のデータから導いた続け方が、脳の基礎体力づくりと響き合います。
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