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『一生頭がよくなり続ける もっとすごい脳の使い方』加藤俊徳さん|脳は中年期がピーク。三日坊主は意志でなく「脳の基礎体力」の問題だった

健康・メンタル ✍ 加藤俊徳さん
約8分で読めます

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『一生頭がよくなり続ける もっとすごい脳の使い方』
目次

資格の勉強を始めたのに、三日坊主で終わった。最近、人の名前やつい昨日聞いたことがすぐに出てこない。それを「もう年だから」「自分の意志が弱いから」だと片付けていませんか。

私もずっとそう思っていました。新しいことに手を出しては数日で続かなくなり、覚えたはずの知識が肝心なときに思い出せない。歳をとったんだから仕方ない、と半ば諦めていたのです。

ところが本書を読んで、その前提がまるごとひっくり返りました。著者で脳内科医の加藤俊徳さんは、これまで1万人を超える脳画像を診てきた立場から、こう言い切ります。脳は40代後半から50代の中年期にこそ最盛期を迎える、と。

実行力や記憶力が落ちたと感じるのは、加齢でも気力でもなく「脳の基礎体力」が足りていないだけ。鍛え方さえ間違えなければ、脳は何歳からでも右肩上がりに伸びる――その仕組みと具体策が、脳の構造ごとセットで書かれているのが本書です。

図解

心ではなく「脳のメカニズム」から考え直す

世にある勉強本の多くは、「やる気の出し方」や「習慣化のコツ」から入ります。要は、心の持ちようをどう変えるか、という話です。本書が決定的に違うのは、その出発点を心ではなく脳という臓器そのものに置いているところです。

続かないのは意志の弱さではなく、脳の基礎体力と「検索力」の問題だ、と著者は言います。検索力とは、覚えた情報を倉庫から取り出してくる力のこと。年を重ねるほど経験値が増え、長期記憶の倉庫には情報があふれていく。

だから、探したいものがかえって見つかりにくくなる。つまりド忘れは、記憶が消えたのではなく、倉庫が散らかって取り出せないだけ――この一つの言い換えだけでも、自分を責める気持ちがすっと軽くなりました。

たいていの勉強本が「もっと頑張れ」と言ってくる中で、本書はまず「あなたの設備は壊れていない、配置が悪いだけだ」と告げてくれる。その出発点の優しさが、最後まで読ませる力になっています。

土台にあるのは精神論ではなく、脳画像という目に見える証拠です。著者は脳を機能ごとに8つの領域に分け「脳番地」と呼びます。思考系・理解系・記憶系・感情系・伝達系・運動系・視覚系・聴覚系の8つです。

これを会社の組織にたとえるのが巧みで、指示を出す司令塔の思考系は「社長」、死ぬまで成長を続ける感情系は「女帝」と名づけられます。脳番地どうしが電気信号でつながる「ネットワークファイアリング」が強まるほど、思考も記憶もスムーズになる。

脳画像では、その発達したネットワークが黒く濃い「枝ぶり」として写り、刺激し続けるほど豊かに育つというわけです。たとえが上手いだけでなく、目に見える根拠と紐づいているから腹に落ちる。

脳が「使えば育つ臓器」だという感覚を、抽象論ではなく画像のイメージとして掴ませてくれるのが本書の強みだと感じました。

なぜ始められないのか――脳の準備運動と運動系

では、なぜ大人は新しいことを始められず、続かないのか。著者の答えは明快で、脳が初めての挑戦に大量のエネルギーを使うから、です。コンディションが整っていないと、実行の指令を出す思考系が動きにくく、最初の一歩がやけに重くなる。

そこで効くのが「脳の準備運動」です。本格的な学習に入る前に、運動系脳番地を動かして脳を発火しやすい状態に整えておく。著者自身、二浪目に机に向かう時間をあえて大幅に減らし、毎日のように高尾山に登って五感で自然を感じたところ、勉強時間が減ったのに偏差値が上がって医学部に合格できたといいます。

机に向かう時間を削ったのに成績が伸びた、という事実は強烈です。座りっぱなしこそが大人脳の敵だ、という主張の生きた証拠になっていて、「とにかく長く座っていれば努力した気になる」という思い込みを正面から壊してくれます。

さらに意外なのは、計画を立てる行為そのものも運動系の仕事だという指摘です。スケジュールを組む能力を著者は「運動企画」と呼び、これを運動系脳番地が管理している。

だから机に向かう前にその日の行動計画を書き出すだけで、運動系が働き出して準備運動になる。「やる気が出てから動く」のではなく「動くからやる気が出る」を、根性論ではなく脳の構造で裏づけた話だと受け取りました。

行動を起こせない朝ほど、まず手を動かして一日の段取りを書く――それ自体がエンジンの空ぶかしになる、という順序の逆転がここにあります。

大人脳の勉強法――小刻み学習と余韻学習

ここが本書の核心です。学生時代のように長時間ぶっ通しで勉強するのは、大人脳には極めて非効率。記憶の中枢である海馬は疲れやすいからです。

大人脳の勉強では、長時間ぶっ通しで机に向かうことほど非効率なものはない。

代わりに著者がすすめるのが、1回を最大20分で区切る「小刻み学習」です。あいだに5分弱の休憩を挟み、別の脳番地を使ってリフレッシュする。脳番地は休憩回数の多いほうを好む性質があり、短い学習を繰り返すほど発火のピークを何度も作れる、という理屈です。

数字でも示されていて、週末に120分まとめて勉強するより、1日10分を12日間続けたほうが記憶に残る。同じ総時間でも、分散させたほうがはるかに効くのです。

これは社会人にとって朗報でもあります。「まとまった時間が取れないから勉強できない」という言い訳がそもそも成り立たない、と裏づけてくれるからです。

そしてもう一つの柱が「余韻学習」。20分勉強したら10分ほど歩き、その歩いている最中に、直前に学んだ内容を頭の中で振り返る。これだけで運動系が刺激されて脳全体が活性化し、定着率が上がるといいます。

著者はこれを徹底するため、カフェにはテキストを1冊だけ持っていき、終わったら一度家に取りに帰って次のテキストで出直す、という一見ムダな往復まで提案します。その往復が運動と休憩を兼ねる、というわけです。

正直、最初は極端だと感じました。けれど発想の根っこは一貫していて、「移動や休憩の時間まで脳のメンテナンスに変える」という設計思想なのだと分かると腑に落ちます。

さらに切り上げ方も独特で、「あと少しでキリがよかった」というところであえて止めると、未練が残って感情系が動き、学習内容への親密度が上がる。中途半端で終わらせるほうが、むしろ記憶に効くという逆張りです。

連続ドラマが毎回いいところで切れて続きが気になるのと同じ仕掛けを、自分の勉強に仕込むわけです。

1テーマ1本勝負と、復習のタイミング

勉強するときの鉄則は「1テーマ1本勝負」。複数の科目を同時並行で進めると「情報の干渉」が起き、記憶が混乱する。机の上を片付けて1つに絞ることで、情報を一時的に保持する作業台であるワーキングメモリが効率よく働き、長期記憶へ送るときのフォルダも明確になります。

マルチタスクが効率的だという通念が、脳のレベルでは逆だと示されているのが面白いところです。

記憶の定着を決めるのは、復習のタイミングです。人の脳は24時間で学習内容の7割以上を忘れる。だから1回目を24時間以内、2回目を72時間(3日)以内、3回目を168時間(7日)以内に復習する、と具体的な時間が示されます。

しかも最初から学び直す必要はなく、軽く目を通して「ああ、そうだった」と思い出すだけでいい。このタイミングで記憶にアクセスすると、情報が取り出しやすい場所へ移っていく。忘却を前提にしてスケジュールを組む、という発想の転換が効いていて、「忘れる自分」を責めずに済むのもありがたい。

苦手な問題への向き合い方も逆張りで、「スーパースロースタディ」と呼ぶ、超ゆっくり学ぶ方法をすすめます。歯が立たない1問に、あえてたっぷり時間をかける。

著者は28歳まで英語が苦手でしたが、同じ英語論文を、知らない単語を一つずつ調べながら頭から5回以上読み返したところ、構造の似た別の論文も最初ほど時間をかけずに読めるようになったといいます。

違う問題を100問やるより、10問を10回ずつ解くほうが有効――この一言は、量をこなして安心したがる自分への戒めとして刺さりました。広く浅く触れて「やった気」になるより、狭く深く穴を開けたほうが、結局は応用が利くということです。

計画・睡眠・運動と、AI時代の心構え

長期の計画にもコツがあります。脳は時間軸が明確なほうがよく働き、締め切りを意識すると海馬が活発になる。そこで著者は「100日単位」でスケジュールを区切ることをすすめます。

試験まで1年なら、最初の65日で脳の基礎体力を上げ、続く100日ずつで全範囲を回していく、という具合です。進捗は◎◯△×の「パーソナルスコア」で見える化し、直前に注力すべきは「×」ではなく「△を◯に引き上げる」こと。

間違えた1問の周辺には複数の△や×が潜んでいる、という指摘が実践的で、伸びしろの正体を言い当てています。

生活習慣では、睡眠と運動が二本柱になります。社長である思考系は、睡眠でしか休ませられない。歯痛や肩こりといった不快感を感じ取るだけで思考系の70%が使われてしまうので、その不快感を消すだけでパフォーマンスは大きく上がる。

睡眠と体の不調を「勉強の外側の話」だと切り離さず、思考力そのものの問題として扱う視点が新鮮でした。

運動については、座位時間が2時間増えるごとに死亡リスクが15%上がるという追跡研究を引き、余暇のジム通いだけでは座りすぎの害を打ち消せないと警告します。

だからこそ、20分に1回立ち上がる、歩きながら考えるなど、日常のすき間に細かく運動を織り込むことが要になる。これは小刻み学習や余韻学習とぴたりと噛み合っていて、勉強法と健康法が一本の線でつながっているのが本書の見事なところです。

最後に現代的な視点として、ChatGPTのような道具を排除せず、好奇心を持って使いこなすことが脳の成長につながる、と著者は言います。ただしAIに頼りきって脳をサボらせてはいけない。

便利な道具に任せるほど、意識的に脳を働かせる時間がかえって要る――この通奏低音は、検索一つで答えが出る時代だからこそ重く響きました。

おわりに

この本のいちばんの価値は、テクニック以前に「自分を責めなくてよくなる」ことだと思います。続かないのは意志が弱いからじゃない。ド忘れは記憶力が落ちたからじゃない。脳という臓器の使い方が、大人脳に合っていなかっただけ。そう分かると、やり直す気持ちが驚くほど軽くなります。

逆に、すでに自分の学習リズムを確立して成果が出ている人には、目新しさは薄いかもしれません。精神論で背中をぐっと押してほしい人にも向かない。本書はあくまで、脳のメカニズムから淡々と説く本だからです。

私はいま、勉強のあとに10分歩く習慣を試しています。たった10分ですが、机から離れて振り返ると、不思議と内容が頭に残る。小さな使い方の違いが、確かに効いている実感があります。年齢を言い訳にする前に、まず20分だけ区切ってみる。脳は、まだ右肩上がりに伸びる余地を残しています。


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『継続する技術』戸田大介 三日坊主を意志の問題にしない点で、本書と同じ立場の本。200万人のデータから導いた続け方が、脳の基礎体力づくりと響き合います。

『学びを結果に変えるアウトプット大全』樺沢紫苑 本書の比較でも触れられる類書。覚えた知識を引き出す「検索力」を、書く・話すで鍛える具体策がそろっています。


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