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『なぜあの商品、サービスは売れたのか?』木下勝寿|ヒット商品を生み出す16人の「頭の中」

マーケティング・営業
『なぜあの商品、サービスは売れたのか?』

「いい商品を作った。品質には自信がある。でも、なぜか売れない。」

この悩みを抱えている人は多いと思います。そしてたいてい、「もっと品質を上げれば」「もっと機能を足せば」と考えてしまう。でも実は、売れない原因は品質でも機能でもないことがほとんどです。

本書の著者・木下勝寿氏は、北の達人コーポレーションの代表取締役。自らも借金ゼロから年商100億円のD2C企業を築いた人物です。その木下氏が、インターネット発のヒット商品を生み出した16人の経営者に直接インタビューし、成功の裏側にある思考法を掘り下げたのがこの一冊です。

YOLU、バルクオム、食べチョク、オルビス──名前を聞いたことがある人も多いでしょう。なぜこれらのブランドは爆発的に売れたのか。その答えが、ここにあります。

図解

こんな人に読んでほしい

EC・D2Cで自分の商品を売っている人。新商品をこれから市場に出そうとしている商品企画担当者。「広告を出しているのに利益が残らない」と感じている経営者。マーケティングを感覚ではなく構造で理解したい人。モノの売り方の「裏側」に興味がある人。

売れる商品は「インサイト」から始まる

本書を読んで最初に驚くのは、16人全員が口を揃えて「顧客の本音」を起点にしていることです。

メンズスキンケアのバルクオム創業者・野口卓也氏は、こう語っています。「インサイトを強く意識していないと、『なんとなくオシャレなクリエイティブ』や『それなりにキレイにまとまったコピー』を作ってしまうんです」。

インサイトとは、消費者を購買に突き動かしている「隠れた本音」のこと。男性がスキンケアを買う本当の理由は何か。「肌を綺麗にしたい」の裏にある感情は何か。そこまで掘り下げるから、刺さるクリエイティブが生まれる。

ヘアケアブランドYOLUを生んだI-neの伊藤翔哉氏も同じです。コロナ禍の「おうち美容」トレンドに着目し、「夜間美容──寝ている間に髪をケアする」という明確なコンセプトを打ち出した。発売からわずか2年で年商136億円。これは偶然ではありません。消費者の生活の変化を観察し、隠れたニーズを見つけた結果です。

逆に、インサイトを無視するとどうなるか。DINETTEの尾﨑美紀氏は、アンケート結果をそのまま形にしたフェイスマスクを4枚入り5000円で発売したことがあります。売れなかったので20円セールを実施した。それでも売れなかった。顧客の声を「鵜呑み」にして、本当の欲求を読み違えた失敗です。

「どこで売るか」が「何を売るか」と同じくらい重要

本書で繰り返し登場するのが、販売チャネルの戦略です。多くの人は「良い商品を作れば、あとはどこで売っても同じ」と考えがちですが、実態はまったく違います。

木下氏自身がこう整理しています。「自社ECサイトで売れるのは『他にない商品』。モールやドラッグストアで売れるのは『他より良い商品』」。同じ商品でも、売る場所によって求められる価値がまるで変わる。

イルミルドの西俊彦氏は、Amazon内でのマイクロな施策を極めた人物です。商品タイトルを長くする。メイン画像にアテンションシールを貼る。画像の占有面積をミリ単位で広げる。こうした泥臭い工夫を積み重ねた結果、化粧品分野で資生堂を抜いてAmazon年間売上1位を獲得しました。

一方、I-neのBOTANISTは逆のアプローチです。1400円という中価格帯のシャンプーを、まずネットで先行販売して実績を作った。その販売データを武器にドラッグストアに商談に行き、棚を獲得した。「Amazonで売る」のではなく「Amazonで売れる商品を作る」。この発想の転換が、ヒットの分岐点になります。

「売上」ではなく「限界利益」で判断する

本書で最も実務的な示唆を与えてくれるのが、ユニットエコノミクスの考え方です。

オルビスの小林琢磨社長は、業績低迷中にCEOに就任した際、まず割引キャンペーンを大幅に削りました。売上は一時的に落ちる。でも利益率は劇的に改善した。「利益を生み出さない売上って意味ない」という言葉は、EC事業者にとって耳が痛いはずです。

木下氏も同様の視点を持っています。重要なのはCPO(顧客獲得単価)とLTV(顧客生涯価値)のバランスです。広告を打てば売上は伸びる。でも、1人の顧客を獲得するコストが、その顧客が生涯にもたらす利益を上回っていたら、売れば売るほど赤字になる。

大都の山田岳人氏の経験は、この失敗の典型です。DIY用品ECで急成長した後、VCから資金調達してアプリや実店舗に投資した。しかし新規事業が軒並み赤字になり、4事業中3事業を撤退、社員は半減、上場も白紙に。売上の拡大に目を奪われて、利益構造を見失った結果です。

山田氏はそこから、自社の強みであるB2Bに特化した「トラノテ」を立ち上げて再び成長軌道に乗りました。「何でも売る」から「強みに集中する」への転換。これもユニットエコノミクスに基づく判断です。

「プロセス」そのものが価値になる時代

もう一つ、本書が示す重要な潮流が「プロセスエコノミー」です。完成した商品だけでなく、作る過程そのものがブランドの価値になるという考え方です。

ファクトリエの山田敏夫氏は、全国830以上の工場をタウンページで探してアポなしで訪問し、日本のものづくりと直結した服を販売しています。メイドインジャパンの服は1990年には50%あったのに、今はわずか1.5%。この危機感と使命感を、ものづくりのプロセスとして発信し続けることで、熱狂的なファンを生み出しました。

食べチョクの秋元里奈氏は、常に「食べチョクTシャツ」を着てメディアに出演し、生産者を守りたいという創業ストーリーを語り続けました。コロナ禍で販路を失った生産者と消費者をつなぎ、月間流通金額を35倍に急成長させた。商品のスペックではなく、「なぜこの事業をやっているのか」が共感を生んだのです。

TELESAの車谷セナ氏は、資金繰りが悪化した時に『令和の虎』に出演して商品の価値を訴え、動画1本で3000万円の売上を出しました。その後もドキュメンタリー的な発信で新規顧客を獲得している。プロセスを見せることで、商品への信頼が生まれる。これは大企業にはなかなか真似できない、小さな会社の強力な武器です。

実践アクション:今日から始める3ステップ

1. 自社の顧客のインサイトを「口語体」で書き出す

箇条書きで「ターゲットは30代男性、肌の悩みあり」と書くのでは不十分です。「私は朝、鏡を見て肌荒れに気づく。でもスキンケアなんて女性がやるものだと思っている。でも本当は、清潔感がないと仕事でも損をしていると感じている──」。こうやって顧客の感情と行動のプロセスを文章で書くことで、インサイトの解像度が一気に上がります。よくある失敗は、アンケート結果をそのまま商品仕様に反映してしまうこと。顧客の「言葉」と「本音」は違います。

2. 自社商品の「売り場特性」を再定義する

今売っている場所は本当に最適ですか。自社ECで売っている商品は「他にない」商品ですか。モールで売っている商品は「他より良い」商品ですか。場所によって見せ方を変えるだけで結果が変わることがあります。よくある失敗は、すべてのチャネルで同じ見せ方をしてしまうこと。Amazonと自社サイトでは、顧客が求めている情報がまったく違います。

3. 売上ではなく「1人あたりの利益」を計算する

今月の売上がいくら伸びたかではなく、1人の顧客を獲得するためにいくらかかり(CPO)、その顧客が生涯でいくら利益をもたらすか(LTV)を計算してください。この2つの数字を把握していない状態で広告費を増やすのは、穴の空いたバケツに水を注ぐのと同じです。よくある失敗は、「売上が伸びているから大丈夫」と利益構造を見ないこと。売上が伸びても利益が残らなければ、事業は続きません。

おわりに

本書が特別なのは、インタビュアーである木下氏自身がトップマーケッターだということです。だからこそ、表面的な成功談ではなく、CPOやLTVの数字、ネーミングの失敗、詐欺被害まで、実務レベルの話を引き出せている。16人の「頭の中」をインストールできるこの本は、EC・D2Cに関わるすべての人にとって、明日から使える実践の教科書です。


合わせて読みたい

『ジョブ理論』クレイトン・クリステンセン|顧客はなぜその商品を「雇用」するのか 「インサイト」の理論的な裏付けがここにあります。顧客が商品を買う本当の理由を「ジョブ」として捉える視点は、本書の16人の思考法と直結しています。

『顧客起点の経営』西口一希|たった1人の顧客分析から全体戦略を逆算する方法 本書のインサイト重視の姿勢をさらに深めたい人へ。N1分析から事業戦略を組み立てるフレームワークは、EC・D2C事業者にとって強力な武器になります。

『戦略ごっこ』芹澤連|エビデンスが覆す「マーケティングの常識」 「リピーターを増やせば成長する」「ロイヤル顧客を大切にすれば安泰」──本書の事例から得た直感を、科学的エビデンスで検証したい人におすすめです。


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