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『最高の脳で働く方法 Your Brain at Work』デイビッド・ロック氏|気合いではなく「脳の取扱説明書」で働く

健康・メンタル
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『最高の脳で働く方法 Your Brain at Work』

夕方になると、頭が回らなくなる。メールを片づけ、会議をこなし、いざ大事な企画を考えようとすると、もう何も浮かばない。

私もずっと、これは根性が足りないせいだと思っていました。だから「もっと頑張ろう」とコーヒーを足して机にかじりつく。でも、本書を読んで考えが変わりました。

問題は気合いではなく、脳の作り方を知らないことだったんです。

著者のデイビッド・ロック氏は、脳神経科学をマネジメントに応用してきたビジネスコンサルタント。本書は、エミリーとポールという架空のビジネスパーソンの日常を追いながら、脳の生物学的な限界を理解し、それに逆らわずに働く方法を解き明かしていきます。

脳には限界がある。だったら、その限界を尊重したほうが速い。これが一貫した立場です。

図解

「意識的な思考」は、思っているより小さい

本書がいちばん伝えたいのは、意思決定や集中といった意識的な思考が、ごく限られたリソースだということです。それを担うのは額のすぐ後ろにある前頭前皮質。脳全体のわずか数パーセントしかない上に、エネルギーを激しく消費し、使うほど枯渇していきます。

私がうなったのは、著者がこの容量の小ささを「ある身近なもの」にたとえる場面でした。脳全体はとてつもなく高性能なのに、「今これを考える」という意識の容量だけは、信じられないほど小さい――その差を一発で腹落ちさせる比喩なのですが、どれほど小さいのかは本書で確かめてほしい。読んだ瞬間、自分の働き方の前提が崩れる感覚があります。

著者はこの前頭前皮質を「小さな舞台」にもたとえます。役者として上げられる情報はほんの数個、照明(エネルギー)もすぐ切れる。だから本書の戦略はずっとブレません。この小さくて高価な容量を、いかに節約し、本当に重要なことだけに投資するか。それが「脳を最大限に使う」ということです。

マルチタスクという、静かな浪費

数ある主張のなかで、私がいちばん態度を改めたのはマルチタスクの否定でした。

脳が一度に集中してできる意識的な作業は、原則1つだけ。複数を同時にやっているつもりでも、実際には高速で切り替えているだけで、その切り替えそのものがエネルギーを食う。本書には、メールやメッセージを常時やり取りしている状態が認知能力をどれほど下げるか、思わず二度見する研究データが引かれています。その数字を見てしまうと、「ながら作業」を続ける気が失せます。

ずばり、考える作業をしている間は、すべての情報通信機器の電源を切ること。

身も蓋もない指示ですが、ここまで読むと妙に納得してしまう。深く考える時間だけは、スマホを別室に置く価値がある――そう思わせる説得力があります。

ほかにも、最も重い思考は脳がフレッシュな朝に回す、情報は紙に書き出して頭の外に置く、複雑な問題はコアまで単純化する、といった原則が並びます。どれも派手さはないのに、脳の仕組みに沿っているぶん地味に効く。具体的な手順は本書で確かめてください。

プレッシャーに飲まれないための「演出家」

脳には、論理を司る前頭前皮質とは別に、感情を司る大脳辺縁系があります。これが脅威を感じると前頭前皮質からエネルギーを奪い去る。つまり強い不安や怒りを感じた瞬間、人はうまく考えられなくなる。会議の厳しい質問でフリーズし、後から「なんであんな受け答えを」と悔やむ、あの現象の正体です。

ここで鍵になるのが「演出家」という比喩。舞台の外から自分の思考や感情を客観視する力、つまりメタ認知です。「今、自分は脅威を感じている」と一歩引ければ、衝動に振り回される前に選択肢が持てる。

本書はこの章で、感情をうまく扱う具体的な技法をいくつか示します。なかでも私が日常で使えると感じたのは、湧いた感情に短い言葉で名前をつけるだけ、という拍子抜けするほど単純な方法でした。押し殺すのは逆効果なのに、名前をつけると興奮が和らぐ。その理由とやり方は本書に譲りますが、知っているだけで救われる場面は多いはずです。

なぜ職場のフィードバックは効かないのか

本書の後半は、自分の脳から「他者の脳」へと話が移ります。土台にあるのは、脳が人とのつながりを生存に関わる欲求として扱うという事実。仲間外れの痛みが、身体的な痛みと同じ脳の部位を反応させる、という研究まで紹介されます。

これを体系化したのが、本書最大の貢献である「SCARFモデル」です。脳が対人関係で報酬にも脅威にも感じる5つの領域の頭文字をとったもので、地位、確実性、自律性、つながり、公平性――この5つが満たされれば報酬、脅かされれば脅威になる、という見取り図です。5領域それぞれに、ぞっとするような実験が添えられているのですが、すべては紹介しません。一つだけ挙げると、コントロールを奪われることの破壊力を示すラットの実験は、マイクロマネジメントの罪深さを生々しく突きつけてきます。

そしてここから、悩ましい現実が見えてきます。良かれと思ったダメ出しは、相手の地位と自律性を同時に脅かす。だから脳は防衛モードに入り、まっとうなアドバイスほど拒絶される。「ちゃんと指摘しているのに部下が変わらない」のは、あなたの言い方ではなく脳の構造の問題だったわけです。

では、どうすれば人は変わるのか。本書の答えは、解決策を教えるのではなく、相手自身に「ひらめき」を起こさせること。そのための問いかけの設計図まで用意されています。問題の原因を掘り下げるのをやめ、望む結果に注目を切り替える――その具体的なフレームは、ぜひ本書で受け取ってほしいところです。

限界を認めると、戦い方が変わる

本書を読んでいちばん救われたのは、夕方に頭が回らないのは怠けではなく、脳の限界だと分かったことでした。

限界があると認めると、戦い方が変わります。気合いで容量を増やそうとするのをやめ、限られた容量をどこに使うかを設計するようになる。朝の30分の使い方を変える、考える時間だけデバイスを切る、感情に名前をつける。どれも小さな行動ですが、脳の仕組みに沿っているぶん、ちゃんと効きます。

頑張れないと自分を責める前に、まず自分の脳の取扱説明書を開いてみる。集中力の浪費に悩むデスクワーカーにも、フィードバックが効かないマネージャーにも、その一冊になるはずです。そこから、働き方は静かに変わっていきます。


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なぜ頭が疲れると判断を誤るのか──脳のリソース管理で生産性を10倍にする方法 本書の「前頭前皮質はポケットの硬貨」という核心を、判断疲れの観点から掘り下げたコラム。エネルギー管理の発想を実務に落とすヒントになります。

『究極のマインドフルネス』メンタリストDaiGo|不安は「敵」じゃなかった 本書の「演出家」やラベリングを、より日常的なメンタル術として深めたい人へ。不安との付き合い方が、感情コントロールの章と響き合います。

「感情的にならず、論理的に」という教えの、致命的な誤り 感情を押し殺すと逆効果という本書の指摘と、まさに同じ方向を向いた一本。感情を排除せず言語化する発想を、別角度から確かめられます。


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