本文へスキップ
ブクドリ | BOOK DRIP
戻る

『最強の健康法 病気にならない最先端科学編』ムーギー・キム|健診で「異常」と出ても、慌てなくていい理由

健康・メンタル
約7分で読めます
『最強の健康法 病気にならない最先端科学編』

健康診断で「要再検査」の通知が来ると、心臓がドキッとしますよね。

でも本書を読むと、その「異常」の多くが偽物かもしれないと知って、私は健診の見方が変わりました。健康な人でも、検査項目が30もあれば約8割が「異常」と判定されてしまいます。

『最強の健康法 病気にならない最先端科学編』は、姉妹作の「ベスト・パフォーマンス編」と同じく、著者のムーギー・キム氏が50名超の名医に取材し、別の名医がトリプルチェックした一冊です。こちらは病気と老いを遠ざける「医療リテラシー」に焦点を当てています。

こんな人におすすめ

健康への不安が、ぼんやりと頭の片隅にある人に向いています。

この本の核心――前提を疑い、医療リテラシーを持つ

本書がまず突きつけるのは「日本の健診は世界的に異常だ」という事実です。

労働安全衛生法で健診が義務づけられているのは日本だけで、検査項目には科学的根拠の乏しいものも含まれます。だからこそ、医者の言葉を盲信せず、自分で正しい知識を持つことが出発点になります。

本書はライフステージに沿って進みます。健診の読み方から始まり、糖尿病・高血圧・心臓病・がんといった病気の予防、加齢に伴う悩み(薄毛・不妊・骨粗しょう症・認知症)、そして人生の最期まで。生まれてから死ぬまでの健康課題を一冊で網羅しています。

なぜ国民の8割が「不健康」と診断されるのか

ここが本書でいちばん目から鱗だった部分です。

健診の判定基準は、健康な人の95%をカバーする範囲を「正常」としています。つまり、健康な人でも5%は「異常」と出る仕組みです。検査項目が30もあれば、全項目で正常になる人は約21%まで落ち、結果として国民の約8割が「異常」と診断されます。

健康なのに誤って異常とされること、これを「偽陽性(フォールスポジティブ)」と呼びます。これに振り回されて不要な薬や精密検査を受けると、かえって健康を害することもあります。

「異常を発見して早期治療に入れるという効果がある一方、まったくの健康体が検査によって間違って異常とされて、無駄な精密検査や危険な治療が行われることもあるのです」

メタボ基準の「腹囲85センチ」も、実は健康な人の平均値にすぎません。国際基準(BMI30以上)なら日本人の肥満は3%未満ですが、日本ではBMI25以上を肥満として25%を肥満判定しています。

だから本書は言います。基準値の絶対評価より、自分自身の数値の「経年変化」を見よ、と。去年と比べて急激な悪化がなければ、慌てる必要はありません。

「ちょこっと歩き」で糖尿病も心臓病も遠ざかる

生活習慣病の予防は、特別なことをしなくていい、というのが本書の立場です。

糖尿病予防の鍵は、血糖値の急上昇を抑え、すい臓を働かせすぎないこと。パンやご飯などの糖質を控え、肉・魚・野菜を先に食べる「食べる順番」が効きます。市販の野菜ジュースは糖類が添加されていることが多く、かえって血糖値を上げるので注意が必要です。

「階段を見たら、糖尿病を予防して健康になるチャンスと思え」

心臓病の最大の敵は内臓脂肪ですが、もう一つの致命的要因が「働きすぎ」と「睡眠不足」です。1日11時間以上働く人は、7〜8時間労働の人より急性心筋梗塞の発症率が2.4倍になります。週に5日は5時間以上の睡眠を確保し、心臓を休ませることが命を守ります。

がんの「標準治療」は、松竹梅の竹ではない

がんと診断されたとき、人はつい「最新の治療」に飛びつきたくなります。でも本書はこれを強く戒めます。

「『標準治療』というのは、『並の治療』と受けとめる人もいるかもしれません。しかし実際は、『最適な治療』、『基本となる治療』といってもよいかもしれません」

標準治療は松竹梅の「竹」ではなく「松」、つまりベストな治療です。手術・抗がん剤・放射線を中心に、何十年もの研究と多くの患者での検証を経て、効果と副作用が確かめられています。むしろ高額な自由診療のほうが、科学的根拠は薄いことが多いと本書は指摘します。

興味深いことに、高学歴・高所得者ほど怪しい代替医療を選ぶ傾向があります。だからこそ、まず標準治療を正しく受けることが何より大切だと本書は説きます。

信用してはいけない「ヤバ医者」の見分け方

本書が独特なのは、医学界の内部からは書きにくい「ヤバ医者の実態」に踏み込んでいる点です。

避けるべき医者の特徴は具体的です。「この自由診療なら絶対に治る」と断言する。高額な自社サプリばかり勧める。治療のデメリットを説明しない。患者の話を聞かず一方的に治療を押し付ける。

実際の取材でも、「ステージ4でもがんがほぼ100%消える」と謎の白黒写真で主張する医者や、2日で20万円のカウンセリングを押し付ける専門家が登場します。メディアへの露出が多いことは、専門家としての信頼とは別物だと知っておきたいところです。

若さを決めるのは「運動・食事・社交」の3本柱

アンチエイジングと聞くと美容を想像しますが、本書の定義は違います。

「アンチエイジングの目的は健康長寿、言いかえれば老後の『クオリティ・オブ・ライフ』を維持すること」

そのために必要なのが運動・食事・社交の3つです。

運動は週3回×30分の有酸素運動で成長ホルモンを分泌させます。日中に体を動かすことが、夜の熟睡と細胞修復につながります。

食事は「腹七分目」が鍵です。少し飢餓状態に身を置くと、普段は眠っている長寿遺伝子のスイッチが入ります。これを「カロリー・リストリクション」と呼びます。あわせて、細胞のサビ(活性酸素)を防ぐために、ビタミンやファイトケミカルを含む色とりどりの野菜を摂ります。

社交は、意外にも健康の柱です。

意欲の源「テストステロン」は、褒められると上がる

3本柱の「社交」を支えるのが、男性ホルモンのテストステロンです。

これは単なる性ホルモンではありません。「やる気」の源であり、動脈硬化を防ぎ、暗い記憶に蓋をして前向きに生きるための源泉です。男女ともに活力を生みます。

面白いのは、このホルモンが「家に引きこもると下がり、社会参加すると上がる」こと。狩りに出て獲物を勝ち取ってきた本能が、現代では「社会に出て自分を表現する」ことに置き換わっています。

「健康にいいものを食べることより、家族の中心で食べること、『この人と一緒に食べるとごはんがおいしい』と思える人と食べること。この充足感が大切なのです」

そして人は「褒められる」とテストステロンが上がり、意欲が倍増します。部下を叱るより褒めるほうが、最強のチームを作れるわけです。

認知症は「予防できる病気」になった

かつて認知症は「大統領から農夫まで平等になる疾患」と言われ、避けられない運命とされていました。でも今は違います。

「今は、生活習慣の改善で誰でもある程度は予防可能な病気です」

鍵を握るのが、1日30分程度の有酸素運動です。これによって脳内で「BDNF(脳由来神経栄養因子)」が作られ、記憶を司る「海馬」の神経細胞を再生させます。軽度認知障害の患者20人が有酸素運動を含む活動をしたところ、16人に症状の軽減が見られました。

もう一つの栄養が人とのつながりです。一人で黙々とパズルを解くより、誰かと楽しく会話するほうが、脳のあらゆる領域が活性化します。

加齢の悩みにも、本書はそれぞれ科学的な答えを示します。薄毛で本当に効くのはフィナステリドとミノキシジルだけ。不妊の原因の約4割は男性側にある。骨粗しょう症はビタミンD・Kとウォーキングで防げる。育毛シャンプーやヘッドスパは、残念ながら気休めです。

「いい死に方」は「いい生き方」で決まる

本書は人生の最期にも踏み込みます。

樋野興夫さんの「がん哲学」は、「なぜがんになったのか」という過去への嘆きを、「いかに向き合うか」という前向きな問いに変える試みです。悩みを解決できなくても、対話を通じて「解消」へ導きます。

そして最も心に残るのが、この対比です。

「利己的でHappyな人よりも、利他的でJoyfulな人のほうが人生は輝く」

自分の富や名声を満たすHappyは際限がなく満たされませんが、他者のために尽くすJoyfulな生き方は、その瞬間に心を満たします。最期まで人間らしくあるための「自己決定権」を持ち、信頼する人に看取られること。それが「クオリティ・オブ・デス(死の質)」を高めます。

「いい死に方をしたければ、いい生き方をすることが大事なのです」

明日から何を変えるか

本書のアクションは、どれも今日から始められます。

1. 健診で異常値が出ても、まず去年の数値と比べる 急激な悪化がなければ慌てず、生活習慣の改善を第一選択にします。

2. エスカレーターを階段に変え、1日30分の有酸素運動を確保する 成長ホルモンとBDNFが出て、若返りと認知症予防を同時に進めます。

3. 会社以外で「自分が頼りにされる居場所」を一つ作る 人と交流し続けることが、テストステロンを保つ最強のアンチエイジングです。

おわりに

この本を読んで、私が最も価値を感じたのは「慌てなくていい」と教えてくれたことでした。

健診で異常が出ても経年変化を見ればいい。がんになっても標準治療がある。老いても運動と社交で脳は若く保てる。怪しい情報に振り回される必要はありません。

そして最期は「いい生き方」の延長線上にある。だとすれば、今日を誰のために生きるか。それが、一番大事な健康法なのかもしれません。


合わせて読みたい

『医者が教える長生きのコツ』佐古田三郎 本書の「医療リテラシー」をさらに深めたい人へ。薬を減らし、病院に頼りすぎない現代の養生訓として響き合う一冊です。

『運動が脳を変える』ジョン・J・レイティ 本書のBDNFと認知症予防に興味を持った人に。運動が脳を変えるメカニズムを科学的に掘り下げています。

『LIFE SCIENCE』吉森保 細胞レベルで健康を理解したい人へ。本書の「活性酸素」「長寿遺伝子」の話を、生命科学の視点から補強できます。


この記事をシェア:

関連記事

前の記事
『問題解決のジレンマ』細谷功さん|知識が増えるほど、新しい問題が見えなくなる
次の記事
『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』森岡毅さん|変えたのは、たった1つだけ