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『ストレスゼロの生き方』Testosterone|悩んだら、まず寝ろ食べろ運動しろ

健康・メンタル ✍ Testosterone
約7分で読めます

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『ストレスゼロの生き方』
目次

職場で理不尽なことを言われた夜、布団に入ってからも頭の中で言い返し続けている。そんな経験、ありませんか。

冷静に考えれば、その夜、相手はぐっすり眠っています。一人で怒り、一人で眠れなくなっているのは自分だけ。完全な持ち出しです。本書はこの「不毛な夜」を、慰めるのではなく正面から潰しにきます。

『ストレスゼロの生き方 心が軽くなる100の習慣』は、筋トレ啓蒙で知られるTestosterone(テストステロン)さんが、ストレスを限りなくゼロに近づける100の習慣をまとめた一冊です。

著者は自分について、特別なメンタルコントロールもしていないのにストレスがまったく生まれない、と言い切ります。本書はその「ストレスフリーな頭の中」を、そのまま言語化した本だと考えると分かりやすいです。

図解

100の習慣を貫く、たった一本の背骨

100個と聞くと、雑多なテクニック集を想像するかもしれません。実際にはこの本の芯は一本だけです。

自分でコントロールできないことへの執着を手放し、コントロールできることだけに全力を注ぐ。たったこれだけ。他人の評価、過去、天候、生まれ持った才能。これらは努力では動かせないのだから、悩むだけ時間の無駄だ、と著者は言い切ります。

編集部の見立てでは、これはアドラー心理学の「課題の分離」やストア派哲学のロジックそのものです。エピクテトスが二千年前に言った「権内にあるもの/権内にないもの」の区別と骨格が同じ。

違うのは語り口で、本書は哲学用語を一切使わず、これを「やめる」「捨てる」「逃げる」という行動の動詞に翻訳してみせます。理屈で納得させるのではなく、行動で背中を押すタイプの本なのです。

そして本書最大の武器は、圧倒的な肯定感です。すべての人間に価値があるし、全方向に才能がゼロの人間などいないと断言する。弱っている読者を理屈抜きで持ち上げるカタルシスがあります。

その言葉が軽く聞こえないのは、著者の当事者性ゆえでしょう。16歳で体重110キロの肥満児だった人が、筋トレで人生を立て直した。学者の理論ではなく実体験から書いているから、強い断言が説教臭くならずに刺さるのだと思います。

やめる──すべてのイライラは「期待」から生まれる

第1章は「やめる」。まずやめるべきは「社会のモノサシ」です。高収入、大企業、結婚といった、時代が勝手に決めた幸せの型。自分のモノサシを信用せず社会の基準で生きようとするから苦しくなる、という指摘は痛いところを突きます。

次にやめるのが、変えられないことで悩む癖。ここで本書は「前向きに諦める」という言葉を使います。諦めというとネガティブですが、使い方が逆なんです。実らない努力を切り捨て、その余力を本当に注力すべき場所へ回す。つまり選択と集中のための諦めです。

対人関係でこれが効くのが、本書屈指の一行です。

すべてのイライラは期待から生まれる

家族や同僚が思い通りに動かなくて腹が立つ。その怒りの正体は、相手への「期待」だったというわけです。他人はコントロールできないと割り切れば、メンタルは一気に安定する。

正直、最初は「それができたら苦労しない」と思いました。でも著者の処方は身も蓋もなくて、他人の意見など「外野のヤジ」だ、一度フルシカトしてみろ、と。

雑なのに、雑だからこそ効くのが面白いところです。

夢についても逆張りします。夢など無理に持たなくていいし急いで探さなくていい、と。「夢を持つべき」という風潮が、やりたいことの見つからない人を逆に追い詰めている。今この瞬間を楽しむこと自体が立派な人生だ、という肯定は、地味に救われる人が多いはずです。

捨てる──過去の成功も、3日で忘れていい

第2章は「捨てる」。筆頭が「安いプライド」です。他人の助言のほうが正しいのに、自力でなんとかしないと悔しいと意地を張る。これを著者は成長の最大の阻害要因だと断じます。

面白いのが過去の捨て方、いわゆる「72時間ルール」です。成功の余韻も失敗の痛みも、味わうのは3日で十分。成功も失敗も3日で忘れろ、と。

失敗を忘れろは分かります。でも「成功も忘れろ」が本書らしい。過去の成功にしがみつくとプライドが生まれ、新しい挑戦ができなくなるからです。昔うまくいったやり方を後生大事に握っている人を思い浮かべると、納得感があります。

人間関係には鋭い指標があります。直近で会った友人5人の平均値が、そのままあなただ、と。だから交友関係の8割は尊敬できる人で固めろ、と。愚痴ばかりの飲み会に毎週通っているなら、その平均が自分なのだと考えると、なかなか怖い物差しです。

そして本書が最も強く捨てろと言うのが「我慢」です。自分さえ我慢すれば丸く収まる、という発想を捨てよ。自己犠牲の上に成り立つ幸せはない。自分の幸せを第一に考えるのは権利であり、むしろ義務だ、とまで踏み込みます。

逃げる──苦しさが5割を超えたら、それは命令だ

第3章「逃げる」が、本書でいちばん痛快な章です。逃げる=負け、と刷り込まれている人ほど効きます。著者にとって逃げるは、勝つための「一次撤退」であり立派な戦略です。

判断基準が具体的なのが助かります。仕事の「楽しさ:苦しさ」が6:4なら続けていい。でも苦しさが5割を超えたら、やめるのも一つの手だ、と。感情論ではなく採点で決められる。今の仕事は楽しさ何割か、と自問できる物差しが渡されます。

劣悪な環境への言葉は、ここで一段強くなります。

耐えられないぐらい辛い環境にいるなら、逃げろ。偉そうで申し訳ないが、これは提案じゃない。命令だ

人格を否定してくる相手からは全速力で逃げろ、責任を投げ出してでも身を守れ、心や体以上に大切なものはない、と。ここで重要な但し書きがあります。

逃げるのは「余力があるうち」だということ。心身が壊れてからでは遅い。倒れてから逃げるのではなく、立てるうちに歩いて出ていく。この一点は、勢いだけの本ではない誠実さだと感じました。

ちなみに断り方のテクも具体的で、「スケジュール確認して30分以内に連絡します」と一旦引き取り、20分後に残念そうに断れ、と。せこい。でも確かにこれが一番もめないのが、悔しいところです。

受け入れる・貫く・決める──身軽になった後の整え方

中盤3章は、引き算で軽くなった自分の整え方です。

第4章「受け入れる」は失敗の肯定。失敗できた自分を誇りに思え、それは限界を超えて挑戦した証拠だ、と。ここで努力の報酬を捉え直す視点が秀逸です。報酬は「成功」ではなく「成長」だ。成功は運が絡むが、成長は正しい努力を続ければ必ず手に入る。だから成功ではなく成長にフォーカスせよ、と。

第5章「貫く」では、嘘をつかないことを人生の最強戦略と位置づけます。嘘はつじつま合わせの労力と罪悪感を生み、それ自体がストレス源になるから。

幸福についても、幸せになる第一歩は「すでに幸せだと気づくこと」だと説きます。ないものねだりをやめ、今あるものに感謝する。心理学でいう快楽順応(手に入れた幸せにすぐ慣れてしまう性質)への、実践的な処方箋とも読めます。

第6章「決める」は自分ルールづくり。代表が「仏の顔は二度まで」。1、2回は笑顔で許すか警告にとどめ、3回目から容赦なくやり返す、という処世術です。

ポジティブ思考の定義も独特で、「なんとかなる」ではなく「なんとかする」なのだ、と。運任せは思考停止、最悪を想定した上で自分なら打開できると信じて進むのが本物のポジティブだ、という線引きには唸りました。

結論、筋トレしろ──心を心で直すな

そして第7章。あらゆる精神論の終着点が、まさかの「筋トレする」です。

ここまで心の持ち方の話だと思って読んできた読者は、ここで肩透かしを食らいます。著者いわく、悩みの根本原因のほとんどは「気分」の問題、つまりホルモンバランスと自律神経の乱れだ、と。だから究極の真理はこれです。悩むな、まず寝ろ、食べろ、運動しろ。

処方は明確です。8時間寝る(最低6時間)、1日3食、週3日運動する。この3つを、あらゆる仕事や人間関係より優先しろ、と。頭がぐるぐる止まらない夜は、部屋でうずくまるのをやめ、筋トレやランニングで体を酷使して脳を強制終了させる。

最後の習慣に至っては「筋トレしろ!!!!!!!」とビックリマーク7個。清々しいほどの一貫性です。

これは精神論の放棄に見えて、実は逆です。心を心で直そうとするより、体から直すほうが速い。本書の正体は、徹底した身体優先のメンタル術なのです。

この本の限界も、正直に

ここまで力強い本ですが、留保も書いておきます。本書はすべてを自分の責任として向き合うことでしか改善は望めない、と他力本願を退けます。この自己責任論は弱った背中を押す一方で、振り切りすぎる面もある。

構造的な貧困や重度の精神疾患といった「真の外部要因」に対しては、個人の努力や筋トレだけでは届きません。本書の力強さは、そのまま個人責任への偏りでもあります。

科学的エビデンスの本ではなく、著者の経験則と強い言葉の本。だから合う人には劇薬のように効き、合わない人には響きにくい。そういう性質の本だと理解した上で手に取るのがいいと思います。

それでも、編集部がこの本から受け取った一番のものは、自分の機嫌と健康だけは自分で守っていい、という許可でした。相手の機嫌はコントロールできません。でも自分の睡眠は、今夜からコントロールできる。布団の中で誰かに言い返すより、6時間寝る。明日はそこから始めてみませんか。


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