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『THE MODEL』福田康隆|「営業が全部やる」時代は、もう終わっている

マーケティング・営業
『THE MODEL』

「うちの営業は優秀だから大丈夫」──この言葉を聞くたびに、著者は危機感を覚えると言います。

なぜなら、顧客はもう営業と会う前に、情報収集の67%を終えているからです。

福田康隆さんは、日米のオラクル、セールスフォース、マルケトといった世界的IT企業でキャリアを積んだ営業組織のプロフェッショナルです。本書は、従来の「営業が全工程を担う」属人的なモデルから脱却し、マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの4部門が連携する「共業プロセス」を体系化した経営指南書です。

SaaS企業だけの話ではありません。顧客の購買行動が根本的に変わった今、あらゆるビジネスに必要な「売り方の設計図」がここにあります。

図解

こんな人に読んでほしい

営業組織の成果が特定の「エース」に依存している管理職。マーケティング部門と営業部門の連携がうまくいかない人。「リードは増えているのに売上が伸びない」と感じている人。カスタマーサクセスの立ち上げを検討している事業責任者。SaaS・サブスクリプションビジネスに携わるすべての人。

この本の核心──「分業」ではなく「共業」

本書のタイトルである「THE MODEL」は、セールスフォースが実践してきた営業プロセスモデルに由来します。しかし著者は、このモデルの「表面」だけを真似して失敗する企業を数多く見てきました。

典型的な失敗パターンはこうです。マーケティングが大量のリードを獲得する。インサイドセールスがアポを取る。営業が商談する。ここまでは「分業」として機能しているように見える。しかし実態は、マーケティングは数だけを追い、質の低いリードを営業に渡す。営業は「使えないリードばかりだ」と不満を持つ。部門間の「負のループ」が回り始める。

著者はこう指摘します。本当のTHE MODELは、直線的なファネル(漏斗)ではなく、循環する仕組みです。失注した案件や今はタイミングが合わなかった見込客を捨てずに「リサイクル」する。育て直してまた商談に戻す。この循環があるから、新規リードだけに依存しない持続的な成長が可能になる。

「分業」は手段。「共業」──売上という共通目標に全部門が向かうこと──が本質です。

全体像──4つの部門と「レベニューモデル」

THE MODELの全体像はシンプルです。

マーケティングは「見込客の母数」を作る。展示会、ウェブ、セミナーなどを通じてリードを獲得し、育成する。著者はマーケティングを「オーケストラの指揮者」に例えます。個々の楽器(チャネル)がバラバラに演奏しても意味がない。全体の顧客体験を設計し、指揮する役割です。

インサイドセールスは「商談供給の調節弁」。電話やメールで見込客に接触し、ニーズを確認して商談化する。ここが弱いと、営業は自力でリードを探すことになり、分業が崩壊します。

営業(フィールドセールス)は「商談のプロ」。商談フェーズを厳格に管理し、フォーキャスト(売上予測)の精度を高める。著者が特に強調するのは「パイプラインの管理」です。商談の件数、金額、フェーズごとの進捗率を数値で把握し、どこにボトルネックがあるかを可視化する。

カスタマーサクセスは「契約後の価値創出」。サブスクリプションモデルでは、契約がゴールではなくスタートです。顧客の活用成熟度を引き上げ、LTV(顧客生涯価値)を最大化する。解約率を1%下げることの経営インパクトは、新規顧客を10社獲得するよりも大きいことがある。

この4部門が「共通のKPI」を見ながら連携する。それがレベニューモデル──売上創出の仕組み──です。

「リサイクル」という発想──リードは使い捨てではない

本書で最もインパクトのある概念が「リサイクル」です。

従来の営業プロセスは直線的です。リード→アポ→商談→受注。途中で落ちた案件は「失注」として消える。でも著者は問います。失注した案件は、本当に「死んだ」のか。

予算が合わなかった。タイミングが悪かった。決裁者が変わった。これらは「今は」買えないという意味であって、「永遠に」買わないという意味ではない。失注リードをインサイドセールスに戻し、再育成してまた商談に乗せる。このリサイクルの仕組みがなければ、企業は常に新規リードの獲得に追われ、コストは際限なく膨らみます。

著者のデータによれば、リサイクルされたリードからの商談化率は、新規リードからのそれに匹敵することがある。なぜなら、一度接点があり、課題が顕在化しているからです。

「一度断られたら終わり」ではなく、「断られたところから始まる」。この循環の発想が、THE MODELの真価です。

プロセスの「数値化」──気合と根性からの脱却

著者が繰り返し主張するのは「プロセスを数値で管理する」ことの重要性です。

典型的な問題がフォーキャスト(売上予測)の不正確さ。営業が「いけそうです」と報告していた案件が、月末になって消える。これは商談フェーズの定義が曖昧だから起きます。

著者が推奨するのは、商談を明確なフェーズに分け、それぞれの移行条件を厳格に設定すること。たとえば「リード」→「見込」→「提案」→「交渉」→「受注」。各フェーズの移行には、「意思決定者が同席した」「予算が確認された」といった客観的な基準を設ける。

これにより、パイプラインのどこにボトルネックがあるかが見える。「提案」から「交渉」への移行率が低いなら、提案の質に問題がある。「交渉」から「受注」が低いなら、価格か競合対策を見直す必要がある。

数字を見るときのコツは「絶対値」ではなく「トレンド(傾向)」を見ること。先月より件数が5%減った──これは問題かもしれないし、季節要因かもしれない。複数の指標を組み合わせて、本当のボトルネックを特定する。気合と根性ではなく、科学で営業を動かす。

カスタマーサクセス──「売った後」こそ勝負

SaaS・サブスクリプションモデルにおいて、カスタマーサクセスは単なるサポート部門ではありません。著者はこれを「売上の源泉」と位置づけます。

新規顧客の獲得コストは、既存顧客の維持コストの5〜25倍と言われます。つまり、解約を防ぐことは、新規を獲得すること以上に経営インパクトが大きい。

著者が提唱するのは、顧客の「活用成熟度」を段階的に引き上げていくアプローチです。導入しただけで使っていない顧客は解約予備軍。基本機能だけ使っている顧客は拡張の余地がある。高度な活用をしている顧客はアップセル・クロスセルの候補。

カスタマーサクセスの本質は「顧客の成功を自社の成功にする」こと。顧客が製品を使って成果を出せば、継続する。継続すればLTVが伸びる。この好循環を設計するのがカスタマーサクセスの仕事です。

組織とリーダーシップ──数字の裏を読む力

著者は本書の後半で、プロセスを動かす「人と組織」に踏み込みます。

マネジメントに求められるのは、KPIの数字を「管理」することではなく、数字の背後で何が起きているかを「想像」する力です。コンバージョン率が下がった。なぜか。リードの質が落ちたのか、営業のスキルが不足しているのか、市場環境が変わったのか。数字は症状であって、原因ではない。

メンバーのモチベーションについて、著者は「達成不可能ではない絶妙なストレッチゴール」の重要性を説きます。簡単すぎる目標は成長を止め、無理な目標は諦めを生む。組織を率いるには「利益と尊敬と、少しの恐怖」のバランスが必要だという指摘は、現場を長く見てきた著者ならではの実感でしょう。

実践アクション:今日から始める3ステップ

1. 自社のプロセスを「4ステージ」で可視化する

まず、自社の顧客獲得から維持までのプロセスを「認知→商談化→受注→継続」の4つに分け、各ステージの数字を書き出してください。リード数、商談化率、受注率、継続率。どこに一番大きな漏れがあるかが見えます。よくある失敗は、「受注」だけを見て他のステージを無視すること。ボトルネックは多くの場合、受注の前にあります。

2. 「失注リード」の棚卸しをする

過去1年間の失注案件を一覧にして、失注理由を分類してください。「予算不足」「タイミング不一致」「競合負け」「ニーズなし」。前者2つは「リサイクル」の候補です。3ヶ月後に再アプローチするだけで、商談が復活する可能性があります。よくある失敗は、失注を「終わったこと」として記録にも残さないこと。失注リードは資産です。

3. 商談フェーズの「移行条件」を明文化する

「見込」「提案」「交渉」「受注」の各フェーズに、移行するための客観的な条件を定義してください。「予算が確認された」「意思決定者が同席した」「導入時期が明確になった」など。よくある失敗は、営業の「なんとなくいけそう」という感覚でフェーズを進めること。フォーキャストの精度はここで決まります。

おわりに

「営業が全部やる」時代は終わりました。しかし著者が本書で最も伝えたいのは、「分業すればうまくいく」という単純な話ではありません。分業した部門が、売上という共通目標に向かって「共業」すること。失注したリードを捨てずに循環させること。プロセスを数値で管理し、ボトルネックを科学的に特定すること。この設計思想そのものが、THE MODELの本質です。


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『Sales is 科学的に成果をコントロールする営業術』今井晶也|「買わない理由」を潰す3つの戦略 THE MODELの「営業(フィールドセールス)」フェーズをさらに深掘り。商談の進め方を科学的に体系化した一冊です。

『顧客起点の経営』西口一希|「成長の壁」を突破する3つのフレームワーク THE MODELのマーケティング思想と通じる「顧客起点」の経営論。顧客の行動を起点にプロセスを設計するという共通の哲学があります。

『LTVの罠』垣内勇威|顧客に愛され続ける企業になるための処方箋 本書のカスタマーサクセスの章と直結するテーマ。LTVを追いすぎることの落とし穴と、本当の顧客価値について考えさせられます。


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