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『運動脳』アンデシュ・ハンセン|頭を良くしたいなら、脳トレより「歩く」が効く

健康・メンタル
約6分で読めます
『運動脳』

クロスワードや脳トレアプリで、頭を鍛えているつもりの人へ。

残念ながら、その努力はあまり報われていないかもしれません。

精神科医アンデシュ・ハンセン氏は、最新の脳科学と進化生物学を武器に、こう断言します。記憶力も集中力も創造性も高めたいなら、パズルより有酸素運動のほうがはるかに効く、と。本書は「運動こそ最高の脳のアップグレード法」であることを、膨大なデータで証明した一冊です。

こんな人におすすめ

「脳トレを頑張っているのに効果を感じない」人ほど、この本は発想を変えてくれます。

この本の核心――脳は、原始人のまま止まっている

ハンセン氏の議論の土台は、ひとつのシンプルな事実です。私たちの脳は、サバンナで狩猟採集をしていた1万年以上前の原始人から、ほとんど変わっていません。

「動くために設計された脳」と「座りっぱなしの現代社会」。このギャップこそが、ストレスや集中力低下、うつの根本原因だと著者は言います。

だからこそ、脳を整える方法も原始的でいい。パズルではなく、体を動かすこと。これが本書を貫く主張です。

脳は、死ぬまで作り変えられる

まず大前提として、脳は固定されたものではありません。経験や活動によって構造が柔軟に変化する性質、神経可塑性を持っています。

これは年齢に関係なく働きます。ある研究では、60歳の被験者が1年間ウォーキングを続けた結果、脳の「前頭葉」と「側頭葉」の連携が強化され、実質的に脳が若返ったことがMRIで確認されました。

加齢で脳は1日に10万個もの細胞が死滅し、萎縮していきます。それでも運動を続ければ、その流れを押し戻せます。脳は、最後まで成長できる器官です。

運動は、ストレスの「ブレーキ」を鍛える

ストレスを感じると、脳の扁桃体(恐怖や不安を感じ取り、体に警告を発する器官)が反応し、ストレスホルモンのコルチゾールが分泌されます。

この暴走を抑えるブレーキ役が、記憶の中枢である海馬と、論理的思考をつかさどる前頭葉です。運動はコルチゾール値を下げると同時に、この2つのブレーキを物理的に強化します。

つまり運動は、ストレスを我慢する精神論ではありません。ストレスに反応しにくい脳そのものを作る方法です。

集中力は、「体トレ」で戻る

現代は情報過多の時代です。通知やSNSが、私たちの集中力を絶え間なく奪っていきます。

ここで効くのがドーパミンです。快感を与えるだけの物質と思われがちですが、実は脳内の「雑音」のボリュームを下げ、目の前のことに集中させる役割も担っています。運動はこのドーパミンを分泌させ、本当に大切なものだけに注意を向ける「選択的注意」の能力を高めます。

脳の機能を高めるには、戦略的に運動するほうが、パズルや脳トレよりはるかに効果がある

この一文に、本書の挑戦的な姿勢が表れています。多くの人が信じる「頭を良くするには脳トレ」という常識を、ハンセン氏は明確に否定します。

運動は、天然の抗うつ剤

うつの章で、本書は驚くべき主張をします。運動は抗うつ剤と同等の効果を持つ、というものです。

その鍵を握るのが、BDNF(脳由来神経栄養因子)という物質です。これは脳の細胞を保護し、新しい細胞の生成を促し、細胞同士のつながり(シナプス)を強化する「奇跡の万能薬」とも呼ばれます。運動をすると、このBDNFが大量に分泌されます。

BDNFは記憶や学習にも深く関わります。だからこそ、単語の暗記や新しいスキルの習得は、座りっぱなしより運動の直後に行うほうが、定着率が段違いに良くなります。学習効果を上げたいなら、まず体を動かすのが近道です。

記憶の中枢が、物理的に大きくなる

記憶力の話は、さらに具体的です。

定期的な持久力トレーニングを続けると、記憶の中枢である海馬の細胞が増え、なんと物理的に2%大きくなることが証明されました。加齢で縮んでいくはずの海馬が、運動で逆に育つ。これは大きな希望です。

海馬は記憶を短期から長期へ固定する役割に加え、空間認識という「脳のGPS」の機能も持っています。運動によって最も成長の恩恵を受ける器官が、この海馬です。

歩くと、アイデアが湧く

行き詰まったとき、机にしがみつくのは逆効果かもしれません。

アインシュタインも、作家の村上春樹さんも、運動を日課にしていました。歩いたり走ったりすることで、自由に発想を広げる「発散的思考」、いわゆるブレインストーミング力が大幅に高まるからです。

しかも効果には持続時間があります。運動した後の1〜2時間は、創造性が高まった状態が続きます。アイデアが欲しいときは、外に出て20〜30分歩くか軽く走る。それから机に向かう。この順番が効きます。

学力は、体力と比例する

子どもの章も見逃せません。

算数や読解といった学力は、体力と比例することがわかっています。たった4分の運動でも集中力が改善し、立って勉強するだけでも脳が効率よく働きます。

オフィスでも同じです。「立ち机」を使うだけで前頭葉が活発化し、ワーキングメモリーと集中力が高まる。座り方を変えるだけで、脳の働きが変わるのです。

なお本書は健康面の効果にも触れています。歩くことは認知症の発症を遅らせる最高の薬であり、世界の長寿地域「ブルーゾーン」の住民に共通するのも、日常的によく体を動かしていることでした。

すべての能力は、「移動」のために進化した

最後に、本書はすべてを進化の視点でまとめます。脳の最大の仕事は、考えることではなく「移動すること」だ、という主張です。

集中力も記憶力も、本来はサバンナで狩りをし、生き延びるために高められた能力でした。一方で、高カロリーを求め、無駄なエネルギーを節約しようとする原始の脳の指令が、現代人をソファから動けなくさせています。

ここでハンセン氏は、もうひとつ独創的な視点を示します。ADHDの特性(多動、衝動性)を、単なる障害ではなく「探検家の遺伝子」と捉えます。素早く決断し行動する性質は、狩猟採集時代には生存に有利な強みでした。環境が変わっただけで、能力そのものが劣っているわけではありません。

明日から何を変えるか

本書のアクションを、今日からの行動に落とします。

1. まず「立つ・歩く」から始める 完璧なトレーニングを目指す必要はありません。立ち机を試す、通勤で1駅手前から歩く。「1歩でも脳のためになる」と考えて、日常の活動量を増やします。

2. 暗記や学習は、運動の直後にやる 単語を覚える、新しいスキルを練習する。これを座ったままではなく、ウォーキングの後にやります。BDNFの恩恵で、記憶の定着率が劇的に上がります。

3. 週3回、45分の有酸素運動を半年続ける ランニングやサイクリングを、息が上がる程度(最大心拍数の70〜75%)で。爽快感はすぐ得られますが、海馬や前頭葉が物理的に育つには数ヶ月かかります。半年後の変化を信じて続けます。

おわりに

頭が良くなりたい。集中したい。落ち込みから抜け出したい。

その答えを、私たちはパズルやアプリに探しがちです。でもハンセン氏が示すのは、もっと泥くさく、もっと確実な道でした。立って、歩く。それだけで脳は変わり始めます。

効果が出るまでには時間がかかります。だからこそ、今日の一歩を「数ヶ月後に脳が進化するための投資」だと思って踏み出してみてください。


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脳トレよりも「体トレ」?運動が脳を劇的に変える5つの理由 本書の核心である「脳トレより運動」というテーマを、より短くつかめる記事。記事を読んでまず全体像を押さえたい人や、要点だけ先に知りたい人におすすめです。

『Go Wild 野生の体を取り戻せ!』ジョン・J・レイティ 「人間の脳は原始人のまま」という本書の前提を、食事や睡眠まで広げて論じた一冊。運動だけでなく生活全体を進化の視点で見直したい人に響きます。

「歩く」だけで脳が若返る、意外なメカニズム 本書がいう「歩くと海馬が育つ」仕組みを、コラムとしてかみ砕いた記事。いきなり週3回の運動はハードルが高いという人が、まず歩くことから始めるきっかけになります。


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