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『9割捨てて10倍伝わる「要約力」』山口拓朗さん|捨てるほど、伝わる

コミュニケーション・文章術
約6分で読めます

会議で発言したのに「で、結局何が言いたいの?」と返された経験、ありませんか。

丁寧に説明したつもりが、かえって伝わらない。原因は説明不足ではなく、むしろ逆だったのです。山口拓朗さんは、伝わる人は人に何かを伝えるとき情報の9割を捨てていると言います。残す1割が「死んでもこれだけは言っておく!」という核心。この記事では、本書の核心と「収集・整理・伝達」の3ステップを丸ごと辿ります。

こんな人におすすめ

この本の核心――要約は「短くすること」ではない

学校で習った要約は、文章全体を均等に短くまとめる作業でした。本書はこれをはっきり否定します。

社会人に求められる要約は、伝える目的や相手に応じて、そのつど形を変えるもの。著者はこう定義しています。

「要約力」とは、情報のポイントをつかみ、場面に応じて、簡潔かつ論理的にアウトプットする能力のことです。

そして究極の要約とは、「死んでもこれだけは言っておく!」という、たった一つの核心を見つけること。

たとえば「あなたはどんな人ですか」と聞かれたとき。明るくて、お酒が好きで、家族も大切で……と思いついた順に並べる人がいます。伝わるのは「目標達成型の人間です」と一言で結論づける人のほうです。

なぜ捨てられるのか。著者は、要約力が高い人は「これさえ伝えれば理解してもらえる」という確信を持っているからだと言います。逆に何でも話したがる人は、ポイントをつかめていない不安から言葉を重ねてしまう。

ここで一つ、覚えておきたい視点があります。ダラダラと要点を得ない話は、相手の時間を奪う行為だということ。

ダラダラと要点を得ない話をする――ビジネスシーンでは最も避けたい行為のひとつです。それは「相手の時間を奪ってしまう」からです。

時間は、その人の人生そのもの。だから要約は、相手への思いやりでもあるわけです。

本書の真骨頂は、この要約を一連のシステムとして体系化したところにあります。それが「情報収集」「情報整理」「情報伝達」の3ステップ。要約はアウトプットの瞬間だけでなく、情報を集める段階から始まっている。だから自分の課題が「集めきれていない」のか「整理できていない」のか「伝え方が悪い」のかを切り分けられる。順に見ていきます。

ステップ1 情報収集――要約はインプットから始まっている

質の高い要約には、必要十分なインプットが欠かせません。ここでまず張るのが「情報収集アンテナ」です。

「屋上緑化のメリット」「コスト」など、自分が知りたいテーマを脳に意識させておく。すると、日常のあちこちから関連情報が自然に集まってくるようになります。

集めるときに気をつけたいのが「認知バイアス」、つまり思い込みです。これを外すために必要なのがメタ認知力。自分の思考や行動を一歩引いて客観視する力です。

メタ認知力を高めること、すなわち、自分の思考や行動を客観視する意識を強めましょう。

情報の質を上げる道具として、著者は質問を勧めます。「Why(なぜ)」で根拠を深掘りし、「If(もし)」で少し先の未来を想定する。「もしこのプランを実行したらコストはどれくらい?」と自問すれば、リスクに先回りできます。

もう一つ、見落としがちなのが集める対象です。言葉や文章だけが要約の素材ではありません。相手の表情、声のトーン、その場の雰囲気といった非言語情報も、ビジネスでは立派な要約対象になります。商談中、相手の顔が少し曇ったのを見て説明の方向を変える。これも要約の一部です。

そして収集の基礎体力になるのが「抽象⇔具体」の往復。「インターネット(抽象)→SNS→Twitter(具体)」と降りたり、「鮭、鯛(具体)→魚(抽象)」と上ったり。この行き来が普段からできていないと、情報を脳内で整理できません。

ステップ2 情報整理――9割を捨てる勇気

集めた情報をそのまま放置しては要約になりません。整理の核心は二つ、「具体化グループ思考」と「優先順位思考」です。

まず、バラバラの情報を似たもの同士でグループに分ける。

情報整理のプロセスで最も大事なのは「情報のグループ分け」です。

そのうえで、伝える相手のニーズや「相手にしてほしい理想の反応」から逆算して、優先順位をつけます。

具体例がわかりやすい。渋谷区のカフェ・イアンが、プリンターの不具合をメーカーに連絡する場面。4色のカートリッジを全部交換し、クリーニングも試したが、文字がかすれて1センチ幅の線が入る。今夜19時まで、無理なら翌日9時までに修理に来てほしい――。

受付担当者は、この情報を「機種」「不具合の状況」「試した対策」「修理の要望」とグループに分け、修理部署にとって優先順位の高い順に要約して伝えました。だからスムーズに通じた。

逆の失敗例もあります。部下の堀さんが大阪出張をくどい前置きから報告し始めて、上司の辻課長に呆れられた。結論を先に言えば一発でした。「BコーポレーションとC商事がプレゼンの場を設定してくれ、A社には商品データを送る」。これだけで十分だったのです。

ここで効いてくるのが、最初の「死んでもこれだけは言っておく!」。核心が決まっているから、残りの9割を迷わず捨てられる。

ステップ3 情報伝達――幹から枝、そして葉へ

整理した情報も、伝える順番を間違えると伝わりません。基本は「幹→枝→葉」です。

人に何かを伝えるときの基本は「幹→枝→葉」です。

幹は全体像・結論、枝は理由・根拠、葉は具体例・詳細。いきなり細かい葉から話すと、聞き手は迷子になります。「マンションを買う/銀行ローンが通った」という幹から始め、次に理由、最後に詳細へと肉付けしていく。

この順番を型にしたのが「用件+結論優先型」。冒頭で「どんな用件か」と「どんな結論か」の二つを伝えると、相手は話の輪郭をつかめます。

話の冒頭で「どんな用件か」と「どんな結論か」のふたつを伝えることによって、相手は話の輪郭をつかむことができます。

日常会話でも使えます。「今日のランチだけど(用件)、駅前の定食屋に行かない?(結論)。オープン記念で全品500円なんだって(理由)。おかわり無料だし(詳細)」。結論が先にあるから、聞き手は安心して聞ける。

複数の情報を伝えるなら「列挙型」。最初に「ポイントは3つあります」と全体像を示してから中身に入る。これだけで理解度が大きく変わります。

そして具体性を出すのが数字と固有名詞。「なるべく早く」ではなく「6月3日の正午まで」、「少し」ではなく「20分ほど」。あいまいさを消せる人は、その場の主導権を握れます。

ただし、テクニックだけでは届きません。著者は最後にこう言い添えています。

話す内容への「愛」と、それを届ける相手への「愛」、そして、相手にそれを届けたいという「情熱」は、私たちが思っている以上に、相手に伝わっています。

要約の型を完璧にこなしても、伝える側のエネルギーが低ければ心に響かない。小手先では埋められない土台がある、というわけです。

ここで本書の限界にも触れておきます。9割を捨てるには、何が核心かを見抜くメタ認知力や洞察力が要ります。これらは経験に依存する部分が大きく、一朝一夕には身につきません。だから本書は「後天的に磨けるスキル」と位置づけ、日々のトレーニングを勧めています。

明日から何を変えるか

1. 報告の前に「相手が今いちばん知りたいこと」を一行書き出す 会議や報告に入る前、上司や顧客が最も知りたいこと・困っていることをメモに書く。そこから逆算して話す内容を一つに絞る。自分の言いたい順に話してしまう失敗を防げます。

2. 連絡の冒頭を「〇〇の件です。結論は〜」に固定する 業務連絡を「用件+結論優先型」のテンプレートで始める癖をつける。結論を最後に取っておくのをやめるだけで、相手の理解は一気に速くなります。

3. 1日の出来事を140字にまとめてみる 観た映画、読んだ本、その日の学びを140字で書き出す。「死んでもこれだけは言っておく!」を一つ決めて文字にすると、9割を捨てる練習になります。ここで全部を詰め込もうとすると捨てる訓練にならないので、思い切って削るのがコツ。

おわりに

この本を読んで、自分のなかの「丁寧さ=たくさん話すこと」という思い込みが崩れました。

伝わらないのは、言葉が足りないからではなかった。むしろ多すぎて、核心がノイズに埋もれていたのです。

著者は要約力を、仕事のスキルにとどまらないものだと言います。これまで触れてきた「すべての情報」を要約してきた集大成が、今の自分の人生である、と。だとすれば、何を残し何を捨てるかを選ぶ力は、生き方そのものを変えていくのかもしれません。

まずは次の報告で、結論を一つだけ決めてから口を開く。そこから始めてみます。


合わせて読みたい

『超・箇条書き』杉野幹人 「短く伝える」が最強の武器になる理由を説いた一冊。本書の「9割捨てる」を、箇条書きという具体的な形式に落とし込みたい人に最適です。

『伝える力』池上彰 「わかっているつもり」が一番伝わらないと喝破した本。本書の「相手のニーズから逆算する」姿勢を、もう一段深めてくれます。

『雑談の一流、二流、三流』桐生稔 「沈黙が怖い人ほど話しすぎている」という指摘が、本書の「話しすぎは相手の時間を奪う」と見事に響き合います。


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