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『雑談の一流、二流、三流』桐生 稔|沈黙が怖い人ほど、話しすぎている

コミュニケーション・文章術 ✍ 桐生 稔
約7分で読めます

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『雑談の一流、二流、三流』
目次

エレベーターで同僚と乗り合わせ、「お疲れさまです」の先が続かない。飲み会で隣になった取引先の相手と天気の話をしたきり、会話が途切れる。あの数秒の気まずさを、多くの人が知っています。本書はその「間」を、才能ではなく技術で埋めようとする一冊です。

著者の桐生稔氏の経歴は象徴的です。新卒で入った会社の営業成績は最下位、入社3カ月で左遷。極度の人見知りだった彼が、飛ばされた先で2年後に全国1200店舗中の売上達成率トップに立ち、のちに35都道府県で受講者3万人超のコミュニケーションスクールを率いるまでになります。

つまり本書の技術は、もともと話し上手な人の自慢話ではなく、話せなかった人が這い上がるために組み立てた手順書だと読めます。

雑談の「談」は、「言」に「炎」と書く。話すことで関係に火を灯す、というのが著者の見立てです。会話の中身の面白さより、相手にどんな心地よさを手渡せるか。本書はその一点に賭けており、三流・二流・一流という三段階の対比で、その差を具体的に見せていきます。

図解

会話の主役を「相手」に移すと、沈黙は怖くなくなる

本書を貫く前提は、ひとつの人間観です。人は自分のことを最も意識し、自分について話したいと思っている——。だから一流は、会話の矢印を絶えず相手へ向け直します。

「今日は暑いですね」で止まるのが三流。「暑いですね、夏はお好きですか?」と質問を足すのが二流。一流は「暑いですね。○○さんって夏男という感じですよね」と、話題の中心そのものを相手に譲る。

同じ天気の話でも、着地点が「事実」か「相手」かで、その後の会話量はまるで変わります。

ここで著者が突きつけるのが、本書で最も有名な逆説です。会話の主導権を握っているのは、流暢に話している側ではなく、的確に問いを投げている側だ

滑らかに喋る人が場をリードして見えても、実際に舵を切っているのは質問する側だという指摘は、話術に自信がない読者ほど救われるはずです。喋りの巧拙ではなく、問いの向きで勝負できるからです。

実例として、シリコンバレーの伝説的コーチ、ビル・キャンベルが「調子はどう、いま何に取り組んでいる?」と必ず質問から入っていたことも紹介されます。

では何を話せばいいのか。著者の答えは拍子抜けするほど明快で、「人間が毎日する5つのこと」——食べる・動く・働く・お金を使う・寝る——から入れ、というものです。

天気や時事は当たり外れが大きいが、この5つは誰の生活にも必ずあるから外しようがない。理屈は通っています。加えて印象的なのが「共通点ではなく相違点を探せ」という助言です。

多くの会話本が共通点探しを勧めるなか、著者は人間は共通点より相違点のほうが圧倒的に多いと言い切り、「私はやったことがないんですが、どこに魅力を感じるんですか?」

と違いそのものを面白がることを勧めます。無理な共通点探しより、この構えのほうが確かに話は転がりやすいでしょう。

相手が話し出す「質問」と「聞き方」のつくり方

一流が目指すのは「話し上手」ではなく「話させ上手」だ、と著者は言います。人は聞いている時間より話している時間のほうが速く過ぎる。だから腕の見せどころは、相手が話したくなる場をどう用意するかに移ります。

その入口が「ツープラスの挨拶」です。挨拶で終わらせず、もうふた言を添える。「おはようございます。昨日は遅くまでありがとうございました。しかし部長、本当にタフですね」といった具合に、挨拶を会話のエンジンに変えるわけです。

質問の設計はさらに実務的です。「最近忙しいですか?」のような漠然とした問いは、相手が答えを探して脳が疲れ、居心地の悪さにつながる。一流は「最近、土日はお休み取れていますか?」

と、考えずに反応レベルで答えられる粒度まで質問を絞る。質問の抽象度が、そのまま相手の脳の疲労度を決めるという視点は、雑談に限らずあらゆるヒアリングに効きます。

話を広げる局面では「ということは」「そうすると」「ちなみに」といった接続詞を意識的に挟み、聞き手に回りながら相手の言葉を引き出す。「○○といえば?」

で連想をつなぐ「ネタ連想法」も、話題を一つから枝分かれさせる道具として紹介されます。

聞くこと自体を、著者は受け身ではなく高度な能動スキルとして扱います。勧めるのは「映像化して聞く」姿勢です。相手が週末の登山を語れば、その山や道のりを頭に描きながら聞く。

同じ映像を共有するように聞けば、「頂上からの眺めはどうでした?」という質問が自然に湧く。リアクションにも技術があり、所ジョージ氏はテレビで1分に6回も感嘆詞を発しているといい、リアクションの反対は無反応ではなく相手を「無視」することだ、と著者は釘を刺します。

褒める材料が見つからないときも、現在ではなく過去との差分、つまりBefore→Afterに目を向ければ必ず見つかる、という指摘は実用的です。

後輩がまだ目標に届いていなくても、「1カ月前より、一人で判断できることが増えたね」と変化そのものを褒める。到達点ではなく伸びしろに光を当てるから、どんな相手にも称賛の言葉を用意できるわけです。

15〜30秒で渡すテンポと、イメージで伝える描写

雑談にはテンポの目安もあります。15秒から30秒で相手にボールを返すのがベスト——人は興味のない話だと30秒ほどで集中力が急落するからです。

テレビCMが15秒・30秒で組まれるのも、電話営業のうまい人が30秒あたりで質問を挟むのも同じ理屈だと著者は言います。明石家さんま氏の司会のように、自分が30秒話したら即座に「○○さんはどうですか?」

と振る。この「話しすぎない勇気」こそ、沈黙が怖い人ほど実は話しすぎている、という本書の裏テーマを言い当てています。

伝え方の技術も具体的です。話は文字ではなくイメージで届ける。「うちの上司はジャイアンみたい」のように似たものへ例える「たとえ話」、「ズキューン」「キンキン」のようなオノマトペを使うと、情景が一発で伝わる。

彦摩呂氏が海鮮丼を「海の宝石箱や〜」と表現したのが分かりやすい例でしょう。複数人の前では、直接答えを求めず「みなさん、どう思います?」と投げる「一人質問」が効く。

ジャパネットたかたの髙田明氏が60分の講話で18回もこの問いを挟み、会場を沸かせたという逸話も添えられます。

ただ、この章に並ぶ芸能人や経営者の例は、あくまで「うまくいっている人はこうしている」という観察であって、再現性を保証する実験結果ではありません。

感嘆詞の回数や質問の間隔といった数字は目安として受け取り、自分の口調に馴染む範囲で取り入れるのが現実的だと感じます。型を丸ごと真似ると、かえって不自然な演技に見えてしまうからです。

距離を縮めるのは「完璧さ」ではなく「隙」

相手との距離を詰める章では、非言語と自己開示が主題になります。話すときは視線だけでなく「腹」を相手に向ける。体の中心を向けられると人は無意識に安心する、という体の使い方です。

隣席の相手と話すなら、顔だけでなく椅子ごと体を回す。ささやかですが、理にかなった一手でしょう。苦手な相手も、多くは「情報量の不足」で説明できると著者は整理します。

毎日会う上司を苦手に感じるのは、仕事の話しかせず相手の情報が少ないために不安が上回るから。少しずつ自己開示を交換すれば、関係はほぐれていきます。

そして本書が最も強調するのが「あえて隙を見せる」ことです。完璧を装うより、弱みを打ち明け、いじられる側に回るほうが可愛がられる。出川哲朗氏や上島竜兵氏が、スベりも変な空気もすべて引き受けることで「いると安心する」と思われ続けている構図と同じだ、という説明は腑に落ちます。

年長者には無理に持ち上げるより「どうしたら」「なぜ」と教えを乞う。人を味方に変えるのは、完璧さではなく隙と謙虚さだという一点は、雑談術を超えて対人関係全般の芯を突いています。

ただし、隙は信頼の土台があってこそ愛嬌になる、という留保は付けておきたいところです。関係の浅い段階で弱みばかり先に見せれば、頼りない人という印象だけが残りかねません。

「また会いたい」は去り際で決まる

人は最後に得た情報に強く引きずられる。心理学者N・H・アンダーソンが唱えた「親近効果」を、著者は去り際に応用します。「ありがとうございました」で終わるのが三流、「今日はお時間いただきありがとうございました」が二流。

一流は「今日の○○さんの苦労話、非常に勉強になりました」と、会話で印象に残った具体的なエピソードを一つ添えて去る。たったこれだけで、相手には「ちゃんと聞いてくれていた」という実感が残ります。

抽象的な社交辞令ではなく、内容を具体化するのがコツです。

さらに強力なのが「相手の脳に空白を作る」手です。「○○さんが好きそうな新しい店を見つけたので、今度ぜひ」と未完の情報を残して別れる。番組がCM前に「このあと、とんでもない結末が!」

と引くのと同じで、脳は未完了を放っておけないから、次に会う理由が自然に生まれる。もっとも、この種の技術は相手を動かす力が強いぶん、下心が透けると一気に白ける諸刃の剣でもあります。

効かせるには、演出の前に「本当にまた会いたい」という中身が要る——本書の技術群は、その真心を届ける増幅装置として使うのが正しい、と私は読みました。

最終章の心構えも印象に残ります。他人に興味を持てない人へ、著者は無理に興味を持とうとするのではなく、知らないものを知ろうとする好奇心をかき立てよと助言し、専門家に取材するつもりで聞けば質問は湧くと説きます。

そして本を締めるのが、稲盛和夫氏に由来する「自燃・可燃・不燃」の分類です。自ら燃え、周囲を巻き込むのが一流。哲学者アランの「幸福だから笑うのではない、笑うから幸福なのだ」を引きながら、まず自分が場を楽しむことで場の温度は上がる、と本書は結びます。

技術を一つずつ拾うだけでも十分に効きますが、最後にこの「自ら燃える」という土台を置いたことで、本書は小手先の型集で終わらない射程を得ています。

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