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ブクドリ | BOOK DRIP

データ分析が使われない理由

約6分で読めます 思考法・問題解決
目次

会議室。

立派なグラフが並んでいた。 数字に基づいた提案も用意した。

議論は平行線をたどった。 最終的には、声の大きい人の意見が通った。

「データを集めて分析したのに、結局、何も変わらなかった…」

そう思ったことはないだろうか。

多くの組織が「データドリブン」を掲げながら、実際にはデータが意思決定を動かしていない。

問題は、データの量や分析の精度ではない。 数字の「使い方」に問題があるからだ。


報告のために数字を使うから、次の行動が見えない

数字が行動につながらない最大の原因。 それは、数字を「報告」のために使っているからだ。

月次報告、四半期レビュー、年度末の振り返り。 これらの場で使われる数字は、過去に何が起きたかを説明するためのもの。

売上がいくらだったか。 目標に対してどれだけ達成したか。 前年比でどう変化したか。

こうした数字は確かに重要だが、一つの致命的な欠点がある。 「次に何をすべきか」を教えてくれない。

三木雄信さんは『数字で考えるは武器になる』で数値化の鉄則を「分ける」ことから始めると説いている。

ある営業部門で「売上が伸びない」という課題。 売上の推移グラフを眺めていても解決策は見えてこない。

しかし、売上を「業種別」に分解してみると、新規顧客は増えているが、美容業界以外の受注継続率が極端に低いという事実が浮かび上がった。

この時点で、打ち手は明確になる。 美容業界への営業に集中する。 あるいは、他業界の継続率が低い原因を突き止める。

中尾龍介さんも『外資系コンサルのデータ分析技法』で同じ原則を強調している。

仕事を「納期」ではなく「工数」で捉える。 大きな課題を「扱える荷物の大きさ」に因数分解することで、見積もり精度が向上し、行動に移しやすくなる。

Yahoo! BBのコールセンター問題。 月間100万件を超える問い合わせをすべて物理的にプリントアウトし、種類ごとに分類した。

7つの紙の山のうち、2つが全体の8割を占めていることが一目瞭然となった。 対策をこの2点に絞り込むことで混乱を収束させた。

私も経験した。

全体の売上データを分析した。 グラフを作って報告した。

「で、どうすればいいの?」

上司に聞かれて、答えられなかった。

「分ける」ことを始めてから、変わった。 売上を業種別、顧客別、商品別に分解する。

「どこに問題があるのか」が見えるようになった。

全体の数字をただ眺めるのではなく、「どこに問題があるのか」を特定するために数字を細分化する。 報告のための数字から行動のための数字への転換だ。


完璧なデータを待つから、何も決められない

数字が行動につながらない二つ目の原因。 それは、「データが不十分だから判断できない」という思考パターンだ。

しかし、ここに逆説的な真実がある。 不確実な状況でこそ、数字は最も強力な武器になる。

シャロン・バーチェ・マグレイン氏は『異端の統計学 ベイズ』で冷戦時代の興味深い事例を描いている。

開発されたばかりの大陸間弾道ミサイルの信頼性評価。 極めてデータが限られた問題に対して、ベイズ統計学が活用された。

事故データがゼロに近い状況でも、専門家の知見と入手可能なデータを組み合わせてリスク評価を行った。 完璧なデータがなくても、意思決定の根拠を示すことができた。

この考え方は、ビジネスにも応用できる。

三木さんは『数字で考えるは武器になる』で「高速PDCAサイクル」を強調している。

分析(PLAN)だけで終わらせず、即座に実行(DO)に移し、その結果を数値で検証(CHECK)し、改善(ACTION)につなげる。

重要なのは「実測値」という最も確かなデータを得ること。 予測や計画に時間をかけすぎず、小規模でも実行して実測値を得ることを優先する。

中尾さんも『外資系コンサルのデータ分析技法』で「仮説思考」を重視している。

仕事を始める前にまず結論(仮説)をイメージし、データを集めながらその仮説を検証し、修正していく。 完璧なデータを待つのではなく、仮説と実測の繰り返しで精度を高める。

正直に言う。

私も最初は「データが揃ってから判断しよう」と考えていた。 でも、データが揃う頃には、市場は変わっていた。

「まず実行し、実測値を得る」

この姿勢に変えてから、意思決定のスピードが上がった。

今ある情報を最大限に活用し、行動しながら判断を更新する。 「まず実行し、実測値を得る」という姿勢が、不確実な状況を突破する鍵になる。


定義が曖昧だから、数字が共通言語にならない

数字が行動につながらない三つ目の原因。 それは、数字が「共通言語」として機能していないことだ。

「数字の前ではすべての人間が平等である」

三木さんは『数字で考えるは武器になる』でソフトバンクに根付くこの文化を紹介している。

役職や経験に関係なく、客観的なデータに基づいた提案であれば、誰もが耳を傾けるようになる。 孫正義は、相手が若手社員であっても、その提案が客観的な数値に裏打ちされていれば採用した。

中尾さんも『外資系コンサルのデータ分析技法』で同じ視点を強調している。

経営者やマネジメント層は常に数字で物事を判断する。 数字という共通言語を用いることで、彼らとの対話が円滑になり、提案の説得力が増す。

しかし、ここで注意すべき落とし穴がある。 「間違った数値化」だ。

三木さんは『数字で考えるは武器になる』で7つの「間違った数値化」パターンを指摘している。

「定義の曖昧さ」──「解約率」一つをとっても、分母を「月初顧客数」にするか「累計顧客数」にするかで数値の意味は全く異なる。

「累積のマジック」──累計データは常に右肩上がりに見えるため、ポジティブな印象を与えがち。しかし、週次データに分解すると、毎月最終週に無理な押し込み販売で数字を作っている実態が露呈することもある。

「平均値のマジック」──平均値は一部の極端なデータに大きく影響され、実態からかけ離れた数値となることがある。

人を動かす数字には三つの条件がある。

第一に、定義が明確であること。 第二に、ゴールと連動していること。 第三に、アクションに転換できること。

これらの条件を満たす数字で組織全体を動かす。 「だから何をすべきか」が見える数字でなければ、組織は動かない。


今日、これだけはやってほしいこと

長々と書いた。 でも、やることは1つだけ。

全体の数字を見る前に、まず「分ける」。

それだけ。

売上なら業種別、顧客別、商品別。 クレームなら内容別、時期別、担当者別。

三木さんがYahoo! BBで実践したように、問題を「分けて」可視化することで、打ち手が明確になる。


よくある失敗

分け方が粗すぎて、問題の所在が見えない。

最初は細かく分けすぎるくらいでちょうどよい。そこから本当に意味のある切り口を見つけていく。


参考書籍

  • 三木雄信さん『数字で考えるは武器になる』 ソフトバンク孫正義から学んだ「攻めの数値化」。数字は報告のためではなく、組織を動かす武器として使う。

  • 中尾龍介さん『外資系コンサルのデータ分析技法』 「後ろから考える」アプローチで分析を設計。数字という共通言語で経営層を動かす。

  • シャロン・バーチェ・マグレイン氏『異端の統計学 ベイズ』 完璧なデータを待たず、事前の知識と限られたデータを組み合わせて意思決定する。不確実な状況でこそ数字の価値が発揮される。


まとめ

数字が行動につながらないのは、分析スキルの問題ではない。

報告のための数字に終始していること。 完璧なデータを待って動けないこと。 そして、数字が共通言語として機能していないこと。

数字を細分化し、「どこに問題があるのか」を特定する。 今ある情報を活用し、行動しながら判断を更新する。 定義が明確で、アクションに転換できる数字で組織を動かす。

三木さんが説いたように、数字は「攻めの武器」だ。 中尾さんが示したように、数字は「人を動かす力」になる。 マグレイン氏が描いたように、不確実な状況でこそ数字の価値が発揮される。

明日の会議から、ぜひ実践してみてほしい。

「この数字を分解すると、何が見えるか?」 「この数字から、次に何をするか?」 「この数字の定義は、全員が同じ理解か?」

その問いかけが、数字を「報告書の中の飾り」から「組織を動かす武器」に変える。


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