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ブクドリ | BOOK DRIP

ハイコンテクストな人同士ほど、誤解する

約4分で読めます コミュニケーション・文章術
目次

行間を読める人同士なら、話は早い。そう思っていました。

でも、INSEAD教授のエリン・メイヤーが『異文化理解力』で指摘しているのは、その逆です。行間を読む文化の人同士が組んだとき、誤解はむしろ増える。

たとえば、中国人とブラジル人がチームを組む場合。どちらも言外の意味を汲む文化です。ところが、汲み取り方のルールが違う。互いに「違う行間」を読んでしまい、誰も明示しないまま話が進みます。

言葉が少ないほど、解釈のブレは大きくなる。当たり前のようでいて、私はこれを読むまで気づいていませんでした。

文化は「絶対値」ではなく、相手との差で効いてくる

メイヤーの本が面白いのは、国民性を決めつけないところです。

彼女は、コミュニケーション、評価、説得、リード、決断、信頼、見解の相違、スケジューリングという8つの指標で各国の位置を示します。カルチャー・マップと呼ばれる見取り図です。

ここで重要なのが、位置は「絶対」ではなく「相対」だという点です。

たとえば、フランス人は日本人から見ればかなり直接的に見えます。ところがオランダ人やドイツ人から見ると、フランス人は遠回しに映る。同じ人が、相手によって「率直な人」にも「曖昧な人」にもなります。

だから「あの人は察してくれない」という感想は、相手の性質ではなく、二人の距離を言っているだけかもしれません。

これは国だけの話ではありません。営業部と開発部、本社と現場、中途入社と生え抜き。同じ会社の中にも、共有している前提の量が違うグループが並んでいます。

メイヤー自身も、各国の行動を釣鐘曲線で示したうえで、個人差は当然あると断っています。使いどころは、個人の断定ではなく、ズレが起きたときの見取り図としてです。

「率直な人」が、ダメ出しまで率直とは限らない

もうひとつ、思い込みが崩れる例があります。

アメリカ人は物をはっきり言う。多くの人がそう思っています。実際、情報伝達は直接的です。ところがネガティブな評価となると、アメリカ人はかなり間接的になる。オランダ人やドイツ人と比べれば、明らかに遠回しです。

つまり「伝え方が直接的か」と「ダメ出しが直接的か」は、別の指標なんです。この2つは、国によって組み合わせが捻れています。

メイヤーは、批判を強める言葉を「アップグレードする言葉」、和らげる言葉を「ダウングレードする言葉」と呼びます。

たとえば「まったく受け入れられない」は前者、「ちょっとだけ気になる点があって」は後者です。

ここで何が起きるか。ダウングレードに慣れた相手に、そのままの語感で「少し直したほうがいいかもね」と伝える。相手はそれを「軽い感想」として処理します。こちらは「明確に指摘した」つもりでいる。

3週間後、同じ問題がそのまま出てくる。原因は熱意でも記憶力でもなく、言葉の目盛りの違いです。

実務では、目盛りを合わせる一言が効きます。「これは必ず直してほしい」なのか「好みの範囲だから任せる」なのか。強さを言葉にしておく。それだけで、後ろの手戻りが減ります。

「察する力」は能力ではなく、共有した文脈の量

では、察する力は鍛えられるものなのか。

劇作家の平田オリザさんは『わかりあえないことから』で、別の角度から答えを出しています。日本の若者が求められている「コミュニケーション能力」は、ダブルバインドの状態にある、と。

一方では、異なる価値観の相手と交渉して妥協点を見つけるグローバルな力。もう一方では、上司の意図を察して和を乱さない同調の力。正反対の2つを同時に要求されれば、人は固まります。

平田さんが挙げる観察は、身につまされます。子どもが「ケーキ」と単語ひとつ言うだけで、親が意図を察して動いてしまう。すると、文を組み立てて説明する必要がなくなる。

伝えたいという意欲は、「伝わらなかった」経験から生まれる。察してもらえる環境にいる限り、説明する力は育ちません。

これを職場に置き換えると、こうなります。ずっと同じメンバーで回してきたチームほど、言葉が短くなる。そして新しい人が入った瞬間、何も伝わらなくなる。

察する力が高いのではなく、共有した文脈が多かっただけ。その差は、人が入れ替わった日に表に出ます。

明日からできること

前提の違うメンバーが混ざったら、ローコンテクストを規則にする。メイヤーの提案はここです。

誤解:伝わらないのは、伝え方の技術が足りないから → 言い方を磨いても、参照している前提が違えば同じ結果になります。技術より前に、前提を外に出す作業が要ります。

正しいアプローチ:口頭で合意したことを、その場で書いて見せる → 会議の終わりに「決まったこと」「次にやること」「担当」を3行で書き、その場で読み上げる。ズレはここで9割見つかります。

もうひとつ、書くときのコツがあります。

『GitLabに学ぶ ドキュメンテーション技術』は、事実と意見を分けて書くことを徹底します。「Aさんは数学のテストで満点だった」は事実、「Aさんは数学が得意だ」は意見です。

前者は誰が読んでも同じ意味になる。後者は読む人のスキーマで揺れます。世界最大級のフルリモート企業が数千ページのハンドブックを維持しているのは、この揺れを潰すためです。

今日の議事録で、1行だけ「これは事実か、私の解釈か」を確かめてみる。5分もかかりません。

おわりに

わかりあえないことは、失敗ではありません。出発点です。

行間を読む力は、共有した時間が作ってくれます。だから新しい相手には、まだ効きません。そこで必要なのは、察する努力ではなく、前提を口に出す手間のほうです。

言葉を減らせるのは、通じ合ったあとです。


この記事で参考にした本

『異文化理解力』エリン・メイヤー → 8つの指標で文化の位置を相対的に捉えるカルチャー・マップ。「直接的」と「ダメ出しが直接的」は別物という視点をくれた一冊。

『わかりあえないことから』平田オリザ → コミュニケーション能力のダブルバインドと、「伝わらない経験」が表現の意欲を生むという指摘。

『GitLabに学ぶ パフォーマンスを最大化させるドキュメンテーション技術』千田和央 → 認識の食い違いを前提に、事実と意見を分けて書くことで共通認識を作る実務の作法。


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「話せばわかる」は幻想?認知科学が教える、本当に伝わるコミュニケーションの秘訣 【今井むつみ『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?』】 なぜ同じ言葉が違う意味で届くのか。認知科学の側から「前提のズレ」を説明した記事です。

何回説明しても、伝わらない。もっと丁寧に話した。なのに、また誤解された。 丁寧さを増やしても伝わらないときに、どこを変えるか。相手の前提から組み立て直す話です。