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ブクドリ | BOOK DRIP

意見だけでは人が動かないのは、言葉がタダだから

キャリア・働き方
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目次

「この会議、要らないと思います」と言った人は、たいてい翌週もその会議に出ています。

たとえば、週1回の定例会議で、ある人が「報告だけなら資料の共有で足ります」と発言したとします。何人かがうなずき、議事録にも残る。それでも翌週、定例はいつもどおり1時間開かれます。

発言は正しかったのかもしれない。それでも何も変わらなかったのは、聞いた側にとって、その発言が判断の材料として軽かったからです。

理由は単純です。言うだけなら、誰にでもタダで言えるからです。

聞き手は、言葉の「値段」を見ている

ゲーム理論には「チープトーク」という用語があります。ヴィンセント・クロフォード氏とジョエル・ソベル氏が1982年に分析した、発言そのものにコストがかからないメッセージのことです。

言うだけならタダなので、本気で考え抜いた人も、思いつきで言った人も、同じ言葉を口にできます。聞き手は言葉の中身だけでは両者を見分けられません。

ただし、元の理論は「言葉は無意味だ」とは言っていません。話し手と聞き手の利害が近いほど、言葉だけでも多くの情報が伝わる、というのが結論です。逆に言えば、利害が見えない相手の言葉ほど、割り引いて聞かれます。

ナシーム・ニコラス・タレブ氏は『身銭を切れ』で、この割り引き方をもっと露骨に書いています。「あなたの“考え”ではなく、ポートフォリオの中味を教えろ」。人が本当に信じていることは、言葉より、実際にお金や時間を何に賭けたかに表れるという主張です。

会議の場面に戻ると、聞き手が知りたいのは次の3つです。

  • 言った本人は、どれくらい確信しているのか
  • 具体的に、誰が何をすればいいのか
  • 誰のために言っているのか

「要らないと思います」という一言は、このどれにも答えていません。

先に動いた人の行動は、情報として読まれる

1つ目の問いに答えるのが、先に動くことです。

経済学者のベンジャミン・ハーマリン氏は1998年の論文で、「率先垂範」を理論として説明しました。プロジェクトの価値を知っているリーダーが、先に自分の労力を注ぎ、それが周りから見えるとします。すると、その労力はコストのかかる信号になり、口先の「これは有望だ」より信用されます。見込みのない仕事に、自分の時間を先に注ぐ人はいないからです。

この理屈は実験でも確かめられています。ヤン・ポッターズ氏、マーティン・セフトン氏、リーズ・ヴェスタールンド氏は2007年、リーダー役とフォロワー役の2人で行う公共財ゲームの実験を報告しました。

リーダー役だけが、出資の見返りの大きさを知っている条件では、リーダーが先に出資してみせると、全体の出資額も2人の稼ぎも増えました。

面白いのは、もう一方の条件です。見返りの大きさを2人とも知っているとき、リーダーが先に動いても出資額は増えませんでした。つまり効いていたのは、「先に動いてくれたからお返しに」という義理ではなく、相手の知らない情報が行動を通して伝わることでした。

実務に置き換えると、先に動くことが効くのは、あなたが相手より深く調べていて、確信の根拠を持っているときです。たとえば定例会議の話なら、自分が進行する会議で先に報告を資料共有に切り替え、2週間分の結果を見せる。「要らないと思います」より、はるかに多くの情報が伝わります。

問題だけを言う人より、解決策まで言う人が好かれる

2つ目の問い、「具体的に誰が何をするのか」には、研究があります。

スティーブン・ホワイティング氏らは2012年、職場で改善を申し出る行動(研究上は「ボイス」と呼びます)が、周りからどう評価されるかを3つの実験室実験で調べました。

操作したのは、話し手の専門性と信頼性、解決策を添えるかどうか、伝え方が前向きか後ろ向きか、タイミング、職場の雰囲気です。その結果、問題を指摘するだけより解決策を添えたほうが、そして話し手が信頼できる人物であるほうが、話し手は好かれました。専門性の高い人の申し出は、より建設的だと受け取られ、仕事ぶりの評価も高くなりました。

効果の多くは、「好感」「チームのために言っているように見えるか」「建設的に見えるか」を経由していました。3つ目の問い、「誰のために言っているか」も、評価に入っていたわけです。

逆の結果もあります。イーサン・バリス氏の2012年の研究では、現状のやり方に異議を唱えるタイプの申し出をした部下ほど、上司からの仕事ぶりの評価が低くなりました。バリス氏は、上司がこうした申し出に脅威を感じやすいことを理由の一つに挙げています。

2つを並べると、解決策を添えることの役割が見えてきます。異議だけを言えば「批判」に聞こえますが、解決策まで持ってくれば「手伝い」に聞こえやすくなる。これは研究結果からの私の解釈ですが、同じ指摘でも受け取られ方が変わる理由として筋は通ると思います。

ピョートル・フェリークス・グジバチ氏は『0秒リーダーシップ』で、「ソリューションのない提案は、提案とは言えません」と書いています。そのうえで、完成品を1つ作り込む前に、方向の違うラフ案を3つ見せて相手に選んでもらうやり方を勧めています。完璧な案より、手を動かした跡が見える案のほうが、相手を議論に巻き込めるからです。

人がついてくるのは、一歩目のあと

野田智義さんと金井壽宏さんの『リーダーシップの旅』には、「旅はたった一人で始まる。フォロワーは旅の途中で現れる」という言葉があります。

誰かが見えないものを見て一歩を踏み出し、それを見た周りが後から「あの人がリーダーだ」と意味づける。本書はリーダーシップを、そうした事後的な現象として描いています。肩書きや話のうまさは、その出発点にありません。

本書が紹介する社会心理学者エドウィン・ホランダー氏の「特異性クレジット」も、同じ方向を指しています。集団に貢献して貯めた信用が、周りと違う提案を通すときの元手になる、という考え方です。本書は、貯めた信用は使わなければ意味がないとも述べています。

ただし、この理論には注意書きが要ります。社会学者のセシリア・リッジウェイ氏の1981年の検証では、「まず周りに合わせて信用を貯める」という順序は支持されませんでした。周りに合わせるだけでは目立たず、控えめに異を唱えるほうが、自信と能力があるように見えて地位や影響力につながりやすい。一方で、自分のために言っているように見えると、その分は目減りします。

ホワイティング氏らの実験と合わせると、信用の中身は、周りに合わせた回数より、「この人は能力があり、チームのために動く」という実績だと考えられます。一歩目を踏み出した記録そのものが、次の提案の信用になっていきます。

意見に「値札」を付ける3つのやり方

誤解:正しい意見なら、言えば伝わる → 言うだけの意見は、本気度が見分けられません。解決策と、最初の一歩を誰が踏むかをセットにします。たとえば「A、B、Cの3案を考えました。Aは来週、私の担当分で試します」。

誤解:身銭を切るとは、大きなリスクを取ること → ハーマリン氏の理論で信号になる条件は、コストの大きさより「周りから見えること」です。自分の30分、試作1枚、2週間の試行で十分です。見えないところで頑張っても、判断の材料にはなりません。

誤解:先に動けば、必ず人はついてくる → 実験で先に動くことが効いたのは、相手の知らない情報をリーダーが持っていたときでした。全員が同じ情報を持っている問題なら、先に動くより、判断の材料を共有するほうが早いこともあります。

今日5分でできることもあります。最近口にした「〜すべきだ」を1つ書き出し、「誰が、いつまでに、何をする」の形に書き換えてみてください。その「誰が」に自分の名前が入る部分を、1行だけでも作れるかどうか。そこが、意見と提案の境目です。

おわりに

言葉がタダなのは、欠点ではありません。タダだから、誰でも気軽に問題を指摘できます。

ただ、人に動いてもらいたいときは、その言葉に小さな値札を付けてみてください。自分の時間を少し払った跡が見えるだけで、同じ意見の重さが変わります。


この記事で参考にした本

『身銭を切れ』ナシーム・ニコラス・タレブ → 言葉よりも、何を賭けたかで人の信念を測るという見方

『0秒リーダーシップ』ピョートル・フェリークス・グジバチ → 「ソリューションのない提案は、提案とは言えない」という原則と、ラフ案を3つ見せて選んでもらうやり方

『リーダーシップの旅~見えないものを見る~』野田智義・金井壽宏 → リーダーシップは一歩を踏み出したあとに周りから帰属されるという考え方と、ホランダー氏の特異性クレジット


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