「みんな不満だと言っています」は、事実ではない
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会議でこう報告されたとします。「現場はみんな不満だと言っています」。
聞いた側は困ります。何人に聞いたのか。全員なのか3人なのか。不満の中身は何か。そして、報告者はそれをどう解釈しているのか。
この一文には、事実と意見が混ざっています。混ざったまま渡されると、受け取った側は判断ができません。
大石哲之さんは『コンサル一年目が学ぶこと』で、業界や職種が変わっても15年以上通用するスキルとして「結論から話す」と「事実と意見を分ける」を挙げています。地味ですが、ここが崩れると他の技術が効きません。
「みんな」と「不満」を、まず分解する
先ほどの報告を分解してみます。
事実は、たとえばこうです。「10人中7人が、新しい申請フローについて時間が増えたと答えた」。
意見は、こうです。「現行フローのままだと、月末の締めに影響が出ると思います」。
分けると、受け手のできることが増えます。事実には「7人か、意外に多いな」と反応でき、意見には「その根拠は」と聞ける。混ざっていると、どちらにも反応できません。
大石さんが挙げるTalk Straightという言葉も、同じ方向です。駆け引きや言い訳をせず、質問に率直に答える。「だいたいできています」ではなく「3つのうち2つが終わり、残りは金曜です」と言う。
たとえば、進捗報告。「順調です」は意見で、事実がありません。「予定20件のうち14件が完了」なら事実です。この2つは、聞いた側の次の行動を変えます。
大石さんはこれをローコンテクストなコミュニケーションと呼びます。背景や空気に頼らず、論理と数字で話す。相手が誰であっても同じ意味で届く形にする、ということです。
分けたあと、必ず解釈を足す
ただし、事実だけを並べる報告も使えません。
大石さんが報告の型として示すのは、データに加えて必ず「自分の解釈」と「次のアクション」をセットにすることです。
これは、しばしば逆に理解されています。事実だけを正確に伝えるのが誠実だ、と。実務では、そうなりません。
たとえば「今月の解約は12件でした」で終わる報告。上司は「で、どうする」と考える必要が出てきます。報告者のほうが現場を見ているのに、判断の材料だけ渡して考える仕事を上に返している状態です。
「解約12件。うち8件が導入3か月以内で、初期設定でつまずいた形跡があります。オンボーディングの資料を先に直すべきだと考えます」。ここまで来て、初めて議論が始まります。
大石さんはPREP法を勧めています。結論、理由、具体例、結論の順に話す型です。
型の効用は、話す側より聞く側にあります。最初に結論が来ると、聞き手は残りを「その理由か」という枠で処理できる。逆に、経緯から話し始めると、聞き手は着地点がわからないまま情報を溜めることになります。
「So What?」で、話の飛びを潰す
3つ目は、論理の組み立てです。
照屋華子さんと岡田恵子さんは『ロジカル・シンキング』で、伝わらない原因を「自分が言いたいことを優先してしまうこと」に置いています。
そのうえで、2つの道具を示します。
MECE。話に重複と漏れとずれがないかを見る。
So What? / Why So?。話の飛びをなくす。
後者が実務では効きます。事実を挙げたら「だから何が言えるのか」と自分に聞く。主張をしたら「なぜそう言えるのか」と自分に聞く。この往復で、報告の穴が見つかります。
たとえば「競合A社が値下げしました」という事実。So What? と聞くと「うちの解約が増えるかもしれない」が出てくる。さらにSo What? と聞くと「今期の予算を見直す必要がある」まで行きます。
多くの報告は、1段目で止まっています。だから聞いた側が続きを考えることになる。
ただし、型を覚えれば成果が出るわけでもありません。山口周さんは『外資系コンサルの知的生産術』で、思考技術だけでは成果につながらないと書いています。何を問うか、誰に何を届けるかがずれていれば、きれいに構造化された無価値な資料ができあがります。
型は、中身を運ぶ器です。器だけ磨いても中身は増えません。
明日からできること
誤解:正確に事実を伝えるのが、良い報告だ → 事実だけでは、聞いた側が考える仕事を丸ごと引き受けることになります。解釈と次の一手までがセットです。
正しいアプローチ:報告を3層に分けて書く → 事実(数字と観測)、解釈(そこから何が言えるか)、提案(だから何をするか)。この3行を書いてから話し始めます。
もうひとつ、5分でできる点検があります。
直近で自分が送った報告メールを1通開いて、「みんな」「かなり」「けっこう」「おそらく」に線を引く。これらは事実の顔をした意見です。
線を引いた場所を、数字か具体的な観測に置き換える。置き換えられないなら、それは自分の推測だったということです。推測は書いてもいいですが、推測だと分かる形で書く。
おわりに
報告が下手だと言われる人の多くは、話し方が悪いわけではありません。
情報の種類を分けずに渡しているだけです。事実、解釈、提案。この3つを分けるだけで、同じ内容が判断に使える形に変わります。
分けるのは、相手のためというより、自分の思考のためでもあります。
この記事で参考にした本
『コンサル一年目が学ぶこと』大石哲之 → 結論から話す、事実と意見を分ける、Talk Straight、PREP法。職種を問わず効く仕事のOSがまとまっている。
『ロジカル・シンキング』照屋華子、岡田恵子 → MECEとSo What? / Why So?。話の重複と飛びを自分で点検する道具をくれた一冊。
『外資系コンサルの知的生産術』山口周 → 思考技術だけでは成果が出ない。型の限界と、何を問うかの重要性を示してくれる。
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