速く決めるチームは、情報を減らしていなかった
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速く決める会社ほど、多くの情報を見ていました。
「情報を集めすぎるから決められない」「7割の情報で決めよう」。意思決定の遅さが話題になると、たいてい情報を減らす方向の助言が出てきます。筋の通った話に聞こえます。
ところが、経営学者のキャスリーン・アイゼンハート氏が1989年に発表した研究は、逆の結果を報告しています。速く決める経営チームは、遅いチームより多くの情報を使い、多くの選択肢を検討していました。
では、遅いチームは何に時間を使っていたのか。そこを見ると、減らすべきものと増やすべきものが、情報の「量」とは別の軸で見えてきます。
「選択肢が多いと決められない」は、条件つきの話だった
この通説の根拠としてよく引かれるのが、シーナ・アイエンガー氏とマーク・レッパー氏のジャムの実験(2000年)です。高級スーパーの試食台に6種類か24種類のジャムを並べると、人が多く集まったのは24種類のほうでした。ところが購入に至った割合は、6種類のときが30%、24種類のときは3%でした。
ただ、この効果は追試で安定しませんでした。ベンヤミン・シャイベヘンネ氏らは2010年、選択肢の多さの影響を調べた50の実験(参加者5,036人)をメタ分析し、平均的な効果はほぼゼロ(効果量D=0.02)だったと報告しています。ドイツのスーパーで行われたジャム実験の再現でも、同じ効果は出ませんでした。
同じ分析では、はっきりした好みや専門知識を持つ人は、選択肢が多いほうが得をしていました。2015年のアレクサンダー・チェルネフ氏らのメタ分析(99の観察、7,202人)も、選択肢の複雑さや好みの不確かさによって効果が大きく変わることを示しています。
つまり、情報や選択肢の量そのものは、判断を遅らせる主犯とは言い切れません。そして決めずにいる間にも、判断は下されています。インテルの元CEO、アンドリュー・S・グローブ氏は『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』で、決定をしないことはネガティブな決定をするのと同じだと書いています。
問われるのは、何の情報をどう扱うかです。
速いチームが見ていたのは、予測より「今の数字」
アイゼンハート氏が調べたのは、変化の激しかった当時のマイクロコンピュータ業界の8社です。経営陣全員へのインタビューと質問票をもとに、新製品や提携といった戦略的な決定1〜2件の経過を追いました。
速い4社の決定にかかった期間は平均2.8か月。遅い4社は平均14か月でした。遅い会社のうち1社は調査の1年後に倒産し、別の1社は翌年に売上を30%落としています。
速いチームが日次や週次で追っていたのは、受注、不良品、在庫、キャッシュフロー、開発の進捗、競合の動きといった数字です。利益のような加工された会計数値より、こうした業務の指標を好み、定例の業務会議は週に平均2.5回ありました。
一方、遅いチームのある会社では、経営陣が技術トレンドの予測づくりに約6か月をかけていました。アイゼンハート氏は、将来を予測しようとする「計画用の情報」と、今の事業と競合を知る「実時間の情報」を分け、速さにつながるのは後者だと述べています。
論文が挙げる理由の一つは、問題や機会に早く気づけることです。もう一つは、日々数字に触れることで直感が鍛えられるという仮説ですが、こちらは著者自身がデータは限られると断っています。
たとえば新サービスを続けるかどうか決める場面を考えてみます。3年後の市場規模の推計を磨き続けるチームと、先週の申込数と解約数を毎週同じ形で見ているチーム。いざ決める段になって材料がそろっているのは、後者だと私は考えます。
選択肢は、1つずつより並べて比べたほうが早い
直感に反するもう一つの結果が、選択肢の数です。速いチームは複数の案を同時に検討し、遅いチームは少ない案を1つずつ順番に検討していました。
遅い会社のうち2社は、1つの案だけに9か月を費やしています。速い会社の1社は、資金不足に備えて複数の提携先との交渉、株式公開、銀行融資を並行して進めました。第一候補の提携先が交渉から降りると、すぐ第二候補と契約し、決定全体は3か月で終わっています。
論文は、並べて比べる効果を3つ挙げています。比べることで各案の長所と短所が見え、主な案は検討したという自信が持てること。1つの案への思い入れが薄まり、悪い情報が出たらすぐ乗り換えられること。本命が崩れても次の手が残っていること。
順番に検討すると、この逆が起きます。たとえば本命の取引先1社とだけ半年交渉すれば、調べた時間のぶん引き返しにくくなります。しかも2案目は、1案目が駄目になってからようやく動き出します。
リード・ヘイスティングス氏の『NO RULES』が描くNetflixでも、担当者が上司の承認なしに決められる代わりに、決める前に周囲から反対意見を集める手順を踏みます。同書には、DVD郵送事業を切り離す新サービス「クイックスター」が失敗したあと、社員が反対意見を口にしていなかったことが原因だと分かった話も出てきます。弱点を先に並べて見ることは、案を並べることと同じ働きをします。
合意を待つチームは、反対者が去るまで決まらない
遅いチームの詰まり方は、情報不足とは別のところにありました。
ある会社は「すべて合意で決める」方針で、新製品を米国企業と共同開発するかどうかの議論が1年続きました。決着したのは、反対していた役員数人が会社を去り、その案しか残らなかったときです。この会社の役員は「合意を目指したら全員に拒否権を与えることになった」と振り返っています。
別の会社も合意を約1年待ち、主な反対者だった役員が辞めてからようやく決まりました。締め切りが迫ると、今度はCEOが相談なしに決めてしまう。遅い会社は、延々と待つか独断かの両極端を行き来していました。
速い4社は、すべて同じ二段階の決め方をしていました。まず全員を巻き込んで合意を目指し、合意できればそれで決まり。合意できなければ、CEOと関係する担当役員がチーム全員の意見を踏まえて決めます。論文はこれを「条件付きの合意」と呼び、外部の出来事や締め切りを待たずに対立を自分たちで解消できる点を、速さの理由に挙げています。
グローブ氏がインテルで求めた手順も同じ形です。自由討論、明確な意思決定、そして完全な支持。決まったあとは、自分の意見と違っても全面的に支持して実行します。
中原淳さんの『「対話と決断」で成果を生む 話し合いの作法』は、この支持を決める前に約束しておくことを勧めています。自分と違う結論になっても決まった方針を自発的に支える「自発的フォロー」の合意を、話し合いの前か決断の瞬間に取っておく。約束がないまま多数決で押し切ると、切り捨てられた側が実行段階で動かなくなるからです。
明日の会議で変えられること
誤解:資料を減らせば、決定は速くなる → 削るのは将来予測の精度を上げる作業のほうです。たとえば週1回15分、担当領域の数字(受注、解約、在庫など)を毎回同じ形で並べて見る場を作ります。大きな決定が来たとき、材料の多くはもう手元にあります。
誤解:本命の1案に絞ってから詳しく検討する → 議題に上げる時点で、最低2案を並べます。案が1つしか出ないなら、「今回は見送る」を2案目として同じ表に置くだけでも比べる形になります。
誤解:全員が納得するまで決めない → 議論を始める前に、決め方を先に言っておきます。「今日合意できなければ、〇〇さんが全員の意見を聞いたうえで決める。決まったら全員で支える」。1分で言えるので、次の会議から試せます。
おわりに
アイゼンハート氏の研究は、1980年代の一業界で8社を調べた事例研究です。どの組織にも当てはまるとは言えませんし、速さと業績の結びつきも因果までは示していません。
それでも、「情報が多すぎて決められない」と感じたとき、詰まっているのが情報の量なのか、予測づくりなのか、1案ずつの検討なのか、決め方の不在なのかを見分ける手がかりにはなります。削る前に、どこで止まっているかを一度見てみてください。
この記事で参考にした本
『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』アンドリュー・S・グローブ → 自由討論、明確な意思決定、完全な支持という3段階の決め方と、決めないことも決定の一種だという視点
『NO RULES』リード・ヘイスティングス、エリン・メイヤー → 担当者が決める前に反対意見を集める手順と、クイックスターの失敗
『「対話と決断」で成果を生む 話し合いの作法』中原淳 → 決める前に「自発的フォロー」を約束しておく考え方と、安易な多数決の弊害
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