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ブクドリ | BOOK DRIP

自分にかけている言葉が、いちばん自分を縛っている

約4分で読めます 健康・メンタル
目次

人が1日にいちばん長く会話している相手は、誰でしょうか。

家族でも同僚でもありません。自分自身です。

ゲイリー・ジョン・ビショップは『あなたはあなたが使っている言葉でできている』で、人の頭には1日に5万以上の考えが浮かぶと書いています。その大半は、誰にも聞かれないまま、自分に向けた言葉として流れていきます。

そしてブルース・リプトンの研究によれば、日々の行動の95%は無意識的なものです。意識して選んでいる行動は、思っているよりずっと少ない。

つまり、自分に向けた言葉づかいの癖が、そのまま行動の癖になっています。

同じ出来事でも、語り方で意味が変わる

アラバマ大学のウィル・ハート教授が、こんな実験をしています。

被験者に、楽しかった出来事、つらかった出来事、どちらでもない出来事を思い出してもらう。すると、それを現在形で語る人ほど、どちらでもない出来事を楽しい思い出のように感じ、つらい出来事を実際よりもつらいことのように感じていました。

出来事そのものは変わっていません。変わったのは時制だけです。

心理学者アルバート・エリスも同じ方向を指しています。体験の印象はとらえ方と話し方によって変わり、しかも人間は極めて非合理的な考え方をする生き物である、と。

これは「気の持ちよう」という話とは違います。時制や言い回しという、文法の水準で処理が変わっているという話です。

「〜したい」は、やらない許可になっている

ビショップの指摘で、いちばん実用的なのはここでした。

「〜する予定だ」「〜したい」という言い方は、無意識に「だから今はやらなくていい」という許可を出しています。だから決意を語るときは「私は〜だ」という現在形の断定を使え、と彼は言います。

ここで注意したいのは、これがポジティブ・シンキングではないということです。彼は自己肯定的な言葉を自分に言い聞かせる必要はない、とはっきり書いています。

その証拠に、彼は否定の宣言も同じだけの力を持つと述べます。「もうイヤだ」「これ以上やる意志はない」と宣言することも、現状を打ち破って行動を起こす力になる。

無理に前向きな言葉を選ぶのではなく、あいまいな言い回しをやめる。狙いはそこにあります。

頭の中の言葉は、その大半が「判断」でできている

もうひとつ、自分に向ける言葉には共通の癖があります。判断です。

草薙龍瞬は『こころを洗う技術』で、人間関係に行き詰まる人が最初に犯す過ちは、相手に向けている判断や決めつけに気づいていないことだと書きます。そして人の心は、裁かれたり評価されたりすると苦痛を感じ、ただ理解されることを求めている、と。

これは他人に対してだけの話ではありません。自分に対しても、私たちはほぼ同じことをしています。

「また失敗した」は判断です。「今日は資料の締切に間に合わなかった」は事実です。前者は苦痛を生みますが、次の行動を含んでいません。

草薙は、悩みの99%は妄想が作っていると書いています。妄想と現実を分ける道具が、判断と事実を分けて言い直すことです。

明日からできること

誤解:頭の中の言葉は、考えているうちに整理される → 頭の中では、同じ言葉が形を変えて繰り返されるだけです。整理は、外に出したときに起きます。

精神科医の樺沢紫苑さんが『言語化の魔力』で挙げている実験が分かりやすい。注射をされるとき「痛い!」と声を出した人は、黙って我慢した人に比べて、感じる痛みが5分の1にまで緩和されたというものです。言葉にするだけで、負荷は下がります。

正しいアプローチ:あいまいな1文だけを、事実か断定に書き換える → 全部を書き換える必要はありません。いま気になっている1文だけです。

「そろそろ運動したい」を「私は火曜と金曜に30分歩く」に。「また失敗した」を「今日は締切に間に合わなかった」に。時制と主語をはっきりさせるだけで、次の行動が見えてきます。

樺沢さんの本には、こんな例が出てきます。今月中に1000万円を用意しなければ倒産するとパニックになって来院した経営者に、著者は「銀行に相談したか」と尋ねました。相談していなかった。1週間後、その人は融資と月々6万円の返済計画を得て、別人のような顔で現れます。

借金の額は1円も変わっていません。変わったのは、次にやることが言葉になったことだけです。

もうひとつ。つらかった出来事を人に話すときは、過去形で話してみる。ハート教授の実験を逆から使う手です。現在形で語り直すたびに、その痛みは更新されます。

おわりに

自分にかける言葉を変えても、性格は変わりません。そこまでの効果を約束する話ではない。

ただ、言い回しは行動の入口です。あいまいな言い方は、あいまいなまま先送りされます。

今日ひとつだけ、頭の中で何度も回っている文を紙に書き出して、事実に言い直してみる。それが、いちばん短い実験です。


この記事で参考にした本

『あなたはあなたが使っている言葉でできている』ゲイリー・ジョン・ビショップ → 1日5万の思考、行動の95%が無意識という前提から、あいまいな言い回しをやめる方法へ。ポジティブ思考とは別の道筋を示している。

『こころを洗う技術 思考がクリアになれば人生は思いのまま』草薙龍瞬 → 判断と理解を分けるという発想。頭の中の言葉が判断でできていることに気づくための一冊。

『言語化の魔力 言葉にすれば「悩み」は消える』樺沢紫苑 → 声に出す、書く、相談するという外への言語化が負荷を下げる仕組みを、臨床の例と実験データで示している。


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