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ブクドリ | BOOK DRIP

「相関」を見て「原因」だと思い込む、構造的な理由

約5分で読めます 思考法・問題解決
目次

チョコレートの消費量が多い国ほど、ノーベル賞の受賞者が多い。

これ、実際のデータです。2012年にニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに掲載された論文で示されました。グラフにすると、きれいな右肩上がりの直線が現れます。

だからといって、「チョコレートを食べればノーベル賞を取れる」とは思わないでしょう。

ところが、ビジネスの場面では、これとほぼ同じ構造の誤りを、私たちは毎日のように犯しています。

「広告費を増やしたら売上が伸びた。だから、もっと増やそう」 「研修を実施したら離職率が下がった。研修が効いたんだ」

相関関係を見て、因果関係だと確信する。 ここが核心です。なぜ私たちは、この間違いを繰り返してしまうのか。

脳は「原因」を見つけたがる

人間の脳には、2つの出来事が同時に起きると、片方が原因だと解釈するクセがあります。

認知心理学では、これを「因果的推論バイアス」と呼びます。原始時代、草むらが揺れたら「獣がいる」と判断して逃げるほうが生存に有利だった。因果関係が実際にはなくても、「とりあえず原因があると思っておく」ほうが安全だったわけです。

この本能は、ビジネスにおいてはかなり厄介です。

たとえば、ある企業が新しいCRMツールを導入した翌四半期に、営業成績が15%向上したとします。多くのマネージャーは「CRMが効いた」と結論づけます。でも、同じ時期に競合が値上げしていたかもしれない。景気が回復していたかもしれない。あるいは、たまたま優秀な新人が3人入ったのかもしれない。

『外資系コンサルのデータ分析技法』(アクセンチュア データ&AIグループ)では、チョコレート消費量とノーベル賞の例を「疑似相関」として挙げ、データ分析で陥りやすい確証バイアスの典型例としています。2つの変数がきれいに相関しているとき、私たちの脳は自動的に「因果ストーリー」を作り上げてしまう。

これ、直感に反しませんか。「データを見て判断している」つもりなのに、実は直感で判断してデータで裏付けているだけかもしれない。

「第三の変数」が見えない理由

相関と因果を混同する構造には、もう一つ重要な要素があります。

「第三の変数」、つまり、両方に影響を与えている隠れた要因の存在です。

チョコレートとノーベル賞の例でいえば、第三の変数は「国の経済的豊かさ」です。豊かな国ほどチョコレートの消費量が多く、同時に教育・研究への投資も多い。だから両方の数字が高くなる。チョコレートがノーベル賞を生んでいるのではなく、経済的豊かさが両方を押し上げている。

ビジネスでこれが起きやすいのは、取得できるデータに限りがあるからです。

『数字で考えるは武器になる』の著者、中尾隆一郎さんは「数字で何でも分かると信じるバカと、数字では何も分からないと信じるバカ」のどちらにもなってはいけないと警鐘を鳴らしています。数字は現実の約7割を説明するモデルに過ぎず、残りの3割は経験や知識で補う必要がある、と。

実務に落とすと、こういうことです。

売上データとプロモーション施策のデータはある。でも、天候データ、競合の動き、口コミの広がり方、担当者のモチベーション――そうした「第三の変数」は、そもそもデータとして存在していない場合が多い。

手元にあるデータだけで因果を語ろうとすること。ここに構造的な落とし穴があります。

「信じたいこと」がデータの読み方を歪める

正直に言うと、私もこれを知るまで、自分はデータに基づいて判断しているつもりでした。

でも実は、「確証バイアス」という、もっと厄介なメカニズムが働いていました。

確証バイアスとは、自分がすでに信じていることを裏付ける情報ばかりを集め、矛盾する情報を無視する傾向のことです。

『異端の統計学 ベイズ』(シャロン・バーチェ・マグレイン氏)では、ベイズ統計学の核心を「事前の信念を、新しい証拠に基づいて更新していくプロセス」として描いています。つまり、新しいデータが出たら、自分の思い込みを修正する。これがベイズ的な思考です。

ところが、多くの人はこの逆をやっています。

新しいデータが出ると、自分の仮説に合う部分だけを拾い、合わない部分は「例外」として片付ける。

たとえば、「うちの商品は若年層に人気がある」と信じているマーケティング担当者が、年齢別売上データを見たとします。20代の売上が高ければ「やっぱりそうだ」と確信を深める。でも30代の売上がもっと高かったとしても、「30代はたまたま」と解釈してしまう。

データの量が増えれば正しい判断ができるわけではありません。むしろ、データが増えるほど、「自分に都合の良い相関」を見つけやすくなる。ここが盲点です。

明日から変えられること

誤解:相関があるなら、とりあえず施策を打ってみればいい → 「相関がある」と「施策が効く」はまったく別の話です。施策を打つ前に、「もしこの相関が偽物だとしたら、他にどんな説明がありえるか」を30秒だけ考えてみてください。代替仮説を1つ出すだけで、判断の精度は格段に上がります。

誤解:データが示しているのだから、間違いないはずだ → データが示しているのは「2つの変数が一緒に動いている」という事実だけです。「なぜ一緒に動いているのか」は、データだけでは答えが出ません。中尾隆一郎さんが言うように、数字の7割を信じつつ、残りの3割は自分の頭で考える。この「3割の余白」を持つことが、因果の誤認を防ぐ最大の武器になります。

誤解:因果関係を証明するには、もっとデータを集めればいい → データの量ではなく、「比較の設計」が因果を見極める鍵です。具体的には、施策を打ったグループと打たなかったグループを比較する。時間軸で施策前後を比較する。このように、「比較軸」を意図的に設計することで、相関と因果の区別がつきやすくなります。

おわりに

相関と因果の区別は、統計の教科書だけの話ではありません。

毎日の会議、レポート、施策判断のすべてに潜んでいる問題です。「なぜ一緒に動いているのか」を問う習慣を持つだけで、データの見え方は大きく変わります。


この記事で参考にした本

『外資系コンサルのデータ分析技法』アクセンチュア データ&AIグループ → 疑似相関の具体例と、確証バイアスが分析を歪めるメカニズムについて

『「数字で考える」は武器になる』中尾隆一郎 → 数字は7割の真実しか語らないという視点と、定性情報で補完する重要性について

『異端の統計学 ベイズ』シャロン・バーチェ・マグレイン → 事前の信念を新しい証拠で更新するベイズ的思考の本質について


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