友達の悩みと自分の悩みは、別の「決め方」で考えている
目次
友達から「給料のいい会社と、やりたい仕事ができる会社、どっちにすべきかな」と聞かれたら、10秒で答えられそうです。「やりたいほうにしなよ」。
ところが、同じ二択が自分に来ると、何週間も決められない。
よくある説明は「自分のことは近すぎて、感情に飲まれるから」です。半分は当たっています。ただ、助言と自分の選択を比べた研究を読むと、もう一つ別の違いが見えてきます。人は他人の悩みに答えるとき、考える項目そのものを減らしているのです。
助言するとき、人は「いちばん大事な1点」で決める
ダニエル・カーネマン氏は『ファスト&スロー』の冒頭で、この本の前提を「自分の誤りより、他人の誤りのほうが見つけやすい」ことだと書いています。職場の休憩所で他人の判断を噂するときの語彙を増やしたい、というのが執筆の狙いでした。
では、他人の問題はなぜ見通しがいいのか。この問いを実験で確かめたのが、ローラ・クレイ氏とリチャード・ゴンザレス氏の1999年の研究です。
ワシントン大学の学生138人に、卒業後の進路の二択を読ませました。仕事Aは収入と名声がほぼ約束されている。仕事Bは収入が控えめだが、自己実現の手応えがある。これを「自分で選ぶ」「親友に勧める」「知り合ったばかりの人に勧める」の3条件で答えてもらいます。
仕事Bを選んだ割合はこうなりました。
- 自分で選ぶ:66%
- 親友に勧める:82.6%
- 知り合ったばかりの人に勧める:88.9%
相手が遠くなるほど、答えが一方に寄っていきます。
2つ目の実験では、「仕事Aは勤務地がいい」という一文を足しました。すると、自分で選ぶ人の79%(28人中22人)が仕事Aを選び、友達に勧める人では53%(34人中18人)でした。
自分で選ぶ人は、勤務地という3つ目の項目もきちんと勘定に入れた。助言する人は、みんなが大事だと考える「やりがい」を中心に決め、勤務地をあまり足さなかった。著者らはそう解釈しています。
つまり、友達の悩みに即答できるのは、頭が冴えているからとは限りません。見る項目が少ないから、迷いようがないのです。
医師も、患者に勧める治療と自分の治療が違う
この差は、専門家でも消えません。
デューク大学のピーター・ユーベル氏らは2011年、アメリカの内科医と家庭医に仮想の場面を示す調査を『Archives of Internal Medicine』に発表しました。
1つ目は大腸がんの手術です。どちらの手術でも、100人中80人は合併症なく治ります。違いは残りの20人です。
- 手術1:死亡16%。人工肛門、慢性の下痢、腸閉塞、傷の感染がそれぞれ1%
- 手術2:死亡20%。合併症なし
242人の医師のうち、「自分なら死亡率の高い手術2を選ぶ」と答えたのは37.8%。一方、「患者に勧める」とした割合は24.5%でした。
2つ目は架空の新型鳥インフルエンザです。治療を受けなければ死亡10%。治療を受けると感染による死亡は5%に下がるものの、治療そのものが1%の死亡と4%の永続的なまひを起こす。698人の医師のうち、自分なら治療を受けないと答えたのは62.9%、患者にそう勧めるのは48.5%でした。
著者らは、人は他人に勧めるとき選択肢の「一つの側面」に注目しやすいと書いています。ここでは死亡率です。わが身の話になると、合併症のある暮らしや、治療で悪くなったら悔やむ気持ちまで含めて、もっと広い要素を天秤に載せる。
クレイ氏の2000年の研究では、助言した人のほうが、自分で選んだ人より後悔や自責を感じにくく、選んだ案をより強く好んでいたことも報告されています。友達への答えが軽やかに出てくるのは、この身軽さのせいでもあります。
では、他人のための判断は単に大胆なのか。エヴァン・ポルマン氏らは2020年、未発表のものを含む71本の論文から集めた128の効果(のべ1万4443件の観察)をメタ分析しました。他人のために選ぶとリスクをとる方向にずれる傾向はありましたが、効果量は d = 0.105 と小さく、研究によるばらつきが大きかった。著者らは、他人のための判断は量の違いというより、別の過程だと結論しています。
友達の視点が落としているもの
ここまで読むと、「悩んだら友達の立場で考えればいい」と言いたくなります。私も最初はそう考えました。
ただ、クレイ氏の2000年の研究には続きがあります。自分で選ぶ人の選択は、本人が「大事だ」と答えた項目の重みとよく一致していました。助言する人の選択は、その一致が弱かった。著者は、助言する側がやる気を欠いていたというより、相手の好みを誤って推測していたと結論しています。
たとえば、勤務地の良し悪しは、親が近くに住んでいる人にとっては決定打になりえます。友達視点の答えがすっきりしているのは、そういう本人しか知らない事情が最初から入っていないからです。
医師の調査でも、どちらの選択が正しいかは示されていません。論文自身、仮想の場面であり、他人への推奨で判断がよくなる条件は分からないと限界を書いています。死亡率の差をとるか、合併症のない暮らしをとるかは、本人の価値観の問題です。
カウンセラーの杉原保史さんは『プロカウンセラーの共感の技術』で、悩みを打ち明けられると多くの人が反射的に「それは考えすぎだよ」と助言したくなる、と書いています。杉原さんが勧めるのは、その意見をいったん脇に置いて、相手の不安や寂しさに注意を向けることです。
私はこれを、判断の研究と同じことの裏表だと読んでいます。「考えすぎだよ」は、項目を絞った側から見た答えです。絞られた項目の中に、本人にとって一番重いものが入っていることもあります。
友達視点は「最初の一手」に使い、最後に自分へ戻す
誤解:友達の立場で考えれば、正しい答えが出る → 友達視点が出すのは、多くの人が大事にする1点に絞った答えです。本人の事情は抜けています。
正しいアプローチ:友達視点で軸を見つけ、自分視点で抜けたものを確かめる → 迷いの多さは、項目を全部見ている証拠でもあります。減らすなら、何を減らしたかを自覚して減らします。
具体的には、次の3つです。
1. 5分で「友達への一行アドバイス」を書く 紙の左側に「友達がこの状況なら、何と言うか」を一行で書きます。右側には、その一行が無視した項目を全部書き出します。勤務地、家族、体力、お金。頭の中で絡まっていたものが、左右に分かれて見えます。
2. 右側の項目を「事情」と「怖さ」に分ける 右側に並んだものには2種類あります。家族の都合や通勤時間のように、友達が知らないだけの具体的な事情。そして「動いて失敗したらどうしよう」という怖さです。
医師の調査の著者らは、自分のための判断では、何もしないで起きる害より、行動して起きる害を重く見るゆがみが強まりやすいと考察しています。この線引きは研究の結論ではなく私の使い方ですが、事情は左側の答えを覆す材料になり、怖さのほうはいったん割り引いて見る候補になります。
3. 本物の友達に相談するときは、結論より先に自分の重みを渡す 助言する側は、あなたの好みを推測で埋めます。だから「どっちがいい?」と聞く前に、「私はこれとこれを気にしている」と伝えます。
石川明さんは『すごい壁打ち』で、相手に「アドバイスは要らない」と先に伝え、きっかけ、感じたこと、いま詰まっている点を時系列で話すやり方を勧めています。相手の頭を借りながら、自分の事情を落とさずに済む話し方です。
おわりに
友達の悩みに即答できるのは、その人より賢いからではありません。見ている項目が少ないからです。
自分の悩みに迷うのは、全部が見えているからです。だから、迷っている自分を責める前に、紙の左右で一度だけ分けてみてください。右側に残ったものが、友達には答えられない、あなただけの判断材料です。
この記事で参考にした本
『ファスト&スロー(上)』ダニエル・カーネマン → 自分の誤りより他人の誤りのほうが見つけやすい、という本書の前提を借りました。
『プロカウンセラーの共感の技術』杉原保史 → 「考えすぎだよ」と反射的に助言したくなる心の動きと、意見をいったん脇に置く聴き方を参考にしました。
『すごい壁打ち』石川明 → 助言を求めずに事実と感情を時系列で話す、相談の仕方を参考にしました。
合わせて読みたい
『ファスト&スロー(上)』ダニエル・カーネマン氏|あなたの直感は、思ったより当てにならない 他人の判断のゆがみには気づけるのに、自分の判断のゆがみには気づけない。その仕組みを、直感と熟慮の2つのシステムから説明した本の書評です。
「自分の名前で話しかける」が効く場面、効かない場面 自分との距離を取るもう一つの方法として、自分の名前で話しかけるセルフトークを扱っています。効く場面と効かない場面の線引きが、この記事の実践と組み合わせやすいです。
考えるほど動けなくなるのは、頭が「迷うモード」のままだから 項目を全部並べたあと、いつまでも比べ続けてしまう人向けです。迷うモードから決めたあとのモードへ切り替える方法を扱っています。