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『BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?』ベント・フリウビヤ氏|計画通りに終わるのは0.5%だけ

リーダーシップ・組織 ✍ ベント・フリウビヤ氏
約7分で読めます

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『BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?』
目次

家のリフォーム、結婚式の準備、社内システムの入れ替え。「予算が膨らんだ」「予定より延びた」。そんな苦い記憶があるなら、まず一つ、肩の荷を下ろしてほしい。それはあなたの段取りが悪かったせいではない。世界中のプロジェクトが、ほとんど同じ形で崩れているからだ。

著者のベント・フリウビヤ氏は、オックスフォード大学の教授で、巨大プロジェクト(メガプロジェクト)研究の世界的権威である。国家インフラから映画制作まで、1万6000件を超える案件のデータを集めた。おそらく世界最大級のデータベースだ。

そこから出てきた数字が容赦ない。予算と工期の両方を守れたプロジェクトは、全体のわずか8.5%。便益(実際に得られた成果)まで含めて三つすべてを達成できたのは、たった0.5%だった。

この記事では、なぜ計画は壊滅的に崩れるのか、そして残った0.5%が何を違えていたのかを、編集部なりに整理していく。

図解

核心は「ゆっくり考え、すばやく動く」の一言に尽きる

本書の主張は、驚くほど短くまとめられる。「ゆっくり考え、すばやく動く」。これが成功の背骨だ。

失敗する側は、判で押したように逆をやる。ろくに検討もせず勢いで着工し(すばやく考える)、現場で想定外の問題が噴き出して身動きが取れなくなる(ゆっくり動く)。この順序が命取りになる。

理由が秀逸だ。実行が長引くほど、予測不能なトラブルが飛び込む「窓」が大きく開いていく。著者はここでブラックスワン(めったに起きないが起きれば甚大な事象)を持ち出す。

期間が延びるほど窓は開き続け、邪悪なものが入り込む余地が増える。だから計画では時間をかけて穴を潰し、実行は一気に駆け抜けて窓を素早く閉じる。

これが最良のリスク管理だという理屈である。

注目すべきは、本書がこれを精神論で語らない点だ。1万6000件のデータと、ダニエル・カーネマン氏らの行動科学が土台にある。「なぜ計画通りにいかないのか」という普遍の悩みに、感覚ではなくエビデンスで答えを返してくる。ここが類書と一線を画す強みだと感じた。

プロジェクトは途中で壊れるのではなく、最初から壊れている

「プロジェクトはうまくいかなくなるのではない。最初からうまくいっていないのだ」。これが著者の出発点だ。失敗の元凶は実行中の事故ではなく、計画段階での見積もりの甘さにある。そしてその甘さを生むのが「心理」と「権力」の二つだと切り分ける。

心理の側にあるのが楽観主義バイアスだ。人は自分の計画だけは他よりうまくいくと信じ、将来の困難を過小に見積もる。すべてが滑らかに進む「ベストケース」を前提に線を引いてしまう。だがベストケースが実現することはめったにないし、そもそも実現しようがない場合すらある、と著者は釘を刺す。

権力の側にあるのが戦略的虚偽表明である。承認や予算を勝ち取るために、提案者が意図的に「費用は低く、便益は高く」見せかける。数字が政治で歪む構図だ。

この二つが噛み合うと、破綻は着工前に約束される。実際、1910年から1998年の案件では見積もりの9割が実コストを下回り、鉄道は平均45%、橋やトンネルは34%、道路は20%も超過していた。

さらに厄介なのが「固定化(ロックイン)」だ。他に選択肢がありうるのに、最初に直感で決めた道を唯一の正解のように扱ってしまう。著者はこれを「コミットメントの錯誤」とも呼ぶ。人は一度「こうだ」と思い込むと、それを腰を据えて吟味し直すことをしない。ここに落とし穴がある。

いちばん怖いのは「平均では足りない」という事実

本書で背筋が冷える箇所を一つ挙げるなら、ここだ。プロジェクトのコスト超過は正規分布に従わない。「ファットテール分布」に従う。

正規分布なら結果は平均近くに集まるから、「20%くらい予備費を積めば安全」という発想が通用する。ところがファットテールでは、壊滅的な外れ値が出る確率が無視できないほど高い。平均的な余裕では到底足りず、案件ごと吹き飛ぶ可能性を常に抱えている。

数字が物語る。ITプロジェクトでは18%が50%超のコスト超過を起こし、超過率の平均は448%に達する。スコットランド議会議事堂は978%、カナダの銃器登録IT化は590%超、シドニー・オペラハウスは当初見積もりの15倍で完成まで14年。

付録の種類別データも示唆的で、核廃棄物貯蔵は238%、オリンピック157%、原子力120%の一方、太陽光はわずか1%、風力は13%。この落差が、後半の「モジュール性」の伏線になっている。

良い計画は「なぜ」から始まり、計画段階でこそ創造的になる

ここから0.5%側の実践に入る。まず、良い計画は手段ではなく目的から始まる。「どうやるか」より「なぜやるか」。そのための思考法が「右から左へ考える」だ。フローチャートの右端、つまり最終的にありたい姿を先に固め、そこから逆算して左へたどる。

建築家フランク・ゲーリー氏は着手前に必ず「なぜこのプロジェクトをやるのか」を問う。ビルバオの美術館では「建物を建てる」ではなく「都市経済を活性化する」を真の目的に据えた。

だから世界から人を呼ぶ建築が生まれた。アマゾンが新規事業でまず「プレスリリース」を書くのも同じで、完成像を平易な言葉で先に描いてしまう。逆に手段から入って転んだのが、ジョブズ氏のパワーマックG4キューブや、ベゾス氏が3D機能に惚れ込んで数億ドルを失ったファイアフォンだ。

天才でも順序を誤ると落ちる。

そして本書は「計画は創造性を削ぐ」という通説を真っ向から否定する。カギは「ピクサー・プランニング」。低コストで安全な計画段階のうちに、シミュレーションと試行錯誤を徹底的に反復する手法だ。

ピクサーは絵コンテやラフ映像を何度も作り直す。アイデアはたいてい失敗するが、その失敗をお金のかからない前半でやり切るからこそ、高コストな制作を円滑に進められる。

著者はこれをシリコンバレーの「リーン・スタートアップ」と本質的に同じだと言う。ただし物理的な巨大建造物では「作って直す」が使えないため、精巧な3Dモデルで「仮想の最大限プロダクト」を作り込む。

リーンを場所を間違えて医療検査に持ち込んだセラノスの末路は、その反証として鮮烈だ。

頼るべきは新しさではなく「凍れる経験」

本書は「新しさ」を徹底的に警戒する。「世界初」「最大」「最長」といったカスタム技術は、価値を上げるどころかトラブルとコスト超過の温床になる。著者はこれを「永遠の初心者症候群」と呼ぶ。

代わりに頼るのが経験だ。著者は技術を「凍れる経験」と表現する。実績ある技術を使うとは、過去の膨大な失敗から得た知恵をそのまま借りることに等しい。

だから独自開発より実証済みの既製品を選ぶ。「先行者利益」も幻だとデータで切り捨てる。500ブランドを分析すると、市場を切り開いたパイオニアの半数近くが倒産し、平均シェアは10%。

対してあとから学んで参入したフォロワーは倒産率8%、シェア28%。先頭より、他社の経験を吸収する「ファスト・フォロワー」のほうが強い。

人についても同じで、最重要は「マスタービルダー」を雇うこと。専門知と経験でビジョンを確実に実行へ移せる指導者だ。著者の11の経験則でも筆頭に置かれる。

背景にあるのはアリストテレスの「フロネシス(実践知)」。マニュアル化できない現場の勘であり、著者は「最も有用な知識の多くは形式知ではなく暗黙知だ」と引く。

経験不足が招いた冠水事故や2年の掘削機修理、バグだらけの裁判所IT化といった実例が、その主張を裏打ちする。

「今回は違う」を捨て、小さく作って巨大にする

人は自分の案件を「唯一無二で特別」と思いたがる。著者はこれを「独自性バイアス」と呼び、その口癖が「今回は違う」だと見抜く。これを外す道具が「参照クラス予測(RCF法)」。自分の案件を数ある同種の一つとみなし、過去の類似実績を基準(アンカー)にして見積もる。

なぜアンカーが効くのか。人の判断は最初に提示された数字に引きずられるからだ。本書のルーレット実験が面白い。無関係な乱数が出ただけで、アフリカ諸国の国連加盟割合の予測が25%から45%へ動いた。

ならばでたらめな数字ではなく、実データを錨にすればいい。香港の高速鉄道はこの手法で立て直され、いまや英国政府の標準手法になっている。一方、過去の新聞記事執筆を誤ったアンカーにして「1年」と読んだ伝記作家が実際は7年かかった話は、錨選びを誤る怖さを教える。

締めくくりが「モジュール性(スモールシング戦略)」だ。巨大なものを作る最も確実な方法は、小さなものを積み上げること。レゴのように標準化した部品を大量複製して組み立てる。

同じものを繰り返すと学習曲線が働き、回を重ねるほど速く安くなる。太陽光や風力が原発よりはるかに低リスクなのはこの原理だ。デンマークの風力産業は10年で化石燃料比率を72%から24%へ落とした。

マドリードの地下鉄、テスラのギガファクトリー、コンテナ輸送も同じ発想の勝利である。

そして計画がどれだけ良くても、実行できなければ意味がない。すばやく動くには「よい人をバスに乗せ、よい席に座らせる」強いチームが要る。全員が一つのチームだという意識を共有し、誰もが問題を口にできる心理的安全性を確保する。

計画・経験・モジュール・チームの全要素が揃ったヒースロー空港ターミナル5は、本書の総決算のような成功例だ。

明日、最初の一歩だけ変えてみる

これらは国家規模でなくても効く。見積もりは「自分なら一週間」ではなく過去の平均から出す。着手前に紙のスケッチや模型で何度も失敗しておく。ゼロから作らず実証済みの「型」を再利用し、実践知を持つ経験者を初期から巻き込む。この三つだけでも十分に強い。

読み終えて残るのは、敵は外にいなかったという苦い納得だ。著者は言う。「最大の脅威は、外の世界にはなく、彼自身の頭の中にあった」。楽観、独自性バイアス、最初の直感への固執。

だから何か大きなことを始める前に、たった一つだけ変えてほしい。「過去の似た案件は、実際どれくらいかかったか」を調べる。それだけで、あなたは0.5%へ一歩近づく。

合わせて読みたい

『外資系コンサルが教えるプロジェクトマネジメント』山口周 プロジェクトが失敗する原因は始まる前に決まっている、という主張が本書と完全に重なります。BIG THINGSが「なぜ」をデータで示すなら、こちらは現場の進め方を具体化してくれる実務書です。

『失敗学のすすめ』畑村洋太郎 失敗を隠す組織は同じ失敗を繰り返す、という視点が、本書の「戦略的虚偽表明」やトラブルを隠蔽した原発CEOの話と響き合います。過去の失敗を参照クラスとして学ぶ姿勢の土台になります。

『未来に先回りする思考法』佐藤航陽 物事を「点」で見ると未来を見誤る、という指摘は、自分のプロジェクトを「唯一無二の点」とみなす独自性バイアスへの処方箋として読めます。参照クラス予測の発想と地続きです。


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