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『自分の頭で考えて動く部下の育て方』篠原信|指示待ち人間は、優秀なあなたが作っている

リーダーシップ・組織 ✍ 篠原信
約8分で読めます

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『自分の頭で考えて動く部下の育て方』
目次

「うちの部下、言われたことしかやらない」。

そう思ったことがある人ほど、この本は深く刺さります。なぜなら、その指示待ち人間を作ったのは、ほかでもない優秀なあなただ、と正面から言い切る本だからです。

最初に読むと反発したくなるかもしれません。けれど読み進めるうちに、その挑発が自分の足元を照らす光だったと気づかされる。そういう構造の一冊です。

産業能率大学が上場企業の課長651人に聞いた調査では、最大の悩みが「部下がなかなか育たない」でした。そして最終的になりたい立場として「プレーヤーに戻る」が過去最多に達したといいます。

マネジメントに疲れ、現場の手触りへ帰りたくなっている管理職の姿が、数字の向こうに透けて見えます。篠原信さんの『自分の頭で考えて動く部下の育て方 上司1年生の教科書』は、その疲れの正体を一つずつほどいていく本です。

著者が以前ネットに上げた「『指示待ち人間』はなぜ生まれるのか?」という記事は、またたく間に40万人以上に読まれました。バズの理由は、おそらく「自分のせいだったのか」という痛みと納得が同時にやってくるからだと思います。

図解

「教えない・期待しない・結果をほめない」という挑発

本書を一言でまとめると、こうなります。教えない・期待しない・結果をほめない。この三つを手放すことで、部下の才能を自然に開花させる。

普通の感覚とは真逆です。私たちは、丁寧に教え、期待をかけ、成果をほめるのが良い上司の条件だと信じてきました。著者はそのすべてに「待った」をかけます。良かれと思ってやってきたことが、実は部下の成長を止めていたのではないか——この問いを突きつけられると、背筋が少し寒くなります。

ここで好感が持てるのは、著者が上から目線で説教しない点です。かつて自分こそ「指示待ち人間製造機」だったと告白するところから始まる。失敗を散々してきた人の言葉だから、説教くさくない。

「こうしろ」ではなく「私もやらかした」から入るので、読み手は身構えずに済みます。逆説的な主張を飲み込ませる導入として、これは非常にうまい。私自身、過去に後輩へ手取り足取り教えていた時期を思い出して、いたたまれない気持ちになりました。

「指示待ち人間」は、優秀な上司が作っている

本書がまず壊すのは、「指示待ちは部下の資質のせい」という思い込みです。

的確で細かい指示を出す上司ほど、部下はその指示を完璧にこなすことに必死になり、自分の頭で考える余地を失います。さらに、指示と少し違うことをして叱られる経験が重なると、部下は「叱られないために指示を仰ぐ」防衛本能を働かせる。

著者はこの現象を「思考のアウトソーシング(外注化)」と呼びます。答えをすぐ教えてもらえると、人は「自分で考えなくてもこの人が教えてくれる」と無意識に思考を止めてしまう、というわけです。

この読み解きが鋭いのは、原因を部下の怠慢ではなく、上司の優秀さに見いだしているところです。良い上司であろうと努力すればするほど、部下は受け身になる。善意がそのまま毒に変わる構造を、著者は容赦なく描きます。

説得力を支えているのが、歴史上のリーダーを引いた論じ方です。象徴的なのが諸葛孔明。蜀の天才軍師は細々とした仕事まで部下に任せず全部自分で処理し、結果として部下は考えることをやめ、蜀から人材が消えていった——と読み解かれます。

敵将・司馬懿の使者までが、その働きすぎぶりを証言したというエピソードまで添えられる。さらに痛烈なのが馬謖の話です。孔明が「山上に陣地を築くな」と細かく指示したところ、馬謖は「自分の才能を信じてもらえていない」と反発し、わざと山上に陣を構えて大敗、斬られてしまった。

細かい指示は、ときに部下のプライドを傷つけ、反発を生む。「優秀すぎる人が組織を痩せさせる」という逆説を、抽象論ではなく具体的な人物像で語るので腹落ちしやすいのです。

自分を孔明側だと薄々自覚している人ほど、ページをめくる手が重くなるはずです。

上司は部下より「無能」で構わない

孔明と対比されるのが、漢の劉邦です。

劉邦は自分でも認めるほど能力が平凡でした。それでも部下を信じて任せた。負け戦が続いても、後方で食糧を送り続けた蕭何を第一の功績者として表彰し、裏方まで発奮させた。

実績ゼロで逃げ出そうとした韓信を大将軍に抜擢し、漢帝国成立の大勝利を呼び込んだ。著者はこのタイプを「将に将たり(リーダーのリーダー)」と呼びます。

劉邦には大した能力はない、でも憎めない。そばに居続けたくて、みんなが異能を発揮する。一人ひとりが育ち、負けても復活し続ける軍ができあがる——という見立てです。

ここから著者は「率先垂範」を定義し直します。

「真の率先垂範とは、能力で部下と張り合うことではない。部下の能力発揮をどうやったら最大化できるかに意を砕くことである。」(本書より)

リーダーが一番できる姿を見せつけることが率先垂範だ、という誤解を解くわけです。上司の仕事は、部下の潜在能力を引き出し、そのために雑用をこなす裏方役だと。

この再定義は、能力で勝負してきた人ほど効きます。「無能で構わない」は開き直りではなく、上司の仕事の中心を「自分が一番できること」から「部下の力を最大化すること」へ置き換える宣言なのです。

この心構えを、著者は「上司の非常識な六訓」としてまとめています。部下ができたら楽になると思うなかれ。上司は部下より無能で構わない。威厳はなくて構わない。

部下に答えを教えるなかれ。部下のモチベーションを上げようとするなかれ。そして、部下を指示なしで動かす。並べただけで、世のリーダー論の真逆を行っているのが分かります。

良かれと思ってやっていたことの正体を、この一覧は静かに問い直してきます。

答えを教えず、質問で考えさせる「産婆術」

「教えるな」と言われても、では放置でいいのか——という当然の疑問に、本書はちゃんと答えを用意しています。鍵になるのが、ソクラテスにちなんだ「産婆術」という考え方です。

産婆術とは、対話を通じて相手自身に答えを気づかせる手法のこと。正解を渡す代わりに、理由や情報を与えながら質問を重ね、部下に自分で答えを追究させます。

たとえば顧客へのメールの書き方を教えるとき。「こう書いて」と指示せず、「このままだとお客さんがどう解釈するか分からないね。どうしたらいい?」

と問いかける。著者はこれを「やってみて、相手の立場になって考える」の往復運動と呼びます。

ここに著者の原体験が効いています。中学生のころ、質問しても父親は教えてくれず「教科書を読め」とだけ言った。仕方なく自分で考えて解き方を発見したら、二度と忘れなかった。

「誰にも教えてもらわずに発見した」という得意げな気持ちが、記憶を深く刻んだのです。教える側はよく覚えていて、教わる側は覚えていない。なぜか。

教えることは能動的で、教わることは受動的だから。だから部下を能動的な側に立たせる。シンプルですが、いざ実践しようとすると、自分の口の軽さに気づかされます。

答えを言ってしまうほうが、上司にとってはよほど楽なのです。

この繰り返しで育つのが「仮説的思考」です。未知の課題に「こうではないか」と仮の答えを立てて検証し、修正していく思考のこと。

これが身につくと、部下は丸暗記から抜け出し、初めての課題にも自分で対処できるようになります。指示待ちの対極にある、自走する部下が育つわけです。

「すごいね」と言うほど、部下は潰れる

承認の話も、気持ちのいいくらい常識を裏切ります。

良い成績という「結果(外側)」をほめると、部下はプレッシャーで潰れるか、過去の栄光にしがみついて傲慢になる。著者はそう警告します。代わりにほめるべきは、その過程の「工夫や苦労(内面)」です。

「今月は成績が良かったけど、どんな工夫をしたの?」と尋ね、返ってきた工夫に「へえ、それは面白いね!」と大げさに驚く。すると部下は「自分のことをわかってくれている」と感じ、仕事そのものを工夫するステージとして楽しみ始めます。

結果をほめると結果に縛られ、工夫をほめると工夫が増える。承認の向き先を変えるだけで、人の動き方が変わるのです。

林文子さん(BMW東京元社長、現横浜市長)は、部下を叱るときも良いところをほめてから「こんなにいいところがあるのに悔しい」と伝えたそうです。

承認されると、人はそれに見合う成果を出したくなる。そして山本五十六の有名な「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」には続きがありました。

「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず」。多くの人が前半しか知らないこの後半が、本書の承認論をそのまま要約していて唸らされます。

モチベーションは「上げる」な、下げる要因を「取り除け」

ここも徹底して逆説です。

部下のやる気を上げようと熱心にアドバイスすると、部下は工夫する余地を奪われ、「やらされ感」を抱いて逆に意欲を失う。著者はこれを「助長」と呼びます。

語源は、苗を早く育てようと引っ張って、根が切れて枯らしてしまう故事です。部下も同じ。直接やる気を引き上げようとせず、やる気を削ぐ要因を取り除き、育ちやすい環境を整える。

上司は農家のような裏方に徹するべきだ、という主張です。

「部下のモチベーションを直接引き上げようとするより、モチベーションを下げてしまう要因を除去することに努力したほうがよい。そうすれば、意欲は勝手に湧いてくる。」(本書より)

人間はもともと「『できない』が『できる』に変わる快感」を好む生き物です。だから、その快感を味わえる環境さえ整えば、意欲は勝手に湧く。「期待」も要注意で、「期待しているよ」は相手の行動を縛る無言の指示になり、人は反発したくなる。

著者は、真の信頼とは結果がどうなっても「身を預ける」ことだと言います。期待と信頼は似て非なるものだ、という指摘は耳が痛い人も多いはずです。

そして具体的な育て方の土台になるのが「自己効力感」です。自分一人でも課題を克服し、何かを成し遂げられたという感覚のこと。これが自信と熱意の源になります。

著者がすすめるのは、仕事を分解して「ちょっと背伸びすれば届く課題」を渡し続けること。じれったく見えても、急がば回れ。小さな成功体験の積み重ねが、長い目で見れば成長を早めます。

締め切りに2割ほど余裕(スラック)を持たせる設計も大事で、ギリギリの指示はパニックと思考停止を生むからだといいます。

おわりに:明日、一度だけ聞き返してみる

逆に、リーダーが先頭で手本を見せる率先垂範を信条にしている人や、数値目標や仕組みでマネジメントしたい人には、肩透かしかもしれません。本書はテクニック集というより、上司としての立ち位置そのものを組み替えるための本です。即効性のあるノウハウを期待すると、回り道に見えるはずです。

それでも私が多くの人にすすめたいのは、読後に行動が一つだけ確実に変わる本だからです。著者はこう書きます。「部下が思考停止に陥ったとすれば、それは上司であるあなたが部下の成長度合いについて見通しを誤っていたということだ」。

厳しい言葉ですが、裏を返せば、上司が変われば部下は変わるということでもあります。

明日、部下に「どうすればいいですか」と聞かれたら、答えを言う前に一度だけ。「君ならどうする?」と聞き返してみる。たったそれだけでも、自分が無意識に部下の思考を肩代わりしていたことに気づきます。そこから何かが動き出すかもしれません。


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