「何か意見はありませんか?」と聞いても、誰も目を合わせない。あの沈黙は、メンバーのやる気不足ではありません。あなたの問いかけが招いたものです。
本書はそう言い切ります。著者の安斎勇樹さんは、東京大学特任助教であり株式会社MIMIGURIの代表。学習環境デザインの領域で10年以上研究を続け、前著『問いのデザイン』はHRアワード2021の最優秀賞に選ばれた人です。
その安斎さんが本書で扱うのは、もっと身近な日常の問いかけです。チームの才能を引き出す技術を、センスではなく「誰でも習得できるスキル」として体系化しました。この記事を読めば、本書の理論と実践技術の全体像がつかめます。

こんな人におすすめ
- 「自分でやったほうが早い」と一人で仕事を抱え込み、疲弊しているリーダー
- 誰も意見を言わない「お通夜ミーティング」を変えたい進行役
- 1on1で部下の本音をうまく引き出せていないと感じる人
- 前著『問いのデザイン』が少し難しく、日常で使える実践版を探していた人
この本の核心――問いかけは才能を照らす「ライト」である
著者の主張はシンプルです。これからの時代、仕事は一人の「自力」ではなく、他者の力を引き出す「他力」でうまくいく。
これからの時代、仕事は『自力』ではなく、『他力』を引き出せなくては、うまくいきません。
そして意外なことに、自分のスキルや業績だけに関心がある人より、問いかけで他者の力を引き出せる人のほうが、これからは高く評価されるといいます。チームに眠っているポテンシャルは、そのまま「伸びしろ」だからです。
その伸びしろを引き出す道具が「問いかけ」です。安斎さんは問いかけを、未知数を照らす「ライト」にたとえます。
問いかけは、未知数を照らす『ライト』である
たとえば「昨晩、何を食べましたか?」と聞けば、相手は記憶を思い出すだけです。けれど「これまでで最も『豊か』に感じられた食事は?」と聞けば、相手は自分の価値観を内省し始めます。同じ「食事」でも、ライトの当て方ひとつで引き出せる反応がまったく変わるのです。
なぜチームは沈黙するのか――4つの現代病
問いかけの技術に入る前に、安斎さんはチームが停滞する原因を構造から解きほぐします。
原因は「ファクトリー型」への過剰な適応です。ファクトリー型とは、上から与えられた設計図を効率的にこなす工場のような組織。対するワークショップ型は、多様な個性が試行錯誤しながら自分たちで目的を見つけていく工房のような組織です。
正解のない時代に、ファクトリー型に偏りすぎたチームは「4つの現代病」に陥ります。本書の出発点なので、4つすべてを押さえます。
1. 認識の固定化。判断が自動化され、固定観念にとらわれる。
2. 関係性の固定化。分業が進み、相手を役割だけで捉えてしまう。
3. 衝動の枯渇。逸脱を恐れ、本音や「こうしたい」を言わなくなる。
4. 目的の形骸化。手段に没頭するうち、本来の目的を見失う。
イソップ寓話の「3人のレンガ職人」を、安斎さんは独特に読み解きます。一般には「大聖堂を建てている」と答えた3人目こそ理想とされます。しかし本書は、目的がわからなくても「ただレンガを積む」ことに没頭できてしまう1人目の姿に、人間の「手段への没頭」という危うさを見るのです。
この現代病が、メンバー個人の創造性の源である「こだわり」を奪い、新しい発想を阻む固定観念「とらわれ」を生みます。問いかけの目的は、この「こだわり」を耕し、「とらわれ」に揺さぶりをかけることにあります。
問いかけの4つの基本定石
具体的な技術に入る前に、押さえておきたい4つの定石があります。漠然と「意見ある?」と聞くのをやめ、この4つを意識するだけでチームの空気は変わります。
こだわりを尊重する。相手の無能さを露呈させるのではなく、個性を引き出す。
適度に制約をかける。自由すぎる質問はかえって思考を止めます。「どこかひとつだけ変えるなら?」のように考えるきっかけを作る。
遊び心をくすぐる。「もし100点満点で採点するなら何点?」のように、答えたくなる仕掛けを施す。
凝り固まった発想をほぐす。いつもの言葉遣いを変え、意外な発見を生む。
問いかけのサイクル――見立てる・組み立てる・投げかける
本書の中心フレームワークが、問いかけを3つのプロセスに分解した「サイクルモデル」です。良い問いかけは、ひらめきではなく、この3つの循環から生まれます。
見立てる――まず状況を観察する
問いかけは、いきなり質問を投げることではなく「見立てる」から始まります。観察した事実に解釈を加えることで、見立ては成立します。
便利な道具が「三角形モデル」です。「場の目的」「見たい光景(理想の状態)」「現在の様子」の3つを書き出し、そのギャップから「必要な変化」を見定めます。
観察の質を上げるには、ガイドとなる4つの問いを持つこと。「何かにとらわれていないか」「こだわりはどこにあるか」「こだわりはずれていないか」「何かを我慢していないか」。この問いを頭に置き、メンバーの「何かを評価する発言」「定義が曖昧なまま頻出する言葉」「姿勢と相槌」に耳を傾けます。
ちなみに、シャーロック・ホームズのようにすべてを観察する必要はありません。初心者がそれをやると情報に溺れます。事前に問いを持ち、必要な情報だけを拾う「フィルター」こそが見立ての本質です。
組み立てる――質問を設計する
見立てに沿って、3つの手順で質問を設計します。
未知数を定める。何を明らかにしたいのかを決める。
方向性を調整する。主語のレベル(個人→チーム→組織→社会)と時間軸(過去→現在→未来)を動かす。主語の抽象度を上げれば俯瞰的な発想を促し、あえて「あなた」に下げれば当事者意識を取り戻させます。
制約をかける。トピックの限定、形容詞の追加、範囲や答え方の指定で、考えやすくします。
そして組み立ての核となるのが、2つのモードと6つの型です。これも要素を落とさず押さえます。
フカボリモードは、相手の「こだわり」の解像度を高めます。型は3つ。当たり前を問い直す「素人質問」、価値観の源を探る「ルーツ発掘」、何が良いかを問う「真善美」。
ユサブリモードは、凝り固まった「とらわれ」を揺さぶります。型は3つ。言い換えて再定義する「パラフレイズ」、仮想の設定で視点を変える「仮定法」、思い込みを壊す「バイアス破壊」。
たとえば自動車周辺機器メーカーの開発チームに、安斎さんは「なぜカーナビを作るのですか?」という素人質問を投げました。すると「カーナビを作りたいわけじゃない。快適な移動の時間を提供したいんだ」と、メンバーが真の目的に気づき、議論が一気に動き出したのです。
投げかける――安全に放ち、フォローする
どんなに優れた質問も、相手が聞いていなければ意味がありません。人は定例ミーティング中、集中度が20%程度のこともあるのです。
そこで、まず注意を引く4つのアプローチがあります。「これから意見を求めますよ」と前もって伝える予告、相手の感情を代弁する共感、前提を強調する煽動、沈黙であえて引きつける余白。
さらに表現を磨くレトリックもあります。倒置法や誇張法で「光の量を足す」、比喩法やオノマトペで「光の色を変える」、二重否定や婉曲法で「光を和らげる」。ただし着飾りすぎは逆効果。シンプルな問いかけも忘れないことです。
投げかけた後、意見が出なくても焦らないこと。質問に答えやすくする「足場かけ」が効きます。前提を補足する、答える意義を伝える、ハードルを下げる、手がかりを渡す、質問をリマインドする。それでも難しければ、固執せず質問を組み立て直します。
心理的安全性は「結果」である
本書には、心理的安全性に対するユニークな視点があります。多くの本は「心理的安全性があるから意見が出る」と説きます。本書は逆です。
問いかけに工夫を凝らして意見を言いやすくしていくうちに、結果として心理的安全性が高まる
つまり安全性は前提ではなく、良い問いかけの「結果」として育つ。鶏と卵を逆転させたこの視点は、「うちは心理的安全性がないから」と諦めかけたリーダーに希望を与えます。
明日から何を変えるか
ミーティング前に三角形モデルを描く。会議前にノートを開き、「場の目的」「見たい光景」「現在の様子」を書き出します。3つを並べるだけで、今日チームに起こすべき変化が見えてきます。
未定義の頻出ワードにツッコミを入れる。「顧客ファースト」「DX」など、誰もが使うのに定義が曖昧な言葉が出たら、素人質問の出番です。「初歩的な確認なのですが、ここでの『〇〇』とは具体的にどういう意味でしょう?」。前提のズレが解消します。
行き詰まったら仮定法で制約を外す。アイデアが止まったら「もし予算が3倍になったら?」「もしあなたが社長だったら?」。主語や制約を意図的にずらし、視点を強制的に転換させます。
おわりに
本書を貫くのは、テクニックの前にある一つの姿勢です。
相手には秘めた才能と魅力があることを信じて、好奇心を持って明らかにしていくのがあなたの役目です。
問いかけの技術は、使い方を誤れば相手を追い詰める「尋問」になります。それを「才能を引き出す対話」に変えるのは、相手をリスペクトする好奇心です。
著者の願いはただ一つ、「どんなに小さくてもいいから、チームに何かしらの変化を起こしてほしい」。明日の会議で、ひとつだけ問いかけを変えてみる。本書はその第一歩を、具体的な作法とともに後押ししてくれます。
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