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『ユニクロの仕組み化』宇佐美潤祐さん|カリスマが9割ではない、「仕組み」が9割

戦略・経営・事業
約5分で読めます

ユニクロが世界で勝ち続けているのは、柳井正さんのカリスマ性のおかげ。多くの人がそう思っています。

でも本書は、その常識をはっきり否定します。リーダーの仕事は「ビジョンをつくること」が1割、「仕組みをつくること」が9割。強さの正体は、特定の人に頼らず事業を回す「仕組み化」だと言い切ります。

著者の宇佐美潤祐さんは、元ファーストリテイリング執行役員。社内の経営者育成機関FRMICの責任者を務めた人です。内側から仕組みづくりを牽引した立場だからこそ書ける、生々しさがありました。

カリスマ論を裏返すところから始まる

この本がおもしろいのは、入り口で「ユニクロ=柳井さんのワンマン経営」という見方を裏返すところです。

たしかに柳井さんのビジョンは強烈です。でも著者が注目するのはその先。柳井さん本人が、自分の閃きを言語化し、組織の仕組みに変えることに、誰よりも時間を使ってきた——そこにこそ強さがある、という主張です。

私が読んでいて膝を打ったのは、この本が「仕組み化」を単なる業務効率の話に閉じ込めていない点でした。普通、仕組み化というとコスト削減やオペレーション改善を連想します。ところが本書は、ユニクロの仕組みは効率だけでなく「将来の成長期待」まで押し上げていると論じます。市場がユニクロにどんな評価額をつけ、それが何を意味するのか。本書は具体的な数値で裏づけていくのですが、その数字を見た瞬間に「ああ、仕組みでここまで変わるのか」と腑に落ちる構成でした。正確な数値とロジックは、本書で確かめてほしいところです。

「数万人を一気に変える」という発想

本書の出発点にあるのは、変革のスケールの話です。

著者は、組織の成長を「メンバーの変革の総和」だと捉えます。一人ひとりが変わった合計が、会社の成長になる。だとすると問題は、数万人をどうやって一斉に変えるか、です。

数十万人のメンバーを一気に変えられるのは、「仕組み」しかないのです

熱意ある研修や、上司の個人的な働きかけでは、変えられる人数に限界があります。だから仕組みに落とす。この一文に、本書のすべてが凝縮されていると感じました。

ここで効いてくるのが「全員経営」という思想です。役員から店舗のアルバイトまで、全員が経営者の感覚で考え、動く。きれいごとに聞こえますが、本書はこれを精神論で終わらせず、具体的な装置に翻訳していきます。その代表例を、ひとつだけ紹介します。

「原理原則」というひとつの工夫が、なぜ効くのか

数ある仕組みのなかで、私が一番唸ったのが「原理原則」という考え方でした。

会社にはたいてい立派な経営理念があります。でも理念は抽象的すぎて、現場はどう動けばいいかわからない。かといって細かいマニュアルを作っても、書いてあるのは「何をするか」と「どうやるか」だけ。想定外の事態には対応できません。

そこで著者が置くのが、理念とマニュアルの間をつなぐ中間概念です。原理原則は「なぜやるか(Why)」を示す。Whyさえ腹落ちしていれば、マニュアルにない場面でも、社員は自分の頭で考えて判断できる、という発想です。

たとえばユニクロには「上司を見るな、お客様を見よ」という言葉があるそうです。だから現場は、本部の指示より顧客を優先して動ける。

最高のサービスを提供するには、マニュアルは弊害にもなります

ここがこの本の核心の一つだと思います。マニュアルは最低限を守らせる道具にすぎず、目の前の相手に合わせた最高の対応は、結局「自分で考える力」からしか生まれない。原理原則は、その力を引き出すための装置なのだ、と。

これは現場を持つリーダーにこそ刺さる視点でしょう。「マニュアルを増やしても部下が指示待ちのまま」という悩みの正体を、本書はきれいに言い当てています。本書には原理原則のほかにも、個店経営、独自の評価制度、敗者復活、週次PDCAといった仕組みが次々に登場しますが、そのどれもが「自分で考える社員」という一点に収束していく。その全体像は、ぜひ本書でたどってほしいところです。

この本が突きつけてくる「逆説」

読み進めるほど、ユニクロの仕組みには独特の逆説が埋め込まれていることに気づきます。

たとえば、安定して成果を出すことが評価されない。失敗が、必ずしもマイナスにならない。ものわかりのいい優しいリーダーが、むしろ部下にとって不幸になる——。

ものわかりのいいリーダーはメンバーの不幸である

最初は過激に聞こえます。でも本書を読むと、これらが個別の精神論ではなく、一つの設計思想から導かれていることがわかってきます。なぜ「そこそこの成果」が評価されないのか、なぜ失敗した役員を引き留めるのか。その理由づけを読んだとき、私は自分のチームの評価基準を思わず点検したくなりました。

象徴的な逸話として、撤退した新規事業の責任者をめぐるエピソードが出てきます。辞表を出そうとしたその人物に、柳井さんが投げかけた一言。これがじつに人間くさく、しかも合理的で、本書のなかでもとくに記憶に残る場面でした。彼がその後どうなったかも含めて、ここはあえて伏せておきます。

どんな人に効く本か

精神論ではなく、組織の動き方を変える具体策がほしい人に効きます。とくに、

こうした手応えのなさを抱える管理職には、明確な処方箋になります。逆に、ユニクロの華やかな成功譚を期待すると肩透かしを食うかもしれません。本書が扱うのは、店舗オペレーションや評価制度といった、地味な「組織のOS」のほうだからです。

私自身、読み終えて残ったのは「ユニクロという特殊な会社のすごい話」ではありませんでした。カリスマがいなくても回る組織をどう設計するか。普通の社員をどう経営者目線まで引き上げるか。問いはすべて、自分のチームにそのまま跳ね返ってきます。

明日の会議で「うちが伸びないのは、いい人材がいないからだ」と言いそうになったら、一度立ち止まってほしい。問うべきは人ではなく、仕組みのほうかもしれない——本書の効果は、その問い直しから静かに立ち上がってきます。具体的な仕組みの設計図と、それを支える数々の言葉は、ぜひ本書で受け取ってください。


合わせて読みたい

『無印良品は、仕組みが9割』松井忠三 本書が比較対象として名前を挙げる一冊です。ユニクロが「マニュアルより原理原則(Why)」を重視するのに対し、無印良品は徹底したマニュアル化で復活しました。同じ「仕組み化」でも逆方向のアプローチを並べると、自社に合うバランスが見えてきます。

『とにかく仕組み化』安藤広大 「人を責めるな、仕組みを責めよう」という発想が、本書の「数万人を一気に変えられるのは仕組みだけ」と深く響き合います。個人の頑張りに頼らず、再現性のある組織をどう作るかを、より体系的に学べます。

『ビジョナリー・カンパニー』ジム・コリンズ こちらも本書の比較表に登場します。カリスマに頼らず「基本理念」と「進歩を促す仕組み」で永続する企業を、膨大なデータから論じた古典です。ユニクロの強さを学術的なフレームで捉え直したい人に向いています。


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