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『自律神経どこでもリセット! ずぼらヨガ』崎田ミナ|心は動かせなくても、背骨と呼吸は動かせる

健康・メンタル ✍ 崎田ミナ
約8分で読めます

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『自律神経どこでもリセット! ずぼらヨガ』
目次

「運動した方がいい」ことは、誰だってわかっています。問題は、その「わかっている」と「動ける」のあいだに、深い溝が横たわっていることです。

元気なときに正論を聞いても響きません。本当に休養や運動を必要としているのは、たいてい、もう正論を実行する気力が残っていない人です。この本は、その溝のいちばん深いところで動けなくなっている人に向けて書かれています。

著者の崎田ミナさんは、自律神経失調症で4日間まったく起き上がれない日があったほどの状態から、ヨガで少しずつ回復していった人です。心療内科の薬を8年飲み続けた当事者でもあります。

だからこの本のトーンには、健康な指導者が上から処方する説教の匂いがまったくありません。『自律神経どこでもリセット! ずぼらヨガ』はそんな当事者が描いたコミックエッセイで、監修は心療内科医の福永伴子さんが務めています。

この記事では、本書が何を問題にし、どんな仕組みで心身を整え、そして明日から具体的に何をすればいいのかを、要点を端折らず一通りたどっていきます。

図解

こんな人に届く本

ひとつでも心当たりがあれば、この本はあなたのための一冊だと思って構いません。

たとえば「ジムに入会したのに3ヶ月で行かなくなった」経験がある人。これを意志の弱さだと思い込んでいるなら、見立てが違う可能性があります。続かないのは、たいていハードルの設計を間違えているからです。

あるいは、頭痛やめまい、なんとなくの不調が続いているのに、病院に行くほどでもないと感じている人。さらには「今日も何もできなかった」と、寝る前に自分を責めてしまう人。本書はこのあたりの読者の心理を、当事者の解像度でよく捉えています。

逆に、本格的なヨガの技術や筋力アップを求める人には物足りないはずです。この点は著者自身が線を引いていて、本書は「マイナスからゼロ」に戻すための本だと位置づけています。

プラスに伸ばすのではなく、沈んだ状態を水面まで引き上げる。その割り切りが、かえって本書を信頼できるものにしています。

この本の主張は、結局たったひとつ

膨大なポーズが載っていますが、本書の幹はシンプルです。心はコントロールできない。でも、体と呼吸はコントロールできる。これだけです。

自律神経は、心臓を動かし、汗をかかせ、消化を進める、自分の意志とは無関係に体内を整えてくれる神経です。だから「整えよう」と念じても、直接さわることはできません。落ち込んだ気分を意志の力で晴らせないのと同じ理屈です。

ところが本書は、ひとつだけ抜け道があると言います。それが、背骨まわりの筋肉をほぐすことと、呼吸を意識することです。この二つは自分の意志で動かせる物理的な操作で、しかも自律神経とつながっている。

つまり、直接さわれない神経に、体という回り道を通って間接的に手を届かせる。これが本書の発想の核です。

心が限界なら、体から入ればいい。著者が恩師から授かったという言葉が、この本の土台を支えています。

心なんて命の一部だから。心や頭があてにならなくなったら、体を動かしたりするのはすごくいい

メンタルの不調に対して「気の持ちよう」と言われても何も動きません。けれど「とりあえず背中を伸ばす」なら、気力ゼロでもできる。順番を逆にしたところに、この本の優しさと実効性があります。

自律神経は、シーソーで動いている

なぜポーズが効くのか。仕組みがわかると納得感がまるで変わるので、ここは押さえておきます。

自律神経には2種類あります。体を活動モードにする「交感神経」と、体を休息モードにする「副交感神経」です。本書はこれを、両端でバランスを取りあうシーソーにたとえます。

どちらかが過剰でも、低すぎてもいけない。司令塔は脳の「視床下部」で、ここが外界や体内の変化を受け取り、汗を出す、動悸を鎮めるといった生理反応を起こします。

問題は、強いストレスを浴び続けると、交感神経がONのまま固まってしまうことです。シーソーが一方に傾いたきり、戻らなくなる。その結果として、頭痛、胃痛、めまい、情緒不安定といった不調が現れます。

ここで現代の生活を重ねると、事態の深刻さが見えてきます。座りっぱなし、スマホをのぞき込む猫背、それに伴う浅い呼吸。この三点セットは、まさにシーソーを交感神経側に傾ける方向に働きます

つまり放っておけば傾きは強まる一方です。だからこそ、傾いたシーソーを意図的に逆へ戻す手段が要る。本書のポーズは、その「戻すための道具」として設計されています。

背骨は、自律神経のリセットボタン

ではどこにさわれば戻せるのか。本書の答えは明快で、「背骨」です。

背骨の近くには自律神経が支配する臓器が集まり、脊髄の中を自律神経が通っています。だから背骨まわりの筋肉をほどよい刺激でほぐすと、副交感神経が優位に切り替わりやすい。背骨は、いわばリラックスモードへの物理スイッチなのです。

代表格が「猫のポーズ」です。四つん這いになり、息を吸いながら背中を反らし、吐きながら丸める。これを繰り返すと背骨周辺のコリがほどけていきます。肩こりや腰痛の対策を兼ねられるのも、続けやすさの後押しになります。

椅子に座ったまま背骨をねじる「ねじりのポーズ」も紹介されます。内臓へのマッサージ効果があり血流を促し、しかもデスクで人目につかずこっそりできる。日常への埋め込みやすさが徹底されています。

注目したいのは、本書が逆方向のスイッチも用意している点です。元気を出したいときは、手足を大きく広げて胸を開く「アンテナのポーズ」「英雄のポーズ」で交感神経を刺激し、新鮮な酸素を全身と脳へ送る。

背骨を曲げる・反らす・ねじるという動きが、オフだけでなくオンのスイッチにもなる。整えるとは沈静化だけを指すのではなく、必要なときに上げることも含む。

この両刀使いの設計が、本書を単なるリラックス本から一歩進ませています。

表現の巧みさにも触れておきます。本書は背面の筋肉を「抗重力筋」と呼び、そこにたまった疲労を「全身のサビ」と名づけます。重力に逆らって姿勢を支え続ける筋肉をストレッチして血流やリンパを流せば、サビが落ちる。

「下向き犬のポーズ」を壁や机を使った簡単版でやるだけでも体がぽかぽかしてくる、という感覚的な言葉が、難しい生理学を直感に翻訳しています。

呼吸は、自分の手で握れる唯一のレバー

背骨と並ぶもうひとつの強力なレバーが、呼吸です。

本書はこう言い切ります。呼吸は、唯一意識してあやつれる自律神経調整のカギだと。心拍も発汗も自分では止められませんが、呼吸だけは速くも遅くも、深くも浅くもできる。意志の届かない神経に、意志の届く呼吸を通じて介入する。背骨と同じ「回り道」の発想です。

コツはシンプルで、吸う「1」に対して、吐く「2」。吸う時間の倍をかけて、ゆっくり吐ききる。腹式呼吸の難しい理論は脇に置き、「吸う1:吐く2、とりあえずこんな感じでOK」というのが本書のトーンです。

吐く息を長くすると副交感神経が優位になる、という生理を、覚えやすい比率に丸めてくれています。

ただし重要な注意点があります。ポーズの最中に呼吸が止まっていたり浅かったりすると、体は緊張し、かえって逆効果になる。だから本書は、ポーズの形よりも「呼吸が止まっていないか」を指標にしなさいと繰り返します。

深い呼吸を伴って初めて、ただのストレッチがヨガに変わる。逆に言えば、形が不格好でも呼吸さえ流れていれば効いている。この基準の置き方が、体の硬い人を救います。

ついでに本書は「のど」にも注目します。のどには副交感神経である迷走神経が通っていて、首の筋肉をほぐすだけでも自律神経の調整につながる。イライラして無意識に歯を食いしばっているとき、上を向いて首を伸ばす。それだけでも立派なリセットになる、というわけです。

完璧を目指した瞬間、ずぼらな人は脱落する

ここまで仕組みを見てきましたが、本書の本当の核心は、技術ではなく姿勢のほうにあります。

「1つのポーズをカンペキにやらなくてもいい」。「ポーズの完成度より、自分にとって気持ちよく伸ばせるかが大事」。これは単なる優しい励ましではなく、明確な因果に基づく処方箋です。

完璧を目指すと、体が硬い人や疲れている人ほど、完成形に届かない自分を責めて挫折する。だから本書は最初から完成形を捨てる。脱落の原因を入り口で取り除いているのです。

ヨガマットも専用ウェアもいりません。家着のまま、トイレの個室で、布団の上で、歯磨きをしながらやる。机に手をついて背中を伸ばすだけの「カンタンver」を、正式なメソッドとして堂々と提案する。

しかも本書は、簡単にしたポーズでもちゃんと効果があると断言します。準備が要らない「ずぼら」なやり方こそ続く、というロジックです。

ここには習慣化の本質があります。わざわざ「ヨガの時間」を確保しようとすると、その確保自体が新しいハードルになる。だから本書は、トイレに行くついで、壁の角を見つけたとき、という既存の生活動線にストレッチをくっつける。

新しい習慣をゼロから立ち上げるより、すでにある習慣に便乗させるほうが圧倒的に続く。行動科学的にも理にかなった戦略です。

そして、布団の中で「子どものポーズ」をしただけでも「自分エライ」と思っていい、と本書は言います。できなかった昨日の自分ではなく、何もしなかったよりはマシな今日の自分を肯定する。この小さな自己承認の視点こそ、継続の燃料になります。

朝・昼・夜で、整え方を変える

最後に、これを1日のリズムへ落とし込みます。本書の4章にあたる応用編です。

朝は、布団の中で伸びをして、起きたら胸を開く。交感神経のスイッチを入れて、脳と体を覚醒させる時間帯です。

日中は、デスクワークで疲れたら椅子に座ったまま背骨をねじる、あるいは壁に手をついて背中を伸ばす。頭がぼんやりしてきたら、お辞儀や前屈で頭を心臓より下げる。大脳は血流の約2割を独占する食いしん坊なので、頭を下げて血を送ると驚くほどスッキリします。

夜は、布団の上で四つん這いになり「猫のポーズ」で背骨をほぐす。副交感神経を優位にして、睡眠の質を高めます。同じ背骨へのアプローチでも、朝と夜では狙う神経が正反対だという点が見事です。時間帯でメニューを使い分ける。これが、効かせるための地味で確実なコツです。

今日からやる3つ

本書の提案から、今夜にでもできることを3つだけ抜き出します。

1. イラっとしたら、吐く息を倍にする。 姿勢を正し、鼻から吸い、その2倍の時間をかけて口か鼻からゆっくり吐く。これを数回。プレゼン前や感情が乱れた瞬間の、即効性のあるアンカーになります。

2. 寝る前に、布団で「猫のポーズ」を3〜5回。 四つん這いで、吸いながら背中を反らし、吐きながら丸める。背骨をほぐして、体を強制的におやすみモードへ切り替えます。

3. 「完成形」への執着を捨てる。 本や動画の通りにできなくていい。見るべきは「気持ちよく伸びているか」「呼吸が止まっていないか」の2点だけ。できない自分を責めない、と先に決めておきます。

運動できない自分を責める夜が続いているなら、まず今夜、布団の上で背中をひとつ伸ばすところから始めてみてください。完璧でなくていい——それが、この本があなたに渡してくれる許可証です。


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『整える習慣』小林弘幸 本書が監修や比較で参照する自律神経研究の第一人者による一冊。ずぼらヨガで「背骨と呼吸」の入り口を知ったら、生活習慣全体から自律神経を整える理論をここで補えます。

『自分を休ませる練習』矢作直樹 「頑張る」をやめたら体が治り始めた、という視点が本書の「完璧を捨てる」思想と地続きです。心が限界なら体から入る、というアプローチに共感した人に。

『Go Wild 野生の体を取り戻せ!』ジョン・J・レイティ 座りっぱなしの現代の体を、動きで取り戻すという発想。背骨を動かしてサビを流すずぼらヨガの考え方を、より大きな身体観で裏づけてくれます。


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