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ブクドリ | BOOK DRIP

安定を求めるほど、不安が消えなくなる理由

キャリア・働き方
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目次

ガスコンロの火が消えたかを何度も確かめた人ほど、自分の記憶を信じられなくなっていました。記憶の正確さは、少しも落ちていないのにです。

オランダの心理学者マルセル・ファン・デン・ハウト氏とメレル・キント氏が、2003年に報告した実験です。確かめれば安心できるはずなのに、確かめるほど確信は薄れていく。

仕事の不安にも、同じ形のものがあります。送ったメールを何度も読み返す。評価が気になって同僚に探りを入れる。会社の業績ニュースを毎朝チェックする。どれも安心を得るための行動なのに、不安はなかなか消えません。

安定や安心を求める行動が、なぜ不安を長引かせるのか。実験と書籍から、その仕組みを見ていきます。

不安が反応しているのは、悪い結果より「わからなさ」

最初に見ておきたいのは、不安が何に反応しているかです。

ロンドン大学のアーチー・デ・バーカー氏らは2016年、45人の参加者に320回の予測課題をしてもらいました。画面の岩の下にヘビがいるかどうかを当て、ヘビが出ると電気ショックが届きます。ヘビの出る確率は、90%、70%、50%と途中で切り替わりました。

主観的なストレス、瞳孔の大きさ、皮膚の発汗は、いずれも「ショックが来るかどうか分からない度合い」に沿って動いていました。いちばん高まったのは、参加者が見積もる確率が50%に近い、まったく予測できない局面です。

つまり、ショックがかなりの確率で来ると分かっている局面より、来るか来ないか五分五分の局面のほうが、体は強く身構えていました。

アンデシュ・ハンセン氏は『ストレス脳』で、不安を将来の脅威に備える警報として説明しています。火災報知器がパンの焦げでも鳴るように、脳は危険を1回見逃すより、1000回の空振りを選ぶ設計になっている。どちらに転ぶか分からない状況は、この警報が鳴りやすい条件です。

この「わからなさ」への耐えにくさには個人差があり、心理学では不確実性への不耐性と呼ばれます。カナダの心理学者ニコラス・カールトン氏は2016年の論文で、必要な情報が欠けていると感じたときの不快さに、持続的に耐えられない傾向と定義しました。

オーストラリアのピーター・マケボイ氏らが2019年にまとめたメタ分析では、この傾向の強さと、全般性不安症、社交不安症、強迫症、うつなどの症状との相関は、r=0.40〜0.57の範囲でした。相関なので、耐えにくさが症状の原因だとまでは言えません。ただ、特定の病気に限らず広く関わっている点は注目されています。

確かめる行動が、不安を長持ちさせる

わからないことが不快なら、確かめればいい。多くの人がそう考えます。冒頭の実験は、その直感に待ったをかけます。

ファン・デン・ハウト氏らは、学生の参加者に仮想空間のガスコンロを使ってもらいました。つまみを回して点け、消し、消えたかを確かめる。これを何度も繰り返した群は、同じ時間に仮想の電球を確かめていた群と比べて、コンロの記憶が鮮明でなくなり、細部も思い出せず、記憶への自信が下がっていました。

一方で、記憶の正確さそのものは変わっていませんでした。正しく覚えているのに、覚えている気がしなくなったわけです。

著者らの説明はこうです。同じものを繰り返し見ると見慣れて、細部を見ずに「いつものあれ」として処理するようになる。すると記憶がぼやけ、ぼやけた記憶は信用できないので、また確かめたくなる。循環です。

著者らは、確認は疑いを減らすどころか疑いを育てる、逆効果の安全策だと結論しています。

確認には、もう一つ見えにくい代償があります。確認してから安心すると、「確認しなかったらどうなったか」を知る機会がなくなります。たとえば、送信前に3回読み返したメールが無事に届けば、読み返したおかげだと感じます。1回で送っても問題なかったかもしれない、という情報は手に入りません。

研究者の佐藤舞さんは『あっという間に人は死ぬから』で、不安から目をそらす回避行動は短期的には効くけれど、長期的には問題を増やすと書いています。スマホやSNSに逃げる時間も、その一つとして挙げられています。

長い時間軸で調べた研究もあります。テキサス大学のチャールズ・ホラハン氏とスタンフォード大学のルドルフ・ムース氏らは、1,211人の中高年を10年にわたって3回調べました。問題から目をそらす対処を多く使っていた人は、4年後に慢性的なストレスも突発的なストレスも多く抱えていて、それが10年後の抑うつ症状の多さにつながっていました。

ケリー・マクゴニガル氏も『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』で、ストレスを避けようとする姿勢そのものが、かえって心身の状態や満足度を下げうると論じています。

「失うかもしれない」状態は、失うことに劣らず重い

ここで仕事の「安定」に話を戻します。

ドイツのハンブルク大学病院の研究者キム氏とフォン・デム・クネゼベック氏は、2016年に発表したメタ分析で、雇用不安と失業がその後の抑うつ症状にどう関わるかを比べました。対象は15本の論文に含まれる20のコホート研究です。

どちらも抑うつ症状のリスク上昇と結びついていて、オッズ比は失業が1.19、自分の雇用が危ういと感じていることが1.29でした。著者らは、職を失うかもしれないと感じている状態は、実際に職を失った状態と同程度か、やや高いリスクになりうると結論しています。

さらに、雇用不安の影響は、測定から3〜4年後という長い間隔で大きく出ていました。一時的なショックというより、長く続く状態として効いている可能性があります。

ただし、ここで比べているのは本人が感じている雇用不安で、会社の実際の安定度ではありません。研究ごとに対象国や測り方も違います。

それでも、ここまでの話と重ねると一つの構造が見えます。不安を強めているのは悪い出来事そのものに加えて、それが起きるかどうか分からない状態が続くことです。そして、その状態を確認で消そうとすると、確信はかえって薄れていきます。

安定を「不確かさがゼロの状態」と定義すると、どれだけ確かめても届きません。ゼロにはならないからです。届かない目標を追い続けること自体が、警報を鳴らし続けます。

「備え」と「確認」を分けて、確認を1回減らす

誤解:情報を集めて確かめれば、不安は消える → 確認は短期的に不安を下げますが、繰り返すほど確信は薄れ、「確認しないと危ない」という感覚が残ります。

正しいアプローチ:結果を変える行動と、気分だけを変える行動を分ける → 前者は備えとして1回で済ませ、後者は少しずつ減らします。

具体的には、次の3つから始められます。

1. 自分の確認行動を書き出す(5分) 佐藤さんの本にある、回避行動の短期と長期の効果を書き出すワークを、確認に当てはめます。たとえば「業績ニュースを毎朝見る」なら、短期の効果は「安心する」、長期の効果は「毎朝10分使い、読んだ日ほど落ち着かない」のように書きます。

2. 「この行動で結果は変わるか」と問う 変わるものは備えです。生活費の半年分を貯める、職務経歴書を一度書いておく、社外の人に自分の仕事を説明してみる。こうした行動は日付を決めて一度やれば、何度も繰り返す必要はありません。結果を変えず気分だけを変えるものが、確認です。

3. 確認を1回だけ減らして、予想と結果を比べる たとえば、メールの読み返しを3回から1回にし、送る前に「何が起きると思うか」をメモします。翌日、実際に何が起きたかを書き足します。不確実性への不耐性を扱う認知行動療法でも、小さな不確かさにあえて身を置き、予想と結果を確かめる「行動実験」が使われています。

なお、確認がやめられず生活に支障が出ている場合や、不安が強く長く続く場合は、自分で試すより先に医療機関や専門家に相談してください。この記事は一般向けの解説で、診断や治療の代わりにはなりません。

おわりに

安定を求める気持ちそのものは、脳が正常に働いている証拠です。ただ、その気持ちに確認で応え続けると、脳は「わからないままでは危ない」と学び続けます。

今日1つだけ、確かめたくなったことを確かめずに置いてみてください。翌日、何が起きたかをメモする。わからなさを抱えたまま過ごせた1日の記録が、確認では手に入らない安心の材料になります。


この記事で参考にした本

『ストレス脳』アンデシュ・ハンセン → 不安は将来の脅威に備える警報で、見逃しより空振りを選ぶ「火災報知器の原則」で動いているという見方

『あっという間に人は死ぬから』佐藤舞 → 不安からの回避行動は短期的に効き、長期的に問題を増やすという整理と、その効果を書き出すワーク

『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』ケリー・マクゴニガル → ストレスを避けようとする姿勢が、かえって心身の状態や満足度を下げうるという指摘


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