「学歴が高いほど詐欺に遭う」は、詐欺の種類で答えが変わる
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投資詐欺の被害者に、お金の知識を問う小テストを解いてもらいました。成績は、被害に遭っていない人たちより上でした。
2006年、米国の証券業界の投資家教育財団(当時の NASD Investor Education Foundation、現在の FINRA 財団)が委託した調査です。研究チームは「被害者は投資の知識が足りないはずだ」と予想していました。結果は逆で、8問の正答率は投資詐欺の被害者が57.8%、被害に遭っていない45歳以上の150人が41.0%でした。
では、学歴や知識のある人ほど騙されやすいのでしょうか。同じ調査には、もう一つの被害者グループが入っていました。こちらの正答率は31.5%で、3つのグループの中で最も低かったのです。
被害者の顔ぶれは、詐欺の種類で入れ替わる
もう一つのグループは、「宝くじに当選しました。受け取るには手数料が必要です」といった当選詐欺の被害者です。調査では、1,000ドル以上の損失を確認できた被害者165人に聞き取りをしています。
投資詐欺の被害者は、大卒以上の割合が68.6%でした。被害に遭っていない人では37.2%です。男性が多く、既婚で、収入も高い傾向がありました。
当選詐欺の被害者は、ほぼ逆の姿です。年齢が高く、一人暮らしが多く、学歴は被害に遭っていない人より低い。研究チームは、比べる被害者を1種類に絞ると、その特徴を詐欺の被害者全体に当てはめてしまう危険があると書いています。
詐欺師の側も、相手によって口上を変えていました。実際の勧誘電話の録音を分析すると、当選詐欺では配偶者を亡くした人の境遇や「人生で報われてこなかった」という思いにつけ込み、投資詐欺では自分の判断を頼りにするお金に詳しい男性向けの話し方をしていたそうです。
日本の統計も、手口ごとに被害者層が分かれています。警察庁によると、2025年の特殊詐欺(法人の被害を除く)で65歳以上が占める割合は51.3%でした。オレオレ詐欺では80代以上が最も多い。
一方、SNS型投資詐欺は9,523件、被害額1,288億円で、被害者は40代から60代が多く、件数も金額もおよそ6割が男性です。日本の統計には学歴の項目がないので、学歴との関係まではわかりません。それでも、「詐欺に遭うのは判断力の衰えた高齢者」という一つの像では、投資詐欺の被害は説明できません。
学歴の差は、「狙われる回数」でほぼ説明がつく
FINRA 財団の研究者クリスティン・キーファー氏とゲーリー・モットーラ氏は、2012年に40歳以上の米国人に行ったオンライン調査のデータで、この問題を分析しています(分析対象は約1,570人)。
年齢、性別、収入、学歴だけで投資詐欺の被害を予測すると、大卒の人は被害に遭う見込み(オッズ)が1.42倍でした。ところが、「怪しい投資話を何種類持ちかけられたか」を加えると、学歴の差は消えます。年齢、性別、収入の差も消えました。
持ちかけられた投資話が1種類増えるごとに、被害のオッズは約1.8倍になっていました。そして怪しい投資話をたくさん受け取っていたのは、年齢と収入が高く、大卒の男性でした。
つまり、学歴の高い人に投資詐欺の被害が多いのは、まず詐欺師から「お金を持っていそうな相手」として狙われやすいからだ、と読めます。調査データの分析なので因果までは断定できませんが、少なくとも「騙されやすい性格」だけで説明する必要はなくなります。
ヘッジファンドを率いた清原達郎さんも『わが投資術』で、未公開株詐欺について似たことを書いています。狙われやすいのは株式投資で成功した個人投資家で、詐欺師は立派な経歴を持っていることが多い。信頼できる友人からの紹介でも危ない、と。
警察庁も2025年の資料で、犯人側と接触してしまえば誰もがだまされるおそれがあるとして、詐欺の電話などを機械的に遮断する対策を重視しています。見抜く力を鍛える前に、そもそも話を持ちかけられる回数を減らす余地があるわけです。
知識は、防いでくれる形では働かない
気になる結果がもう一つあります。持ちかけられた回数をそろえても、被害と結びつく要因がいくつか残りました。リスクを取るのが好きなこと。典型的な危険信号を魅力的だと感じること。そして、金融の小テストの成績が高いことです。
危険信号の例は、「最低でも年50%、たいていの投資家は年110%以上稼いでいる」といった口上です。同じ財団の調査では、40歳以上の回答者の42%がこれを魅力的だと答えていました。
知識があるのに防げないのはなぜか。2006年の調査チームは3つの可能性を挙げています。知っていても肝心な場面で使わない。詐欺師に専門家として持ち上げられると、知らないと思われたくなくて厳しい質問をしにくくなる。そして、金融商品の知識と、説得の手口を見抜く力は別の技能である。チームが最も有力と見たのは3つ目でした。
自信の問題を指摘する研究もあります。中国の全国調査を使った2022年の論文(シャオ氏ら、Economics Letters)では、男性、裕福な人、学歴の高い人ほど、自分の金融知識に自信を持つ傾向がありました。実際の知識に比べて自信が過剰な人ほど、架空の投資話にある異常な高利回りを「実現できる」と答えやすかったといいます。
ただ、過信が詐欺被害の原因だと言い切れる段階ではありません。シカゴ周辺の58〜101歳の1,200人超を調べた研究では、自信過剰な人ほどリスクを取りたがる一方で、詐欺への引っかかりやすさや実際の被害とは結びついていませんでした(サマネス=ラーキン氏ら、2020年)。
『アメリカの高校生が学んでいるお金の教科書』のアンドリュー・O・スミス氏は、知的で高収入の医師である親戚夫婦が金融詐欺に遭ったことを書いています。医学の知識と、お金を守る知識は別の技能です。私の読みでは、学歴が保証するのは「ある分野で考え抜く力」までで、見知らぬ相手の口上を疑う習慣は含まれていません。
効いたのは、手口の名前を知ることだった
では何が効くのか。ランダム化比較試験で確かめた研究があります。南カリフォルニア大学のジェレミー・バーク氏らは、米国の成人2,000人を3つのグループに分けました(2022年、Journal of Economic Behavior & Organization)。3分間の動画を見る群、同じ内容を文章で読む群、何も見ない群です。
教えたのは、投資詐欺でよく使われる5つの手口でした。異常に高い利回りを約束する。本物の専門家や正規の会社を名乗る。「あなたのような人がもう大勢始めている」と言う。「今だけ」と急がせる。無料の食事や割引で借りを作らせる。
直後の調査では、動画群も文章群も、詐欺的な投資話への関心がはっきり下がりました。本物の投資話への関心はほとんど変わっていません。投資全般が怖くなったわけではなく、見分けがつくようになったと考えられます。
ただし、効果は6か月後には消えていました。保たれていたのは、3か月後に動画か文章をもう一度受け取ったグループだけです。効果が大きかったのは、もともと金融知識や認知能力の高い人でした。
知識のある人は、知識を持っているだけでは守られません。それでも手口の知識を渡されると、それをいちばんうまく使えるのも同じ人たちでした。なお、この実験で測ったのは架空の投資話への関心で、実際の被害額ではありません。
知識のある人のための、詐欺の防ぎ方
誤解:金融の知識があれば、怪しい話は見抜ける → 手口を見抜く力は、商品の知識とは別に持っておく必要があります。投資話を聞いたら、上の5つの手口に当てはまるものを数えます。たとえば「年利20%、元本保証、今月末まで、有名投資家も参加」なら、少なくとも3つが当てはまります。1つでも当てはまれば、その場で返事をしません。
誤解:判断力があるから、話を聞くだけなら大丈夫 → 被害と最も強く結びついていたのは、持ちかけられた回数でした。たとえば、SNSで知らない相手から届く投資の誘いには返信しない、未公開株の話は紹介者が誰でも断る、と先に決めておきます。固定電話なら、警察庁も案内している国際電話の着信休止を無料で申し込めます。
誤解:一度しっかり学べば、ずっと効く → 実験では、効果は半年で消え、3か月後の復習で保たれました。たとえばカレンダーに3か月ごとの予定を入れ、手口の一覧を読み直します。5分で終わります。この間隔は実験の設計から借りたもので、最適な頻度が確かめられたわけではありません。
ロバート・B・チャルディーニ氏は『影響力の正体』で、肩書きや服装のような権威の象徴は簡単に偽れるとして、従う前に「この人は本当にこの分野の専門家か」と問うよう勧めています。立派な経歴を見せられたときこそ、この問いを出す合図です。
おわりに
「学歴が高い人ほど詐欺に引っかかりやすい」は、投資詐欺に限れば、被害者の統計としては当たっています。ただし差の多くは狙われる回数で説明でき、残る差も知識の量より使い方のずれから来ていました。
賢さは、詐欺師の口上を疑う技能を自動では連れてきません。次に「あなたのような方にだけ」という話を聞いたら、手口の数を数えるところから始めてみてください。
この記事で参考にした本
『わが投資術 市場は誰に微笑むか』清原達郎さん → 未公開株詐欺は成功した個人投資家ほど狙われ、立派な経歴の詐欺師も多いという警告
『アメリカの高校生が学んでいるお金の教科書』アンドリュー・O・スミス氏 → 専門職としての賢さと、お金を守る知識は別物だという視点
『影響力の正体』ロバート・B・チャルディーニ氏 → 肩書きや服装といった権威の象徴に人が自動的に従う仕組みと、その防ぎ方
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なぜ自信があるときほど間違えるのか 自信があるときほど判断を誤る仕組みを扱ったコラムです。本記事で触れた「知識への過信」を、自分の日々の判断に引き寄せて考えられます。