本文へスキップ
ブクドリ | BOOK DRIP

午後3時に脳が鈍るのは、電池切れのせいではない

更新日:
約7分で読めます 健康・メンタル
目次

午後3時、さっき読んだはずのメールをもう一度開いている。そんなとき「脳の電池が切れたんだ」と説明されて、納得したことはないでしょうか。

この説明の根拠としてよく持ち出されるのが、「空腹の裁判官」の研究です。イスラエルの仮釈放審査で、休憩の直前には許可がほぼゼロになり、食事休憩のあとには6割台に戻ったという話です。

ところが、この研究には発表の年から疑問が出ています。そして午後の失速には、電池よりも地味で、裏付けのしっかりした説明があります。

「空腹の裁判官」は、電池切れの証拠になりきれていない

シャイ・ダンジガー氏らが2011年に米国科学アカデミー紀要(PNAS)で発表した研究です。イスラエルの裁判官8人が、10か月のうち50日間に下した1,112件の判断を分析しました。

裁判官は1日に2回、食事の休憩を取ります。休憩で区切られた審理のまとまりごとに見ると、許可の割合は最初の約65%から少しずつ下がり、休憩の直前にはほぼゼロになりました。休憩のあとは、また約65%に戻っています。

注意したいのは、これが「午前と午後」の比較ではないことです。下がっては戻る動きが、1日の中で3回繰り返されていました。

同じ年のうちに、ケレン・ワインシャル=マーゲル氏とジョン・シャパード氏が同誌で疑問を出しています。審理の順番は偶然には決まっていませんでした。審査会は一つの刑務所の案件を片づけてから休憩に入ろうとし、弁護士の付いていない受刑者は、まとまりの最後に回りがちでした。

弁護士のいない申請は、もともと許可されにくい。並び順そのものが、許可率の低下を生んでいた可能性があります。

ダンジガー氏らは、弁護士の有無を考慮しても効果は残ると応じました。ただ2016年には、アンドレアス・グレックナー氏がシミュレーションで別の弱点を示しています。許可の判断は、却下より審理に時間がかかります。裁判官が休憩前に長引きそうな案件を避けて時間を配分するだけで、疲れがなくても似た下がり方が現れ、効果の大きさは過大に見積もられていると結論づけました。

意志力は使うほど減るという「電池」の考え方そのものも、大規模な追試で効果がほとんど再現されていません。この追試については意志力で習慣が変わらない理由で扱いました。

午後の谷は、昼食ではなく体内時計が作る

では、午後の眠気はどこから来るのか。

スタンフォード大学で睡眠研究を続ける西野精治さんは『スタンフォード式 最高の睡眠』で、14時ごろに来る眠気を「アフタヌーンディップ」と呼んでいます。昼食をとってもとらなくても起こる生理現象だ、というのが西野さんの説明です。「消化に血液が回るから眠くなる」という通説とは違う見方です。

ピッツバーグ大学の睡眠研究者ティモシー・モンク氏の2005年の総説も、同じ方向を指しています。昼過ぎの能力の落ち込みは、昼に何も食べず、時刻も分からない状態に置かれた人にも起こりうる。原因は人の体の仕組みにあり、体内時計が刻むリズムの中に約12時間ごとに眠気が強まる成分があることと関係している可能性がある、とモンク氏は述べています。

ただし、留保も付いています。落ち込みが出るのは「一部の課題で、一部の人に」であり、炭水化物の多い昼食で強まり、極端な朝型の人に出やすい可能性がある、と。昼食は谷を作る原因ではなくても、谷を深くする要因にはなりえます。

マシュー・ウォーカー氏は『睡眠こそ最強の解決策である』で、人間は本来、夜の睡眠に昼寝を加える「二相睡眠」の生き物で、工業化によって夜にまとめて眠る形に変わったと書いています。午後の早い時間に眠くなるのは、体の設計どおりの反応だという見方です。

朝型か夜型かによって、頭が冴える時間帯そのものも人によってずれます。その個人差は朝のルーティンより効く、「小さな勝利」の置き場所で扱ったので、ここでは午後の谷が気合いとは別の仕組みで来るという点だけ押さえておきます。

疲れを溜めるのは、時刻より「休まず続けた時間」

午後の不調には、もう一つの要因が重なります。朝から休まずに働き続けた時間の長さです。

ヘンチェン・ダイ氏、キャサリン・ミルクマン氏らは、35の病院で働く4,157人を超える医療スタッフの手指衛生を追跡しました(2015年、『Journal of Applied Psychology』)。手を消毒すべき場面は、延べ1,370万回を超えます。

12時間勤務の始めから終わりまでに、手指衛生を守る率は平均8.7ポイント下がりました。忙しい勤務ほど下がり方は大きくなっています。そして勤務と勤務の間の休みが長いと、次の勤務では遵守率が回復していました。

この研究で落ち込みと結び付いていたのは、時計の時刻より、勤務に入ってからの時間と仕事の密度です。午後3時がつらいのは、谷の時間帯であると同時に、朝から数時間働き続けた後だからでもあります。

では、勤務中の短い休憩はどこまで効くのか。ルーマニアの西ティミショアラ大学のパトリシア・アルブレスク氏らは、10分以内の「マイクロブレイク」の効果を調べた研究を統合しました(2022年、『PLOS ONE』)。22の研究サンプル、合計2,335人分のデータです。

短い休憩は活力を高め、疲労感を減らしました。効果の大きさはどちらも小さめですが、統計的にははっきりしています。

一方で、成績全体への効果は、統計的に確かめられる水準に届きませんでした。課題別では、事務作業で中程度、創造的な課題で小さな効果が出て、頭を強く使う課題ではほぼゼロです。10分以内という枠の中でも、長めの休憩ほど成績の改善は大きくなっていました。

5分の休憩で気分が戻っても、難しい考え事の力まで戻るとは限らないわけです。

午後3時の仕事の組み方を変える

誤解:昼食を抜けば、午後も午前と同じように働ける → 谷は昼食をとらなくても来ます。炭水化物を控えめにすれば浅くなるかもしれませんが、消えはしません。

正しいアプローチ:谷の時間帯に置く仕事を選び直す → 見落としが許されない確認作業や重い判断は、谷を避けて午前か夕方に移します。まず明日の予定表を開き、14〜16時に入っている仕事を一つ確かめてください。5分で済みます。

→ 空いた谷の時間は、発想の仕事に回す手があります。アルビオン大学のマレイケ・ウィース氏とミシガン州立大学のローズ・ザックス氏は、大学生223人に、ひらめきが要る問題と、手順を追えば解ける問題を解かせました(2011年、『Thinking & Reasoning』)。

→ 自分の調子がよくない時間帯に解いた学生のほうが、ひらめき問題の正答率は高く(42%対33%)、手順型の問題では差がありませんでした。注意の絞り込みが緩むと、関係なさそうな情報まで拾いやすくなるためと考えられています。

→ ただし研究は1本で、参加者の大半は夜型の学生でした。彼らにとって調子の悪い時間帯は主に朝です。「午後はひらめきに向く」とまでは言えません。それでも、調子の悪い時間が何にも使えないわけではないことは分かります。

誤解:休憩は、疲れを感じてから取ればいい → 病院の研究では、遵守率は勤務の経過とともに平均して下がり続けていました。休憩を疲れの自覚に任せると、下がった状態のまま働く時間が延びます。

正しいアプローチ:時計で区切って休み、休憩明けは軽い仕事から戻る → たとえば90分ごとにタイマーを鳴らし、いったん席を立ちます。短い休憩で戻るのは主に活力と疲労感なので、休憩明けはメールの返信のような軽い作業から入り、重い考え事は長めに休んだ後に回します。

誤解:仮眠は長く眠るほど回復する → 30分眠ると、起きた直後はかえって頭がぼんやりします。

正しいアプローチ:午後3時に、10分だけ眠る → オーストラリアのフリンダース大学のアンバー・ブルックス氏とレオン・ラック氏は、前夜の睡眠を約5時間に制限した若者24人に、午後3時に仮眠を取らせました(2006年、『Sleep』)。眠った時間を5分、10分、20分、30分と正確にそろえて比べています。

→ 10分の仮眠は、直後から眠気、疲労感、認知課題の成績をそろって改善し、効果の一部は155分後まで続きました。5分ではほとんど効果がなく、30分では起きた直後に頭がぼんやりする時間がありました。

→ 睡眠不足の若者での結果なので、誰にでも同じ効き方をするとは限りません。ピョートル・フェリークス・グジバチ氏も『Google流 疲れない働き方』で、午後2〜3時ごろの10〜20分の仮眠を勧め、30分を超える仮眠は逆効果だとしています。たとえば寝つくまでの時間を見込んでアラームを15分後に合わせ、机で目を閉じるだけでも始められます。

おわりに

午後3時の脳は、使い物にならなくなったわけではありません。体内時計の谷に入り、朝からの疲れが重なって、向いている仕事の種類が変わっているだけです。

明日は重い判断を一つだけ午前に移し、空いた午後3時に10分、目を閉じてみてください。


この記事で参考にした本

『スタンフォード式 最高の睡眠』西野精治 → 14時ごろの眠気は、昼食の有無にかかわらず起こる「アフタヌーンディップ」だという整理

『睡眠こそ最強の解決策である』マシュー・ウォーカー → 人間は本来、昼寝を含む二相睡眠の生き物だという進化からの見方

『Google流 疲れない働き方』ピョートル・フェリークス・グジバチ → 午後の活動低下に合わせて、短い仮眠を働き方の習慣に組み込む提案


合わせて読みたい

『TIME OFF』ジョン・フィッチ氏&マックス・フレンゼル氏|休む技術が、AI時代の最強スキルになる この記事では休憩の長さとタイミングを見ました。休み方の質、つまり何をして休むと回復するのかを知りたい人に向く一冊です。

朝のルーティンより効く、「小さな勝利」の置き場所 朝型か夜型かで、頭が冴える時間帯がどれだけずれるかを研究から整理したコラムです。午後の谷と合わせて読むと、自分の1日の山と谷の配置が見えてきます。

「疲れが取れない」のは、頭がまだ職場にいるから 病院の研究では、勤務と勤務の間の休みが回復を左右していました。仕事の後にどう休めば疲れが抜けるのかを扱った記事です。