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ブクドリ | BOOK DRIP

考えるほど迷うのは、選択肢より「探し方」の問題だった

思考法・問題解決
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目次

経済学者のトーマス・シェリング氏は、子どもに百科事典を買おうとして書店に行き、何も買わずに帰ってきたそうです。棚には2種類の百科事典がありました。どちらでも満足できたはずなのに、一方に決められなかったのです。

この逸話は、心理学者のエイモス・トヴェルスキー氏とエルダー・シャフィール氏が1992年の論文で紹介しています。良い選択肢が1つ増えただけで、決めること自体をやめてしまう。考えるほど迷う現象の典型に見えます。

ところが、この「選択肢が迷いを生む」という説明は、その後の追試でかなり揺らいでいます。迷いの原因をたどっていくと、目が向くのは選択肢の側より、探し方と考え方の側です。

「選択肢が多いから迷う」は、思ったより弱い説明

トヴェルスキー氏らの実験は、よくできていました。大学生に「一日限りのセールで、ソニーのCDプレーヤーが99ドル」という場面を示すと、「もう少し調べてから決める」と答えたのは34%でした。

ところが、上位機種のアイワ製が159ドルで並ぶ場面にすると、先送りは46%に増えました。明らかに見劣りする機種を並べた場面では24%です。先送りを増やしたのは選択肢の数そのものより、甲乙つけがたい選択肢同士の「葛藤」だ、という解釈でした。

1995年には、ドナルド・レデルマイヤー氏とシャフィール氏が医師で同じ構図を示しています。股関節の変形性関節症に悩む患者の架空事例で、まだ試していない薬が1種類あると伝えると72%の家庭医が処方を選び、2種類あると伝えると53%に下がりました。

ただ、2023年にイオアニス・エヴァンゲリディス氏らが、この系統の研究を40件、合計2万6,703人の規模で追試したところ、葛藤を強めると先送りが増えるという関係は安定して再現されませんでした。論文は、先行研究の再現性に疑問を投げかける結果だとまとめています。

選択肢の多さが購買を減らすとしたジャムの実験も、その後のメタ分析では平均的な効果がほぼゼロとするものと、条件次第で効果が出るとするものに分かれています。

同じ選択肢を前にしても、すぐ決める人と迷い続ける人がいます。比較的一貫した結果が出ているのは、こちらの個人差を調べた研究です。

迷いを長引かせるのは、「最高を望む」より「探し続ける」こと

心理学者のバリー・シュワルツ氏らは2002年、常に最善の選択肢を求める傾向を「最大化」と呼び、「十分に良いもの」で手を打つ「満足化」と対比しました。満足化は、経済学者ハーバート・サイモン氏が1950年代に提唱した考え方です。

シーナ・アイエンガー氏とシュワルツ氏らの2006年の研究は、この傾向の二面性をよく示しています。就職活動をする大学4年生を1年にわたって追うと、最大化傾向の強い学生は、弱い学生より初任給が20%高い職に就きました。

それなのに、得た仕事への満足度は低く、就職活動の間も否定的な感情を多く経験していました。分析では、外部の情報に頼る度合いと、選ばなかった選択肢へのこだわりがこの差を生んでいました。

その後、最大化は2つの要素に分けて考えられるようになります。「最善を選びたい」という目標と、「選択肢を網羅的に探して比べる」という戦略です。

ネイサン・チーク氏とアンドリュー・ウォード氏が2019年に報告した5つの研究(計1,479人)では、目標は選択への前向きな経験と結びつき、否定的な経験と結びついていたのは探し続ける戦略のほうでした。

どれも相関を見た研究なので、因果までは言えません。それでも示唆ははっきりしています。たとえば転職で「一番良い会社に行きたい」と思うのはやめなくていい。問題になりやすいのは、候補が見つかるたびに「もっと良いところがあるかも」と探索を再開する探し方です。

「なぜ決められないのか」を考えるほど、決断は遠のく

迷っているとき、頭の中で「なぜ自分は決められないのか」という問いが回り続けることがあります。考えているつもりでも、この種の思考は判断を前に進めにくいようです。

アンドリュー・ウォード氏、ソニア・リュボミアスキー氏、スーザン・ノーレン=ホークセマ氏らは2003年、嫌な気分や問題を繰り返し考え込む傾向(反すう)が特に強い学生35人と特に弱い学生35人に、大学の住居制度の改善案を考えてもらいました。

反すう傾向の強い学生は、自分の案への満足や自信が低く、実行を約束する度合いも低めでした。案を説明する場面で「もっと時間が必要だ」と自分から口にしたのは、反すう傾向の強い学生で35人中10人、弱い学生では1人でした。

時間を欲しがるのに、その時間で確信が増すわけではない。

論文は、反すうが不確かさを高め、それがさらなる反すうと行動のまひを招くと考察しています。ただし満足度の差が出たのは一部の学生に限られ、規模も小さな研究です。

では、考えること自体をやめればいいのか。英国の臨床心理学者エドワード・ワトキンス氏は、考え方の「型」に注目しました。2005年の実験では、うつ病の患者40人と、うつ病になったことのない40人を対象に、症状について抽象的に「なぜ」を考える条件と、具体的に「どう起きているか」を考える条件を比べています。

具体的に考えた条件では、うつ病の患者の対人的な問題解決の成績が改善しました。対象が臨床群なので一般化には注意が要りますが、ワトキンス氏は2008年の総説でも、繰り返し考えることが役に立つか害になるかを分ける要因の一つに、抽象的か具体的かを挙げています。

迷いを短くする、探し方の変え方

内田和成さんは『仮説思考』で、すべてを調べてから結論を出す「網羅思考」を、意思決定を遅らせる原因として退けています。先に「仮の答え」を置き、それを確かめるのに必要な情報だけを集めるやり方です。最大化の研究に重ねると、目標を下げずに探索の範囲を絞る方法と読めます。

ジョセフ・グエン氏は『考えすぎてしまう人のための決める練習』で、80%の確信があれば決めて、残りは動きながら埋める「80%ルール」を勧めています。明確さは決断した後についてくる、というのが著者の主張です。研究で示された結論とは別の、著者の提案です。それでも、反すうの研究と同じ方向を向いています。

誤解:迷ったら、もっと比較すれば決められる → 比べる対象を増やすほど、「もっと良いものがあるかも」という探索が続きます。迷いを長引かせるのは、基準の高さよりこの探し方のほうでした。

やること1:探し始める前に「これを満たせば決める」条件を決める → たとえば転職なら「年収が今以上」「通勤1時間以内」「職種を変えられる」の3つです。満たす候補が出た時点で比較をやめます。条件を決めるだけなら5分でできます。

やること2:比べる候補の数か、決める日を先に置く → 「3社まで」「金曜の夕方に決める」のように、探索の終わりを先に決めます。チーク氏らも、最善を求める人は、評価が最も高い商品を選ぶといった別の探し方に変えるだけで、選択への満足を高められる可能性があると述べています。

やること3:「なぜ決められないのか」を「何がわかれば決められるか」に言い換える → 答えが「A社の実際の残業時間」なら、次にやることはその会社の社員1人に話を聞くことです。問いを具体的な確認作業に変えると、迷っている時間が行動の準備に変わります。

おわりに

考えるほど迷うとき、足りないのはたいてい情報ではなく、探索を終える条件です。

次に迷ったら、選択肢を比べる前に「何を満たせば決めるか」を一つだけ決めてみてください。最善を目指すのは、それからでも遅くありません。


この記事で参考にした本

『仮説思考』内田和成さん → 網羅的に調べてから結論を出すのをやめ、仮の答えから必要な情報だけを集める考え方

『考えすぎてしまう人のための決める練習』ジョセフ・グエン氏 → 完璧な確信を待たずに決める「80%ルール」と、明確さは決断の後に来るという視点


合わせて読みたい

『仮説思考』内田和成さん|「情報を集めてから考える」が、一番遅い 本記事の「探索の範囲を絞る」を、仕事の進め方として体系立てた一冊の要約です。仮の答えを置いてから検証する手順を具体的に確かめられます。

『Chatter(チャッター)』イーサン・クロス氏|頭の中のひとりごとを、最高のコーチに変える科学 頭の中で同じ問いが回り続ける状態を、心理学の研究から扱った一冊です。「なぜ決められないのか」が止まらないときの対処を、別の角度から学べます。

意見を変えられる人が、いちばん正確になる 仮の結論を置き、新しい証拠に合わせて少しずつ更新するベイズの発想を扱ったコラムです。「まず決めて、動きながら確かめる」を支える考え方として読めます。