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ブクドリ | BOOK DRIP

同じデータを見ているのに、違う答えが出る理由

約5分で読めます 思考法・問題解決
目次

2013年、ハーバード大学のトラフトン・ドリュー氏らが行った実験があります。

24人の放射線科医に、肺のCTスキャン画像を見せて、がんの疑いがある結節を探してもらいました。ただし、最後の画像にはマッチ箱ほどの大きさのゴリラのシルエットが紛れ込ませてありました。平均的な結節の48倍の大きさです。

結果、83%の放射線科医がゴリラに気づきませんでした。アイトラッキングで確認すると、多くの医師はゴリラのある場所を「見ていた」にもかかわらず、です。

専門家であればあるほど、見えなくなるものがある。この事実は、「なぜ同じ情報を見ているのに、違う結論にたどり着く人がいるのか」という問いへの重要なヒントを含んでいます。

「見る」と「見える」は違う

私たちは「分析力を高めれば、正しい答えにたどり着ける」と思いがちです。データを集め、整理し、ロジカルに考える。確かに、これは知的生産の基本です。

でも、同じデータを渡されて、まったく違う結論を出す人がいる。しかも、その結論のほうが的を射ていたりする。

この差は、分析力の差ではありません。「何を見るか」の差です。

金光隆志さんは著書の中で、考えることの本質は「パターン認識」だと指摘しています。人は、新しい情報に接したとき、過去の経験や知識に基づいてパターンを見出そうとする。これ自体は正常な認知プロセスです。

問題は、パターン認識には2つのルートがあるということです。

ひとつは「適用的パターン認識」。既存のモデルやフレームワークを当てはめて、情報を理解するルートです。MBA的な分析はこちらに該当します。

もうひとつは「発見的パターン認識」。既存のモデルでは説明できない何かに気づき、新しい切り口でモデル化するルートです。

金光さんによれば、戦略コンサルタントの上位5%は、後者の「発見的パターン認識力」が圧倒的に高い。同じデータを見ていても、既存の枠に当てはめるのではなく、「あれ、これは既存の説明では辻褄が合わない」と引っかかるセンサーが強いのです。

「引き出し」の数が、見えるものを変える

では、発見的パターン認識力は生まれつきの才能なのか。

内田和成さんは著書『アウトプット思考』の中で、面白いメタファーを使っています。「頭の中に20の引き出しを作れ」。

これは、仕事のテーマ、プライベートの関心、将来伸ばしたい専門性──合計20ほどの「仮想フォルダ」を頭の中に持っておくという考え方です。新聞を読んでいるとき、人と話しているとき、「これはあの引き出しに入れておこう」と意識的に情報を振り分ける。

すると何が起きるか。情報に接したときのアンテナの感度が上がるのです。

たとえば「ゲームチェンジ」という引き出しを持っていれば、携帯電話業界でノキアが姿を消した話を聞いたとき、自動車業界のトヨタに同じ構造がないか、と自然に考えるようになる。別の業界の事例が、自分の仕事のヒントに化ける。

これ、逆に言うと、引き出しがなければ同じ情報に接しても何も引っかからない、ということです。

放射線科医がゴリラを見逃したのと構造は同じです。「結節を探す」という引き出ししか開いていないから、48倍のゴリラが見えない。人は、自分が持っている引き出しの数だけ、世界が見える。

正直に言うと、私もこの感覚を経験しています。興味のないテーマの記事は文字が目に入っても何も残らないのに、関心のあるテーマだと些細な一文から連想が広がる。見ているものは同じはずなのに、受け取る量がまるで違う。

「視」を変えるという技術

山口周さんは『外資系コンサルの知的生産術』の中で、思考が行き詰まったときに「視」を変えるアプローチを紹介しています。

視野を広げる。 短期的な業績だけでなく、過去数十年の歴史的変遷に目を向けてみる。あるいは、他国での類似事例を調べてみる。時間軸や空間軸を広げることで、それまで見えなかったパターンが浮かび上がることがあります。

視点を変える。 「競合」を敵としてだけ見るのではなく、「共に市場を作るパートナー」として捉え直してみる。ひとつの事象を裏側から見ることで、新しい戦略が見えてくる。

視座を上げる。 一担当者の立場ではなく、経営者の立場、あるいは業界全体の立場から眺めてみる。問題のスケール感が変わると、解決策のスケール感も変わります。

ただし、山口さんも指摘していますが、この「視を変える」は意識しないと発動しません。人は放っておくと、いつもの視野、いつもの視点、いつもの視座で物事を見続ける。だからこそ、意図的に切り替えるトレーニングが必要になります。

たとえば、会議で自分の分析を発表する前に、30秒だけ「この結論を、まったく別の立場の人が見たらどう思うか」と想像してみる。これだけで、見落としに気づくことがあります。

明日から変えられること

誤解:もっとデータを集めれば、正しい答えにたどり着ける → データの量が足りないのではなく、データを見る「枠」が足りないことのほうが多い。新しいデータを集める前に、「自分はいま、どの引き出しでこのデータを見ているか」を自問してみてください。

誤解:分析のフレームワークを覚えれば、思考力が上がる → フレームワークは「適用的パターン認識」を効率化するツールです。それ自体は有用ですが、フレームワークに当てはまらないものを見逃すリスクもある。フレームワークで整理した後に、「この枠に入らなかったものはないか?」と確認する習慣をつけてください。

誤解:専門性を深めれば、より良い判断ができる → 専門性は強力な武器ですが、同時にバイアスの源泉にもなります。ハーバードの実験が示すように、専門家だからこそ見えなくなるものがある。自分の専門領域について考えるとき、あえて異分野の事例を1つ持ち込んでみる。この「越境」が、発見的パターン認識の起動スイッチになります。

おわりに

同じデータから違う答えが出るのは、頭の良さの差ではありません。

「何を探しているか」が違うだけです。そして、何を探せるかは、自分の中にどれだけの引き出しを持っているかで決まる。

引き出しは、意識して増やせます。見える世界は、自分で広げられる。


この記事で参考にした本

『戦略コンサルのトップ5%だけに見えている世界』金光隆志 → パターン認識には「適用的」と「発見的」の2ルートがある。トップ5%は後者が圧倒的に強い

『アウトプット思考』内田和成 → 「20の引き出し」を頭の中に作り、情報への感度を意図的に上げる技術

『外資系コンサルの知的生産術』山口周 → 視野・視点・視座を意識的に変えることで、同じ情報から異なる洞察を引き出す方法論


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