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安定した会社を選ぶと、成長は止まるのか

キャリア・働き方
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目次

居心地はいい。上司も優しい。それなのに、辞めたい。大手企業に入って数年の若手のあいだで、こうした声が調査の数字にはっきり表れるようになりました。

リクルートワークス研究所の古屋星斗さんは2022年3月、従業員1,000人以上の企業に入った大卒以上の1〜3年目を調査しました。「職場がゆるい」に当てはまると答えたのは36.4%です。

その人たちの62.6%が、「このまま所属する会社の仕事をしていても成長できない」と感じていました。「すぐにでも退職したい」と「2・3年は働き続けたい」を合わせると57.2%で、ごく短い在職しか思い描いていません。

では、厳しい職場へ行けばいいのか。同じ調査で「すぐにでも退職したい」がいちばん多かったのは、職場を「ゆるいと感じない」人たちで、29.7%でした。

安定を選ぶと伸びない。厳しすぎても続かない。研究を並べてみると、この板挟みをほどく手がかりは、会社の安定とは別のところにありました。

「安定か、挑戦か」は、2本の軸を1本にまとめている

「成長したいなら安定を捨てろ」という助言は、会社の安定と仕事の難しさを、1本の物差しの両端に置いています。

でも、この2つは測っているものが違います。倒産しにくさや福利厚生は会社の性質で、就職先を選ぶ時点で調べられます。今年任された仕事に、やったことのない要素がいくつ入っているかは仕事の性質で、配属先と上司しだいで年ごとに変わります。

たとえば同じ大企業の同期でも、毎年新しい取引先の立ち上げを任される人がいれば、3年間同じ定型業務を回している人もいます。会社の安定度は2人とも同じです。

エイミー・エドモンドソン氏は『恐れのない組織』で、職場を2本の軸で分けました。心理的安全性と、業績への基準です。

安全性が高く基準が低い職場は「快適ゾーン」、基準が高く安全性が低い職場は「不安ゾーン」。両方が高いときにだけ、人が学び合い、難しい仕事をやり遂げる「学習ゾーン」になる、という整理です。

エドモンドソン氏が扱ったのはチームの風土で、会社選びの話ではありません。ただ、構造はよく似ていると私は考えます。ゆるい職場は快適ゾーンに、厳しいだけの職場は不安ゾーンに近い。冒頭の調査で、両極の若手がそれぞれ辞めたがっていたことともかみ合います。

この見方に立つと、雇用の安定は成長の敵とは限りません。失敗しても職を失わない安心は、難しい仕事に手を挙げる余裕にもなりえます。伸びが止まるのは、安定の上に難しい仕事が載っていないときです。

数年後の差は、1年目に任された仕事と重なっていた

仕事の難しさが成長を左右するかどうかは、半世紀以上前から調べられてきました。

デイビッド・ベルリュー氏とダグラス・ホール氏は1966年、ある大企業グループの2つの会社で、管理職として入社した人たちのキャリアを6〜7年追いました。入社1年目の仕事がどれだけ挑戦的だったかは、その後の業績や成功と強く結びついていました。

ただし、一方の会社では、1年目の難しさより1年目の業績のほうが、後の成功をよく予測していました。「1年目の仕事ですべてが決まる」とまでは言えません。

もう少し新しい研究もあります。リサ・ドラゴーニ氏らは2009年、キャリア初期の管理職について、本人以外の評価者も含むデータを分析しました。

担当してきた仕事が成長につながる性質のものだったかどうかは、最終的に到達した能力と結びついていました。しかもその関連は、在職年数で説明できる分を上回っていました。年数を重ねることより、何を任されたかのほうが効いていたわけです。

大きな会社が、これを意図して仕組みにしている例もあります。ユニクロの人材育成機関で担当役員を務めた宇佐美潤祐さんは『リード・ザ・ジブン』で、同社の「大きい服を着せる」育成を紹介しています。

身の丈よりだいぶ大きな役割を若手に与え、もがく経験を通じて脱皮させる方法です。たとえば、国内営業で力を発揮していた人を、海外経験も英語力もないままロシア事業のCOOに据えた例が書かれています。

宇佐美さんは同時に、日本企業で若手の抜擢を阻むものとして「同期横並び意識」を挙げています。同じ会社にいても、難しい仕事が回ってくる人と回ってこない人がいる。成長の差は、会社と会社のあいだより先に、同じ会社の中で開くのかもしれません。

難しすぎる仕事は、見てくれる人がいないと伸びが鈍る

では、仕事は難しければ難しいほどいいのか。そうとも限りません。

スコット・デリュー氏とネッド・ウェルマン氏は2009年、管理職60人が経験した225件の仕事を分析しました。仕事が難しくなるほどリーダーシップの技能は伸びましたが、その伸びは次第に鈍っていきました。難しさを上げたぶんだけ伸びるわけではなかったのです。

この頭打ちを和らげていたのが、フィードバックを得られる環境でした。周りから仕事ぶりについて反応をもらえる状況にいた人は、とても難しい仕事からも伸びを引き出せていました。

冒頭の調査で、ゆるいと感じない若手に「すぐにでも辞めたい」が多かったことも、この結果と重ねて読めます。難しさだけがあって振り返りを手伝う人がいなければ、仕事は試練のまま終わってしまいます。

ユニクロの例も、服を大きくするだけではありませんでした。宇佐美さんは、部下の成長に全身全霊で伴走する「めんどくさい上司になる」ことを、上に立つ人に求めています。

熊平美香さんは『リフレクション』で、経験から学ぶ深さを4つの段階に分けています。結果、他者や環境、自分の行動、自分の内面の順に深くなります。

難しい仕事ほど、「相手が悪かった」「時期が悪かった」の段階で振り返りが止まりやすくなります。自分の行動と内面まで一緒に降りてくれる相手がいるかどうかで、同じ経験から持ち帰れるものが変わります。

会社の看板より、仕事の中身と見てくれる人を確かめる

よくある誤解:成長したいなら、安定した会社を離れるしかない → 数年後の差と重なっていたのは、任された仕事の難しさでした。安定した会社にも、難しい仕事はあります。

もう一つの誤解:厳しい環境に飛び込めば、勝手に伸びる → 難しさの効き目は次第に鈍ります。フィードバックがなければ、伸びないまま消耗することもあります。

正しいアプローチ:「今年初めてやること」と「見てくれる人」を組にして確保する

リーダー育成の研究機関CCLのシンシア・マッコーリー氏は、人を伸ばす仕事の要素を整理し、職を変えなくてもそれを手に入れる方法があると論じています。挙げられている要素には、未経験の責任、前任者から引き継いだ問題、影響の大きさ、権限のない相手への働きかけなどがあります。これを手がかりに、次の3つから始められます。

1. 今の担当業務を4つの要素で点検する 5分でできます。未経験の責任、引き継いだ問題、影響の大きさ、権限のない相手。今年の担当業務に当てはまるものに印をつけます。1つもなければ、会社がどれほど安定していても、仕事の面では快適ゾーンにいます。

2. 足りない要素を1つだけ、今の職場で取りに行く たとえば、誰も手をつけていない他部署との調整を引き受けます。引き受けるときに、上司か先輩へ「2週間後に15分、進め方を見てほしい」と頼んでおきます。難しさとフィードバックを、最初から組にしておくわけです。

3. 転職を考えるなら、面接で「最初の1年」を聞く 福利厚生や研修制度より先に、入社1年目に任される仕事と、その仕事ぶりを誰がどのくらいの頻度で見てくれるのかを聞きます。ベルリュー氏らの研究が注目したのも、その最初の1年でした。

おわりに

「安定を選んだから伸びなかった」と振り返りたくなったとき、見直す対象は会社の看板より、この1年に何を任され、誰がそれを見ていたかのほうです。

今週、手帳に1行だけ書いてみてください。「今年、初めてやったことは何か」。空欄なら、次に手を挙げる仕事の条件は、もう決まっています。


この記事で参考にした本

『恐れのない組織』エイミー・C・エドモンドソン → 心理的安全性と業績基準の2軸で、快適ゾーン、不安ゾーン、学習ゾーンを分ける見方

『リード・ザ・ジブン』宇佐美潤祐 → 身の丈より大きな役割を与える「大きい服を着せる」育成と、そこに伴走する上司の役割

『リフレクション』熊平美香 → 経験からの学びを、結果、他者と環境、自分の行動、自分の内面の4段階で深めていく考え方


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