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「もう歳だから」が当たる能力と、外れる能力

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約6分で読めます 健康・メンタル
目次

情報を処理する速さは、18〜19歳ごろに頂点を迎えます。一方で、語彙の多さが頂点に来るのは60代後半から70代前半です。

同じ頭の中で、ピークが50年もずれているわけです。

「もう歳だから覚えられない」という言葉は、半分は当たっています。ただ、残りの半分は外れています。「脳は何歳でも成長する」と言い切る話も、同じくらい外れています。

どの能力が、いつ、どれくらい変わるのか。分かっていることと、まだ決着していないことを分けて見ていきます。

落ちるのは「速さ」、伸びるのは「蓄え」

冒頭の数字は、ジョシュア・ハーツホーン氏とローラ・ジャーミン氏が2015年に発表した研究のものです。

2人は約4万8千人がオンラインで受けた認知テストと、標準的な知能検査の基準データを合わせて、能力ごとに成績が最も高くなる年齢を調べました。先に下がり始めるのは、次の3つです。

  • 情報処理の速さは18〜19歳でピークを迎え、すぐに下がり始める
  • 短期記憶は25歳ごろまで伸び、35歳ごろから下がる
  • 顔を覚える力は30代前半まで伸び、その後ゆるやかに下がる

一方で、ずっと遅くまで伸びる能力もあります。

  • 表情から他人の感情を読み取る力は、40代から50代でピークになる
  • 語彙は60代後半から70代前半まで伸び続ける

語彙のピークは、以前の知能検査のデータでは40代後半とされていました。新しいデータで遅く出たのは、世代による差が混じるためだと著者らは見ています。年齢の違う人を一度に比べた研究なので、この点は割り引いて読む必要があります。

ハーツホーン氏は「どの年齢でも、うまくなっていくこと、下手になっていくこと、横ばいのことがある。ほとんどの能力で同時にピークにいる年齢は、たぶん存在しない」とコメントしています。

アルバロ・フェルナンデス氏らの『脳を最適化する』も、この分け方で整理しています。処理速度やワーキングメモリのような、その場で新しい問題を解く力は20代後半から30代前半に下がり始めます。語彙やパターン認識のような、経験で積み上がる力は年齢とともに伸びやすい。前者を流動性知能、後者を結晶性知能と呼びます。

「若い頃のようにすぐ覚えられない」と感じるのは、たいてい前者の話です。たとえば、初めて聞いた人名を10秒後に言えるかどうかは、速さと短期記憶の勝負になります。ここで若い人に負けるのは、気のせいではありません。

「20代から衰える」と「60歳まで衰えない」は、測り方の違いだった

では、衰えはいつ始まるのか。ここは研究者の間でも見解が割れてきました。

ティモシー・ソルトハウス氏は、18歳から60歳までの成人を比べた研究で、処理速度と空間を思い描く力には、18歳と60歳の間に標準偏差1つ分ほどの差があると報告しました。12の指標のピークはどれも22〜27歳で、ソルトハウス氏は「一部の能力の衰えは20代から30代に始まる」と結論づけています。

これに反論したのが、シアトル縦断研究を率いたK・ワーナー・シャイエ氏です。1956年に始まったこの研究は、6千人以上の大人を7年ごとに追いかけてきました。同じ人を追うと、言葉の意味を理解する力や推論する力は、40代から60代前半まで頂点の水準を保っていました。

食い違いの原因は、測り方にあります。年齢の違う人を一度に比べる方法だと、生まれた時代による教育や環境の差まで「年齢の差」に見えてしまいます。一方、同じ人を何度も測る方法だと、テストに慣れた分だけ成績が上がり、衰えが隠れます。ソルトハウス氏は後者を、シャイエ氏は前者を問題にしていました。

ただし、縦断研究でも衰えが無いわけではありません。シアトル縦断研究で統計的にはっきりした低下が最初に出るのは、空間の力、計算の力、知覚の速さで、60歳までに現れます。帰納的に推論する力は67歳まで、言葉の力と言葉の記憶は74歳まで持ちこたえていました。

この研究には、もう一つ見逃せない集計があります。60歳までに、ほぼ全員が5つの能力のうち少なくとも1つで明らかに低下していました。ところが88歳になっても、5つすべてが落ちた人はほとんどいなかったのです。

「歳をとると頭が衰える」は、どれか1つの能力については正しく、全部については間違っている。今の研究から言えるのは、ここまでです。

何歳でも学べる。ただし、効くのは「初心者になる学び」だった

よく引かれる根拠に「大人の脳でも神経細胞は新しく生まれ続ける」という話があります。実は、ここは決着していません。

2018年、数週間違いで正反対の論文が出ました。ショーン・ソレルズ氏らはNature誌で、18〜77歳の大人の海馬からは若い神経細胞を見つけられなかったと報告しました。マウラ・ボルドリーニ氏らはCell Stem Cell誌で、14〜79歳の脳で未熟な神経細胞が年齢を問わず数千個見つかったと報告しています。どちらも脳の組織を染めて顕微鏡で数えた研究で、論争は今も続いています。

神経細胞が増えるかどうかとは別に、学ぶことで認知機能が変わるかどうかは、実験で確かめられています。

デニス・パーク氏らが2014年に発表したシナプス・プロジェクトでは、60〜90歳の221人が、約3か月にわたって決められた活動に取り組みました。中心は、デジタル写真かキルト、またはその両方を、未経験の状態から講師について学ぶグループです。写真のグループは、撮影と画像編集ソフトの使い方まで習いました。学ぶ時間は週に平均16.5時間でした。

比較のグループは、2種類です。仲間と料理やゲーム、映画、遠足を楽しむグループと、自宅でドキュメンタリーやクラシック音楽、クロスワードのような知識で解けるパズルに取り組むグループでした。どちらも、すでに持っている知識で楽しめるように組まれていました。

3か月後、エピソード記憶が伸びていたのは、新しい技能を学んだグループでした。仲間との交流を続けたグループには、目立った効果が見られませんでした。一方で、処理速度はどのグループでも変わっていません。

参加者は健康なボランティアで、週16時間はかなりの量です。この1つの研究で一般化はできません。それでも、学びの中身によって結果が分かれた点は、フェルナンデス氏らの主張とも重なります。慣れたパズルを毎日解いても、慣れた時点で脳への負荷が消える、という指摘です。

年齢に合わせて、学び方のほうを変える

ここまでの研究から言えるのは、学ぶ力がゼロになるわけではない、ということまでです。変えるべきなのは学び方のほうです。

誤解:慣れた活動を続けていれば、頭は衰えない → シナプス・プロジェクトで記憶が伸びたのは、未経験の技能を講師について学んだグループでした。たとえば、読書が好きな人なら読む冊数を増やすより、写真や楽器、プログラミングのように、最初は手も足も出ない分野を1つ選ぶほうが実験の条件に近くなります。

誤解:若い頃と同じやり方で、速く詰め込めばいい → 速さは20代から下がる能力です。一方で、手持ちの知識は武器になります。マーガレット・ベイアー氏とフィリップ・アッカーマン氏は、19〜68歳の199人に心臓病とコピー機の仕組みを学ばせました。新しい知識をどれだけ身につけたかを予測したのは、事前の知識と能力で、結晶性知能は映像教材からの学習と直接関係していました。

たとえば会計を学び直すなら、教科書の1章から始めるより、自分の会社の決算書を開き、知っている数字から用語を覚えていく。そのほうが、蓄えの側の力を使えます。これは研究から私が引き出した解釈で、この方法そのものを検証した研究ではありません。

加藤俊徳さんは『一生頭がよくなり続ける もっとすごい脳の使い方』で、中高年のド忘れについて「落ちているのは記憶力ではなく、検索力」と書いています。加藤さんの説明では、経験が増えるほど記憶の倉庫が満杯になり、探し出すのに手間取るようになる。そこで加藤さんは、復習して記憶を取り出す練習を勧めています。

今日すぐできることも1つあります。「もう歳だから」と言いかけたら、それが速さの話か、蓄えの話かを一行でメモしてみてください。たとえば「人の名前がすぐ出ない」は速さの側、「業界の話についていけない」は蓄えの側です。後者なら、年齢は言い訳になりません。

おわりに

年齢で落ちる能力は、たしかにあります。それを認めたうえで、何を学ぶかと、どう学ぶかを選び直す。「もう歳だから」と言いたくなったら、それを学び方を変える合図にしてみてください。


この記事で参考にした本

『脳を最適化する ブレインフィットネス完全ガイド』アルバロ・フェルナンデス氏ほか → 流動性知能と結晶性知能の違い、慣れたパズルでは負荷が消えるという指摘

『一生頭がよくなり続ける もっとすごい脳の使い方』加藤俊徳さん → 中高年のド忘れを「検索力」の問題として捉え、取り出す練習につなげる視点


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