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ブクドリ | BOOK DRIP

「有能な問題児」のコストは、本人の成績表に載らない

リーダーシップ・組織
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目次

「あの人が辞めたら、数字が回らない」。この一言で、職場の無礼が何年も見逃されることがあります。

営業成績はトップで、専門知識も社内で一番。ただし会議で若手の発言をさえぎり、気に入らない相手には返信をしない。

沢渡あまねさんと伊達洋駆さんは『ブリリアント・ジャーク』で、こうした人を「仕事の能力は高いが、協調性がなく周囲に悪影響を及ぼす人」と呼んでいます。

多くの職場は、この人を手放せません。冷たいからでも、鈍いからでもありません。成果とコストが、別々の帳簿に、別々の速さで記録されるからです。

成果は本人の欄に、コストは他人の欄に載る

有能な問題児の成果は、本人の名前で、四半期ごとに数字で残ります。売上、受注件数、納品数。評価会議の資料では、いつも上のほうに名前があります。

一方、コストはどこに載るでしょうか。たとえば、その人の下で働いた若手が1年後に辞めたとします。退職届に書かれるのは「一身上の都合」で、上司の名前は書かれません。

萎縮して提案をやめた中堅も、協力を頼まれなくなった隣の部署も、記録には残りません。損失は他人の欄に、時間差で、少しずつ散らばって積もります。

しかもブリリアント・ジャークは、上には従順なことが多いと同書は指摘します。経営から見えるのは礼儀正しい稼ぎ頭で、現場が見ている顔とは違います。

沢渡さんらは、手放せなさを強める仕組みも挙げています。1つは、過去の貢献で積み上がった信頼の貯金です。心理学で特異性信頼と呼ばれるもので、多少の逸脱を「功労者だから」と許す免罪符になります。

もう1つは属人化です。業務を一人で抱え込み、「あの人がいないと回らない」状態をつくると、それ自体が権力になります。

同書の事例では、発注業務をブラックボックスにした課長の言動を、役員が「彼がいなくなれば発注が止まる」と黙認しました。その先に起きたのは、部下の連鎖退職と異物混入事故です。黙認の代償は、本人の成績表とは別の場所で払われました。

天才を1人採るより、有害な1人を避けるほうが効く

では、別の欄に載るコストはどれほどの大きさなのか。この非対称に数字を当てた研究があります。

マイケル・ハウスマン氏と、ハーバード・ビジネス・スクールのディラン・マイナー氏は2015年、11社、5万人を超える従業員のデータを分析しました。

ここで「有害な社員」とは、セクハラ、職場での暴力、書類の改ざん、詐欺といった重大な規程違反で解雇された人を指します。

結果は意外なものでした。有害な社員は平均より仕事が速く、こなす量も多かったのです。品質は低めで、それを加味すると生産性が高いとは言えません。それでも量で目立つので、組織に残りやすい。

そのうえで2人は、有害な社員を1人避ける効果と、優秀な社員を1人雇う効果を金額で比べました。前者は約1万2,500ドル。上位1%のスーパースターを雇う効果は約5,300ドルで、差は2倍を超えました。

しかも1万2,500ドルは、有害な社員のせいで辞めた周りの人を補充する費用だけです。訴訟、罰金、士気の低下、新人が仕事を覚えるまでの時間は含まれていません。論文自身が、下限の推定だと断っています。

注意点もあります。この研究の「有害」は解雇に至った極端なケースで、日常の無礼な態度とは重なりきりません。論文も、別の環境では差がここまで大きくないかもしれないと書いています。

それでも、向きはNetflixの考え方と一致します。同社は企業文化をまとめた資料、カルチャー・デックでブリリアント・ジャークを許容しないと宣言しました。その理由として『ブリリアント・ジャーク』が引くのが、「チームワークを犠牲にするコストは、一人の天才を失うそれより遥かに大きい」という一文です。

毒は伝染し、原因は樽の側にある

コストが本人の外に出る道は、もう1つあります。周りがまねをし始めることです。

ハウスマン氏らの分析では、有害な同僚と接する度合いが高い人ほど、本人も同じ理由で解雇されやすくなっていました。接触の度合いが一定幅(1標準偏差)上がるごとに、その確率は約46%高まっています。

実験でも似た現象が確認されています。ウィル・フェルプス氏らは、4人のチームに問題行動をとる役者を1人だけ混ぜ、課題に取り組ませました。チーム全体の成績は下がり、ほかのメンバーも役者の振る舞いをまね始めたそうです。

『ブリリアント・ジャーク』の事例も、伝染を描いています。上層部が無礼な実力者を黙認した会社では、若手が「この会社で偉くなるには無礼さが必要だ」と学び、小さなジャークが増えていきました。

著者の2人は、原因を個人より環境に求めます。腐ったリンゴを取り除いても、樽が汚れていれば新しいリンゴも腐る。樽にあたるのは、成果(What)だけを評価し、どう成果を出したか(How)や他者への支援を見ない評価制度です。

たとえば、対応した件数だけで評価される支社の事例があります。支社長は誰も怒鳴らず、残業も少なく、職場は一見ホワイトでした。

ただ支社長は「育成に時間を使うのは非効率」と計算して新人を放置し、新人は定着しませんでした。数字のうえでは優秀な管理職です。怒鳴る人だけが問題児とは限らず、放置もまた周囲を消耗させるやり方の1つです。

手放せない理由を、一つずつほどく

ここまでを踏まえると、打ち手は本人の説得より、帳簿の付け方を変える側に寄ります。

誤解:本人を変えるか、辞めさせるかの二択だ → 正しいアプローチ:まず「人質」を取り返す

ここで効くのが、仕事という名の人質を奪還するという提案です。その人が抱え込んだ業務を手順書にする、もう一人を付ける、タスク単位で切り出す。

たとえば月次の発注作業を、一度だけ隣の人と並んでやってもらう。それだけでも「いないと回らない」状態は崩れ始めます。辞めても回る状態ができてはじめて、言動について対等に話せます。

誤解:成果を出しているのだから、評価は正当だ → 正しいアプローチ:評価表にHowの欄を足す

評価面談で「この半年で、あなたがいなくても回るようになった仕事は何ですか」と1問加えるだけでも、見える範囲が変わります。

本では、感謝を送り合う仕組みや、協調性を問う設問を入れた職場サーベイも挙がっています。どれも、他人の欄に散っていた貢献とコストを、名前の付いた記録に戻す工夫です。

誤解:言い方がきつい人は、みなブリリアント・ジャークだ → 正しいアプローチ:相手によって態度を変えるかで見分ける

同書によれば、ジャークの無礼には「相手によって態度を変える意図的な選別」が含まれます。誰にでも率直な人と、上には丁寧で下には冷たい人は別物です。

あわせて著者たちは、この言葉は組織を守る盾であって、自分の至らなさを隠す凶器にしてはならないと戒めています。

Netflixの経営者リード・ヘイスティングス氏の『NO RULES』には、部下のミスを頭ごなしに批判していたマネージャーの話が出てきます。彼は「自分はブリリアント・ジャークなのか」と自問し、質問で部下に考えさせるやり方に改めました。ラベルは、他人より先に自分に当ててみるのが安全な使い方かもしれません。

5分でできることもあります。過去2年にチームを辞めた人と、異動を希望した人の名前を書き出してください。そして、それぞれが直前に誰の下で、誰の隣で働いていたかを横に並べてみる。

たとえば同じ名前が3回出てきたら、それは成績表に載らなかったもう1つの数字です。

おわりに

有能な問題児を手放せないのは、組織が甘いからというより、帳簿の片側しか見えていないからです。

成果は本人の名前で記録され、損失は辞めた人の「一身上の都合」に紛れます。両方を同じ机に並べたとき、「あの人がいないと回らない」の本当の値段が見えてきます。


この記事で参考にした本

『ブリリアント・ジャーク 静かにチームを壊す人たち』沢渡あまねさん、伊達洋駆さん → 有能だが周囲を消耗させる人が生まれ、居座り、伝染する仕組みを、個人より組織環境の側から解き明かす

『NO RULES』リード・ヘイスティングス氏、エリン・メイヤー氏 → ブリリアント・ジャークを許容しないと掲げる会社が、率直さと敬意をどう両立させているか


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