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『コンサルが「マネージャー時代」に学ぶコト』高松智史さん|「優しいだけの上司」は、もう要らない

リーダーシップ・組織 ✍ 高松智史さん
約8分で読めます

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『コンサルが「マネージャー時代」に学ぶコト』
目次

部下に「がんばれ」「ありがとう」と声をかける。進捗を確認する。困っていたら手を貸す。

これ、いい上司の条件だと思っていませんか。

私もそう思っていました。チームの空気を悪くしないように気を配り、メンバーが気持ちよく働ける環境を整える。それがマネージャーの仕事だと信じて疑わなかった。

でも本書を読んで、頭を殴られた気分になりました。著者の高松智史さんは、その「優しさのリーダーシップ」を、時代遅れの甘えだと一刀両断します。

しかも、ただ厳しくしろという話ではありません。これからのマネージャーに必要なのは、頭の使い方でチームと顧客に価値を生む「インテレクチュアルリーダーシップ」だと著者は言います。本書は、著者がコンサルのマネージャー時代に叩き込まれた79のスキルとマインドを体系化した一冊です。

すべての項目が「A VS B」の対比で書かれていて、自分が無意識にやっていた「B」がいかにズレていたかを、ページをめくるたびに突きつけてきます。

読み口は軽いのに、刺さるところは深い。そういう本です。

図解

この本の核心――マネージャーの思考は「お金」を生む

本書を貫く一文があります。マネージャーの思考は「お金」を生む、というものです。

ここで言う「思考」は、進捗管理やタスクの割り振りのことではありません。頭を使ってチームや顧客に新しい視点を与え、それが付加価値(フィー)になる、という意味です。

コンサルが高いフィーをもらえるのは、人手を貸すからではなく、クライアントが持っていなかった視点を差し出すから。その構造を、マネージャーの日常業務にそのまま当てはめてくる。

だから著者は、進捗確認と尻叩きに終始するマネジメントを否定します。部下から相談を受けたとき、「がんばれ!引き続きよろしく!」と励ますのは「優しさのリーダーシップ」です。

これだけだと付加価値はゼロに近い。そうではなく、「なるほど、その視点ならこういうデータも取れるかもしれないね」と、部下が一段進化できる気づきを返す。

これが「インテレクチュアルリーダーシップ」だと著者は定義します。

そして、この本の哲学の根っこにあるのが、著者の師匠の言葉です。

力なき優しさは罪。

優しさだけで部下に付加価値のない作業をさせ、疲弊させる。それは罪だ、と。最初に読んだときは過激だと思いました。でも、自分が「がんばれ」しか言えなかった場面をいくつも思い出して、反論できなくなった。

ここで大事なのは、著者は優しさそのものを否定していない点です。否定しているのは、頭を使わずに優しさへ逃げること。励ますだけのコミュニケーションは角が立たないけれど、相手を進化させる気づきは何も返していない。

その居心地のよさを、容赦なく言語化してくれます。

「TASKバカ」になるな、「論点バカ」になれ

ここからが本書の中心です。

部下に仕事を振るとき、多くの人は「これを調べて」「あの資料を作って」と作業(TASK)を渡します。これが「TASKマネジメント」。著者はこれを真っ向から否定します。

なぜか。作業だけを渡すと、進捗を細かく確認するマイクロマネジメントになり、部下を束縛してしまうからです。著者の言葉を借りれば、「TASKバカ」にならず「論点バカ」になれ、ということになります。

論点とは、いま解くべき「問い」のことです。「〇〇について調査して」ではなく、「〇〇の売上を伸ばすボトルネックは何か、という問いを解きたい。そのためにこの調査を頼みたい」と背景の問いを共有する。

すると部下は自由に思考を巡らせられて、アウトプットの質も上がる。同じ調査を頼むのでも、作業だけ渡されたときと、問いごと渡されたときでは、返ってくるものがまるで違ってくるわけです。

この差は金額にも表れる、と著者は言います。言われたTASKをこなすだけのアウトプットは「千の位」、論点とサブ論点まで捉えたアウトプットは「億・万の位」の価値になる。同じ作業に見えても、生む価値の桁が違う。この比喩がやけに具体的で、思わず笑ってしまいました。

そして自己点検の方法も鮮やかです。会議が終わった後のホワイトボードを見る。そこに「誰がいつまでに何をやるか」というTODOしか残っていなければ、それは黄色信号。

本来は「今回解くべき論点」が残っているべきだ、と。この点検を、著者はWBC(ホワイトボードチェック)と呼びます。シンプルだけど、自分がTASKマネジメントに陥っていないかを一瞬で映し出す鏡になる。

部下の成果物がズレる、本当の犯人

部下に任せた資料を見て、「全然、思ってたのと違うじゃん」とがっかりする。リーダーなら誰でも経験があると思います。

このとき、つい「言われた通りにやってない」と部下のせいにしたくなる。でも著者は、まったく逆を突きつけます。アウトプットがズレた原因は「マネージャーである自分」だと考えたほうが健やかに成長できる、と。

ズレる最大の原因は、マネージャーが「論点ワード」を活字にして共有しなかったこと。多くの場合、作業の途中ではなく、最初の「サブ論点」の段階で認識がズレている。

「満員電車について考えておいて」という口頭の指示では、部下はどの方向に走ればいいか分からない。だから全力でズレた方向に走ってしまう。これを著者は「ズレる構造」と呼びます。

防ぐ方法はシンプルです。作業に入る前に「満員電車を解消する方法は何か?」という明確な論点ワードを自分で書き出し、それを部下とすり合わせる。たったこれだけで、手戻りの悲劇を防げる。

手間のように見えて、実は最短ルートなんだと納得させられます。ちなみにこの「論点を起点に動く」流れには呪文があって、ロ→サ→T→ス→作→ア(論点→サブ論点→TASK設計→スケジュール→作業→アウトプット)と進む。

著者の前作から続く、知的生産の基本プロセスです。

「課題もどき」を本当の課題に変える

論点と並んで本書が重視するのが「課題設定」です。

著者の主張はかなり過激で、ビジネスの課題解決では「99対1」で、打ち手より課題設定のほうが大事だと言い切ります。どう解決するかを考える前に、そもそも何を解くべきかが間違っていたら、すべて無駄になるからです。

ここで気をつけたいのが「課題もどき」。「店舗が少ない」「人が足りない」――こういうのは、手元の事実をネガティブに言い換えただけで、本当の課題ではありません。

本当の課題にするには、「なぜそうなっているのか?」を構造的に深掘りし、表面の現象ではなく裏のメカニズムを言語化する必要がある。

そして著者は、よくある「真因を探せ」という指導にも冷や水を浴びせます。「原因」と「真因」には言葉ほどの差異はない、どちらも結局は原因にすぎない、と。

「なぜ?」を無限に繰り返して神秘的な真因を探すより、「自分たちで実行可能な打ち手が打てるレベル」まで掘ったら、そこで止めればいい。理想論ではなく、現場で回る割り切りになっているのがいい。

深掘りそのものが目的化してしまう罠を、きれいに外してくれます。

TASK設計に「狂気」を込める――HOWのインサイト

論点が決まったら、それを解くためのTASKを設計します。ここで凡庸な調査しかできないと、成果物も凡庸になる。

そこで著者が掲げるのが「HOWのインサイト」。第三者が聞いて「そこまでやるのか!」と驚くような、調査の工夫を指します。本書で一番有名な事例がこれです。

美容院チェーンがフィリピン進出を検討したとき、ある社員はネット検索やアンケートでは満足しませんでした。マッチングアプリのTinderを使い、現地の女性とデートしながら(公私のバランスを7:3に保ちつつ)現地のヘアカット事情をヒアリングしたのです。

泥臭くて、ちょっと狂ってる。でも、ありきたりな調査からは絶対に出てこない一次情報が取れる。これが付加価値の正体なんだと納得させられました。関連して、著者はTASK設計の一歩先に「ケース設計」を置きます。

TASK設計が作業の平面図だとすれば、ケース設計は立体図。クライアントとの信頼度や距離感、成果を出すタイミング、次の布石まで含めて、プロジェクト全体を組み立てる発想です。

戦略を練るときの心構えも実践的でした。著者はブラジリアン柔術で兄弟子を倒す戦略を考えたとき、「相手は何もしてこない」という甘い前提で考えて失敗したそうです。

そこから得た教訓は、「1手詰め・3手詰め」で楽観的にならず、「7手詰め」を悲観的に思考へ組み込む、というもの。相手も必死に反撃してくる。それを前提に深く読む。

ビジネスにそのまま通じる話です。

「自分を売る」プレゼンと営業の鉄則

本書の後半は、クライアントに「個」として指名される存在になる技術に移ります。

まずプレゼン。著者がBCG時代に叩き込まれたのは、スライドを読み上げるのをやめ、相手に黙って「まとめスライド」を読ませる、という流儀です。読むほうが早いので、まず読ませてしまう。

すると相手の理解が深まり、本質的な議論に時間を使える。しかもこのまとめスライドは、資料が完成した後に書くものではなく、パワーポイントが真っ白な「最初も最初」に、何も見ずに書き切る。

ここで思考の質が決まる、と。

攻めと守りの使い分けも面白い。会議で意見を求められたら、最初にパッと浮かぶ当たり前のこと(1つ目)はぐっと飲み込む。思考を深めて、3つ目に出てくる視点を発言する。

これが知的優位を作る。逆に守りに回るときは「見たままですが」と前置きして、事実をそのまま述べる。攻守でモードを切り替えるわけです。

営業の鉄則も逆張りでした。「すべて得意です」とアピールするより、「あれは得意ですが、これは不得意です」と不得意を正直に伝える。すると相手は「自分たちのために真剣に考えてくれている」と感じ、得意分野への信頼が跳ね上がる。

そして宿題への対応。ある役員が思いつきで「サントリーの事例を調べて」と宿題を出したとき、著者は「その調査でどんなインサイトが出て、意思決定がどう変わりますか?」と問い返した。

役員自身が「要らないですね」と納得し、無駄な作業がその場で消えた。何でも「はい、やります!」と引き受けるのは優しさのリーダーシップ。その場で議論し、時にはリジェクト(断る)するのがインテレクチュアルリーダーシップだ、という対比は強烈でした。

明日から何を変えるか

本書は具体的なアクションが豊富ですが、まずこの3つから始めるのが効きます。

ひとつ目は、指示を出す前に「論点」を1行で書き出すこと。「〇〇を調べて」ではなく「〇〇という問いを解きたい」に変えるだけで、成果物のズレが激減します。

ふたつ目は、会議後のホワイトボードを点検すること。残っているのがTODO(担当・期限)だけなら黄色信号、論点も残っていれば青信号。自分がTASKマネジメントに陥っていないかの自己点検になります。

みっつ目は、意見を求められたら「3つ目」を言うこと。パッと思いつく当たり前の答えは口にせず、少し視点を変えて3番目に出てくる発見を発言する。

これを習慣にすると、知的リーダーシップが鍛えられます。

おわりに

この本は、優しさを否定しているわけではないと、私は読みました。否定しているのは、頭を使わずに優しさへ逃げること。力のない優しさは、部下に無駄な作業をさせ、成長の機会を奪う。だから「力なき優しさは罪」なのです。

進捗を確認するだけなら、自分がそこにいる意味はない。問いを与え、視点を返し、価値の桁を上げる。それができたとき、初めて「あの人とミーティングすると進化できる」と言われる。本書が描くマネージャー像を、私はそう受け取りました。

部下に何かを頼む前に、まず「論点」を1行で書いてみる。今日から変えられるのは、たぶんそこからです。


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