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『リーダーは話し方が9割』永松茂久|部下が動かないのは、あなたが話しすぎているから

リーダーシップ・組織 ✍ 永松茂久
約9分で読めます

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『リーダーは話し方が9割』
目次

「部下が、思った通りに動いてくれない」。リーダーになって最初にぶつかる壁は、たいていここです。

そう感じたとき、私たちは反射的に自分の「指示の出し方」を疑います。説明が足りなかったのではないか、もっと噛み砕いて、もっと丁寧に伝えるべきだったのではないか、と。

ところが本書が突きつける診断は、その真逆でした。部下が動かないのは、あなたが説明不足だからではない。むしろあなたが話しすぎているからだ、と言うのです。

『リーダーは話し方が9割』は、累計100万部を超えたベストセラー『人は話し方が9割』の著者・永松茂久さんによる「リーダー版」。著者は理論家ではなく、飲食店経営の現場で実際に人を育ててきた実務家です。

そのぶん、語られる内容は机上の組織論ではなく、現場で擦り切れるほど試された生々しさを持っています。

そして本書の立場は、最初から最後までブレません。リーダーにカリスマ性も、完璧な実績も、生まれ持った素質もいらない。必要なのはただ一つ、相手の「自己重要感」を満たす話し方だけだ——。読む前に身構えていた「立派なリーダー像」が、一行目から静かに崩されていきます。

図解

「リーダー=偉い人」だと思っている人ほど刺さる

まず確認しておきたいのは、本書が定義するリーダーの広さです。

ここで言うリーダーは、社長や部長といった肩書きのある人だけを指しません。店長、現場のチーフ、部活の先輩、学校の先生、そして親まで。「1人でも導くべき相手がいる人」は、全員がリーダーだと本書は言い切ります。

この定義の広げ方が、実は一番の前提条件になっています。なぜなら本書が解こうとしている悩みは、役職者だけのものではないからです。

会議で意見を求めても、全員がうつむいて誰も口を開かない。注意したいことがあるのに「パワハラ」と言われるのが怖くて言葉を飲み込む。そもそも「自分にはリーダーの素質なんてない」と思い込んでいる。

こうした手詰まりは、肩書きの有無に関係なく、人を率いる立場すべてに起きます。本書はその「素質がない」という思い込みそのものを、まず壊しにかかります。正しいやり方を知らなかっただけで、向き不向きの問題ではない、と。ここで肩の荷が一段軽くなる読者は多いはずです。

なお正直に書いておくと、本書が扱うのは感情・人間関係といったソフトスキルに全振りした領域です。論理的な意思決定の手順や、プロジェクトの進行管理といったハードスキルは範囲外。そこは別の本で補う前提で読むのが、いちばん誠実な付き合い方だと思います。

すべての土台は「自己重要感」という一つの感覚

本書の理屈は、たった一つの概念の上に組み立てられています。それが「自己重要感」です。

混同しやすい「自己肯定感」と、まず分けて理解するのが肝心です。自己肯定感は「自分はここにいていい」という安心感のこと。実績や成果に関係なく、自分の存在そのものを肯定できる感覚を指します。

これに対して自己重要感は、その一段上にある「特別感」です。組織やチームのなかで「自分は期待されている」「自分がいないと困る」と感じられること。本書はこれを、承認欲求のさらに上に位置する欲求だと位置づけます。

つまりリーダーの仕事は二段階です。まず部下に「いていい」という安心感を渡し、その上で「あなたが必要だ」という特別感を積み上げる。話し方のテクニックは、すべてこの順番に奉仕するための道具にすぎません。

象徴的なのが、ある飲食店のエピソードです。厨房を任された新米リーダーがパニックになり、周りのスタッフから次々に責められて潰れかけていた。そこで店長が放った一言が場面を一変させます。

お前がリーダーだ。俺はお前の指示で動く!

組織のトップが、新米の部下に「従う」と宣言した。このたった一言で、追い詰められていた本人が自信を取り戻し、見違えるように店を回しはじめた、という話です。

期待を言葉で手渡されると、人はその期待の通りに動こうとする。逆に言えば、リーダーが日々どんな言葉をかけているかで、部下のパフォーマンスは静かに上下している。このエピソードはそれを残酷なほど分かりやすく示しています。

「完璧であろう」とするほど、部下の出番は消えていく

多くのリーダーが「すべてに完璧で、全員に好かれなければ」と思い込んでいます。本書は、その理想こそ真っ先に捨てるべきだと主張します。

理由が秀逸です。完全無欠なリーダーは、部下を成長させるどころか、むしろポテンシャルを潰してしまうから。

考えてみれば当然で、リーダーが何でも自分で完璧にこなしてしまえば、部下には「出る幕」がありません。出番がない場所で、人は自分の重要性を感じられない。完璧であろうとする善意が、結果的に部下の自己重要感を削り取ってしまうわけです。

だから今の時代に求められるのは、弱みを見せられるリーダーだと本書は言います。知らないことに直面したとき、知ったかぶりをするのではなく「分からないから一緒に考えよう」と素直に言える人。著者はこれを「可愛げと愛嬌のあるリーダー」と呼びます。

ここは私自身も膝を打った点でした。「一緒に考えよう」と頼られた部下は、頼られたという事実そのもので特別感を得る。リーダーが完璧さを手放すほど、部下の居場所が増えるという逆説です。背伸びをやめる許可をもらえた気がして、読んでいて素直に楽になります。

名前を呼び、Weで語り、話を振る——日々の声かけ三原則

自己重要感は、特別な面談やイベントで一気に高まるものではありません。日々の何気ない声かけの積み重ねで、じわじわと育つものです。本書は、その具体策として三つのシンプルなルールを挙げています。

一つ目は、名前を呼ぶこと。「お疲れ様」ではなく「〇〇さん、お疲れ様」。用件を切り出す前に、必ず相手の名前を口に出す。人は自分の名前を呼ばれるたび、無意識のうちに「自分を見てくれている」と感じます。最も簡単で、最も効果が積み上がる方法です。

二つ目は、Weを主語にすること。「これお願い」ではなく「私たちで〇〇を達成しよう」。主語を「私たち」に変えるだけで、指示が共同作業に変わり、孤立する人がいなくなります。

三つ目は、話を振ること。会議や雑談で発言できていない人へ、こちらから意識して話を向ける。沈黙している人ほど疎外感を抱えやすいからです。

そしてこの三原則を支える小さな習慣として、本書は「いいところリスト」を勧めます。部下ごとにメモを作り、感心した言動をその場で書き留めておく。人の記憶はすぐ薄れるので、気づいた瞬間に記録するのがコツです。

このリストが効くのは、人前で部下を褒めるときです。「よく頑張ってるね」という抽象的な賞賛より、「先週あの場面でこう動いたよね」と具体的な事実で持ち上げられたほうが、特別感は跳ね上がる。地味ですが、おそらく本書で最も再現性の高い技術です。

フォーユートーク——矢印を「自分」から「相手」へ向け直す

本書の中核に置かれたフレームワークが「フォーユートーク」です。優秀なリーダーが無意識にやっている話し方を、七つのルールに分解したもの。要点だけ抜き出すと、こうなります。

相手を主役にして話す(主語を「私は」から「あなたは」へ)。相手に疎外感を与える話題を避ける。間違いを正すときも、まず相手の考えや感情を一度受け止め、頭ごなしに否定しない。

事前に相手の興味をリサーチして共通点を探しておく——本書はこの心が通い合った状態を、フランス語で「橋をかける」を意味する「ラポール」と呼びます。

さらに、強制ではなく可能性を見せて「自分から動きたくなる」状態をつくる。自分が伝えたいことより、まず相手が求めているものから入る。そして緊張は意識が自分に向いている証拠だから、「どう話せば相手が良くなるか」だけに集中する。

七つもありますが、貫いているのは一本の原理だけです。意識の矢印を、自分から相手へ向け直すこと。自慢話も説教も、矢印が自分を向いている話し方であり、その正反対がフォーユートークだと整理すると、一気に腹落ちします。

付け加えられた指標も実用的です。「小学5年生に伝わる言葉か」。専門用語や難しい言い回しを避けるのも、結局は相手を主役にする姿勢の延長線にある、というわけです。

話し方の本なのに、結論は「話すな」

ここが本書で最もスリリングな反転です。「話す力」「聞く力」と来て、本書は第三の力として「話さない力」を立てます。話し方の本が、最終的に「話すな」と言い出すのです。

その根拠が「凹凸の法則」。人は環境に適応する生き物だから、リーダーが話しすぎる(凸)と、部下はそれに適応して無口になる(凹)。やがて自分で考えるのをやめ、指示待ちの思考停止に陥る——。

だとすれば、部下が意見を言わないのは部下の問題ではありません。リーダーが喋りすぎた結果、そう「育てて」しまっただけかもしれない。冒頭の問いに、ここでようやく答えが返ってきます。

処方箋は、あえて答えを言わないこと。「君はどう思う?」と問い返し、自分で考えさせる。本書には、スタイルを変えると宣言してひたすら聞き役に回り、部下の自立思考を育てたリーダーの例が出てきます。

関連して鋭いのが、「好かれる」より「嫌われない」を優先せよという指摘です。過去のミスを蒸し返す、呼び捨てにする、といった相手の「地雷」を踏まないほうが、関係は長期で安定する。

さらに、身近すぎて直接の言葉が響かない相手には「間接的フィードバック」が効く、とも。第三者の口を借りたり、自分の思いを別の場で語る姿を見せたりする回り道のほうが、案外すんなり腹落ちするものです。

この「話さない力」を組織に広げる具体策が、会議の作り方です。日本の会議には、無表情で黙って聞くのが礼儀だという空気がある。本書はこれを発言を殺す元凶だと断じ、リーダーの権限で「発言には笑顔でうなずくのをルールにする」と宣言し、自ら最も大きくうなずけと説きます。

腕を組んで真顔で聞くのは厳禁。場の安全をリーダーが態度で保証するわけです。

「おそれ」で話すか、「愛」で話すか

最後に本書は、テクニックを超えた「在り方」へ踏み込みます。同じ言葉でも、根っこにある動機で効果が真逆になる、という話です。

人の行動には二つの動機がある。「嫌われたくない」という自分に向いた矢印が「おそれ」、「相手を良くしたい」という相手に向いた矢印が「愛」。同じ厳しい指摘でも、おそれから出た言葉は相手を縮ませ、愛から出た言葉は相手を伸ばす。

土台に愛さえあれば、厳しい指導も必ず伝わる、と本書は言います。

ここにも具体的な技術が添えられています。部下を注意するとき、いきなり感情をぶつけない。先にゴールを見せる。「この話が終わったら、君はもっと成長して明るい気持ちで部屋を出ると思う。

それが僕の願いなんだ。話してもいいかな」——人は指導そのものより、いつまで続くか分からない不安を怖がる。だから先に安心を渡し、心が開いてから本題に入る、という順番です。

話の中身についても示唆的で、成功談よりも失敗談を語れと言います。「俺が若い頃は1番でね」というマウンティングは相手をうんざりさせるだけ。「上司の話を聞かず勝手に進めて納期をミスした」といった等身大の失敗のほうが、よほど共感と学びを生む。

人は成功の自慢より、失敗の避け方を知りたいのです。

そして本書はリーダーの究極の存在意義を、「次世代を勝たせること」だと結論づけます。上でふんぞり返る存在ではなく、下から次世代を押し上げる「土台」になること。話し方の技術論が、最後は静かな利他の哲学に着地します。

まず明日、自分が話す量を減らしてみる

読み終えて一番こたえたのは、やはり「部下が動かないのは、自分が話しすぎているせいかもしれない」という一行でした。良かれと思って丁寧に説明するほど、部下は黙る側へ最適化されていく。善意が逆向きに作用していた、という指摘は痛烈です。

幸い、明日から試せることは具体的でお金もかかりません。声かけの頭に必ず相手の名前をつける。会議の冒頭で「笑顔とうなずき」を宣言し、自分が一番うなずく。スマホに部下別の「いいところリスト」を作り、良い言動をその場で記録する。どれも0円で、効果は静かに積み上がっていきます。

リーダーとは、上に立つことではなく、下から支えること。話すことより、話させること。その実感を得たければ、まず明日の会議で、いつもより自分の発言量をひと回り減らしてみる——本書の入り口は、そこにあります。


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