「会社は何のために存在するのか」と聞かれたら、あなたは何と答えるでしょうか。
多くの人が「利益を上げるため」と答えます。ところがドラッカー氏は、その答えを「的はずれであるだけでなく、害を与えている」と切り捨てます。
『マネジメント[エッセンシャル版]』は、20世紀最大の経営思想家が膨大なマネジメント論から「変わらざる基本と原則」だけを抜き出した一冊。半世紀読み継がれている、組織で働くすべての人の羅針盤です。
こんな人におすすめ
- 部下を持ったばかりで、「管理するって結局どういうことか」がつかめずにいる人
- 数字を追う日々のなかで、自分の組織が何のために動いているのか見えなくなってきた人
- リーダーに必要なのは才能か、人柄か、それとも別の何かなのか知りたい人
- 名著だと聞くけれど分厚くて手が出ない、まず全体像を押さえたい人
この本の核心――マネジメントは「成果をあげるための器官」である
ドラッカー氏はマネジメントを、単なる管理手法ではなく組織の「器官」だと定義します。心臓が体のためにあるように、マネジメントは組織を機能させ、社会に成果を届けるために存在するという見方です。
ここで視点が一度ひっくり返ります。マネジメントを組織の内側のテクニックとして見るのをやめ、外の世界――社会や顧客に対する成果から逆算して考える。これが本書を貫く姿勢です。
「成果をあげる責任あるマネジメントこそが、全体主義に代わる唯一の選択肢である」
組織がきちんと機能しなければ社会が成り立たない。だからマネジメントは、一部の経営者だけの技術ではなく、現代社会を支える土台なんです。
マネジメントが果たす3つの役割
本書はマネジメントに、性質の異なる3つの役割があると言います。これが議論の出発点になるので、3つとも押さえておきましょう。
1. 自らの組織に特有の使命を果たす その組織だけが持つ目的を達成し、成果をあげること。病院なら患者を治し、企業なら顧客に価値を届ける。組織はそれ自体のためでなく、社会的な機能を果たすために存在します。
2. 仕事を通じて働く人を活かす 現代社会で組織は、人が生計を立て、社会的な地位を得て、自己実現する場でもあります。働く人を生産的な存在にすることは、おまけではなく本来の役割の一つなんです。
3. 社会に与える影響を処理し、社会の問題解決に貢献する 組織は社会のなかに存在する以上、自らが及ぼす影響に責任を負います。同時に、社会の問題を事業の機会へと転換していく姿勢が求められます。ここでドラッカー氏は専門家の倫理として「知りながら害をなすな」という言葉を置いています。
企業の目的は「顧客の創造」――利益は目的ではない
では、組織のなかでも企業の目的は何か。ドラッカー氏の答えは明快です。唯一の定義は「顧客の創造」。
市場は神や自然がつくるものではありません。企業が、人々の満たされていない欲求に対して手段を提供することで、初めて市場は生まれます。だから企業の成果は内側でなく、常に外側の顧客のところにあります。
この目的を果たすために、企業には2つの基本的な機能があります。マーケティングとイノベーションです。顧客が本当に求めるものを知り、新しい価値を創り出す。この2つだけが成果を生み、ほかはすべてコストだと言い切ります。
では利益は何なのか。ここが本書で最も誤解を解かれる部分です。
「利益は、企業や事業の目的ではなく、条件である」
利益は事業を続けるための条件であり、未来に備えるための費用であり、意思決定が正しかったかを判定する基準。目的ではなく、テストなんです。利益を目的だと思い込むことが、社会における企業への敵意すら生んでしまう、とドラッカー氏は警告します。
「われわれの事業は何か」を、成功しているときに問う
事業の定義は一度決めれば終わりではありません。「われわれの事業は何か」を問い続ける必要があります。
面白いのは、この問いを発するタイミングです。多くの組織は苦境に陥ってからこれを問います。しかしドラッカー氏は、本当に問うべきは成功しているときだと指摘します。
成功は常に、その成功をもたらしたやり方を陳腐化させるからです。だから「われわれの事業は何になるか」で変化に適応し、「われわれの事業は何であるべきか」で新しい機会を創り出す。順調なときほど、この問いが効いてきます。
成功体験を捨てる「廃棄」の技術
事業の定義とセットで語られるのが「廃棄」です。
過去の成功は必ず陳腐化します。にもかかわらず、組織は一度始めたことをなかなかやめられません。そこでドラッカー氏が勧めるのが、たった一つの問いです。
「もし今日これを手掛けていなかったとして、今日これから始めるか」
答えが「いいえ」なら、その活動からは速やかに資源を引き揚げる。やめることを決めて初めて、未来のために手と時間が空きます。新しい挑戦を生むのは、足し算ではなく引き算なんです。
知識労働者には、アメとムチが効かない
本書がもう一つ強く打ち出すのが、知識労働者という存在です。
知識労働者とは、筋肉や手先の技能ではなく、教育で身につけたコンセプトや理論を使って働く人。現代社会の中心的な資源です。そしてこの人たちには、報酬と恐怖による従来の「アメとムチ」が通用しません。
では、どうすれば働く人に働きがいを与え、成果をあげさせられるのか。ドラッカー氏は仕事そのものに責任を持たせることが必要だとし、3つの条件を挙げます。これも中心となる枠組みなので、3つとも見ておきます。
1. 生産的な仕事 仕事を分析し、プロセスを組み立て、管理の手段を組み込むこと。働く人がただこなすのではなく、成果につながる形に仕事を設計します。
2. フィードバック情報 自らの成果を自分で評価し、自己管理できるようにする情報。上司を介さず、本人が自分の仕事の出来を知れる仕組みです。
3. 継続学習 肉体労働にも知識労働にも欠かせない、学び続けること。一度身につけたスキルで一生走れる時代ではないという前提に立っています。
そして大事なのは、これらを実際に仕事をする本人が、初めから検討に参加することです。
マネジャーに必要な、たった一つの資質
人を活かすには、マネジャー自身の質が問われます。では、何が必要なのか。
知的な能力でも、愛想の良さでもありません。ドラッカー氏が唯一絶対の資質として挙げるのが「真摯さ」です。
真摯さとは、何が正しいかだけを考え、誰が正しいかを問わない態度。ごまかしのなさ、と言ってもいいでしょう。
「真摯さに欠ける者は、組織における最も重要な資源である人間を破壊し、組織の精神を損なう」
どれほど聡明で有能でも、真摯さに欠ける人をマネジャーにしてはいけない。強みより弱みに目を向ける者、頭の良さを真摯さより重んじる者を任命してはならない、と踏み込みます。
人を評価するときも同じ視点が貫かれます。ミスがないこと、つまり弱みがないことを基準にしてはいけない。見るべきは強みです。ここでドラッカー氏は逆説を一つ置きます。「人は、優れているほど多くのまちがいをおかす」。挑戦する人ほどミスもする。だから無難さではなく、卓越した強みで人を見るんです。
自分で自分を管理する「目標管理」
人を活かす具体的な仕組みが、自己管理による目標管理です。
これは上から数字のノルマを押しつけることではありません。マネジャー自身が、組織全体の目標に自分はどう貢献するのかを自ら設定し、その達成度を自分で測る。管理の主語が、上司から本人へと移ります。
押しつけられた目標と、自分で決めた目標。同じ数字でも、人の動き方はまったく変わります。動機づけと責任感は、外から与えるのではなく、本人のなかから引き出すものだという考え方です。
良い意思決定は、対立から生まれる
意思決定についてのドラッカー氏の主張も、常識を裏切ります。
良い決定は、全会一致では生まれません。むしろ意図的に意見の対立を促すことが重要だと言います。対立する見解がぶつかり合い、対話するなかから選択が行われて、初めて正しい決定にたどり着く。対立は想像力を引き出す装置なんです。
もう一つ。答えを探す前に、まず「何についての意思決定か」という問いそのものを明らかにすること。問いを間違えれば、どれだけ正しく答えても意味がありません。そして決定には、具体的な実行の手順と責任を組み込んでおく。実行されない決定は、決定とは呼べないからです。
なお、ここでつながるのが「コミュニケーションは知覚である」という原理です。コミュニケーションは情報の量ではなく、受け手が何を見て、何を期待しているかで成立します。上から一方的に話しても伝わらない。受け手の知覚の範囲を知ることが先なんです。
トップは一人でやらない、組織構造に正解はない
最後に、組織のかたちについて。
トップマネジメントは一人の仕事ではなく、チームの仕事だとドラッカー氏は言います。事業の目的設定、基準づくり、組織の精神の構築、対外活動、危機対応。これらは「考える人」「行動する人」「表に立つ人」など、まったく異なる能力を要求します。一人の人間がすべてを兼ね備えるのは不可能なので、強みの異なるメンバーでチームを組む必要があります。
組織構造にも唯一絶対の正解はありません。職能別組織、チーム型組織、連邦分権組織、疑似分権組織、システム型組織という5つの型があり、それぞれに強みと弱みがあります。設計は「われわれの事業は何か」という戦略から始め、成果に不可欠な基本活動に焦点を合わせて、状況に最も合う構造を選ぶ。構造はあくまで目的を果たすための手段です。
明日から何を変えるか
本書の原則を、今日からの行動に落とすとこうなります。
1. 既存業務を「今日始めるか」で棚卸しする 今やっている仕事を一つずつ取り上げ、「もし今これを手掛けていなかったら、あえて始めるか」と問う。「いいえ」のものから、やめる計画を立てる。
2. 評価面談で、弱みでなく強みを起点に話す 「ミスがないか」ではなく「どんな卓越した強みがあるか」を出発点にして、その人の配置と次の仕事を考える。
3. 部下が自分の成果を直接確認できる仕組みをつくる 上司を通さなくても、本人が自分の仕事の出来を知れるデータやダッシュボードを共有し、自己管理できる状態をつくる。
おわりに
この本を読み終えて残るのは、マネジメントとは統制ではなく「成果をあげさせること」だという感覚です。
利益は条件であって目的ではない。人は資産であってコストではない。リーダーに要るのは才能でなく真摯さ。どれも当たり前に聞こえて、現場では逆をやってしまいがちなことばかりです。
まずは次の会議で、「われわれの事業は何か」を一度だけ、本気で問うてみる。半世紀を超えて読まれる原則は、その小さな問いから効き始めます。
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