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『集中力がすべてを解決する』樺沢紫苑さん|気合いではなく、脳の作業領域「3」を使いこなす技術

生産性・時間術・習慣 ✍ 樺沢紫苑さん
約10分で読めます

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『集中力がすべてを解決する』
目次

会議中にスマホがブッと鳴った。見なくても、もう集中は切れています。

一度途切れた集中が元のレベルに戻るまで、およそ15分かかると本書は言います。だとすれば、スマホを5分おきに触る人は、回復しきる前にまた中断される。つまり1日中ずっと、集中力の低空飛行を続けていることになります。心当たりがありすぎて、最初の数ページで姿勢を正してしまいました。

精神科医・樺沢紫苑さんの『集中力がすべてを解決する』は、この「集中力の低下」を性格や気合いの問題ではなく、脳のメカニズムの問題として捉え直す本です。

集中力が低いと、ミスが増え、残業が増え、最終的には「健康」「つながり」「成功」という3つの幸福すべてが少しずつ削られていく。その逆をやろう、というのが本書の狙いでした。

図解

こんな人に効く本

特に刺さるのは、こんな場面に覚えがある人だと思います。

精神論ではなく、明日の朝から机の上で動かせる手順がほしい人に向いています。逆に、スマホの即レスが常時求められる職場の人には、そのまま全部は使いにくい部分もあるでしょう。

それでも、脳の仕組みを一度知っておくだけで、日々の選択は確実に変わってきます。読み物としてだけでなく、自分の働き方を点検するチェックリストとしても機能する一冊です。

「集中力は生まれつき」という思い込みを壊す

著者がまず壊しにくるのが、「集中力は生まれつきだから変えられない」という思い込みです。

根拠として、ADHDと診断された10代の約10%は、20歳をすぎると普通の社会生活を送っているという研究が引かれます。さらにニューヨークのホフストラ大学では、ADHDの児童に週2回、武術の稽古を8週間続けさせたところ、注意力が改善し、成績まで上がりました。

注意力に困難を抱えていた人ですら、トレーニングで変わる。ならば一般の私たちが伸ばせないはずがない、という理屈です。

要するに集中力は、後から伸ばせる筋肉のようなもの。この出発点に立てるかどうかで、本書の読み心地はまるで変わります。「自分は集中力がない人間だ」という自己定義を一度手放さないと、ここから先の技術はどれも自分ごとにならないからです。

そのうえで著者は、集中力を「入力→思考→整理→出力」という脳の4つのプロセスに分けて捉えます。どこか1つでも詰まれば、最高の没入状態には入れない。

だから全体を整える、という設計思想です。個人的には、この「集中力を分解して工程として扱う」視点こそが本書最大の発明だと感じました。漠然と「集中しろ」と自分を責めるのではなく、入力・思考・整理・出力のどこがボトルネックかを探す話に変わる。

気合いの問題が、改善可能なエンジニアリングの問題へと置き換わるわけです。

ゾーンと「絶好調」――めざす場所が違う

見落とされがちですが、本書のゴールはただの「健康」ではありません。

著者は、病気ではない状態を「健康」、そのもう一段上を「絶好調」、さらにその先を「ゾーン」と置きます。ゾーンとは、時間も疲労も忘れるほど没入し、最高のパフォーマンスが出る状態のこと。

スポーツでいう「フロー」です。ふつうの自己啓発本は「健康になりましょう」で止まりますが、本書は「健康で満足するな、その先の絶好調をめざせ」と言う。

この視点の引き上げ方が、私には新鮮でした。

ゾーンに入る条件として挙げられるのは、心と体を整える、スマホを遠ざける、予定を入れない、机をきれいにする、脳内を整理する、流れるように作業する、少し難しい課題を設定する、シングルタスクで行う、といった要素です。

どれも特別な才能はいりません。裏を返せば、ゾーンに入れないのは才能の問題ではなく、これらの条件を整えていないだけ、ということになります。

脳の作業机は「3」しか載らない

4つのプロセスの中で、私がいちばん腹落ちしたのが「入力」、なかでもワーキングメモリの話でした。

ワーキングメモリとは、情報を一時的に置いて処理する、いわば脳の作業机のこと。面白いのは、その机がとても小さいことです。昔は「7」と言われていましたが、最新の研究では「3」前後とされています。同時に載せられるのは、たった3つ。それを超えると、脳はオーバーフローを起こします。

電話しながら別の作業をすると記憶が飛ぶのも、これが理由です。レジに客が一気に押し寄せて処理が追いつかなくなる、あの「テンパる」感覚は、ワーキングメモリのパンクだったわけです。

だから対策はシンプルで、机に載せる数を3つに絞る。情報を覚えるときも、その日のタスクを決めるときも「3つ」を意識する。

セミナーでメモを取りまくる人より、「気づきを3つだけ持ち帰る」と決めた人のほうが、結局よく学べる。

この一節に、本書の発想がぎゅっと詰まっていました。欲張ったインプットは、机をパンクさせるだけ。情報を「足す」ことばかり考えてきた身には、なかなか痛い指摘です。

救いは、この作業机が何歳からでも鍛えられること。本書は、7時間以上の睡眠、やや早足の有酸素運動、読書、暗算、料理、マインドフルネスなどが効くと紹介しています。

大阪大学の苧阪満里子教授の研究では、ワーキングメモリの容量が多い学生ほど読解力が高いという結果も出ています。集中力の土台は、机のサイズそのものを広げることでも底上げできるのです。

なぜマルチタスクは効率が悪いのか

ここで本書は、多くの人が信じて疑わないマルチタスクにも容赦がありません。

人間の脳は、2つの作業を同時には処理できません。同時にやっているつもりでも、実際は脳が高速でスイッチを切り替えているだけ。そのたびに集中が途切れ、切り替えのコストがかかります。

数字で見ると残酷です。マルチタスクをすると、1つの課題を終えるのにかかる時間が50%増え、ミスの確率も最大50%上がる。似た作業を同時にやると、効率が80〜95%も落ちたという報告すらあります。

つまり「同時にやって効率を上げている」という感覚そのものが錯覚で、実際には倍近い時間とミスを自ら買い込んでいる。著者の処方箋は「一点集中(各個撃破)」です。

仕事はプチプチをつぶすように、1つずつ順番に片付ける。途中で別の作業に手を出すと、たいていそこから抜け漏れが生まれます。戦争にたとえれば、戦力を二手に分けた両面作戦は負けやすい。

著者はナチス・ドイツの戦力分散による大敗まで引いて、「集中せよ」と説きます。スマホとSlackが常に光る現代のデスクは、構造的にマルチタスクを強いてくる。

だからこそ、この一点集中という原則を意識的に守る価値があります。

出力――朝のゴールデンタイムと「3つだけ」のTO DO

入力を整えたら、次は「出力」、つまりアウトプットの仕組み化です。ここは明日からでも試せる実用性がありました。

まず時間帯。1日でいちばん集中力が高いのは、起床後の2〜3時間。睡眠で脳がきれいに整理され、疲れもない状態です。著者はこれを「脳のゴールデンタイム」と呼びます。

この貴重な時間に、誰でもできるメールチェックをやるのは最大の無駄づかい。ここには、その日いちばん重い仕事、最も集中を要する仕事を置く。逆にミスが起きやすいのは午後で、510人へのアンケートでは、失敗の40%が午後2〜4時に集中していたといいます。

言われてみれば当たり前なのに、実際は逆をやっている人がほとんどではないでしょうか。私もそうでした。

そして「樺沢式TO DOリスト」。朝の1分で、午前と午後それぞれにやることを「3つ」だけ書き出します。ここでも「3」です。これを印刷して、パソコンの横など「視線を動かして0.1秒で見える位置」に置く。

次に何をやるか探す時間と雑念が消え、ワーキングメモリが解放される。机の上を片付けるように、頭の中の作業机も空けておく発想です。

「書く」こと自体にも効果があります。手で書くと脳の網様体賦活系という注意のスイッチが刺激され、集中力と記憶力が上がる。プリンストン大学などの研究では、手書きでメモした学生のほうが、パソコンの学生より成績がよく、記憶も定着していました。

さらに印象的なのが「30点で最後まで」という作法。最初から100点を狙うから途中で行き詰まる。まず30点の出来でいいので一気に最後まで書き上げ、あとから直しに時間をかける。

そのほうが結果的に100点に近づき、ミスも減る、という考え方です。完璧主義が手を止める原因だと見抜いている点に、臨床家らしい現実感があります。

思考――「大丈夫です」と言う人ほど危ない

本書で最も精神科医らしく、そして最もこたえたのが「思考」の章、その中心にある自己洞察力でした。

自己洞察力とは、いまの自分の疲れ・集中度・コンディションを正確に把握する力。これが低いと、無自覚のまま脳疲労やうつへ突っ込んでいきます。著者はこう指摘します。

「大丈夫です」を連発する人ほど、実は大丈夫ではない。むしろ「疲れています」と素直に言える人のほうが健康だ、と。自分の状態は自分が一番わかっている、という思い込みこそが危ない。

疲れを認めないことを強さだと勘違いしていた自分には、これが効きました。

鍛え方として、2つの習慣が紹介されています。ひとつは「15秒の起床瞑想」。朝、目が覚めた瞬間に、いまの調子を「100点満点で何点か」と数値化し、その理由も考える。

映画『スター・ウォーズ』のC-3POのように、気分を数字で客観視するわけです。もうひとつは「3分間のポジティブ脳ノート術」。寝る前に、その日「辛かったこと3つ」「楽しかったこと3つ」を、楽しかったことを後にして書く。

これで1日の感情が整理され、自分を外から眺める力が育ちます。

不安への対処も具体的です。「ミスしたらどうしよう」と考えると脳の扁桃体が興奮し、さらに集中が落ちる。だから「ミスしたらどうしよう」を「ミスしたらこうしよう」に置き換える。

漠然とした不安を、具体的な対策(TO DO)に変換してしまう。「どうしよう」を「こうしよう」に変えるだけで、扁桃体に振り回される自分から一歩降りられる。たった一文字の違いですが、脳の使い方としては別物なのです。

整理――「ぼーっとする時間」が脳を整える

4つ目の「整理」で、著者が重視するのは物理的な片付けより、脳内と感情の整理です。

ここで登場するのが「デフォルトモード・ネットワーク」。脳がぼーっとしている時に稼働し、情報を整理して深い思考やひらめきを生むネットワークです。

これは何もしていない時こそ働き、通常の活動時の15倍ものエネルギーを使っています。だから「何もしない時間」は無駄ではない。著者自身、通勤電車でスマホを見ずにあえてぼーっとし、2週間かけてセミナーのアイデアを練り上げたといいます。

逆に電車でスマホを触ると、このネットワークが働かず「集中力が低い脳」を育ててしまう。空白の時間を恐れてスマホで埋める習慣が、ひらめきの芽を摘んでいるわけです。

感情の整理についても明快で、著者いわく「究極の感情整理術は運動と睡眠」。イヤなことがあった日にお酒を飲んで愚痴を言うのは逆効果。お酒は理性のブレーキを外し、怒りの感情をアドレナリンが記憶に強く焼き付けてしまう。

だから、ジムで汗を流してぐっすり眠るほうがずっといい。睡眠の話は数字が効きます。6時間睡眠を10日続けると、認知機能は「24時間徹夜」と同レベルまで落ちる。

しかも本人は自己洞察力も落ちているから、それに気づかない。寝る前2時間は「リラックスのゴールデンタイム」とし、スマホ・飲酒・熱い風呂を避け、副交感神経に切り替えることをすすめています。

スマホという「集中力泥棒」

本書が現代の一冊である理由が、このスマホの扱いです。

スマホは机の上にあるだけで、たとえ使っていなくても集中力と認知機能を下げます。著者の言葉では「スマホ、ネットは集中力泥棒」。利用時間は2017年の100分から2022年の175分へ、約1.7倍に増えました。

しかも怖いのは、スマホで得た情報はほとんど記憶に残らないこと。便利な情報ツールのつもりが、使うほど思考力や記憶力を削っていく。仙台市と東北大学の研究では、勉強時間が同じでもスマホを使う時間が長いほど成績が下がっていました。

対策はやはり物理です。集中したい時はスマホの電源を切り、カバンやロッカーにしまう。見えない場所に置くだけで、泥棒は仕事ができなくなる。意志の力で我慢するのではなく、そもそも触れない環境を作る。これも一種の「机を片付ける」発想だと感じました。

読み終えて

本書を読んで一番こたえたのは、「大丈夫です」を連発する自分の姿でした。疲れを認めないことが強さだと思っていたけれど、それは自己洞察力が落ちていただけかもしれない。

集中力が高ければ、すべてがうまくいく――。タイトルにもなったこの言い切りは、読み始めには少し大げさに聞こえました。読み終えたいまは、半分くらい本気で頷いています。

集中力を「気合い」から「設計」の問題に移し替えただけで、こんなに打ち手が増えるのかと。ワーキングメモリは「3」、ゴールデンタイムは朝、TO DOは3つ、不安は「こうしよう」へ。

やることは驚くほどシンプルです。

まずは明日の朝、目が覚めた瞬間に「今日は何点か」と15秒だけ自分に問いかけてみる。本書がすすめるこの小さな習慣から、たぶん何かが少し変わり始めます。


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