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『集中力がすべてを解決する』樺沢紫苑さん|気合いではなく、脳の作業領域「3」を使いこなす技術

生産性・時間術・習慣
約5分で読めます

会議中にスマホがブッと鳴った。見なくても、もう集中は切れています。

一度途切れた集中が元のレベルに戻るまでには、想像以上の時間がかかると本書は指摘します。だとすれば、スマホを数分おきに触る人は、1日中ずっと集中力の低空飛行を続けていることになる。心当たりがありすぎて、最初の数ページで姿勢を正してしまいました。

精神科医・樺沢紫苑さんの『集中力がすべてを解決する』は、この「集中力の低下」を性格や気合いの問題ではなく、脳のメカニズムの問題として捉え直す本です。集中力が低いと、ミスが増え、残業が増え、最終的には「健康」「つながり」「成功」という幸福そのものが削られていく。その逆をやろう、というのが本書の狙いでした。

こんな人に効く本

特に刺さるのは、こんな場面に覚えがある人だと思います。

精神論ではなく、明日の朝から机の上で動かせる手順がほしい人に向いています。逆に、スマホの即レスが常時求められる職場の人には、そのまま全部は使いにくい部分もあるでしょう。それでも、脳の仕組みを一度知っておくだけで、日々の選択は確実に変わってきます。

「集中力は生まれつき」という思い込みを壊す

著者がまず壊しにくるのが、「集中力は生まれつきだから変えられない」という思い込みです。

ここで引かれるのが、注意力に困難を抱えていた人がトレーニングで改善した、という複数の研究。詳しい数字や事例は本書に当たってほしいのですが、要は「集中力は後から伸ばせる筋肉のようなものだ」という前提に立つわけです。この出発点に立てるかどうかで、本書の読み心地はまるで変わります。

そのうえで著者は、集中力を「入力→思考→整理→出力」という脳の4つのプロセスに分けて捉えます。どこか1つでも詰まれば、最高の没入状態には入れない。だから全体を整える、という設計思想です。個人的には、この「集中力を分解して工程として扱う」視点こそが本書最大の発明だと感じました。気合いではなく、ボトルネックを探す話になるからです。

脳の作業机は「数個」しか載らない

数あるプロセスの中で、私がいちばん腹落ちしたのは「入力」の話、なかでもワーキングメモリの説明でした。

ワーキングメモリとは、情報を一時的に置いて処理する、いわば脳の作業机のこと。面白いのは、その机がとても小さいことです。同時に載せられる情報の数は、かつて言われていたよりずっと少ない――具体的な数字は本書で確かめてほしいのですが、その少なさを知ると「テンパる」という現象の正体が一気に見えてきます。

セミナーでメモを取りまくる人より、「気づきを3つだけ持ち帰る」と決めた人のほうが、結局よく学べる。

この一節に、本書の発想がぎゅっと詰まっていました。欲張ったインプットは、机をパンクさせるだけ。情報を「足す」ことばかり考えてきた身には、なかなか痛い指摘です。なお、このワーキングメモリは睡眠や運動などで鍛えられるとも紹介されていて、その具体的なメニューは本書のお楽しみに取っておきます。

ちなみに本書は、多くの人が信じて疑わないマルチタスクにも容赦がありません。「同時にこなしている」つもりが、脳の中では何が起きているのか。効率がどれだけ落ちるのか。その数字を読んだとき、私は素直に自分のやり方を疑いました。ここも、ぜひ生の数字で殴られてほしいところです。

朝の「ゴールデンタイム」をどう使うか

「出力」の章で語られる時間の使い方は、明日からでも試せる実用性がありました。

1日でいちばん集中力が高いのは、起床後の数時間。睡眠で脳が整理され、疲れもない状態です。著者はこれを「脳のゴールデンタイム」と呼びます。この貴重な時間に、誰でもできるメールチェックをやるのは最大の無駄づかいだ、と。代わりにここへ、その日いちばん重い仕事を置く。

言われてみれば当たり前なのに、実際は逆をやっている人がほとんどではないでしょうか。私もそうでした。著者はここに「3つだけ書くTO DO」や「30点で最後まで書き上げる」といった具体的な作法を重ねていきますが、その一つひとつの使い方は本書で確かめてほしい。どれも特別な才能はいらず、ただ手順を知っているかどうかの差だと気づかされます。

「大丈夫です」と言う人ほど危ない

本書で最も精神科医らしく、そして最もこたえたのが「思考」の章でした。

著者はこう指摘します。「大丈夫です」を連発する人ほど、実は大丈夫ではない。むしろ「疲れています」と素直に言える人のほうが健康だ、と。自分の状態は自分が一番わかっている、という思い込みこそが危ない。疲れを認めないことを強さだと勘違いしていた自分には、これが効きました。

ここで紹介される「自己洞察力」を鍛える習慣――朝に自分の調子を数値化する、寝る前に感情を書き出す――は、いずれも数分で終わるものばかりです。具体的なやり方は本書に譲りますが、共通しているのは「自分を外から眺める」という発想。不安への向き合い方についても、漠然とした「どうしよう」を具体的な行動へ変換するうまい言い換えが登場します。この置き換え一つで、扁桃体に振り回される自分から少し降りられる気がしました。

このほか本書には、「ぼーっとする時間」が脳を整えるという話や、お酒と睡眠をめぐる感情整理の作法、そして現代人にとって避けて通れないスマホとの距離の取り方まで、章を追うごとに具体策が積み上がっていきます。どれも引用したくなる箇所ばかりですが、ネタばらしはこのあたりでやめておきます。

読み終えて

集中力が高ければ、すべてがうまくいく――。タイトルにもなったこの言い切りは、読み始めの私には少し大げさに聞こえました。読み終えたいまは、半分くらい本気で頷いています。集中力を「気合い」から「設計」の問題に移し替えただけで、こんなに打ち手が増えるのかと。

明日の朝、目が覚めた瞬間に「今日は何点か」と15秒だけ自分に問いかけてみる。本書がすすめるこの小さな習慣から、たぶん何かが少し変わり始めます。残りの仕掛けは、ぜひ本書で確かめてみてください。


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『一点集中術』デボラ・ザック 本書が説く「マルチタスクをやめ、一点集中で各個撃破する」を、丸ごと一冊かけて掘り下げた本です。1日働いたのに何も終わっていない理由が知りたい人は、こちらで補強できます。

『学びを結果に変えるアウトプット大全』樺沢紫苑 同じ樺沢さんの代表作です。本書の「書くと集中力と記憶が上がる」という話を、アウトプットの技術として体系化しています。インプットが記憶に残らない人に効きます。

なぜ頭が疲れると判断を誤るのか──脳のリソース管理で生産性を10倍にする方法 本書の核であるワーキングメモリと脳疲労を、リソース管理という切り口で扱ったコラムです。なぜ午後になると判断がぶれるのか、その仕組みを別角度から理解できます。


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