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『自己満足ではない「徹底的に聞く」技術』赤羽雄二さん|聞くだけで、人間関係も問題も動き出す

コミュニケーション・文章術
約7分で読めます
『自己満足ではない「徹底的に聞く」技術』

相手が話している途中で、つい自分の話を挟みたくなる。その瞬間こそ、信頼を失うポイントかもしれません。

仕事もプライベートも、悩みの大半は人間関係。そしてその根っこにあるのは「人の話を聞けていない」ことだと、本書は喝破します。著者の赤羽雄二さんは元マッキンゼーで14年、ソウルオフィスをゼロから120名強に育てた人。前著『ゼロ秒思考』は累計90万部。本書はその思考ツールを「他者との対話」に拡張した、聞くことの実践書です。

こんな人におすすめ

この本の核心――「傾聴」を捨てて「アクティブリスニング」へ

著者がまず壊すのが「傾聴」という言葉のイメージです。傾聴には「かしこまってご高説をうけたまわる」ような受け身のニュアンスがある。それでは足りない、と。

本書が提唱するのはアクティブリスニング。定義はこうです。

「真剣に、徹底的に相手の話を聞き、質問もしながら理解を深めること」

不可欠な要素は3つあります。

1. 徹底した姿勢――相づちを打ち、相手の目を見て、心から関心を持って聞く。 2. 能動的な質問――疑問があれば、ソフトに、しかし躊躇なく質問して理解を深める。 3. 自己満足の排除――「聞いているつもり」をやめ、本気で相手を理解しようとする。

なぜ私たちはこれができないのか。著者は4つの阻害要因を挙げます。自分が言いたいことで頭がいっぱい、相手を下に見て「どうせくだらない」と見切っている、相手が苦手で拒絶反応がある、自分の気持ちを吐き出すことが優先で相手への関心がない。

最大の敵について、著者ははっきり書いています。

「アクティブリスニングの最大の敵は、たぶん『自分がしゃべりたい気持ち』だと思います。」

しゃべりたいのは「自分の話を聞いてほしい」という自己中心的な欲求の表れ。コミュニケーションは本来キャッチボールなのに、一方的にボールを投げつけている状態になっています。

相手を理解すると、怒りが消える

本書で最も視点が変わるのがここです。普通は「相手に怒りや嫌悪があると話を聞けない」と思われています。でも実は逆。感情をいったん切り離してアクティブリスニングに徹すると、相手の背景やトラウマが見えてきて、「なぜあんな行動をとるのか」が腑に落ちる。すると怒りが自然に消えていきます。

苦手な相手には「人間研究家」になればいい、と著者は言います。好き嫌いで判断するのではなく、「この人は何を考え、どういう価値観で動いているのか」を観察する対象に切り替える。すると冷静に聞けるようになります。

聞いてもらった側にも変化が起きます。

「アクティブリスニングをすると、相手がすぐに活き活きします。枯れそうになった草花に水をあげると、あっという間に生き返ったように元気になりますが、まさにそういう感じです。」

ある30代男性社員Aさんは、忙しさで妻とのすれ違いが続いていました。毎朝PCに触るのをやめ、わずか30分、妻の話に集中して聞いた。すると妻に笑顔が戻り、夫の仕事の苦労にも理解を示すようになったといいます。

上司が聞くだけで、部下は生き返る

著者は人材育成についても強い言葉を使います。

「アクティブリスニングをしていない状況で部下の成長を期待するのはナンセンスと言ってもいいでしょう。」

上司が部下の話を徹底的に聞くと、部下は「自分を尊重してくれている」と感じ、自信とやる気を取り戻す。仕事への取り組みが前向きになり、成長が加速します。

ところが現実は逆です。著者が職場を横で観察すると、上司と部下の会話の6〜7割は上司自身が話している。良かれと思った説教や自慢話が、部下の口を閉ざしているわけです。

著者が大手小売企業の意識改革で全国の支店を回り、支店長たちにアクティブリスニングを徹底させたところ、暗い雰囲気だった支店に笑い声が戻りました。聞くことは、それ自体がリーダーシップの強化になります。

「やばいな」と感じたら、まず聞く

アクティブリスニングは、人間関係を良くするだけのツールではありません。問題解決の強力な武器でもあります。

普通は「問題の解決策は書類やデータから見つけるもの」と思われています。でも著者の主張は違う。関係者の話を徹底的に聞いて深掘りすると、表面的な事象の奥にある「問題の本質と構造」が、霧が晴れるように見えてくる。

「問題の本質が見えると、どうすべきか浮かんでくる」

たとえば、ある社員の個人的な不満だと思って聞いていたら、深掘りするうちに「組織間の役割が重複している」「経営方針そのものに問題がある」といった本質的な原因にたどり着く。著者によれば、2〜3人に集中して聞けば、8割がた状況は見えてくるそうです。

慣れてくると、話を聞きながらその場で解決策が浮かび、相手とすり合わせて一気に解決できるようになる。著者はこれを「アクティブリスニングの醍醐味」と呼びます。

どう聞くか――待つ、相づち、躊躇なく質問する

具体的な技術は、「ひたすら聞く」×「相づちを打つ」×「疑問があったら躊躇なく聞く」の掛け合わせです。

まず大事なのが「待つ」こと。多くの人は、相手が黙ると3秒も待てずに自分が話し始めます。でも部下や悩みを抱えた人は、何を言うべきか考えすぎて萎縮しているだけ。肩の力を抜いて10秒でも20秒でも待てば、話すのが苦手な人でも少しずつ語り始めます。「何か言わないと場がもたない」というのは、聞き手の思い過ごしです。

質問は「ソフトに、しかし躊躇なく」が基本。疑ったり批判したりするトーンは声に出てしまうので、純粋な関心や好奇心から聞く。相手が萎縮しているうちは軽い相づちに留め、調子が出てきたら少しずつ踏み込みます。

注意点もあります。話が飛んだり辻褄が合わなくても、正そうとしてはいけない。とくに相手が共感を求めているとき、論理的な確認は逆効果です。「大変だったね」と受け止めて、そのまま聞き続けます。

メモは差し支えなければ取ったほうがいい。要約やキーワードだけでなく、相手の言葉をできるだけそのまま、数秒遅れで書き留める。微妙なニュアンスまで記録できます。

効果を倍増させる3つの道具

著者は聞く技術に、独自のツールを組み合わせます。

A4メモ書き 前著『ゼロ秒思考』の核心ツール。A4用紙を横置きにし、1件1ページ、1分で「気になっていること」を4〜6行(各20字程度)書き出す。聞いていてモヤモヤしたときや怒りを感じたとき、その理由を書き出すと自分を客観視でき、感情を切り離して相手に関心を持つ準備が整います。毎日10〜20枚が目安。世界中で数十万人以上が経験しています。

3分間ロールプレイング 自分・相手・オブザーバーの3人1組で、設定したケースを3分演じ、2分フィードバックする。合計5分の世界最短クラスのワークです。立場を強制的に変えると、頭で考えるのでなく「体感」として相手の痛みに気づけます。ある60代の頑固な経営者は、部下の立場を演じた瞬間「なぜ彼が萎縮していたのか、今やっとわかった」と自分の態度を反省しました。

ポジティブフィードバック どんなときも肯定的に話し、褒め、感謝する。失敗しても「次はこうすればいい」と未来志向で伝える。著者はこれを「毎日20回(職場で15回、家で5回)」と数値化し、正の字を書いて数える習慣を勧めます。アクティブリスニングと並行すると、相手が心を開きやすくなり、効果が倍増します。

明日から何を変えるか

1. 最初の10分は、一切自分の話をしないと決める 身近な人と話すとき、最初の10分は意見を言わず、ひたすら相手の言葉に集中する。相手が黙っても、焦って助け舟を出さず10〜20秒待つ。これだけで相手の本音が出てきます。

2. 苦手な相手を「人間研究」の対象にする 心の中で「この人はどんな経験から、今こう発言しているのか」と問いかける。感情的な反発を、観察的な好奇心に切り替えるだけで、冷静に聞けます。

3. 聞いた後、15分以内にフォローのメールを送る ここが落とし穴です。「聞きっぱなし」は信頼を失う。深く聞き出したのに何もしなければ、相手は「ぬか喜びだった」と前より深く心を閉ざします。面談後、合意した内容と自分の宿題を箇条書きにして、最速で送る。リモートワークでも同じで、オンラインは間が読みにくいぶん、確認メールがより効きます。

おわりに

本書を一言でいえば、「聞く」という地味な行為を、人間関係も問題解決もリーダーシップも動かす最強の武器に変える本です。

「アクティブリスニングで、すべての問題が解決すると言ってもいいほどです。」

著者がこう言い切れるのは、マッキンゼーでの14年と、自分自身が現場で関係を立て直してきた実感があるからでしょう。

ただし、聞くことには責任が伴います。深く聞き出すほど、フォローしないときの落胆も大きい。それでも、相手の痛みに寄り添って聞くと、自分の心まで軽くなり、人間力が育つ。聞くことは、相手のためであると同時に、自分のための技術でもあります。

合わせて読みたい

『まず、ちゃんと聴く。』櫻井将さん 本書が「躊躇なく質問する」能動性を説くのに対し、こちらは「聴いているつもり」がいかに相手を傷つけるかを掘り下げます。聞く姿勢の自己点検にぴったりです。

『人は聞き方が9割』永松茂久さん 「会話の主導権は聞く側が握っている」という主張は、本書の「しゃべりたい気持ちが最大の敵」と完全に響き合います。日常会話寄りに実践したい人へ。

『聞く技術 聞いてもらう技術』東畑開人さん 本書がビジネス現場の問題解決に重きを置くのに対し、こちらは「自分が聞いてもらえないと人は聞けない」という心理を扱います。聞く技術の心理的な土台を知りたいときに。


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