平均値の罠
目次
報告書。
「当社の顧客満足度: 平均4.2点」
ホッとした。 合格ラインだと思った。
翌月。
大口顧客が解約した。
「満足度が低いと感じていたので…」
「平均値は悪くなかったのに、なぜ…」
そう思ったこと、ありませんか。
しかし、平均値は実態を隠します。
数字が苦手な人ほど、数字に騙される。
数字の「見方」を変えるだけで、判断の質が変わるから。
平均値だけを見るから、実態が見えない
数字に騙されないための第一の方法。 それは、平均値だけでなく「バラツキ」を見ることです。
アメリカ空軍の話があります。
1950年代、戦闘機の事故が多発していました。
調査の結果、コックピットの設計が「平均的なパイロット」に合わせて作られていることがわかりました。
しかし、4063人のパイロットを測定したところ、すべての項目で平均値に当てはまるパイロットは一人もいませんでした。
「平均的な人間」は存在しなかった。
中尾龍介氏も『外資系コンサルのデータ分析技法』で同じ視点を強調しています。
データの「分散」を見る重要性。
平均値だけを見ると、全体像を見誤る。
シャロン・バーチェ・マグレインは『異端の統計学 ベイズ』で医療検査の例を紹介しています。
マンモグラフィー検査で陽性と診断された場合、実際に乳がんである確率はどのくらいか。
検査の精度が90%でも、実際に乳がんである確率はわずか8%程度。
残りの92%は偽陽性です。
なぜこのような直感に反する結果になるのか。
それは「ベースレート(事前確率)」を無視しているからです。
乳がんの有病率が1%だという事実を考慮せずに、検査結果だけを見ると判断を誤ります。
私も経験しました。
新商品の顧客満足度調査。
「平均4.0点。まずまずだ」
そう判断した。
しかし、データの分布を見たら、5点と1点に二極化していた。
「まずまず満足」な顧客は、ほとんどいなかった。
平均値は「何かを隠している」と疑う。
満足度、業績、生産性──どんな数字でも、平均値だけで判断してはいけません。
バラツキ、分布、偏りを見ることで、真実が見えてきます。
データ収集から始めるから、課題が曖昧になる
数字に騙されないための二つ目の方法。 それは、データを集める前に「何を判断したいのか」を明確にすることです。
多くの人は「まずデータを集めよう」と考えます。
しかし、それでは判断を誤ることがある。
中尾氏は『外資系コンサルのデータ分析技法』で「後ろから考える」アプローチを説いています。
生産性の高い人は、仕事を始める前にまず最終的なゴールをイメージし、そこから逆算してシナリオを立てる。
データ分析も同じです。
「何を判断したいのか」を先に決める。
その判断に必要なデータだけを集める。
三木雄信氏も『数字で考えるは武器になる』で同じ視点を強調しています。
Yahoo! BBのコールセンター問題。
月間100万件を超える問い合わせをすべて物理的にプリントアウトし、種類ごとに分類しました。
7つの紙の山のうち、2つが全体の8割を占めていることが一目瞭然となった。
重要なのは「何が問題か」を特定すること。
すべてのデータを分析するのではなく、問題を絞り込むことで解決策が見えてきます。
正直に言います。
私も最初は「とりあえずデータを集めよう」と考えていました。
エクセルにデータを貼り付け、グラフを作り、眺めていた。
でも、「で、何がわかったの?」と聞かれて、答えられなかった。
「判断したいこと」を先に決めてから、データを集める。
この順番を変えるだけで、分析の質が劇的に変わります。
最初の判断に固執するから、軌道修正できない
数字に騙されないための三つ目の方法。 それは、新しいデータが出たら判断を更新することです。
マグレインは『異端の統計学 ベイズ』で潜水艦スコーピオン号の捜索事例を紹介しています。
1968年、大西洋上で行方不明となった潜水艦。
専門家たちの異なる見立てを数値化し、それぞれに確率を割り当て、新しい情報が得られるたびに確率を更新しました。
その結果、広大な海域の中からわずか200ヤード以内の精度で発見に至りました。
「最初の仮説」に固執せず、新しい情報で判断を更新したからです。
三木氏も『数字で考えるは武器になる』で「高速PDCAサイクル」を強調しています。
分析(PLAN)だけで終わらせず、即座に実行(DO)に移し、その結果を数値で検証(CHECK)し、改善(ACTION)につなげる。
重要なのは「実測値」という最も確かなデータを得ること。
予測や計画に時間をかけすぎず、小規模でも実行して実測値を得ることを優先する。
中尾氏も『外資系コンサルのデータ分析技法』で「仮説思考」を重視しています。
仕事を始める前にまず結論(仮説)をイメージし、データを集めながらその仮説を検証し、修正していく。
完璧なデータを待つのではなく、仮説と実測の繰り返しで精度を高める。
私も経験しました。
新規事業の収益予測。
「月間売上500万円は達成できる」
そう確信していた。
しかし、実測値は200万円だった。
最初の予測に固執していたら、大きな損失を出していた。
実測値を見て、すぐに計画を修正した。
最初の判断は「仮説」に過ぎないと認める。
新しいデータが出たら、恥ずかしがらずに判断を更新する。
この柔軟性が、数字に騙されない最大の防御策です。
今日、これだけはやってほしいこと
長々と書きました。 でも、やることは1つだけ。
平均値を見たら、必ず「分布」も見る。
それだけ。
満足度、売上、生産性、どんな数字でも構いません。
平均値だけを見て判断せず、「バラツキはどうか?」「二極化していないか?」と問いかけてください。
エクセルなら、ヒストグラムや箱ひげ図を作る。 データが少なければ、単純に並べて眺める。
よくある失敗: 平均値が良いからと安心してしまうこと。平均値は「何かを隠している」と疑う習慣をつけてください。最高値と最低値の差、中央値との乖離、分布の偏りに注目するだけで、見える世界が変わります。
関連する書籍
『外資系コンサルのデータ分析技法』(中尾龍介) データの「分散」を見る重要性を説く。平均値だけでは実態を見誤る。「後ろから考える」アプローチでデータ分析を設計する。
『異端の統計学 ベイズ』(シャロン・バーチェ・マグレイン) ベースレート(事前確率)を無視すると判断を誤る。新しい情報が得られるたびに判断を更新していく思考法を描く。
『数字で考えるは武器になる』(三木雄信) 課題を特定してから必要なデータだけを集める。高速PDCAサイクルで実測値を最速で手に入れることが競争力になる。
まとめ
数字が苦手な人ほど、数字に騙されます。
しかし、数字の「見方」を変えるだけで、判断の質は劇的に向上します。
平均値だけでなく、バラツキや分布を見る。
データを集める前に、何を判断したいのかを明確にする。
最初の判断に固執せず、新しいデータで更新する。
中尾氏が説いたように、データの「分散」が真実を教えてくれます。
マグレインが描いたように、ベースレートを無視すると判断を誤ります。
三木氏が示したように、課題起点で考えることで無駄な分析を避けられます。
数字は嘘をつきません。
しかし、数字の「見方」を間違えると、真実は見えなくなります。
明日から、平均値を見たら必ず「分布はどうか?」と問いかけてください。
その一言が、あなたの判断を変えます。
合わせて読みたい
学歴が高い人ほど、詐欺に引っかかりやすい 「自分は賢いから騙されない」という思い込みが判断を狂わせる。知識と判断力の落とし穴を解説しています。
『知ってるつもり 無知の科学』スティーブン・スローマン&フィリップ・ファーンバック 「理解したつもり」が招く判断ミス。自分の知識の限界を知ることで、より正確な意思決定ができるようになります。
クリスチャン・マスビアウ著『センスメイキング』から学ぶ、データの海で溺れない「本当に重要なもの」を見極める力 数字だけに頼らない判断の技術。定量と定性を組み合わせて真実を見抜く方法を紹介しています。