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ブクドリ | BOOK DRIP

人は、自分より上の意識段階を理解できない

約4分で読めます リーダーシップ・組織
目次

「何度言っても、あの人は分かってくれない」

上司としても部下としても、一度は思ったことがあるはずです。

加藤洋平さんは『なぜ部下とうまくいかないのか』で、この現象に別の説明を与えています。ロバート・キーガンらの成人発達理論をベースにした説明です。

そこにある命題のひとつが、これです。人は、自分より上の意識段階を理解することができない。

能力や誠実さの問題ではありません。世界を見るレンズそのものが違う。だから、同じ言葉が別の意味で届きます。

成長には、水平と垂直の2種類がある

まず、成長という言葉を分けます。

水平的な成長は、知識やスキルが増えることです。新しいツールを覚える、資格を取る、業務範囲が広がる。

垂直的な成長は、認識の枠組みそのものが変わることです。物事をどう捉えるかというレンズが入れ替わる。

研修や勉強会で足せるのは、たいてい水平のほうです。垂直は、知識では動きません。

たとえば、「自分の意見を持て」と言われて困る人。この人に不足しているのは、知識でも語彙でもないことがあります。組織の決まりや権威を判断の基準にしているとき、そもそも「自分の意見」という枠が使われていない。

加藤さんの整理では、こうした段階が並びます。

自分中心の道具主義的段階。組織や権威に従う他者依存段階。独自の価値観で判断する自己主導段階。そして、自分の価値観すら相対化できる自己変容段階。

大事なのは、これが優劣ではないという点です。上の段階が偉いのではなく、扱える複雑さが違います。

段階が違えば、効く問いかけも違う

実務で効いてくるのは、ここからです。

同じ言葉が効かないなら、段階に合わせて問いを変える。加藤さんは、段階ごとに有効な問いかけを示しています。

自分中心の段階にいる人には、他者の視点を取らせる問いが効きます。「先輩はどういう意図で、君にこの仕事を頼んでいると思う」。無理に成長を強要すると、かえって固まります。

組織や権威に従う段階の人には、自分の内側の声に気づかせる問いです。「この仕事について、お客さんは何を望んでいると思う」。正解を与えるのではなく、自分で判断する経験を作ります。

自己主導段階の人は優秀ですが、自分の意見に固執しがちです。ここでは、意見と自分自身を切り離す問いが効きます。「その案の弱点を、あえて挙げるとしたら」。

たとえば、指示待ちの部下に「もっと主体的に動いてくれ」と言う場面。これは水平的な要求です。段階が変わっていないので、行動だけ変えろと言われている状態になります。

「あなたはどう思う」を繰り返すほうが、遠回りに見えて速い。加藤さんが示すのは、そういう順序です。

支援する側の段階が、支援の上限になる

そして、この本のいちばん厳しい指摘がこれです。

他者の成長に関わる者の発達段階は、支援の質と効果に極めて大きな影響を与える。

つまり、上司の段階が天井になります。自分より上の段階が見えないなら、そこへ導くこともできない。

これは耳が痛い話です。部下育成の技術を学ぶ前に、自分の枠組みを疑うことになるからです。

同じ方向を指している本があります。C・オットー・シャーマーのU理論です。組織変革は、表面的な問題への反応や、プロセスの再設計だけでは達成できない。人々の思考様式やメンタルモデルそのものの変容が要る、という立場です。

U理論では、過去のパターンを無意識に繰り返す状態をダウンローディングと呼びます。そこから抜けるために必要なのが、評価と判断の声を保留して、ありのままの現実を観る段階です。

「あの人は分かってくれない」という判断を、いったん脇に置く。そこからしか始まらない、ということになります。

ただ、この理論には扱いの難しさがあります。段階という言葉は、人をラベルで分類する道具として使えてしまう。「あの人は段階3だから」と言い出した時点で、それは相手を理解するのをやめる口実になります。

段階は、相手を分類するためではなく、自分の問いかけを選ぶために使う。ここを外すと、逆効果です。

明日からできること

誤解:伝わらないのは、伝え方が下手だから → 言い方を変えても、判断の基準そのものが違えば同じ結果になります。技術より前に、相手が何を基準に決めているかを見る必要があります。

正しいアプローチ:指示を出す前に、相手の判断基準を1つ聞く → 「これを進めるとき、何を基準に決めていますか」。上司の指示か、顧客か、自分の考えか。答えの向きで、次にどう関わるかが変わります。

もうひとつ、自分に向けてできることがあります。

最近「分かってくれない」と感じた相手を1人思い出し、その人が何を守ろうとしていたかを書き出す。評価か、立場か、チームの和か、自分の信念か。

書けたなら、少なくともその人の基準は見えています。書けないなら、まだ自分の基準で見ているだけです。

おわりに

人が変わらないとき、私たちは相手の意欲を疑います。

でも実際には、同じ景色を見ていなかっただけということがあります。見えているものが違えば、正しい行動も違ってきます。

分からせようとする前に、相手が何を見ているかを見る。順番は、たぶんこちらが先です。


この記事で参考にした本

『組織も人も変わることができる! なぜ部下とうまくいかないのか』加藤洋平 → 成人発達理論をベースに、段階ごとの部下への関わり方を示した一冊。水平と垂直の成長を分ける視点をくれた。

『U理論』C・オットー・シャーマー → 変革は仕組みの再設計では届かず、思考様式の変容が要る。判断を保留して現実を観るという入口。


合わせて読みたい

『なぜ部下とうまくいかないのか 「自他変革」の発達心理学』加藤洋平|部下が変わらないのは、上司の器が天井だから このコラムの土台にした本の紹介記事です。各段階の特徴と関わり方をもっと詳しく知りたい人へ。

教えても育たない本当の理由 教える側の錯覚と、相手の理解度を確かめる話。段階に合わせた問いの選び方と地続きです。

『ティール組織』フレデリック・ラルー|上司がいないのに、なぜ成果が出るのか 組織の発達段階という視点で書かれた一冊の紹介記事。個人の段階と組織の段階を並べて考えたい人へ。