「聴いているつもり」が、いちばん厄介
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「ちゃんと聴いてるよ」。
そう言ったとき、あなたは本当に聴いていたでしょうか。実は、この「聴いているつもり」がコミュニケーションにおいて最も厄介な状態です。
ある調査によると、アクティブリスニングを実践できている人は全体のわずか2%。一方で、75%のマネージャーが「傾聴はリーダーシップの柱だ」と答えています。つまり、大多数の人が「聴くことは大事だ」と知りながら、実際には聴けていない。この自覚のなさが問題の本質です。
なぜ「聴いているつもり」が生まれるのか
聴けていない人の多くは、怠けているのではありません。むしろ真面目に聞こうとしている。ただ、そこに「自分の解釈」が入っている。
櫻井将さんは、「聞く」と「聴く」を自分の解釈(ジャッジメント)が入るかどうかで明確に区別しています。相手の話を聞きながら「それは違うな」「こうすればいいのに」と頭の中で評価している状態は、聴いているようで聴いていません。自分のフィルターを通して相手の言葉を処理しているだけです。
ここが核心です。「聴く」とは、自分の判断を脇に置いて、相手が見ている景色を一緒に見ようとする行為。でも人間の脳は、情報が入ってくると自動的に「賛成か反対か」「正しいか間違っているか」を仕分けし始めます。
特に経験豊富な人ほど、この罠にはまりやすい。過去の成功体験が豊富な上司は、部下の話を聞きながら「あ、それはこうすればいい」と即座に答えが浮かんでしまう。答えが浮かんだ瞬間、もう聴いていません。
「聴く」と「聞く」のあいだにある深い溝
泉谷閑示さんは、さらに踏み込んだ指摘をしています。多くの人が「対話」だと思っているものは、実は「モノローグの交換」に過ぎない、と。
AがBに話す。Bが反応する。でもBの反応は、Aの話を受けたものではなく、Bが元から言いたかったことを、Aの話をきっかけに話しているだけ。会議でも日常でも、この「すれ違いの応酬」は至るところで起きています。
本当の対話は、相手の言葉によって自分の認識が変わるプロセスです。「なるほど、そういう見方があるのか」と、聴いた後の自分が変わっている。それが対話。でも多くの人は、自分の意見を変えないまま会話を終えている。泉谷さんの言葉を借りれば、それは「討論」か「井戸端会議」です。
正直に言うと、私もこれを知るまで完全に聴けているつもりでした。相槌を打って、うなずいて、「わかるよ」と言っていれば聴いていると思っていた。でもそれは「聴くふり」であって、聴くこととは別物です。
能動的に質問することで、聴く深さが変わる
「じゃあ黙って聞いていればいいのか」というと、これも違います。
赤羽雄二さんが提唱するアクティブリスニングは、一般的な「傾聴」とは異なります。傾聴が「かしこまって話を聞く」ニュアンスなのに対し、アクティブリスニングは「躊躇なく質問しながら理解を深める」能動的な行為です。
たとえば、部下が「最近、仕事がうまくいかなくて」と言ったとき。「そうか、大変だね」と共感するだけでは、問題の本質は見えません。「具体的に、どの部分がうまくいかないの?」「それはいつ頃から?」と、ソフトに、しかし躊躇なく質問していく。
赤羽さんによると、職場の対立の約60%は、聴き方を変えるだけで防げる誤解から生まれています。アクティブリスニングを導入したマネージャーは、従業員満足度が30%向上したという報告もあります。黙って聞くのが聴くことではない。問いかけて、深掘りして、相手と一緒に問題の全体像を見ようとする姿勢こそが「聴く」の核心です。
ただし、ここで注意すべき点があります。「質問しながら聴く」と「誘導する」は紙一重です。「こうすべきだと思わない?」は質問の形をした指示であり、聴く行為ではありません。
明日から変えられること
誤解:聴くとは、黙って相手の話を最後まで聞くこと → 黙って聞くだけでは「聴くふり」になりがちです。「何がそう思わせるの?」「具体的には?」と質問を挟みながら聴く。ただし、問い方のコツがあります。「なぜそう思うの?」を「何がそう思わせるの?」に変えるだけで、相手は責められている感覚がなくなり、一緒に答えを探す姿勢に切り替わります。
誤解:経験のある人ほど、良いアドバイスができる → 安易なアドバイスは、泉谷さんの言葉を借りれば「経験の略奪」です。相手が自分で気づく機会を奪ってしまう。まずは3分間、アドバイスを我慢して聴くことから始めてみてください。答えを持たずに聴く。その3分が、相手の認識を変えるきっかけになります。
誤解:良いフィードバック=ダメなところを指摘すること → 櫻井さんが提案する「ゾーン3のフィードバック」を試してみてください。普段はミスが多い人が、例外的にうまくできた瞬間を見逃さず、「今の報告、タイミングが完璧で助かった」と伝える。ダメ出しではなく、うまくいった例外を拾う。脳は、イメージした行動を再現しようとする性質がありますから、成功体験を言語化されると、その行動の頻度が自然に上がっていきます。
おわりに
「聴いている」と思っている時間のほとんどは、実は「自分のフィルターを通して処理している」時間です。本当に聴けている瞬間は、聴いた後に自分の見方が少しだけ変わっている。その変化が起きていなければ、まだ聴けていない、ということなのかもしれません。
この記事で参考にした本
『まず、ちゃんと聴く。』櫻井将 → 「聴く」を、自分の解釈を挟まない(withoutジャッジメント)行為として再定義し、FBマトリクスという実践ツールを提示
『自己満足ではない「徹底的に聞く」技術』赤羽雄二 → 躊躇なく質問する「アクティブリスニング」で、傾聴とは異なる能動的な聴き方を体系化
『あなたの人生が変わる対話術』泉谷閑示 → 「対話」と「会話」の本質的な違いを解き明かし、安易なアドバイスが相手の主体性を奪う危険性を指摘
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